「Dockerコンテナを一時的に止めたいけど、削除や再起動はしたくない」
そんなときに使える便利な機能が、Dockerの一時停止(pause)です。
一見マイナーに見えるこの機能、実はリソースの無駄を抑えたり、メンテナンス中の事故を防ぐのに非常に役立ちます。
この記事では、Dockerのpause
/unpause
コマンドによるコンテナの一時停止と再開の正しい使い方と注意点を、初心者にもわかりやすく紹介します。
Dockerの「一時停止(pause)」とは?

pause って何?
Dockerの一時停止(docker pause
)は、コンテナ内部で動いているすべてのプログラムを一時的にフリーズ(停止)する機能です。
身近な例で説明すると:
- DVDプレイヤーの一時停止:映画が止まるけど、電源は入ったまま
- ゲームのポーズ機能:ゲームが止まるけど、データは保存されている
- 音楽プレイヤーの停止:音楽が止まるけど、すぐに再生できる
pauseした時の状態
コンテナの状態
実行前:Up(動いている)
pause後:Paused(一時停止中)
unpause後:Up(また動いている)
何が止まるの?
- プログラムの動作:止まる
- CPUの使用:ほぼゼロになる
- ネットワーク応答:止まる
何が残るの?
- メモリの内容:そのまま残る
- ファイルのデータ:そのまま残る
- ネットワークの接続:つながったまま
他の停止方法との違い
普通の停止(stop)との違い:
- stop:アプリを正常に終了させる(お片付けしてから終了)
- pause:アプリをそのままの状態で一時停止(後で続きから再開)
pause/unpauseコマンドの使い方

基本的なコマンド
コンテナを一時停止する
docker pause コンテナ名
例:
docker pause my-web-server
コンテナを再開する
docker unpause コンテナ名
例:
docker unpause my-web-server
実際の使用例
ステップ1:コンテナを起動
# NGINXウェブサーバーを起動
docker run -d --name test-nginx nginx
# 状態を確認
docker ps
実行結果:
CONTAINER ID IMAGE COMMAND CREATED STATUS PORTS NAMES
abc123def456 nginx "/docker-entrypoint.…" 2 minutes ago Up 2 minutes 80/tcp test-nginx
ステップ2:コンテナを一時停止
# 一時停止
docker pause test-nginx
# 状態を確認
docker ps
実行結果:
CONTAINER ID IMAGE COMMAND CREATED STATUS PORTS NAMES
abc123def456 nginx "/docker-entrypoint.…" 3 minutes ago Up 3 minutes (Paused) 80/tcp test-nginx
ステップ3:コンテナを再開
# 再開
docker unpause test-nginx
# 状態を確認
docker ps
実行結果:
CONTAINER ID IMAGE COMMAND CREATED STATUS PORTS NAMES
abc123def456 nginx "/docker-entrypoint.…" 4 minutes ago Up 4 minutes 80/tcp test-nginx
状態確認の方法
基本的な確認
# 実行中のコンテナを表示
docker ps
# すべてのコンテナを表示(停止中も含む)
docker ps -a
# 特定のコンテナの詳細情報
docker inspect コンテナ名
一時停止中かどうかの確認
# 一時停止中のコンテナだけを表示
docker ps --filter "status=paused"
pauseを使うべき場面・避けるべき場面

