余因子展開を完全解説!行列式の計算方法をマスターしよう

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はじめに – 余因子展開って何?

余因子展開(よいんしてんかい、Cofactor Expansion)は、行列式を計算するための方法の一つです。別名「ラプラス展開(Laplace Expansion)」とも呼ばれます。

高校数学では2×2や3×3の行列式はサラスの公式で計算できますが、4×4以上の行列式にはサラスの公式は使えません。そこで登場するのが余因子展開です。

この記事では、線形代数を学び始めた大学生でも理解できるよう、余因子展開について基本から丁寧に解説していきます。

行列式の復習 – 2×2と3×3の場合

余因子展開を学ぶ前に、まず行列式の基本を復習しましょう。

2×2行列の行列式

2×2行列の行列式は、以下のように計算します:

$$
\begin{vmatrix}
a & b \
c & d
\end{vmatrix} = ad – bc
$$

例:

$$
\begin{vmatrix}
3 & 2 \
1 & 4
\end{vmatrix} = 3 \times 4 – 2 \times 1 = 12 – 2 = 10
$$

これはクロスして掛け算する、と覚えている人も多いでしょう。

3×3行列の行列式(サラスの公式)

3×3行列の行列式は、サラスの公式(Sarrus’ rule)で計算できます:

$$
\begin{vmatrix}
a_{11} & a_{12} & a_{13} \
a_{21} & a_{22} & a_{23} \
a_{31} & a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
$$

$$
= a_{11}a_{22}a_{33} + a_{12}a_{23}a_{31} + a_{13}a_{21}a_{32}
$$

$$

  • a_{13}a_{22}a_{31} – a_{11}a_{23}a_{32} – a_{12}a_{21}a_{33}
    $$

例:

$$
\begin{vmatrix}
1 & 2 & 3 \
0 & 4 & 5 \
1 & 0 & 6
\end{vmatrix}
$$

$$
= 1 \times 4 \times 6 + 2 \times 5 \times 1 + 3 \times 0 \times 0
$$

$$

  • 3 \times 4 \times 1 – 1 \times 5 \times 0 – 2 \times 0 \times 6
    $$

$$
= 24 + 10 + 0 – 12 – 0 – 0 = 22
$$

4×4以上はどうする?

問題:サラスの公式は3×3までしか使えません!

4×4以上の行列式を計算するには、余因子展開が必要になります。

余因子とは?- 定義と求め方

余因子展開を理解するには、まず「余因子」が何かを知る必要があります。

小行列式(マイナー)

まず、小行列式(しょうぎょうれつしき、Minor)を定義します。

定義:

$n$次正方行列$A$の$(i, j)$小行列式$M_{ij}$とは、$A$から第$i$行と第$j$列を取り除いた$(n-1)$次正方行列の行列式です。

例:

$$
A = \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \
4 & 5 & 6 \
7 & 8 & 9
\end{pmatrix}
$$

$(2, 3)$小行列式$M_{23}$を求めてみましょう。

手順:

  1. 第2行を取り除く → 1行目と3行目が残る
  2. 第3列を取り除く → 1列目と2列目が残る

$$
M_{23} = \begin{vmatrix}
1 & 2 \
7 & 8
\end{vmatrix} = 1 \times 8 – 2 \times 7 = 8 – 14 = -6
$$

余因子(Cofactor)

定義:

$n$次正方行列$A$の$(i, j)$余因子$A_{ij}$(または$\tilde{a}{ij}$、$C{ij}$とも表記)は:

$$
A_{ij} = (-1)^{i+j} M_{ij}
$$

つまり、小行列式に符号をつけたものが余因子です。

符号のルール:

$(-1)^{i+j}$の値は:

  • $i + j$が偶数なら:$+1$(プラス)
  • $i + j$が奇数なら:$-1$(マイナス)

符号のパターン

行列の各位置における符号は、以下のようなパターンになります:

3×3行列の場合:

$$
\begin{pmatrix}

  • & – & + \
  • & + & – \
  • & – & +
    \end{pmatrix}
    $$

4×4行列の場合:

$$
\begin{pmatrix}

  • & – & + & – \
  • & + & – & + \
  • & – & + & – \
  • & + & – & +
    \end{pmatrix}
    $$

