プログラミングを始めようと思った時、「どの言語や環境を選べばいいんだろう?」と迷ったことはありませんか?
Webサイト、スマホアプリ、デスクトップソフト、ゲーム…作りたいものによって、バラバラの技術を学ばなきゃいけないとしたら大変ですよね。
実は、これらすべてを1つのプラットフォームで開発できる環境があるんです。それが今回紹介する.NET(ドットネット)という開発プラットフォームになります。
Microsoftが開発した.NETは、Windows、Mac、Linux、iOS、Android、さらにはWebブラウザ上でも動くアプリケーションを作れる、とても強力な道具です。しかも、基本的に無料で使えるんですよ。
この記事では、.NETの基本から実際にできること、開発環境まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
.NETって何?基本をサクッと理解しよう

.NET(ドットネット)は、Microsoft社が開発したソフトウェア開発プラットフォームのことです。
「プラットフォーム」って聞くと難しそうですが、簡単に言えば「アプリケーションを作るための土台と道具がセットになったもの」なんですね。
.NETの3つの要素
.NETは主に3つの部分から成り立っています。
1. プログラミング言語
C#(シーシャープ)、F#(エフシャープ)、Visual Basicなど、複数の言語が使えます。最も人気なのはC#です。
2. ランタイム(実行環境)
作ったプログラムを動かすためのエンジン。CLR(Common Language Runtime)と呼ばれる仕組みが、プログラムを実際に動かします。
3. ライブラリ(部品集)
よく使う機能があらかじめ用意されているので、車輪の再発明をせずに済みます。ファイル操作、ネットワーク通信、データベース接続など、膨大な機能が揃っています。
.NET Frameworkと.NETの違い
.NETについて調べると、「.NET Framework」という言葉も出てきて混乱するかもしれません。実は、これらには歴史的な経緯があるんです。
.NET Frameworkの時代
2002年に登場した.NET Frameworkは、Windowsでしか動かないプラットフォームでした。
長年、多くのWindowsアプリケーションがこの.NET Frameworkで作られてきました。でも、MacやLinuxでは動かないという制限があったんです。
.NET Core(現在の.NET)の登場
2016年、Microsoftはオープンソースでクロスプラットフォーム(Windows、Mac、Linux対応)の.NET Coreをリリースしました。
そして、2020年に.NET 5として名称を統一。現在は単に「.NET」と呼ばれています。
どっちを使うべき?
新しいプロジェクトの場合
迷わず最新の.NET(.NET 8、.NET 9など)を選びましょう。高速で、クロスプラットフォーム対応で、最新機能が使えます。
古いプロジェクトのメンテナンスの場合
既に.NET Frameworkで動いているアプリは、そのまま使い続けることもできます。ただし、新機能は追加されないので、可能なら.NETへの移行を検討するのがおすすめです。
.NETでできること:幅広いアプリケーション開発
.NETの最大の魅力は、1つのプラットフォームで様々な種類のアプリケーションが作れることです。
Webアプリケーション
ASP.NET Coreというフレームワークを使って、高性能なWebアプリケーションやAPIを開発できます。
- ECサイト
- 企業の業務システム
- SNS
- REST API / GraphQL API
大企業から個人開発者まで、幅広く使われています。パフォーマンスも非常に高く、他のWebフレームワークと比較しても上位にランクインしています。
デスクトップアプリケーション
Windows、Mac、Linuxで動くデスクトップアプリを作れます。
Windows向け:
- WPF(Windows Presentation Foundation)
- Windows Forms
- WinUI 3
クロスプラットフォーム:
- .NET MAUI(マウイ)
- Avalonia
企業の社内システムや、個人向けのツールアプリケーションなど、様々な用途に使えます。
モバイルアプリケーション
.NET MAUIを使えば、1つのコードベースでiOSとAndroidの両方に対応したアプリを開発できます。
別々にSwift(iOS)とKotlin(Android)を学ぶ必要がないので、開発効率が大幅にアップするんです。
ゲーム開発
人気のゲームエンジンUnityは、C#をスクリプト言語として採用しています。
スマホゲーム、PCゲーム、コンソールゲームまで、Unity + C#の組み合わせで開発されているゲームは数え切れないほどあります。
クラウド・マイクロサービス
Azure(Microsoft のクラウドサービス)と相性が抜群です。
- Docker コンテナ化
- Kubernetes でのオーケストレーション
- サーバーレス関数(Azure Functions)
- マイクロサービスアーキテクチャ
大規模なクラウドアプリケーションの構築にも適しています。
IoT(モノのインターネット)
Raspberry Piなどの小型コンピュータでも.NETが動きます。
センサーからデータを取得したり、デバイスを制御したりするIoTアプリケーションも開発できるんです。
C#:.NETの主力プログラミング言語