使うと便利な場面
1. メンテナンス作業のとき
使用例:
1. ウェブサイトの設定を変更したい
2. docker pause web-server # サイトを一時停止
3. 設定ファイルを編集
4. docker unpause web-server # サイトを再開
メリット:
- ユーザーからのアクセスを一時的にブロック
- データは失われない
- すぐに再開できる
2. テスト中に状態を保ちたいとき
使用例:
1. プログラムのテストを実行
2. 問題が見つかったらdocker pause test-app
3. 状態を保ったままコードを確認
4. 修正後にdocker unpause test-app
メリット:
- テストの途中状態を保存
- データを失わずに調査可能
- 再テストが簡単
3. リソースを節約したいとき
使用例:
1. 複数のアプリを開発中
2. 使わないアプリをdocker pauseで一時停止
3. CPUとメモリを節約
4. 必要になったらdocker unpauseで再開
メリット:
- CPUの使用量を大幅に削減
- メモリは少し使うが、データは保持
- パソコンの動作が軽くなる
避けた方がいい場面
1. 長時間の停止
避けるべき理由:
- システムやネットワークでタイムアウトが発生する可能性
- 他のシステムが正常に応答しなくなる
- メモリを使い続けるので無駄
代替案:
- 長時間の場合はdocker stopを使う
- 必要に応じてdocker startで再開
2. データベースの一時停止
避けるべき理由:
- 他のアプリがデータベースにアクセスできなくなる
- データの整合性に問題が起きる可能性
- 接続タイムアウトでエラーが発生
代替案:
- メンテナンスモードを使用
- レプリケーション(複製)機能を活用
- 計画的なメンテナンス時間を設定
3. 本番環境での頻繁な使用
避けるべき理由:
- ユーザーサービスの中断
- 予期しない副作用の可能性
- 監視システムでの誤報
代替案:
- ロードバランサーでの切り替え
- ブルーグリーンデプロイメント
- カナリアデプロイメント
pause・stop・kill・restartの違い

4つのコマンドの比較
コマンド | 何をする? | 状態 | データ | 再開方法 |
---|---|---|---|---|
pause | プログラムを一時停止 | Paused | 保持 | unpause |
stop | 正常にアプリを終了 | Exited | 保持 | start |
kill | 強制的にアプリを終了 | Exited | 保持 | start |
restart | 停止してから再起動 | Up | 保持 | – |
詳しい説明
pause(一時停止)
# 使用方法
docker pause コンテナ名
特徴:
- プログラムをその場で止める
- メモリの内容はそのまま
- ファイルもそのまま
- 瞬時に再開可能
例えるなら:
ゲームのポーズボタンを押した状態
stop(正常終了)
# 使用方法
docker stop コンテナ名
特徴:
- プログラムに「終了してください」と丁寧にお願い
- アプリがお片付けをしてから終了
- ファイルは保存される
- 再起動には少し時間がかかる
例えるなら:
パソコンの正常なシャットダウン
kill(強制終了)
# 使用方法
docker kill コンテナ名
特徴:
- プログラムを問答無用で停止
- お片付けする時間を与えない
- ファイルが破損する可能性
- 緊急時以外は使わない
例えるなら:
パソコンの電源を強制的に切る
restart(再起動)
# 使用方法
docker restart コンテナ名
特徴:
- stopしてからすぐにstart
- 設定の変更を反映したいときに使用
- 一時的にサービスが止まる
例えるなら:
パソコンの再起動
実際の使用例
例1:Webサイトのメンテナンス
シナリオ
- 運営中のWebサイトの設定を変更したい
- ユーザーには一時的にアクセスできない状態にしたい
- データは失いたくない
手順
# 1. 現在の状態を確認
docker ps
# 2. Webサーバーを一時停止
docker pause my-website
# 3. 設定ファイルを編集
# (この間、ユーザーはサイトにアクセスできない)
# 4. Webサーバーを再開
docker unpause my-website
# 5. 動作確認
curl http://localhost
例2:開発中のデバッグ
シナリオ
- アプリケーションのテスト中にバグを発見
- 現在の状態を保ったまま調査したい
- 修正後に同じ状態から再開したい
手順
# 1. バグを発見した時点で一時停止
docker pause test-app
# 2. ログファイルを確認
docker logs test-app
# 3. コンテナ内部を調査
docker exec test-app cat /var/log/application.log
# 4. 問題を分析してコードを修正
# (コンテナは停止状態だが、データは保持)
# 5. 修正後に再開
docker unpause test-app
# 6. テストを継続
例3:リソース管理
シナリオ
- 複数のコンテナを同時に開発
- パソコンの動作が重くなってきた
- 使っていないコンテナを一時停止したい
手順
# 1. 現在動いているコンテナを確認
docker ps
# 2. 使っていないコンテナを一時停止
docker pause database-dev
docker pause redis-cache
docker pause monitoring-app
# 3. 必要なコンテナだけを残す
docker ps # 必要なコンテナだけがUpになる
# 4. 作業が終わったら再開
docker unpause database-dev
docker unpause redis-cache
docker unpause monitoring-app
pauseの運用ベストプラクティス