チェス盤のような市松模様になっていますね。

余因子の計算例

先ほどの行列$A$の$(2, 3)$余因子$A_{23}$を求めてみましょう。

$$
A = \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \
4 & 5 & 6 \
7 & 8 & 9
\end{pmatrix}
$$

手順:

  1. $(2, 3)$小行列式を求める:$M_{23} = -6$(先ほど計算済み)
  2. 符号を決める:$(-1)^{2+3} = (-1)^5 = -1$
  3. 余因子を計算:$A_{23} = -1 \times (-6) = 6$

もう一つ例:

$(1, 1)$余因子$A_{11}$を求めます。

$$
M_{11} = \begin{vmatrix}
5 & 6 \
8 & 9
\end{vmatrix} = 5 \times 9 – 6 \times 8 = 45 – 48 = -3
$$

$$
A_{11} = (-1)^{1+1} M_{11} = 1 \times (-3) = -3
$$

余因子展開の公式 – 行列式を求める

いよいよ本題の余因子展開です。

第$i$行に沿った余因子展開

$n$次正方行列$A = (a_{ij})$の行列式$|A|$は、任意の行$i$について:

$$
|A| = a_{i1}A_{i1} + a_{i2}A_{i2} + \cdots + a_{in}A_{in} = \sum_{j=1}^{n} a_{ij}A_{ij}
$$

つまり:

  • ある行を選ぶ
  • その行の各成分に、対応する余因子を掛ける
  • すべて足し合わせる

第$j$列に沿った余因子展開

同様に、任意の列$j$についても:

$$
|A| = a_{1j}A_{1j} + a_{2j}A_{2j} + \cdots + a_{nj}A_{nj} = \sum_{i=1}^{n} a_{ij}A_{ij}
$$

重要:
どの行(または列)を選んでも、結果は同じになります!

余因子展開の手順

ステップ1:展開する行(または列)を選ぶ
ステップ2:その行(列)の各成分について余因子を計算
ステップ3:成分×余因子を計算してすべて足す

具体例で理解しよう – 3×3行列

例1:第1行に沿った展開

$$
A = \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \
4 & -2 & 3 \
2 & 5 & -1
\end{pmatrix}
$$

の行列式を第1行に沿って余因子展開します。

計算:

$$
|A| = a_{11}A_{11} + a_{12}A_{12} + a_{13}A_{13}
$$

$$
= 1 \cdot A_{11} + 2 \cdot A_{12} + 3 \cdot A_{13}
$$

$A_{11}$を計算:

$$
A_{11} = (-1)^{1+1} \begin{vmatrix}
-2 & 3 \
5 & -1
\end{vmatrix}
$$

$$
= 1 \times ((-2) \times (-1) – 3 \times 5)
$$

$$
= 1 \times (2 – 15) = -13
$$

$A_{12}$を計算:

$$
A_{12} = (-1)^{1+2} \begin{vmatrix}
4 & 3 \
2 & -1
\end{vmatrix}
$$

$$
= -1 \times (4 \times (-1) – 3 \times 2)
$$

$$
= -1 \times (-4 – 6) = -1 \times (-10) = 10
$$

$A_{13}$を計算:

$$
A_{13} = (-1)^{1+3} \begin{vmatrix}
4 & -2 \
2 & 5
\end{vmatrix}
$$

$$
= 1 \times (4 \times 5 – (-2) \times 2)
$$

$$
= 1 \times (20 + 4) = 24
$$

最終的な行列式:

$$
|A| = 1 \times (-13) + 2 \times 10 + 3 \times 24
$$

$$
= -13 + 20 + 72 = 79
$$

例2:第2列に沿った展開

同じ行列を第2列に沿って展開してみましょう。

$$
|A| = a_{12}A_{12} + a_{22}A_{22} + a_{32}A_{32}
$$

$$
= 2 \cdot A_{12} + (-2) \cdot A_{22} + 5 \cdot A_{32}
$$

$A_{12}$:すでに計算済み = 10

$A_{22}$を計算:

