「あれ、このブランチってどこから作ったんだっけ?」
開発を進めていると、こんな状況に遭遇することがありますよね。特に複数のフィーチャーブランチを同時に扱っている時や、しばらく時間が経ってから作業を再開した時など、元のブランチ(親ブランチ)が何だったのか分からなくなってしまうことがあります。
この記事では、Gitで現在のブランチがどのブランチから派生したのかを確認する方法を、分かりやすく解説していきます。
まず知っておくべき重要なこと:Gitに「親ブランチ」は存在しない

実は、これが一番大事なポイントです。
ブランチは「コミットへのポインタ」でしかない
Gitの内部では、ブランチは単なる「特定のコミットを指す印」でしかありません。
例えば、こんな状態を想像してみてください:
A---B---C---D (main)
\
E---F (feature)
このとき、featureブランチは「コミットFを指している」だけです。「mainブランチから作られた」という情報は、どこにも記録されていません。
なぜ記録されないの?
理由は簡単です。Gitは「どのブランチから作ったか」ではなく、「どのコミットから作ったか」しか気にしないからです。
実際、ブランチを作る時のコマンドを見てみましょう:
# ブランチ名を指定する方法
git checkout -b feature main
# コミットIDを直接指定する方法(これと実質同じ)
git checkout -b feature abc123
どちらも「特定のコミット(mainの最新、またはabc123)から新しいブランチを作る」という意味です。ブランチ名はただの便利な目印なんですね。
じゃあ「親ブランチを確認する」って何?
厳密には「親ブランチ」は存在しないのですが、実用上は「このブランチは、どのブランチから分岐したっぽいか」を推測することはできます。
今回紹介する方法は、あくまで「推測」であることを理解しておきましょう。100%正確ではありませんが、ほとんどの場合で十分に役立ちます。
方法1:git show-branchを使う(最も一般的)
最もよく使われる方法がこちらです。
コマンド
git show-branch | grep '*' | grep -v "$(git rev-parse --abbrev-ref HEAD)" | head -1 | awk -F'[]~^[]' '{print $2}'
長いコマンドですが、これで現在のブランチの親ブランチ「らしきもの」が表示されます。
実際に使ってみよう
現在のブランチを確認
$ git branch
main
develop
feature/login
* feature/user-profile
現在は feature/user-profile ブランチにいます。
親ブランチを確認
$ git show-branch | grep '*' | grep -v "$(git rev-parse --abbrev-ref HEAD)" | head -1 | awk -F'[]~^[]' '{print $2}'
develop
結果:develop から派生したことが分かりました!
このコマンドの仕組み
複雑に見えますが、実は順番に処理しているだけです。
ステップ1:git show-branch
すべてのブランチの関係を表示します。
ステップ2:grep ‘*’
現在のブランチに関連する行だけを抽出します。
ステップ3:grep -v “$(git rev-parse –abbrev-ref HEAD)”
現在のブランチ自身を除外します。
ステップ4:head -1
最初の1行だけを取得します。
ステップ5:awk -F'[]~^[]’ ‘{print $2}’
ブランチ名の部分だけを抽出します。
エイリアスに登録して便利に使おう
毎回この長いコマンドを入力するのは大変なので、エイリアスに登録しましょう。
git config --global alias.parent "!git show-branch | grep '*' | grep -v \"$(git rev-parse --abbrev-ref HEAD)\" | head -1 | awk -F'[]~^[]' '{print \$2}'"
これで、次回からは簡単に使えます:
$ git parent
develop
方法2:git show-branchで視覚的に確認する
コマンドで自動的に抽出するのではなく、自分の目で確認する方法もあります。
基本的な使い方
$ git show-branch
実行すると、こんな感じの出力が表示されます:
* [feature/user-profile] Add user profile page
! [develop] Merge feature/login
! [main] Initial commit
---
* [feature/user-profile] Add user profile page
* [feature/user-profile^] Update navigation
*+ [develop] Merge feature/login
*++ [main] Initial commit
読み方のポイント
記号の意味
*= 現在のブランチ!= 他のブランチ+= そのブランチに含まれるコミット-= マージコミット
上部のリスト
各ブランチの最新コミットが表示されます。
下部のツリー
各コミットがどのブランチに含まれているかを示します。
この出力から、feature/user-profile は develop から分岐したことが推測できます。
オプションで見やすくする
すべてのブランチを表示したい場合:
$ git show-branch -a
リモートブランチも含めたい場合:
$ git show-branch -r
方法3:git log –graphで視覚的に確認する