良い使い方
1. 短時間の一時停止
推奨:
- 数分から数時間程度
- メンテナンス作業中
- テストやデバッグ中
理由:
- システムのタイムアウトを避けられる
- メモリの無駄遣いを防げる
- 予期しない問題を避けられる
2. 開発環境での活用
推奨:
- 開発中のアプリケーション
- テスト用のコンテナ
- 学習目的での使用
理由:
- 本番への影響がない
- 失敗しても問題ない
- 経験を積める
3. 複数コンテナの一括管理
# 複数のコンテナを一括停止
docker pause $(docker ps -q)
# 複数のコンテナを一括再開
docker unpause $(docker ps -q)
使う場面:
- 開発環境全体の一時停止
- システムメンテナンス時
- リソース不足の緊急対応
注意すべき点
1. 長時間の放置は避ける
問題:
- メモリを使い続ける
- 他のシステムでタイムアウト
- 管理が複雑になる
対策:
- 定期的な状態確認
- 不要になったらstopまたはremove
- 自動化スクリプトでの管理
2. 本番環境では慎重に
問題:
- ユーザーサービスの中断
- 予期しない副作用
- 監視システムの誤報
対策:
- 事前のテスト実施
- メンテナンス時間の設定
- 代替手段の検討
3. システム再起動時の注意
問題:
- Dockerサービス再起動後も「Paused」状態が残る
- 自動起動されない
- 管理が複雑
対策:
# システム再起動前に一括unpause
docker unpause $(docker ps -q --filter "status=paused")
# または停止してから再起動
docker stop コンテナ名
# システム再起動後
docker start コンテナ名
トラブルシューティング

よくある問題と解決方法
問題1:pauseが効かない
症状:
docker pause コンテナ名
# エラー: コンテナが見つからない、または権限エラー
原因と対処法:
原因1:コンテナ名が間違っている
対処法:docker ps で正確な名前を確認
原因2:権限が不足している
対処法:sudo docker pause コンテナ名
原因3:コンテナが既に停止している
対処法:docker ps -a で状態を確認
問題2:unpauseできない
症状:
docker unpause コンテナ名
# エラーが発生する
原因と対処法:
原因1:コンテナがpaused状態ではない
対処法:docker ps で状態を確認
原因2:システムリソース不足
対処法:他のプロセスを止めてから再試行
原因3:Dockerサービスの問題
対処法:sudo systemctl restart docker
問題3:pause後の動作がおかしい
症状:
- unpause後にアプリが正常に動作しない
- 接続エラーが発生する
原因と対処法:
原因1:ネットワーク接続のタイムアウト
対処法:アプリケーションを再起動
原因2:依存サービスとの接続切れ
対処法:関連コンテナも同時にpause/unpause
原因3:アプリケーションレベルの問題
対処法:アプリのログを確認して対応
まとめ
pauseコマンドは、Dockerコンテナを一時停止しておきたい状況でとても便利な機能です。
この記事のポイント
基本機能
docker pause
でプログラムを止めて状態維持docker unpause
で即座に再開可能- stopやkillと違い、破壊的な操作ではない
活用場面
- メンテナンス作業中の一時停止
- 開発・テスト中の状態保持
- リソース節約のための一時停止
注意点
- 長時間の停止は避ける
- 本番環境では慎重に使用
- システム再起動時の状態管理に注意
他のコマンドとの使い分け
- 短期間の中断:pause/unpause
- 正常な終了:stop/start
- 緊急停止:kill
- 設定反映:restart
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