「F#って聞いたことあるけど、何に使う言語?」
「関数型プログラミングって難しそう…」
「C#は知っているけど、F#とはどう違うの?」
プログラミング言語の世界には、様々な選択肢がありますよね。その中で、F#(エフシャープ)は、簡潔で美しいコードが書ける、知る人ぞ知る優れた言語なんです。
F#は、Microsoftが開発した.NET向けの関数型プログラミング言語です。数学的な考え方をベースにしていて、バグが少なく、保守しやすいコードが書けるのが特徴です。
この記事では、F#の基本から実践的な使い方まで、初心者の方でも分かるように丁寧に解説していきますね。関数型プログラミングの世界への扉を開きましょう!
F#って何?基本を理解しよう

まず、F#がどんな言語か、基礎から確認していきましょう。
F#の正体
F#(F Sharp、エフシャープ)は、Microsoftが開発・サポートしている関数型プログラミング言語です。
主な特徴:
- .NET上で動作する
- 関数型プログラミングがメイン
- オブジェクト指向もできる(マルチパラダイム)
- 型推論が強力
- 簡潔で読みやすい構文
音楽の「F#(ファのシャープ)」とは関係なく、プログラミング言語の「F」に、C#のように「#」を付けた名前です。
F#の歴史
2005年:誕生
Microsoftの研究者ドン・サイム(Don Syme)によって開発が始まりました。
2010年:正式リリース
Visual Studio 2010に統合され、.NETの正式な言語の1つになりました。
2016年:オープンソース化
.NET Coreの一部として、完全にオープンソースになりました。
現在:
金融、データサイエンス、Webアプリケーションなど、様々な分野で使われています。
関数型プログラミングとは
F#を理解するには、関数型プログラミングの考え方を知っておく必要があります。
従来の手続き型プログラミング:
「AをしてからBをして、その後Cをする」という手順を書いていきます。
// C#の例(手続き型)
int sum = 0;
for (int i = 1; i <= 10; i++)
{
sum = sum + i;
}
Console.WriteLine(sum);
関数型プログラミング:
「何をするか」ではなく「何であるか」を記述します。数学の関数のように考えます。
// F#の例(関数型)
let sum = [1..10] |> List.sum
printfn "%d" sum
関数型の特徴:
- 不変性:一度作った値は変更しない
- 副作用がない:関数は外部に影響を与えない
- 高階関数:関数を引数や戻り値にできる
- パターンマッチング:条件分岐が直感的
.NETエコシステムの一員
F#は、.NET(ドットネット)という巨大なプラットフォームの一部です。
つまり:
- C#のライブラリが使える
- .NET Coreで、Windows・Mac・Linuxで動く
- Visual Studioで開発できる
- Azure、ASP.NETなどとも連携可能
C#で書かれたライブラリを、F#から普通に使えるんです。これが大きな強みですね。
なぜF#を使うの?メリットを知ろう
F#には、他の言語にはない魅力がたくさんあります。
メリット1:コードが短くて読みやすい
F#は、驚くほど少ないコードで多くのことができます。
C#の例:
var numbers = new List<int> { 1, 2, 3, 4, 5 };
var doubled = numbers.Select(x => x * 2).ToList();
foreach (var num in doubled)
{
Console.WriteLine(num);
}
F#の例:
let numbers = [1; 2; 3; 4; 5]
let doubled = numbers |> List.map (fun x -> x * 2)
doubled |> List.iter (printfn "%d")
さらに短く:
[1..5] |> List.map ((*) 2) |> List.iter (printfn "%d")
たった1行で同じことができます。
メリット2:バグが入りにくい
関数型プログラミングの原則により、バグが混入しにくい設計になっています。
理由:
- 不変性:変数を変更できないので、予期しない変更がない
- null安全:Option型でnullを安全に扱える
- 強力な型システム:コンパイル時に多くのエラーを検出
メリット3:データ処理が得意
リスト処理、データ変換、フィルタリングなどが非常に簡単です。
// 1から100までの偶数の二乗の合計
[1..100]
|> List.filter (fun x -> x % 2 = 0)
|> List.map (fun x -> x * x)
|> List.sum
これだけで完成です。パイプライン演算子|>で、データの流れが一目で分かりますね。
メリット4:並行処理・非同期処理が簡単
不変性のおかげで、並行処理でのバグ(競合状態など)が起きにくいです。
async {
let! data = fetchDataAsync()
let processed = processData data
return processed
}
asyncとlet!で、非同期処理がシンプルに書けます。
メリット5:型推論が賢い
型を明示的に書かなくても、コンパイラが自動で推論してくれます。
let add x y = x + y // 型を書いていないが、intと推論される
let result = add 5 10 // 15
メリット6:金融・科学計算に強い
F#は、もともと金融業界の計算のために作られた側面があります。
- 数式を直感的にコードにできる
- 単位付き数値(Unit of Measure)がある
- 正確な計算が必要な分野で信頼されている
F#の基本文法を学ぼう
それでは、実際にコードを書いてみましょう。
Hello World
最もシンプルな例から始めます。
printfn "Hello, F#!"