より直感的にブランチの分岐を見るには、git logのグラフ表示が便利です。
コマンド
$ git log --graph --oneline --decorate --all
実行すると、こんな感じのグラフが表示されます:
* 2a3b4c5 (HEAD -> feature/user-profile) Add user profile page
* 1a2b3c4 Update navigation
| * 9z8y7x6 (develop) Fix bug in login
| * 8y7x6w5 Add error handling
|/
* 7x6w5v4 (main) Merge feature/login
* 6w5v4u3 Initial setup
このグラフから、feature/user-profile が develop のコミット 8y7x6w5 の前のコミットから分岐していることが分かります。
さらに見やすくするエイリアス
このコマンドもよく使うので、エイリアスに登録しておきましょう:
git config --global alias.tree "log --graph --oneline --decorate --all"
使い方:
$ git tree
方法4:git merge-baseで共通の祖先を見つける
特定のブランチとの共通の祖先(分岐点)を見つける方法です。
コマンド
$ git merge-base feature/user-profile develop
これで、2つのブランチが分岐した地点のコミットIDが表示されます。
例
$ git merge-base feature/user-profile develop
8y7x6w5v4u3t2s1r0q9p
コミットの詳細を見る
コミットIDだけでは分かりにくいので、詳細を表示してみましょう:
$ git show $(git merge-base feature/user-profile develop)
または、一行で:
$ git log --oneline -1 $(git merge-base feature/user-profile develop)
8y7x6w5 Add error handling
これで「Add error handling」というコミットから分岐したことが分かります。
方法5:git reflogで履歴を遡る

ブランチを作成した時の操作履歴が残っている場合、それを確認する方法もあります。
コマンド
$ git reflog show --all | grep 'branch'
例の出力
8y7x6w5 HEAD@{10}: checkout: moving from develop to feature/user-profile
7x6w5v4 HEAD@{15}: checkout: moving from main to develop
この出力から、develop にいた時に feature/user-profile ブランチを作成したことが分かります。
注意点
reflogは一定期間(デフォルト90日)で古い履歴が削除されます。また、他の人のリポジトリやクリーンクローンした直後には履歴がありません。
GitHubのプルリクエストで確認する方法
GitHubを使っている場合、プルリクエストの画面から確認・変更できます。
ベースブランチを確認する
- プルリクエストのページを開く
- タイトルの下に「{自分のブランチ} wants to merge into {ベースブランチ}」と表示されている
このベースブランチが、実質的な「親ブランチ」です。
ベースブランチを変更する
もし間違ったブランチをベースにしていた場合:
- プルリクエストページの「Edit」ボタンをクリック
- 「base」のドロップダウンをクリック
- 正しいブランチを選択
- 「Change base」をクリック
これで、プルリクエストのマージ先を変更できます。
よくある状況と対処法
実際の開発でよくある状況と、その対処法を見ていきましょう。
状況1:間違った親ブランチから作ってしまった
問題
A---B---C---D (main)
\
E---F (develop)
\
G---H (feature) ← 本当はmainから作りたかった!
解決方法:git rebase –onto
# git rebase --onto {本来の親} {間違った親} {移動したいブランチ}
$ git rebase --onto main develop feature
実行後:
A---B---C---D (main)
|\
| E---F (develop)
|
G'---H' (feature) ← mainから派生した形に!
注意点
この操作はコミット履歴を書き換えるため、すでにpush済みのブランチでは使わない方が安全です。もし使う場合は、強制プッシュ(git push -f)が必要になります。
状況2:親ブランチの最新を取り込みたい
問題
親ブランチに新しいコミットが追加されたので、自分のブランチにも反映させたい。
A---B---C---D---E (develop) ← 新しいコミットE
\
F---G (feature) ← Eを取り込みたい
解決方法1:merge(推奨)
$ git checkout feature
$ git merge develop
実行後:
A---B---C---D---E (develop)
\ \
F---G-------H (feature)
マージコミットHが作られ、履歴が保存されます。
解決方法2:rebase
$ git checkout feature
$ git rebase develop
実行後:
A---B---C---D---E (develop)
\
F'---G' (feature)
履歴が一直線になりますが、コミットが書き換えられます。
どっちを使うべき?
