Excelで数値を扱っていると、「マイナスの数字を正の数にしたい」「増減を金額の大きさだけで比較したい」という場面に出会うことがあります。
例えば、売上の変動を見るとき、「先月より30万円減少」も「先月より30万円増加」も、変動の大きさとしては同じ30万円です。
このように、数値の正負(プラス・マイナス)を無視して、大きさだけを取り出すことを「絶対値」といいます。
この記事でわかること
- 絶対値とは何かをやさしく理解
- ExcelでABS関数を使う方法
- 実際の業務での具体的な活用例
- 他の関数と組み合わせた応用テクニック
こんな人におすすめ
- 売上や利益の分析をする人
- 家計簿や収支管理をしている人
- データの比較や統計をとる人
- Excelの関数をもっと覚えたい人
絶対値ってなに?なぜ必要なの?

絶対値とは
絶対値とは、数値の大きさのことです。正の数でも負の数でも、大きさだけを表します。
身近な例で考えてみましょう:
- 気温が「-5度」のとき、0度からの距離は5度
- 借金が「-10万円」のとき、金額の大きさは10万円
- 体重が「+2kg」増えても「-2kg」減っても、変動の大きさは2kg
数学の記号: 絶対値は縦棒で表します
- |-5| = 5
- |5| = 5
- |0| = 0
なぜ絶対値が必要なの?
比較のため:
- 売上が「+100万円」増加と「-100万円」減少は、変動の大きさが同じ
- どちらも「100万円」の変動として扱いたい場合
分析のため:
- 誤差の大きさを調べる
- ばらつきの程度を測る
- 基準値からの離れ具合を見る
表示のため:
- グラフで正負関係なく大きさを表示
- 損失を「金額」として表示(マイナス記号なし)
- より見やすく分かりやすい資料作成
よくある使用場面
仕事での例:
- 予算と実績の差額(絶対値)で管理
- 売上変動の大きさで店舗を比較
- 在庫の過不足を金額ベースで評価
家庭での例:
- 家計簿で支出超過の金額のみを表示
- ダイエットで体重変動の大きさを記録
- 光熱費の前年比較で変動幅を確認
学習での例:
- テストの点数変動を絶対値で比較
- 統計や確率の計算
- グラフ作成での値の調整
このように、絶対値は日常の様々な場面で役立つ考え方です。
ExcelのABS関数の基本的な使い方

ABS関数とは
ABS関数は、Excelで絶対値を求めるための関数です。「ABS」は「Absolute(絶対の)」の略です。
基本的な書き方
構文:
=ABS(数値)
数値の部分には以下を指定できます:
- 直接数値:
=ABS(-5)
- セル参照:
=ABS(A1)
- 計算式:
=ABS(B1-C1)
実際の使用例
例1:直接数値を指定
入力:
=ABS(-100)
結果:
100
例2:セルを参照
セルA1に「-50」が入力されている場合:
=ABS(A1)
結果:
50
例3:計算式と組み合わせ
セルA1に「120」、B1に「80」が入力されている場合:
=ABS(A1-B1)
結果:
40
複数のセルに一度に適用
手順:
- 最初のセル(例:C1)に
=ABS(A1)
と入力 - Enterキーを押して確定
- C1セルを選択
- セルの右下角をダブルクリック(オートフィル)
- 下のセルにも自動的に適用される
または:
- C1セルを選択してコピー(Ctrl+C)
- 適用したい範囲を選択
- 貼り付け(Ctrl+V)
エラーが出る場合の対処法
#VALUE!エラー:
- 文字列が入力されている
- 空白セルを参照している
解決方法:
=IF(ISNUMBER(A1),ABS(A1),"")
この式は、A1が数値の場合のみ絶対値を計算し、そうでなければ空白を表示します。
小数点の扱い
ABS関数は小数点の数値にも対応しています。
例:
=ABS(-3.14)
結果:
3.14
これで基本的な使い方はマスターできました。次は実際の活用例を見ていきましょう。
実際の業務での活用例

活用例1:売上分析での使用
目的:各店舗の売上変動を絶対値で比較
データ例:
店舗 | 前月売上 | 今月売上 | 増減額 | 変動幅(絶対値) |
---|---|---|---|---|