これだけです。C#のようなMain関数やConsole.WriteLineは不要です。
値の定義
F#では、letで値や関数を定義します。
let name = "太郎"
let age = 25
let pi = 3.14159
重要:
デフォルトで不変(immutable)です。後から変更できません。
let x = 10
// x <- 20 // エラー!xは変更できない
変更したい場合は、mutableキーワードを使います:
let mutable count = 0
count <- count + 1 // これはOK
でも、関数型ではmutableはできるだけ避けます。
関数の定義
関数もletで定義します。
let add x y = x + y
let result = add 5 3 // 8
型注釈を付ける場合:
let add (x: int) (y: int) : int = x + y
通常は型推論に任せますが、明示したい場合は書けます。
リストと配列
リスト:
let numbers = [1; 2; 3; 4; 5]
let names = ["太郎"; "花子"; "次郎"]
セミコロン;で区切ります。
配列:
let array = [| 1; 2; 3; 4; 5 |]
[| |]で囲みます。
範囲指定:
let oneToTen = [1..10]
let evens = [2..2..20] // 2, 4, 6, ..., 20
パイプライン演算子
F#の最も特徴的な機能の1つです。
let result =
[1..10]
|> List.filter (fun x -> x % 2 = 0)
|> List.map (fun x -> x * x)
|> List.sum
|>は、左の値を右の関数に渡します。データの流れが上から下へ、読みやすく表現されていますね。
パターンマッチング
条件分岐を直感的に書けます。
let describe x =
match x with
| 0 -> "ゼロです"
| 1 -> "1です"
| n when n < 0 -> "負の数です"
| n -> sprintf "%dです" n
printfn "%s" (describe 5) // 5です
Option型(null安全)
F#では、「値があるかもしれない」という状況をOption型で表現します。
let tryDivide x y =
if y = 0 then
None // 値がない
else
Some (x / y) // 値がある
match tryDivide 10 2 with
| Some result -> printfn "結果: %d" result
| None -> printfn "ゼロで割れません"
これで、nullによるバグを防げます。
レコード型
データをまとめるための型です。
type Person = {
Name: string
Age: int
Email: string
}
let taro = {
Name = "太郎"
Age = 25
Email = "taro@example.com"
}
printfn "%s は %d 歳です" taro.Name taro.Age
判別共用体
複数の選択肢を表現できる強力な型です。
type Shape =
| Circle of radius: float
| Rectangle of width: float * height: float
| Triangle of base_: float * height: float
let area shape =
match shape with
| Circle radius -> System.Math.PI * radius * radius
| Rectangle (width, height) -> width * height
| Triangle (base_, height) -> base_ * height / 2.0
let circle = Circle 5.0
printfn "面積: %.2f" (area circle)
C#との違いを理解しよう

同じ.NET上で動く言語ですが、考え方が異なります。
構文の違い
C#(手続き型・OOP):
public class Calculator
{
public int Add(int x, int y)
{
return x + y;
}
}
var calc = new Calculator();
var result = calc.Add(5, 3);
F#(関数型):
let add x y = x + y
let result = add 5 3
F#の方がシンプルですね。
不変性の違い
C#:
デフォルトでミュータブル(変更可能)。
var list = new List<int> { 1, 2, 3 };
list.Add(4); // 変更できる
F#:
デフォルトでイミュータブル(不変)。
let list = [1; 2; 3]
// list.Add(4) // エラー!
let newList = 4 :: list // 新しいリストを作る
null処理の違い
C#:
nullチェックが必要。
string name = GetName();
if (name != null)
{
Console.WriteLine(name.Length);
}
F#:
Option型で安全に。
let name = getName()
match name with
| Some n -> printfn "%d" n.Length
| None -> printfn "名前がありません"
どちらを使うべき?