.NETで最もよく使われるのがC#(シーシャープ)という言語です。
C#の特徴
読みやすい構文
JavaやJavaScriptに似た構文なので、他の言語を知っている人なら馴染みやすい設計です。
モダンな機能
LINQ(統合言語クエリ)、非同期処理(async/await)、パターンマッチングなど、現代的なプログラミング機能が豊富に揃っています。
オブジェクト指向
クラスやインターフェースを使った、保守しやすいコード設計ができます。
簡単な例
こんな風にシンプルに書けます。
// コンソールに出力
Console.WriteLine("Hello, .NET!");
// リストの操作
var numbers = new List<int> { 1, 2, 3, 4, 5 };
var evenNumbers = numbers.Where(n => n % 2 == 0);
// 非同期処理
async Task<string> GetDataAsync()
{
    await Task.Delay(1000);
    return "データ取得完了";
}可読性が高く、書いていて楽しい言語なんです。
オープンソース化:誰でも使える、誰でも貢献できる
2014年、Microsoftは大きな方針転換を行いました。.NETをオープンソースにしたんです。
オープンソースのメリット
無料で使える
商用利用も含めて、完全に無料です。ライセンス料はかかりません。
透明性が高い
ソースコードが公開されているので、中身がどう動いているか確認できます。セキュリティ面でも安心ですね。
コミュニティの貢献
世界中の開発者が.NETの改善に貢献できます。バグ修正や新機能の提案、ドキュメントの改善など、活発なコミュニティが形成されています。
GitHubで公開
.NETのソースコードは、GitHubで公開されています。
興味がある方は、実際にどんなコードで動いているのか覗いてみるのも面白いですよ。
パフォーマンス:高速で効率的
.NETは、パフォーマンス面でも優れています。
ベンチマーク結果
TechEmpowerという団体が定期的に実施しているWebフレームワークのベンチマークでは、ASP.NET Coreは常に上位にランクインしています。
Node.js、Python、Ruby、PHPなど、他の人気フレームワークと比較しても、トップクラスのパフォーマンスを誇るんです。
JITコンパイルとAOTコンパイル
.NETは通常、JIT(Just-In-Time)コンパイルという方式で動きます。実行時にコードを最適化するので、高速に動作するんです。
さらに最近は、AOT(Ahead-Of-Time)コンパイルにも対応。事前にネイティブコードに変換することで、起動が速く、メモリ使用量も少ないアプリケーションが作れるようになりました。
メモリ管理
ガベージコレクションという仕組みで、メモリを自動的に管理してくれます。
手動でメモリを解放する必要がないので、メモリリークのバグが起きにくく、安全なプログラミングができるんですね。
開発環境:無料で強力なツールが揃っている
.NETの開発には、優れた開発環境が用意されています。
Visual Studio
Microsoft純正の統合開発環境(IDE)です。
Visual Studio Community
個人開発者や小規模チーム向けに、無料で提供されています。機能制限はほとんどなく、プロ並みの開発ができます。
主な機能:
- コード補完(IntelliSense)
- デバッガー
- ビジュアルデザイナー
- テストツール
- バージョン管理統合
Windows版が最も機能豊富で、Mac版もあります。
Visual Studio Code
軽量で高速なコードエディタです。Windows、Mac、Linuxで動きます。
.NET用の拡張機能をインストールすれば、C#の開発が快適にできます。
Visual Studioより軽いので、「ちょっとしたコードを書きたい」という時に便利ですね。
JetBrains Rider
サードパーティ製の有料IDEですが、Visual Studioに匹敵する高機能なツールです。
クロスプラットフォーム対応で、Mac や Linuxでも快適に開発できます。
.NET CLI:コマンドラインツール
.NETには、CLI(Command Line Interface)という強力なコマンドラインツールが付属しています。
基本的なコマンド
新しいプロジェクトを作成
dotnet new console -n MyAppコンソールアプリケーション、Webアプリ、クラスライブラリなど、様々なテンプレートが用意されています。
プロジェクトを実行
dotnet runコンパイルと実行を一度に行ってくれます。
パッケージの追加
dotnet add package Newtonsoft.JsonNuGet(.NETのパッケージマネージャー)から、ライブラリを簡単に追加できます。
テストの実行
dotnet test自動テストを実行します。
CLIのメリット
- GUIに頼らず、コマンドだけで開発できる
- CI/CD(継続的インテグレーション・デリバリー)パイプラインに組み込みやすい
- スクリプトで自動化しやすい
NuGet:豊富なパッケージエコシステム
.NETには、NuGet(ニューゲット)というパッケージマネージャーがあります。
NuGetとは?
npmやpipと同じように、他の開発者が作った便利なライブラリを簡単にプロジェクトに追加できる仕組みです。
公式サイト(nuget.org)には、30万以上のパッケージが公開されています。
よく使われるパッケージ
Newtonsoft.Json(Json.NET)
JSON形式のデータを扱うための定番ライブラリ。
Entity Framework Core
データベース操作を簡単にするORM(オブジェクト関係マッピング)ツール。
Serilog
ログ出力のための高機能ライブラリ。
AutoMapper
オブジェクト間のマッピングを自動化してくれるツール。
必要な機能は、大抵誰かが既にパッケージとして公開してくれています。
.NETのバージョン体系
.NETのバージョンは、少し複雑に見えるかもしれません。
現在の体系
- .NET 5(2020年11月)
- .NET 6(2021年11月)- LTS版
- .NET 7(2022年11月)
- .NET 8(2023年11月)- LTS版
- .NET 9(2024年11月)
基本的に、毎年11月に新バージョンがリリースされます。
LTS版とSTS版
LTS(Long-Term Support)
偶数バージョン(.NET 6、.NET 8など)は、3年間のサポートが保証されています。本番環境で長く使う場合はこちらがおすすめです。
STS(Standard-Term Support)
奇数バージョン(.NET 7、.NET 9など)は、18ヶ月のサポート。最新機能を試したい人向けです。
どれを選ぶべき?
新しいプロジェクトなら、最新のLTS版を選ぶのが無難です。執筆時点では.NET 8がLTS版として推奨されています。
.NETのエコシステム
.NETの周辺には、様々な技術やツールが存在します。
Blazor
C#でWebフロントエンドが書ける革新的な技術です。
JavaScriptの代わりにC#を使って、インタラクティブなWebアプリケーションが作れるんです。WebAssembly技術を活用しています。
SignalR
リアルタイム通信を簡単に実装できるライブラリ。
チャットアプリやゲームのマルチプレイ機能など、サーバーとクライアント間でリアルタイムにデータをやり取りする機能が簡単に作れます。
Entity Framework Core
データベース操作を直感的に書けるORM(オブジェクト関係マッピング)ツールです。
SQLを直接書かなくても、C#のコードでデータベース操作ができます。
var users = dbContext.Users
    .Where(u => u.Age >= 20)
    .OrderBy(u => u.Name)
    .ToList();こんな風に、LINQを使ってデータベースクエリが書けるんです。
ML.NET
機械学習のライブラリです。.NETで機械学習モデルを作成・実行できます。
Pythonほど機能は豊富ではありませんが、.NETアプリに機械学習を組み込みたい時に便利です。
.NETのコミュニティとリソース

