東方を守る聖なる龍!「青龍」の神話と伝承をわかりやすく解説

その他

空の東側から昇る朝日を見たとき、古代の中国人は何を思い浮かべたのでしょうか?

それは、東の空を守護する神聖な龍「青龍(せいりゅう)」の姿でした。

四神のなかでも特に皇帝との結びつきが強く、日本でも古墳の壁画に描かれるなど、東アジア全体で信仰されてきた存在なんです。

この記事では、東方の守護神「青龍」について、その神話や伝承、特徴をやさしく解説していきます。


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概要

青龍は、中国の神話に登場する伝説上の神獣です。

四神(ししん) と呼ばれる東西南北を守護する霊獣のひとつで、東の方角を担当しています。「蒼龍(そうりゅう)」という別名でも知られていますね。

四神とは、以下の4体の霊獣のことを指します。

  • 青龍(東):龍の姿をした守護神
  • 朱雀(南):鳳凰に似た赤い鳥
  • 白虎(西):白い虎
  • 玄武(北):亀と蛇が絡み合った姿

これらは単なる空想上の生き物ではありません。中国の古代思想である 五行説 と深く結びつき、方角・季節・色・元素を象徴する神聖な存在として崇められてきました。

青龍は特に 春の季節木の元素 を司り、生命の芽吹きや成長を象徴する存在なんです。


青龍の姿と特徴

外見

青龍の姿は、中国の龍そのものです。

蛇のように長い胴体に、鹿の角、虎の足、鷹の爪を持ち、全身を青緑色の鱗で覆われています。口元には長い髭があり、顎の下には光り輝く宝珠を抱えているとされます。

ちなみに「青」という色について補足しておきますね。現代の日本語では「青」といえば空のような色を思い浮かべますが、古代中国での「青」は少し違いました。青山(せいざん)や青林(せいりん)という言葉が示すように、もともとは 植物の緑色 を指していたんです。だから青龍は、空色というよりも深い緑色に近い姿だったと考えられています。

能力と性質

青龍は水や天候を操る力を持っています。

龍は古代中国において雨を降らせる存在として信じられていました。農耕社会だった当時の人々にとって、雨は作物の実りを左右する最も重要な要素。だからこそ龍、とりわけ青龍は神聖視されていたわけです。

また、青龍は 瑞兆(ずいちょう) 、つまり幸運の前触れとしても知られています。「天之四霊」という言葉がありますが、これは青龍・朱雀・玄武・白虎の四神を指し、これらが現れることは吉祥のしるしとされました。


四神と五行説の関係

青龍を理解するには、五行説 について知っておく必要があります。

五行説とは、この世のあらゆるものが「木・火・土・金・水」という5つの元素から成り立っているという古代中国の思想です。この思想では、方角や季節、色なども5つの元素に対応しています。

五行と四神の対応

方角守護神季節元素
青龍青(緑)
朱雀
西白虎
玄武
中央黄龍/麒麟土用

青龍が東と結びついているのは、五行説で東方に「青」が割り当てられたからなんですね。

この対応関係は、戦国時代(紀元前5世紀〜前3世紀ごろ)に成立したと考えられています。もともとあった龍への信仰が、五行説の影響を受けながら体系化され、四神という概念が生まれていったわけです。


天文学との結びつき

青龍は、夜空の星座とも深い関係があります。

中国の古代天文学では、天球を28の区画(二十八宿)に分けていました。このうち東方に位置する7つの星宿を総称して「東方七宿」と呼びます。

東方七宿の構成

  1. 角宿(かくしゅく):龍の角
  2. 亢宿(こうしゅく):龍の首
  3. 氐宿(ていしゅく):龍の胸
  4. 房宿(ぼうしゅく):龍の腹
  5. 心宿(しんしゅく):龍の心臓
  6. 尾宿(びしゅく):龍の尾
  7. 箕宿(きしゅく):龍の尾の先

これら7つの星宿をつなげると、まるで天空を駆ける龍の姿に見えることから「東方青龍」と呼ばれるようになりました。古代の人々は、夜空に浮かぶ星々の配置に龍の姿を見出していたんですね。


中国神話における青龍

道教での位置づけ

道教では、青龍は 「孟章神君(もうしょうしんくん)」 という名前で人格神化されています。

道教とは、中国で生まれた宗教のひとつ。その経典『雲笈七籤(うんきゅうしちせん)』には、「四象とは青龍・白虎・朱雀・玄武なり」と記されており、四神が重要な神格として位置づけられていることがわかります。

