「インターネットってどうやってつながってるの?」「データはどうやって目的地まで届くの?」
普段、何気なく使っているインターネット。実は、世界中の何十万ものネットワークが複雑につながり合って成り立っているんです。
そして、そのつながりを支えているのが「BGP(Border Gateway Protocol)」という仕組みです。普段は意識することのない裏方の技術ですが、インターネットの根幹を支える重要な役割を担っています。
この記事では、BGPとは何か、どんな仕組みで動いているのか、なぜ重要なのかを、初心者にもわかりやすく解説していきます。
BGPとは?インターネットの「郵便配達システム」

BGPは「Border Gateway Protocol(ボーダー・ゲートウェイ・プロトコル)」の略称です。
言葉を分解してみましょう。
- Border(ボーダー):境界、国境
- Gateway(ゲートウェイ):入口、門
- Protocol(プロトコル):通信の約束事、ルール
つまり、「ネットワークの境界で、データの行き先を案内するためのルール」という意味になります。
もっとわかりやすく言えば、BGPはインターネット上の「郵便配達システム」のようなものです。
あなたが手紙を郵便ポストに投函すると、郵便局がその手紙を目的地まで届けてくれますよね。その際、郵便局は最も効率的なルートを選んで配達します。
BGPも同じように、インターネット上で送られるデータ(メールやウェブページの情報など)が、最適な経路を通って目的地まで届くように道案内をしているんです。
なぜBGPが必要なのか?インターネットの仕組みを理解しよう
BGPの重要性を理解するには、まずインターネットの構造を知る必要があります。
インターネットは「ネットワークのネットワーク」
インターネットは、単一の巨大なネットワークではありません。
世界中の何十万もの小さなネットワークが互いに接続し合って、インターネット全体を形成しているんです。
例えば:
- NTTドコモのネットワーク
- Googleのネットワーク
- KDDIのネットワーク
- あなたの会社や学校のネットワーク
これらはすべて独立したネットワークですが、互いに接続することで、世界中のどことでも通信できるようになっています。
自律システム(AS)という単位
これらの独立したネットワークのことを、専門用語で「自律システム(AS:Autonomous System)」と呼びます。
自律システムは、いわば「インターネット上の国」のようなものです。
国にはそれぞれの法律や統治の仕組みがありますよね。同じように、各自律システムにも独自のルーティングポリシー(経路選択の方針)があります。
そして、国と国の間で貿易や外交が行われるように、自律システム同士も情報をやり取りする必要があるんです。
このとき、自律システム間で経路情報を交換するために使われるのがBGPなんですね。
AS番号という識別番号
各自律システムには、「AS番号(ASN:Autonomous System Number)」という固有の識別番号が割り当てられています。
これは、国にパスポート番号があるようなもので、インターネット上で各ネットワークを一意に識別するための番号です。
AS番号は、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)という組織によって管理・割り当てられています。
BGPの役割とは?最適な経路を見つけ出す
BGPの主な役割は、データが通る「最適な経路」を見つけることです。
複数の経路から選択する
インターネット上では、A地点からB地点へデータを送る際、複数の経路が存在することがほとんどです。
例えば、日本からアメリカのサーバーにアクセスする場合:
- 太平洋を横断する海底ケーブルを通るルート
- アジアやヨーロッパを経由する迂回ルート
- 複数の異なるプロバイダーを経由するルート
などの選択肢があります。
BGPは、これらの経路の中から、その時点で最も適切なものを選んで案内してくれるんです。
何を基準に「最適」と判断するのか
BGPが経路を選ぶ際、さまざまな要素を考慮します。
経由する自律システムの数(ASパス長)
一般的に、経由する自律システムの数が少ない方が「近い」と判断されます。
ポリシー(方針)
ネットワーク管理者が設定したルールに従います。例えば、「特定のプロバイダーを優先する」といった方針です。
コスト
自律システム間のデータ転送には料金が発生することがあります。コストを考慮して経路を選ぶこともあります。
通信の品質
遅延時間(レイテンシ)や信頼性なども判断材料になります。
これらの要素を総合的に判断して、BGPは最適な経路を決定するわけですね。
BGPの仕組み:どうやって経路情報を交換するのか
BGPがどのように動作するのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
BGPルーターとピアリング
BGPを使うルーター(通信機器)を「BGPルーター」または「BGPスピーカー」と呼びます。
BGPルーター同士は、「ピアリング(peering)」という関係を結びます。ピアリングとは、お互いに経路情報を交換し合う約束のことです。
この関係は手動で設定する必要があり、自動的には確立されません。
TCPポート179での通信
BGPは、TCP(Transmission Control Protocol)という通信方式を使います。具体的には、TCPの179番ポートを利用します。
多くのルーティングプロトコルはUDP(User Datagram Protocol)を使いますが、BGPがTCPを使うのは珍しい特徴です。