C#が向いているケース:
- 既存の大規模システムの保守
- Windows デスクトップアプリ
- ゲーム開発(Unity)
- チームの全員がOOPに慣れている
F#が向いているケース:
- データ分析・科学計算
- 金融システム
- 複雑なビジネスロジック
- 並行処理が多いシステム
- バグを極力減らしたい
実際には、両方を組み合わせることもよくあります。F#でコアロジックを書き、C#でUIを作る、という使い方もできますよ。
F#の開発環境をセットアップしよう
実際に手を動かして学びましょう。
必要なもの
1. .NET SDK
F#は.NETの一部なので、.NET SDKをインストールします。
ダウンロード:
https://dotnet.microsoft.com/download
最新の.NET(.NET 8など)をインストールしてください。
確認:
dotnet --version
バージョンが表示されればOKです。
エディタ・IDEの選択肢
Visual Studio Code(おすすめ)
- 軽量で無料
- 拡張機能「Ionide」をインストール
- Windows、Mac、Linuxで使える
Visual Studio(Windows)
- フル機能のIDE
- F#が最初から統合されている
- 大規模プロジェクト向け
JetBrains Rider
- 有料だが高機能
- F#サポートが優れている
初めてのF#プロジェクト
ステップ1:プロジェクトを作成
dotnet new console -lang F# -o MyFirstFSharp
cd MyFirstFSharp
ステップ2:ファイルを確認Program.fsというファイルができています。
// Program.fs
printfn "Hello from F#"
ステップ3:実行
dotnet run
「Hello from F#」と表示されれば成功です!
インタラクティブ環境(REPL)
F#には、対話的にコードを試せる環境があります。
起動:
dotnet fsi
試しに:
> let x = 10;;
val x : int = 10
> let y = x * 2;;
val y : int = 20
> printfn "結果: %d" y;;
結果: 20
;;を付けて実行します。すぐに結果が見られるので、学習に最適です。
実践的なF#の使い方
実際のプロジェクトでの使用例を見てみましょう。
例1:データ処理
CSVファイルからデータを読み込んで集計する例です。
open System.IO
type Sale = {
Date: string
Product: string
Amount: int
}
let parseLine (line: string) =
let parts = line.Split(',')
{
Date = parts.[0]
Product = parts.[1]
Amount = int parts.[2]
}
let sales =
File.ReadAllLines("sales.csv")
|> Array.skip 1 // ヘッダー行をスキップ
|> Array.map parseLine
|> Array.toList
let totalByProduct =
sales
|> List.groupBy (fun s -> s.Product)
|> List.map (fun (product, sales) ->
product, sales |> List.sumBy (fun s -> s.Amount))
totalByProduct
|> List.iter (fun (product, total) ->
printfn "%s: %d円" product total)
パイプラインで処理の流れが明確ですね。
例2:Webスクレイピング
HTMLから情報を抽出する例です。
open System.Net.Http
open FSharp.Data
type HtmlProvider = HtmlProvider<"https://example.com">
async {
use client = new HttpClient()
let! html = client.GetStringAsync("https://example.com") |> Async.AwaitTask
let doc = HtmlDocument.Parse(html)
let links =
doc.Descendants ["a"]
|> Seq.choose (fun node ->
node.TryGetAttribute("href")
|> Option.map (fun attr -> attr.Value()))
|> Seq.toList
return links
}
|> Async.RunSynchronously
|> List.iter (printfn "%s")
例3:簡単なWebアプリ(Giraffe)
F#でWebアプリを作る例です。
open Giraffe
open Microsoft.AspNetCore.Builder
open Microsoft.AspNetCore.Hosting
let webApp =
choose [
route "/" >=> text "Hello, F# Web!"