また、青龍は「竜族の始祖」ともされました。中国には数多くの龍の伝承がありますが、青龍はその頂点に立つ存在として崇められていたんです。

四海龍王との関係

中国神話には「四海龍王」という存在も登場します。

これは東西南北の海をそれぞれ治める4柱の龍王のこと。東海龍王は「敖広(ごうこう)」という名前で、『西遊記』などの物語にも登場しますね。

青龍と東海龍王は、どちらも「東方」と結びついています。仏教が中国に伝来すると、インドの蛇神「ナーガ」が「龍王」と訳され、青龍信仰と混ざり合っていきました。こうして龍王は雨を降らせる水神として、また特定の水域を守護する神として、民間信仰に深く根づいていったんです。


日本への伝来と信仰

四神信仰は、古代の朝鮮半島を経由して日本にも伝わりました。

古墳壁画に描かれた青龍

日本で最も有名な青龍の遺構といえば、奈良県明日香村の キトラ古墳 でしょう。

7世紀末から8世紀初頭に造られたこの古墳の石室には、四方の壁にそれぞれ四神が描かれています。東側の壁には青龍、南側には朱雀、西側には白虎、北側には玄武。天井には星座を表した天文図まで描かれており、当時の人々が中国の天文学や思想をいかに深く取り入れていたかがわかりますね。

また、奈良県の 薬師寺金堂 の本尊台座にも青龍が描かれています。

都市計画への影響

四神信仰は、日本の都市づくりにも大きな影響を与えました。

「四神相応の地」という言葉を聞いたことがありますか?これは、東に川、西に大きな道、南に開けた地(池や海)、北に山がある土地のこと。四神がそれぞれの方角を守護してくれる、理想的な地形とされていました。

平安京(現在の京都)は、まさにこの考え方に基づいて建設された都市です。東の鴨川が青龍、北の船岡山が玄武、西の山陰道が白虎、南の巨椋池が朱雀に対応していると考えられていました。

現代に残る信仰

京都の 清水寺 では、毎年「青龍会」という行事が行われています。

これは清水寺が京都の東に位置し、青龍が宿る場所とされていることに由来しています。境内には龍の像も置かれており、夜に門前の滝の水を飲みに来るという言い伝えが残っているんです。

また、神社仏閣の彫刻や、神社の手水舎(ちょうずや)などでも龍の姿をよく見かけますよね。これらも、水を司る龍への信仰が現代まで続いている証といえるでしょう。


青龍と「青春」の意外な関係

ところで、「青春」という言葉の由来をご存じですか?

実はこれ、青龍と深い関係があるんです。

五行説では、青(緑)は東と春に対応しています。そして東方を守護するのが青龍。ここから「青」と「春」が結びつき、人生の春にあたる若い時期を「青春」と呼ぶようになりました。

ちなみに、人生を四季に例える表現は他にもあります。

  • 青春:若年期(春・東・青龍)
  • 朱夏:壮年期(夏・南・朱雀)
  • 白秋:熟年期(秋・西・白虎)
  • 玄冬:老年期(冬・北・玄武)

日本の詩人・北原白秋の号も、この「白秋」から取られたものなんですよ。


まとめ

青龍は、中国神話に登場する四神のひとつで、東方を守護する神聖な龍です。

重要なポイント

  • 四神(青龍・朱雀・白虎・玄武)のなかで東の方角を担当
  • 「蒼龍」とも呼ばれ、春の季節と木の元素を象徴する
  • 五行説に基づき、青(緑)色で描かれることが多い
  • 二十八宿の東方七宿が龍の姿に見立てられた
  • 道教では「孟章神君」という名前で神格化されている
  • 日本にも伝来し、キトラ古墳や薬師寺に遺構が残る
  • 平安京など都市計画にも「四神相応」の考え方が取り入れられた
  • 「青春」という言葉の由来にもなっている

古代中国で生まれた青龍信仰は、朝鮮半島を経て日本に伝わり、私たちの文化に深く根づいています。神社の彫刻や、日常で使う言葉のなかにも、その名残を見つけることができるでしょう。

東の空から昇る朝日を見るとき、そこに青龍の姿を重ねてみるのも面白いかもしれませんね。

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