TCPを使うことで、確実にデータが届くことを保証できるんですね。
キープアライブメッセージ
BGPルーター同士は、接続が正常に維持されていることを確認するため、定期的に「キープアライブメッセージ」を送り合います。
デフォルトでは、60秒ごとに19バイトの小さなメッセージを送信します。
これにより、相手のルーターが正常に動作しているか、通信経路が確保されているかを確認できるわけです。
ルーティングテーブルの更新
各BGPルーターは、「ルーティングテーブル」という経路情報の一覧表を持っています。
これは、道路地図のようなもので、「どこに行くには、どの方向に進めばいいか」が記録されています。
BGPルーターは、ピアから受け取った経路情報を元に、このルーティングテーブルを常に更新し続けます。
経路のアドバタイズ(広告)
BGPルーターは、自分が知っている経路情報を、ピアとなっている他のルーターに「アドバタイズ(広告)」します。
例えば:
- ルーターAが「192.168.1.0/24のネットワークには、私を経由すれば到達できますよ」と周囲に伝える
- この情報を受け取ったルーターBは、それを自分のルーティングテーブルに記録する
- ルーターBは、さらにその情報を自分のピアに伝える
このように、経路情報が次々と伝わっていくことで、インターネット全体の経路地図が形成されていくんですね。
eBGPとiBGP:2種類のBGP

BGPには、使われる場所によって2つの種類があります。
eBGP(External BGP):外部BGP
eBGPは「External BGP」の略で、異なる自律システム間で使われるBGPです。
例えば:
- NTTドコモのネットワークとKDDIのネットワークの間
- 日本のプロバイダーとアメリカのプロバイダーの間
このように、別々の組織が運営するネットワーク同士をつなぐのがeBGPの役割です。
eBGPルーターは、自律システムの「境界」や「端」に配置され、「ボーダールーター」や「エッジルーター」とも呼ばれます。
iBGP(Internal BGP):内部BGP
iBGPは「Internal BGP」の略で、同じ自律システム内で使われるBGPです。
大規模なネットワーク内では、eBGPで受け取った外部の経路情報を、内部のルーター全体に共有する必要があります。
この内部での経路情報の共有にiBGPが使われるんですね。
ただし、同じ自律システム内でのルーティングには、OSPF(Open Shortest Path First)やIS-IS(Intermediate System to Intermediate System)といった、他のプロトコルが使われることも多いです。
パスベクター型プロトコル:ループを防ぐ仕組み
BGPは「パスベクター型(Path Vector)」と呼ばれるタイプのルーティングプロトコルです。
AS_PATH属性とは
BGPでは、経路情報に「AS_PATH(ASパス)」という属性が付加されます。
これは、その経路が経由してきた自律システムの番号を、順番に記録したリストです。
例えば:
- AS_PATH: 1001 → 1002 → 1003
この場合、「AS番号1001を通って、次に1002を通り、最後に1003を通る経路」ということがわかります。
ループ検出の仕組み
このAS_PATHがあることで、BGPは「ループ(無限ループ)」を防ぐことができます。
ループとは、データが同じ経路をぐるぐると回り続けてしまう状態のことです。
BGPルーターは、受け取った経路情報のAS_PATHを確認し、そこに自分のAS番号が含まれていれば、その経路を採用しません。
なぜなら、自分のAS番号が含まれているということは、その経路が自分のところに戻ってきてしまうことを意味するからです。
この仕組みにより、効率的にループを回避できるんですね。
BGPの重要性:インターネットの心臓部
BGPは、一般のインターネットユーザーにとっては馴染みのない技術かもしれません。
しかし、実際にはインターネット全体の根幹を支える、極めて重要な仕組みなんです。
ISPの必須技術
インターネットサービスプロバイダー(ISP)は、他のISPとのルーティングに必ずBGPを使用しています。
BGPがなければ、異なるプロバイダー間でデータをやり取りすることができず、インターネット全体が機能しなくなってしまいます。
その重要性は、電話網における信号制御システムに匹敵するほどです。
世界規模のルーティング
BGPは、世界中の何十万もの自律システムを相互接続し、グローバルなインターネットを実現しています。
2024年時点で、インターネット上には約10万以上の自律システムが存在し、それらすべてがBGPによって結ばれているんです。
冗長性と耐障害性
BGPの優れた点は、ネットワークの障害に強いことです。
ある経路が使えなくなっても、BGPは自動的に別の経路を見つけて、データの流れを維持します。
この「冗長性(redundancy)」により、インターネットの安定性が保たれているんですね。
BGPのセキュリティ上の課題
BGPは強力な仕組みですが、セキュリティ上の弱点も持っています。
経路情報の認証がない
BGPの大きな問題点は、経路情報を送ってきた相手が本当に正しい情報を伝えているか、確認する仕組みが基本的にないことです。
つまり、悪意のある、または間違った経路情報が流れてきても、それを検証する手段がありません。
BGPハイジャック
「BGPハイジャック」とは、誤った経路情報を意図的に流すことで、通信を不正に誘導する攻撃のことです。