route "/hello/{name}" >=> fun next ctx ->
let name = ctx.GetRouteValue("name")
text (sprintf "Hello, %s!" (string name)) next ctx
]
[<EntryPoint>]
let main args =
WebHostBuilder()
.UseKestrel()
.Configure(fun app ->
app.UseGiraffe webApp)
.Build()
.Run()
0
例4:金融計算
単位付き数値(Units of Measure)を使った例です。
[<Measure>] type JPY
[<Measure>] type USD
let exchangeRate = 150.0<JPY/USD>
let convertToYen (dollars: float<USD>) : float<JPY> =
dollars * exchangeRate
let price = 100.0<USD>
let priceInYen = convertToYen price
printfn "%.2f USD = %.2f JPY" price priceInYen
単位が型として扱われるので、計算ミスを防げます。
F#のデメリットと注意点

良い点ばかりではありません。課題もあります。
デメリット1:学習曲線が急
関数型プログラミングは、手続き型やOOPに慣れた人には最初難しく感じます。
対策:
- 小さなプロジェクトから始める
- F# for Fun and Profitなどの学習サイトを活用
- コミュニティに質問する
デメリット2:日本語の情報が少ない
英語の資料はたくさんありますが、日本語は限られています。
対策:
- 英語ドキュメントを読む習慣をつける
- Google翻訳を活用
- 海外のコミュニティに参加
デメリット3:求人が少ない
C#やPythonに比べると、F#の求人は少ないです。
現状:
金融系、データ分析系の一部企業で使われていますが、メジャーとは言えません。
デメリット4:ライブラリが限定的
F#専用のライブラリは少なめです。
対策:
.NETのC#ライブラリが使えるので、実用上は問題ありません。
デメリット5:チーム開発での採用ハードル
チーム全員がF#を理解する必要があります。
対策:
- コアロジックだけF#、UIはC#という分担
- 段階的に導入
- 勉強会を開催
F#の学習リソース
F#を学ぶための資料をご紹介します。
公式ドキュメント
Microsoft Learn
https://learn.microsoft.com/ja-jp/dotnet/fsharp/
日本語で基礎から学べます。
F# Language Reference
https://fsharp.org/
公式サイトです。
オンライン学習サイト
F# for Fun and Profit
https://fsharpforfunandprofit.com/
最も有名なF#学習サイトです(英語)。分かりやすい説明で、初心者から上級者まで役立ちます。
Try F#
https://try.fsharp.org/
ブラウザでF#を試せます。インストール不要で学習開始できますよ。
書籍
日本語:
- 「実践F#」(オライリー)
- 「関数プログラミング実践入門」
英語:
- “The Book of F#” by Dave Fancher
- “Get Programming with F#” by Isaac Abraham
コミュニティ
F# Software Foundation
https://fsharp.org/
世界中のF#コミュニティの中心です。
日本F#ユーザー会
https://fsharp.connpass.com/
日本のF#ユーザーが集まるイベントがあります。
F#が活躍する分野
どんな分野でF#が使われているか見てみましょう。
金融・フィンテック
使用例:
- リスク計算
- トレーディングシステム
- 価格モデリング
理由:
- 正確な計算が求められる
- 複雑なビジネスロジック
- バグがコストに直結
Credit Suisse、UBS、Barclaysなどの大手銀行で使われています。
データサイエンス・機械学習
使用例:
- データ前処理
- 統計分析
- 機械学習パイプライン
ライブラリ:
- ML.NET(.NETの機械学習ライブラリ)
- Math.NET Numerics(数値計算)
Webアプリケーション
フレームワーク:
- Giraffe(軽量Webフレームワーク)
- Saturn(MVC風のフレームワーク)
- Fable(F#でJavaScriptを生成)
ゲーム開発
使用例:
- ゲームロジック
- AIの実装
- ツール開発
Unityでは直接使えませんが、.NET部分で使うことはできます。
クラウド・バックエンド
Azure FunctionsでF#が使えます。サーバーレスアプリケーションの開発に便利です。
まとめ:F#はエレガントで実用的
F#は、簡潔さと強力さを兼ね備えた素晴らしい言語です。
この記事のポイントをおさらい:
- F#は.NET向けの関数型プログラミング言語
- Microsoftが開発・サポート
- コードが短くて読みやすいのが最大の特徴
- 不変性とOption型でバグが入りにくい
- データ処理、並行処理が得意
- パイプライン演算子
|>で処理の流れが明確 - C#と相互運用可能で、.NETライブラリが使える
- 金融、データサイエンス、Webアプリで活躍
- 学習曲線は急だが、習得する価値あり
- 公式ドキュメントとF# for Fun and Profitで学べる
F#は、C#やPythonほどメジャーではありませんが、知っておくと強力な武器になります。
特に、データ処理やロジックが複雑なシステムでは、F#のシンプルさと安全性が光ります。「バグの少ないコードを書きたい」「もっとエレガントな方法を知りたい」という方には、ぜひ試してほしい言語です。
最初は関数型の考え方に慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、一度理解すると、プログラミングの見方が変わりますよ。
まずはdotnet fsiで対話的に試してみて、F#の世界を体験してみてください。この記事が、あなたのF#学習の第一歩になれば嬉しいです!

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