A店 | 500万円 | 480万円 | -20万円 | 20万円 |
B店 | 300万円 | 330万円 | +30万円 | 30万円 |
C店 | 400万円 | 390万円 | -10万円 | 10万円 |
数式:
# 増減額(D列)
=C2-B2
# 変動幅(E列)
=ABS(D2)
効果:
- どの店舗の変動が大きいかが一目でわかる
- 変動の傾向分析がしやすくなる
- グラフでの表示も見やすくなる
活用例2:予算管理での使用
目的:予算と実績の差額を絶対値で管理
データ例:
項目 | 予算 | 実績 | 差額 | 乖離額(絶対値) |
---|---|---|---|---|
人件費 | 100万円 | 95万円 | -5万円 | 5万円 |
広告費 | 50万円 | 60万円 | +10万円 | 10万円 |
交通費 | 20万円 | 18万円 | -2万円 | 2万円 |
数式:
# 差額(D列)
=C2-B2
# 乖離額(E列)
=ABS(D2)
活用方法:
- 乖離額の大きい項目を優先的に見直し
- 管理の重点を乖離額順に設定
- 月次比較での傾向分析
活用例3:在庫管理での使用
目的:在庫の過不足を金額ベースで把握
データ例:
商品 | 適正在庫 | 実在庫 | 過不足 | 過不足金額(絶対値) |
---|---|---|---|---|
商品A | 100個 | 80個 | -20個 | 20個分の金額 |
商品B | 50個 | 65個 | +15個 | 15個分の金額 |
数式:
# 過不足(D列)
=C2-B2
# 過不足金額(E列)
=ABS(D2)*単価
活用例4:成績分析での使用
目的:テスト点数の変動幅を分析
データ例:
生徒 | 前回点数 | 今回点数 | 変動 | 変動幅(絶対値) |
---|---|---|---|---|
Aさん | 70点 | 85点 | +15点 | 15点 |
Bさん | 90点 | 75点 | -15点 | 15点 |
Cさん | 60点 | 62点 | +2点 | 2点 |
分析のポイント:
- 変動幅が大きい生徒への対応
- 安定性の評価
- 指導効果の測定
活用例5:家計簿での使用
目的:月ごとの支出変動を把握
データ例:
月 | 食費 | 前月比 | 変動幅(絶対値) |
---|---|---|---|
1月 | 80,000円 | – | – |
2月 | 75,000円 | -5,000円 | 5,000円 |
3月 | 85,000円 | +10,000円 | 10,000円 |
数式:
# 前月比(C列)
=B3-B2
# 変動幅(D列)
=ABS(C3)
メリット:
- 家計の安定性を数値で把握
- 大きな変動があった月の要因分析
- 年間を通じた支出パターンの理解
活用例6:条件付き書式との組み合わせ
目的:変動幅が大きいセルを自動で色付け
設定方法:
- 対象範囲を選択
- 「ホーム」→「条件付き書式」→「新しいルール」
- 「数式を使用してフォーマットするセルを決定」を選択
- 数式欄に入力:
=ABS(D2)>10000
- 書式で色を設定(例:赤色)
- 「OK」をクリック
効果:
- 変動幅が1万円以上のセルが自動で赤色表示
- 注意すべき項目が一目でわかる
- レポートの視認性が向上
これらの活用例を参考に、自分の業務や生活に合った使い方を見つけてみてください。
他の関数との組み合わせテクニック

IF関数との組み合わせ
例1:変動幅による判定
目的:変動幅に応じてコメントを表示
数式:
=IF(ABS(D2)>50000,"要注意",IF(ABS(D2)>20000,"注意","正常"))
結果:
- 変動幅が5万円超:「要注意」
- 変動幅が2万円超:「注意」
- それ以外:「正常」
例2:絶対値の大小による処理分岐
数式:
=IF(ABS(A1)>100,"大きな変動","小さな変動")
MAX・MIN関数との組み合わせ
例1:最大変動幅を求める
数式:
=MAX(ABS(A1:A10))
説明:A1からA10の範囲で、絶対値が最も大きい値を表示
例2:配列数式での応用
数式:
{=MAX(ABS(A1:A10-B1:B10))}