例えば:
- 攻撃者が「このIPアドレスには、私を経由してアクセスできますよ」と嘘の情報を流す
- 他のルーターがその情報を信じて、トラフィックを攻撃者の方へ送ってしまう
- 攻撃者は、盗聴や改ざんなどの不正行為を行える
過去には、大手企業が誤ってBGPに間違った経路情報を流してしまい、インターネットの一部が数時間にわたって通信障害を起こした事例もあります。
対策技術の開発
この問題に対処するため、いくつかの対策技術が開発されています。
RPKI(Resource Public Key Infrastructure)
経路情報の正当性を暗号技術で検証する仕組みです。
BGPsec
BGPの通信自体を暗号化して保護する技術です。
ただし、これらの対策技術はまだ完全には普及していないのが現状です。
BGPとOSPFの違い
ネットワーク技術に興味がある方のために、BGPと別のルーティングプロトコルであるOSPF(Open Shortest Path First)との違いを簡単に説明します。
使用される場所
BGP
- 自律システム間(異なる組織のネットワーク間)
- インターネット全体の経路制御
OSPF
- 自律システム内(同じ組織のネットワーク内)
- 企業のLANやデータセンター
BGPは「外部向け」、OSPFは「内部向け」と覚えると理解しやすいですね。
スケール(規模)
BGP
- インターネット全体に対応できる
- 数十万の自律システムを扱える
- 非常に大規模
OSPF
- 中規模から大規模のネットワーク向け
- 数百台程度のルーターまで
- BGPほど大規模ではない
経路選択の方法
BGP
- ポリシーベース(管理者の設定した方針に従う)
- AS_PATHの長さなどを考慮
- 商業的な要因も影響する
OSPF
- メトリックベース(数値的なコストで判断)
- 最短経路を自動的に計算
- リンクの帯域幅などを基準にする
収束速度
BGP
- 経路変更への対応が比較的遅い
- 数分かかることもある
OSPF
- 経路変更への対応が速い
- 数秒で新しい経路を計算
BGPが使われる場面
BGPは、以下のような場面で実際に使われています。
インターネットサービスプロバイダー(ISP)
ISP同士は、必ずBGPを使って相互接続しています。
あなたがNTTドコモの回線を使っていて、KDDIの回線を使っている友人にメールを送る場合、その通信にはBGPが関わっているんです。
大企業のネットワーク
複数の拠点を持つ大企業や、複数のISPと接続している企業では、BGPを使ってネットワークを管理することがあります。
クラウドサービスプロバイダー
AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、Google Cloudなどのクラウドサービスでは、BGPを活用してネットワークを構築しています。
例えば、オンプレミス(自社のデータセンター)とクラウドを接続する際に、BGPが使われることが多いです。
コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)
CDNは、世界中に配置されたサーバーから、ユーザーに最も近いサーバーを選んでコンテンツを配信するサービスです。
この際、最適なサーバーを選ぶためにBGPの情報が活用されます。
マルチホーミング:複数の接続で冗長性を高める
「マルチホーミング」とは、複数のISPやネットワークに同時に接続する構成のことです。
BGPは、マルチホーミングを実現するための重要な技術となっています。
マルチホーミングのメリット
冗長性の向上
1つのISPが障害を起こしても、別のISPを通じて通信を継続できます。
負荷分散
トラフィックを複数の回線に分散させることで、1つの回線に負荷が集中するのを防げます。
コストの最適化
複数のプロバイダーを使い分けることで、通信コストを最適化できる場合があります。
BGPによる制御
マルチホーミング環境では、BGPを使って以下のような制御を行います。
- どのトラフィックをどのISP経由で送るか
- 障害発生時に、どのように経路を切り替えるか
- 各ISPに対して、どのように経路情報を広告するか
これらを適切に設定することで、安定した通信環境を実現できるんですね。
まとめ
BGP(Border Gateway Protocol)について、基本から応用まで解説してきました。
重要なポイントをまとめましょう。
- BGPはインターネットの根幹を支える経路制御プロトコルで、インターネット上の「郵便配達システム」のような役割を果たしています
- 自律システム(AS)間で経路情報を交換し、データが通る最適な経路を見つけ出します
- eBGP(外部BGP)とiBGP(内部BGP)の2種類があり、それぞれ異なる場所で使われます
- AS_PATH属性を使ってループを防ぎ、効率的にルーティングを行います
- ISPやクラウドサービスなど、さまざまな場面で実際に活用されています
- セキュリティ上の課題もあり、対策技術の開発が進められています
BGPは、私たちが普段インターネットを使うときには意識することのない、裏方の技術です。
しかし、この仕組みがあるからこそ、世界中のどことでも瞬時に通信できるインターネットが実現しているんです。
ネットワークエンジニアを目指す方はもちろん、ITの基礎知識として、BGPの存在と役割を知っておくと、インターネットがどうやって動いているのか、より深く理解できるようになりますよ!

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