.NETを学ぶためのリソースは豊富にあります。
公式ドキュメント
Microsoft公式のドキュメント(Microsoft Learn)は、非常に充実しています。
チュートリアルから詳細なAPIリファレンスまで、日本語でも提供されているので、学習しやすいんです。
コミュニティ
- Stack Overflow:質問と回答が集まるサイト
- GitHub:オープンソースプロジェクトが集まる場所
- Reddit(r/dotnet):開発者同士の情報交換
- 各地のユーザーグループや勉強会
活発なコミュニティがあるので、困った時に助けを求めやすい環境です。
学習リソース
- Microsoft Learnの無料コース
- YouTube のチュートリアル動画
- Udemy などのオンラインコース
- 技術書や入門書
初心者から上級者まで、レベルに合わせた学習資料が揃っています。
.NETの将来性
.NETは、今後も発展していくプラットフォームと言えます。
Microsoftのコミットメント
Microsoftは.NETを主力プラットフォームとして位置づけており、継続的に投資しています。
Azureクラウドサービスとの統合も強化され、クラウドファーストな開発環境が整っています。
クロスプラットフォーム対応
Windows以外のプラットフォームでも動くことで、より多くの開発者が使えるようになりました。
Mac開発者やLinux派の人も、.NETを選択肢に入れられるんです。
需要の高さ
企業の求人を見ると、C#/.NETのスキルを求める案件は常に多数あります。
特に、エンタープライズ(大企業向け)システムの開発では、.NETが根強い人気を持っています。
まとめ:あらゆるアプリを作れる強力なプラットフォーム
.NETは、Microsoftが提供する統合開発プラットフォームで、幅広い種類のアプリケーション開発に対応しています。
この記事のポイント:
- .NETはWebアプリ、デスクトップアプリ、モバイルアプリ、ゲームなど様々なアプリが作れる
- 主な言語はC#で、読みやすく書きやすい
- オープンソースで無料、商用利用も可能
- クロスプラットフォーム対応(Windows、Mac、Linux、iOS、Android)
- 高いパフォーマンスと安定性
- Visual StudioやVS Codeなど優れた開発環境が揃っている
- NuGetで豊富なライブラリが利用できる
- 毎年新バージョンがリリースされ、進化し続けている
- 活発なコミュニティと充実した学習リソース
これからプログラミングを始める人も、新しい技術を学びたい経験者も、.NETは非常に良い選択肢です。1つのプラットフォームで多様なアプリケーションが作れるので、学習効率も高いんですよ。
ぜひ.NETの世界に飛び込んで、自分のアイデアを形にしてみてください!
 
  
  
  
   
               
               
               
               
              

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