説明:2つの範囲の差の絶対値の最大値 ※配列数式はCtrl+Shift+Enterで確定
AVERAGE関数との組み合わせ
例:平均絶対偏差の計算
数式:
=AVERAGE(ABS(A1:A10-AVERAGE(A1:A10)))
説明:データのばらつき具合を測る統計値
SUMPRODUCT関数との組み合わせ
例:条件付きの絶対値の合計
数式:
=SUMPRODUCT((B1:B10="売上")*ABS(C1:C10))
説明:B列が「売上」の行のC列の絶対値の合計
ROUND関数との組み合わせ
例:絶対値を四捨五入
数式:
=ROUND(ABS(A1),0)
説明:絶対値を整数に四捨五入
COUNT系関数との組み合わせ
例1:絶対値が条件を満たすセルの個数
数式:
=SUMPRODUCT(--(ABS(A1:A10)>100))
説明:絶対値が100より大きいセルの個数
例2:COUNTIFS関数での応用
複数条件での絶対値評価:
=SUMPRODUCT((ABS(A1:A10)>50)*(B1:B10="完了"))
複合的な使用例
例:売上分析の総合関数
数式:
=IF(AND(ABS(C2-B2)>100000,C2>B2),"大幅増加",
IF(AND(ABS(C2-B2)>100000,C2<B2),"大幅減少",
IF(ABS(C2-B2)>50000,"中程度変動","安定")))
説明:
- 変動幅が10万円超かつ増加:「大幅増加」
- 変動幅が10万円超かつ減少:「大幅減少」
- 変動幅が5万円超:「中程度変動」
- それ以外:「安定」
エラーハンドリングとの組み合わせ
数式:
=IFERROR(ABS(A1/B1),"計算不可")
説明:除算でエラーが発生した場合の対応
日付計算での活用
例:日数の絶対値
数式:
=ABS(A1-TODAY())
説明:今日からの日数を正の値で表示
これらの組み合わせを覚えることで、ABS関数の活用範囲が大幅に広がります。
実践的なテクニックと注意点

パフォーマンスの最適化
大量データでの処理
配列数式の代わりに、より高速な方法:
遅い方法:
{=SUM(ABS(A1:A10000))}
速い方法:
=SUMPRODUCT(ABS(A1:A10000))
よくあるエラーと対処法
エラー1:#VALUE!
原因:文字列や空白セルを参照
対処法:
=IF(ISNUMBER(A1),ABS(A1),"")
エラー2:#NAME?
原因:関数名のスペルミス
対処法:「ABS」を正しく入力
エラー3:循環参照
原因:自分自身を参照している
対処法:参照先を確認して修正
小数点の扱いと丸め
小数点以下の扱い:
=ROUND(ABS(A1),2) # 小数点第2位まで
=INT(ABS(A1)) # 整数部分のみ
=CEILING(ABS(A1),1) # 切り上げ
条件付き書式での高度な活用
複数条件での色分け:
手順:
- 範囲を選択
- 条件付き書式で以下のルールを順番に設定:
ルール1(赤色):
=ABS(D2)>100000
ルール2(黄色):
=AND(ABS(D2)>50000,ABS(D2)<=100000)
ルール3(緑色):
=ABS(D2)<=50000
グラフでの活用
絶対値のグラフ作成:
- 元データの隣に絶対値列を作成
- 絶対値列をグラフのデータ範囲に指定
- より見やすいグラフが作成される
マクロでの自動化
VBAでの絶対値処理:
Sub 絶対値変換()
Dim cell As Range
For Each cell In Selection
If IsNumeric(cell.Value) Then
cell.Value = Abs(cell.Value)
End If
Next cell
End Sub
データ検証との組み合わせ
入力制限での活用:
データ検証の設定で:
- 「ユーザー設定」を選択
- 数式欄に:
ABS(A1)<=1000
- 絶対値が1000以下の数値のみ入力可能
統計分析での応用
平均絶対偏差(MAD)の計算:
=AVERAGE(ABS(A1:A10-AVERAGE(A1:A10)))
標準偏差との比較:
- 標準偏差:
=STDEV(A1:A10)