- チームで作業している場合 → merge
- 個人のブランチで履歴をきれいにしたい場合 → rebase
状況3:ブランチ名を間違えたけど、どこから作ったか覚えていない
問題
ブランチ名を間違えてプッシュしてしまったけど、どこから作ったか分からない。
解決方法
今回紹介した方法で親ブランチを確認してから、正しいブランチを作り直します:
# 親ブランチを確認
$ git parent
develop
# 正しい名前で新しいブランチを作成
$ git checkout -b correct-name develop
# 間違ったブランチの変更を適用
$ git merge wrong-name
# 間違ったブランチを削除
$ git branch -d wrong-name
注意:「親ブランチ」の限界と落とし穴
これまで紹介した方法には、いくつかの限界があります。
限界1:100%正確ではない
git show-branchの方法は、あくまで「最も近い共通のブランチ」を推測しているだけです。
例えば、こんな状況では正しく判定できません:
A---B---C (main)
\
D---E (feature1)
\
F---G (feature2)
feature2 の親は feature1 ですが、feature1 が削除されていると main が親として表示される可能性があります。
限界2:マージされたブランチが削除されると情報が失われる
最初の状態:
A---B---C (main)
\
D---E (feature)
マージ後:
A---B---C---F (main)
\ /
D---E (featureは削除済み)
この状態では、元の分岐点は分かっても、ブランチ名は失われています。
限界3:複雑なマージ履歴では判定が困難
複数回マージが行われている場合や、オクトパスマージ(3つ以上のブランチの同時マージ)がある場合、親ブランチの特定は非常に困難です。
対策:ブランチ命名規則を工夫する
親ブランチが重要なプロジェクトでは、ブランチ名に親の情報を含めると良いでしょう:
feature/develop/user-login ← developから作成
feature/main/hotfix-security ← mainから作成
または、プロジェクト管理ツールでブランチの関係を記録しておく方法もあります。
実践的なワークフロー
最後に、実際の開発で使える実践的なワークフローを紹介します。
新しいブランチを作る時のベストプラクティス
1. 親ブランチを最新にする
$ git checkout develop
$ git pull origin develop
2. 明示的に親ブランチを指定して作成
$ git checkout -b feature/new-feature develop
この方法なら、後で「どこから作ったっけ?」と悩むことがありません。
3. ブランチ作成直後に確認
$ git parent
develop # 正しい!
作業中に定期的に親ブランチを確認
長期間作業するブランチでは、定期的に親ブランチの最新を取り込みましょう:
# 週に1回程度
$ git checkout feature/my-feature
$ git parent # 親ブランチを確認
develop
$ git fetch origin
$ git merge origin/develop
プルリクエストを作る前のチェックリスト
- 親ブランチを確認
- 親ブランチの最新を取り込む
- コンフリクトを解消
- テストを実行
- プルリクエスト作成
このフローを守ることで、マージ時のトラブルを大幅に減らせます。
まとめ:親ブランチの確認は「推測」と「記録」の両輪で
この記事のポイントをおさらいしましょう。
重要なポイント
- Gitには厳密な意味での「親ブランチ」は記録されていない
- git show-branchを使えば、ほとんどの場合で親ブランチを推測できる
- 視覚的に確認したい場合は git log –graph が便利
- プルリクエストのベースブランチが実質的な「親」
- 100%正確ではないので、重要な場合は記録を残そう
覚えておきたいコマンド
# 親ブランチを推測
git show-branch | grep '*' | grep -v "$(git rev-parse --abbrev-ref HEAD)" | head -1 | awk -F'[]~^[]' '{print $2}'
# グラフで視覚的に確認
git log --graph --oneline --decorate --all
# 共通の祖先を見つける
git merge-base ブランチ1 ブランチ2
エイリアス設定(まとめ)
# 親ブランチ確認
git config --global alias.parent "!git show-branch | grep '*' | grep -v \"$(git rev-parse --abbrev-ref HEAD)\" | head -1 | awk -F'[]~^[]' '{print \$2}'"
# グラフ表示
git config --global alias.tree "log --graph --oneline --decorate --all"
日々の開発で気をつけること
- ブランチ作成時は親を明示的に指定する
- 命名規則に親ブランチの情報を含める
- 長期ブランチは定期的に親の最新を取り込む
- 重要なプロジェクトでは、ブランチの関係を別途記録する
Gitのブランチ管理は、慣れるまでは少し複雑に感じるかもしれません。でも、今回紹介した方法を使えば、「このブランチ、どこから作ったっけ?」という疑問はすぐに解決できますよ。
快適なGitライフを楽しんでください!


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