プログラムを書いているときに、こんな文字列を見たことはありませんか?
print("こんにちは\n世界")
この\n
のような、バックスラッシュ(\)と英字を組み合わせた記号を「エスケープシーケンス」と呼びます。
最初は「なんだかよくわからない記号」に見えるかもしれませんが、実はとても便利で大切な機能なんです。
エスケープシーケンスを理解すると、文字列の表示がきれいに整ったり、プログラムが思い通りに動いたりするようになります。この記事では、初心者の方にもわかりやすく、エスケープシーケンスの基本と使い方を紹介します。
きっと「ああ、そういうことだったのか!」と納得していただけるはずです。
エスケープシーケンスとは?

簡単に言うと
エスケープシーケンスとは、普通には文字として表現できない特別な動作を、文字列の中で指示するための記号です。
たとえば、文字列の中で改行したいとき、実際にEnterキーを押すわけにはいきませんよね。
そこで\n
という記号を使って「ここで改行してください」という指示を出すのです。
なぜ必要なの?
プログラムの中では、次のようなことをしたいときがあります:
- 文字列の途中で改行したい
- タブでスペースを空けたい
- 引用符(”)を文字として表示したい
- ファイルのパスを正しく書きたい
でも、これらを普通の文字のように書くと、プログラムが混乱してしまいます。そこで「特別な意味がある記号ですよ」ということを示すために、バックスラッシュ(\)を先頭につけるのです。
実際の例
改行の例:
# エスケープシーケンスを使わない場合
print("こんにちは 世界") # 結果: こんにちは 世界
# エスケープシーケンスを使った場合
print("こんにちは\n世界") # 結果: こんにちは
# 世界
タブの例:
print("名前:\t太郎") # 結果: 名前: 太郎
print("年齢:\t25歳") # 結果: 年齢: 25歳
どの言語で使える?
エスケープシーケンスは、ほとんどのプログラミング言語で使えます:
- Python:
print("Hello\nWorld")
- JavaScript:
console.log("Hello\nWorld")
- Java:
System.out.println("Hello\nWorld")
- C言語:
printf("Hello\nWorld")
基本的な使い方は、どの言語でもほぼ同じです。
よく使うエスケープシーケンス一覧

基本の8つを覚えよう
エスケープシーケンス | 名前 | 何をするか | 使用例 |
---|---|---|---|
\n | 改行 | 次の行に移動する | "1行目\n2行目" |
\t | タブ | タブスペース(約4文字分)を入れる | "名前:\t太郎" |
\" | ダブルクオート | 文字列内で ” を表示する | "彼は\"こんにちは\"と言った" |
\' | シングルクオート | 文字列内で ‘ を表示する | 'I\'m happy' |
\\ | バックスラッシュ | 文字列内で \ を表示する | "C:\\Program Files" |
\r | 復帰 | 行の先頭に戻る | "あいう\rかき" (古い形式) |
\b | バックスペース | 直前の文字を削除する(場合による) | "ABC\bD" (ABD になることも) |
\0 | ヌル文字 | 文字列の終わりを示す | 主にC言語で使用 |
実際に試してみよう
改行 (\n
) の使い方:
# 複数行のメッセージ
message = "ようこそ!\nプログラミングの世界へ\n一緒に学びましょう"
print(message)
結果:
ようこそ!
プログラミングの世界へ
一緒に学びましょう
タブ (\t
) の使い方:
# 表のような整った表示
print("商品名\t価格\t在庫")
print("りんご\t150円\t20個")
print("みかん\t100円\t15個")
結果:
商品名 価格 在庫
りんご 150円 20個
みかん 100円 15個
引用符 (\"
, \'
) の使い方:
# ダブルクオートを文字として表示
print("彼は\"おはよう\"と言いました")
# シングルクオートを文字として表示
print('I\'m a student')
結果:
彼は"おはよう"と言いました
I'm a student
バックスラッシュ (\\
) の使い方:
# Windowsのファイルパス
file_path = "C:\\Users\\username\\Documents\\file.txt"
print(file_path)
結果:
C:\Users\username\Documents\file.txt
ここがポイント!
- 最も重要:
\n
(改行)と\t
(タブ)は覚えておきましょう - 引用符は要注意:文字列を囲む引用符と同じものを文字として使うときは必須
- ファイルパス:Windowsでは
\\
を使うことが多いです
注意すべきポイントとトラブル事例

よくある間違いと対策
1. バックスラッシュの書き忘れ
間違った例:
# これはエラーになる
print("彼は"こんにちは"と言った") # ❌ 引用符が混乱
正しい例:
print("彼は\"こんにちは\"と言った") # ✅ エスケープを使用
2. Windowsのファイルパスの罠
間違いやすい例:
# これは思った通りに動かない可能性
path = "C:\new\file.txt" # \n が改行として解釈される
正しい例:
# 方法1: バックスラッシュをエスケープ
path = "C:\\new\\file.txt"
# 方法2: raw文字列を使用(Pythonの場合)
path = r"C:\new\file.txt"
# 方法3: スラッシュを使用(多くの言語で対応)
path = "C:/new/file.txt"
3. 改行コードの違い
オペレーティングシステムによって、改行の仕方が違います:
OS | 改行コード | 説明 |
---|---|---|
Windows | \r\n | 復帰 + 改行 |
macOS | \n | 改行のみ |
Linux | \n | 改行のみ |
対策:
# 現代のプログラミングでは \n を使えば、
# ほとんどの環境で正しく動きます
print("1行目\n2行目\n3行目")
見落としやすいポイント
文字列の中身をデバッグする方法
文字列の中にどんなエスケープシーケンスが入っているか確認したいときは:
# Pythonの場合
text = "こんにちは\n世界\tです"
print(repr(text)) # 結果: 'こんにちは\n世界\tです'
意図しないエスケープシーケンス
# 間違い:意図しない文字が混入
message = "今日の気温は\t25度です" # \t でタブが入ってしまう
# 修正:エスケープしたい場合
message = "今日の気温は\\t25度です" # \t という文字列を表示
# または
message = "今日の気温は t25度です" # 単に t と書く
まとめ
エスケープシーケンスは、プログラミングにおいて「文字では表現できない特別な指示」を伝えるための大切な仕組みです。
覚えておきたい重要ポイント:
- 基本の3つ:
\n
(改行)、\t
(タブ)、\"
(引用符)は必須 - ファイルパス:Windowsでは
\\
を使うか、/
で代用 - デバッグ:おかしいときは
repr()
などで中身を確認 - 練習が大切:実際にコードを書いて試してみる
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