- 平均絶対偏差:上記の式
時系列データでの活用
前期比変動率の絶対値:
=ABS((B2-A2)/A2)
移動平均からの乖離:
=ABS(A2-AVERAGE(A1:A3))
これらのテクニックを組み合わせることで、ABS関数をより効果的に活用できます。
よくある質問とトラブルシューティング

Q:ABS関数が動かない・エラーが出る
原因と解決方法:
#VALUE!エラーが出る場合:
- 文字列や空白セルを参照している
- 解決策:
=IF(ISNUMBER(A1),ABS(A1),"")
#NAME?エラーが出る場合:
- 関数名が間違っている
- 解決策:「ABS」を正しく入力
結果が0になる場合:
- 参照先セルが空白
- 解決策:データが正しく入力されているか確認
Q:負の数が正の数にならない
確認ポイント:
- セルの表示形式が「文字列」になっていないか
- 数値の前に「’」(シングルクォート)がついていないか
- 全角数字を使用していないか
解決方法:
=ABS(VALUE(A1))
Q:小数点の処理がうまくいかない
問題:小数点以下の桁数が多すぎる
解決方法:
=ROUND(ABS(A1),2) # 小数点第2位まで表示
Q:配列数式がうまく動かない
入力方法:
- 数式を入力
- Ctrl+Shift+Enterで確定(重要)
- 数式が{}で囲まれることを確認
例:
{=SUM(ABS(A1:A10-B1:B10))}
Q:大量データで処理が遅い
高速化の方法:
遅い方法:
{=SUM(ABS(A1:A10000))}
速い方法:
=SUMPRODUCT(ABS(A1:A10000))
Q:条件付き書式で絶対値が反映されない
正しい設定:
- 「数式を使用してフォーマットするセルを決定」を選択
- 数式例:
=ABS($A1)>100
- 絶対参照($)の使い方に注意
Q:グラフで負の値を正の値で表示したい
方法1:データを変換
- 隣の列に
=ABS(A1)
を入力 - この列をグラフのデータ範囲に指定
方法2:グラフの軸設定
- グラフの軸を右クリック
- 「軸の書式設定」を選択
- 軸のオプションで調整
Q:他のOfficeソフトでも同じように使える?
Excel以外での対応:
- Word:表の中では使用可能
- PowerPoint:表の中では使用可能
- Access:クエリで使用可能(構文は同じ)
- Google Sheets:同じ構文で使用可能
Q:複数の条件で絶対値を使いたい
例:複数条件の組み合わせ
=IF(AND(ABS(A1)>100,B1="売上"),"条件一致","条件不一致")
SUMIFS風の使い方:
=SUMPRODUCT((ABS(A1:A10)>100)*(B1:B10="売上")*C1:C10)
Q:絶対値の最大値・最小値を求めたい
最大値:
=MAX(ABS(A1:A10))
最小値:
=MIN(ABS(A1:A10))
位置を特定:
=MATCH(MAX(ABS(A1:A10)),ABS(A1:A10),0)
パフォーマンス改善のコツ
計算モードの調整:
- 「ファイル」→「オプション」→「数式」
- 「手動」に設定して大量計算時の負荷軽減
- 計算完了後「自動」に戻す
不要な計算の削除:
- 使用していない関数や数式を削除
- 条件付き書式の不要なルールを削除
これらのQ&Aを参考に、様々な状況に対応してください。
まとめ:絶対値を使いこなして数値分析をレベルアップ
重要なポイントをおさらい
ABS関数の基本
- 構文:
=ABS(数値またはセル)
- 機能:数値の正負を無視して大きさのみを取得
- 結果:必ず0以上の値を返す
主な活用場面
- 売上分析:変動幅の比較と評価
- 予算管理:予算と実績の乖離額把握
- 統計分析:データのばらつき測定
- 条件判定:閾値を超える変動の検出
他関数との組み合わせ
- IF関数:条件分岐での絶対値判定
- MAX/MIN関数:絶対値の最大・最小値取得
- AVERAGE関数:平均絶対偏差の計算
- 条件付き書式:視覚的な数値強調
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