$$
A_{22} = (-1)^{2+2} \begin{vmatrix}
1 & 3 \
2 & -1
\end{vmatrix}
$$

$$
= 1 \times (1 \times (-1) – 3 \times 2)
$$

$$
= 1 \times (-1 – 6) = -7
$$

$A_{32}$を計算:

$$
A_{32} = (-1)^{3+2} \begin{vmatrix}
1 & 3 \
4 & 3
\end{vmatrix}
$$

$$
= -1 \times (1 \times 3 – 3 \times 4)
$$

$$
= -1 \times (3 – 12) = -1 \times (-9) = 9
$$

最終的な行列式:

$$
|A| = 2 \times 10 + (-2) \times (-7) + 5 \times 9
$$

$$
= 20 + 14 + 45 = 79
$$

結果が一致しました!

計算のコツ – 0の多い行・列を選ぶ

余因子展開は、0が多い行(または列)を選ぶと計算が劇的に楽になります。

なぜ楽になるの?

余因子展開の式を思い出してください:

$$
|A| = \sum_{j=1}^{n} a_{ij}A_{ij}
$$

もし$a_{ij} = 0$なら、その項は$0 \times A_{ij} = 0$となり、計算する必要がありません!

例3:0の多い行列

$$
B = \begin{pmatrix}
7 & 2 & 3 \
3 & 5 & -2 \
0 & 0 & 2
\end{pmatrix}
$$

第3行に注目!

第3行には0が2つもあります。この行で展開すると:

$$
|B| = a_{31}A_{31} + a_{32}A_{32} + a_{33}A_{33}
$$

$$
= 0 \cdot A_{31} + 0 \cdot A_{32} + 2 \cdot A_{33}
$$

$$
= 2 \cdot A_{33}
$$

$A_{33}$だけ計算すればOK!

$$
A_{33} = (-1)^{3+3} \begin{vmatrix}
7 & 2 \
3 & 5
\end{vmatrix}
$$

$$
= 1 \times (7 \times 5 – 2 \times 3)
$$

$$
= 1 \times (35 – 6) = 29
$$

したがって:

$$
|B| = 2 \times 29 = 58
$$

たった1つの余因子を計算するだけで終わりました!

4×4行列の計算例

余因子展開の真価は、4×4以上の行列で発揮されます。

例4:4×4行列

$$
C = \begin{pmatrix}
3 & 1 & 1 & 2 \
2 & 1 & 3 & 1 \
2 & 1 & 1 & 2 \
1 & 3 & 2 & 1
\end{pmatrix}
$$

第1行に沿って展開します:

$$
|C| = 3A_{11} – 1A_{12} + 1A_{13} – 2A_{14}
$$

(符号は$+, -, +, -$のパターン)

$A_{11}$を計算:

$$
A_{11} = (+1) \begin{vmatrix}
1 & 3 & 1 \
1 & 1 & 2 \
3 & 2 & 1
\end{vmatrix}
$$

この3×3行列式をサラスの公式で計算:

$$
= 1 \times 1 \times 1 + 3 \times 2 \times 3 + 1 \times 1 \times 2
$$

$$

  • 1 \times 1 \times 3 – 1 \times 2 \times 1 – 3 \times 1 \times 2
    $$

$$
= 1 + 18 + 2 – 3 – 2 – 6 = 10
$$

$A_{12}, A_{13}, A_{14}$も同様に計算します。

(計算過程は省略しますが、同じ手順で求められます)

最終的に:

$$
|C| = 3 \times 10 – 1 \times (\cdots) + 1 \times (\cdots) – 2 \times (\cdots)
$$

このように、4×4行列を4つの3×3行列の計算に帰着できます。

余因子行列 – 逆行列との深い関係

余因子展開は、逆行列を求める際にも重要な役割を果たします。

余因子行列の定義

定義:

$n$次正方行列$A$のすべての余因子$A_{ij}$を成分とする行列を作り、それを転置したものを余因子行列(よいんしぎょうれつ、Adjugate Matrix)といい、$\tilde{A}$と表します。

$$
\tilde{A} = (A_{ij})^T = (A_{ji})
$$

注意:

  • 余因子を$(i, j)$成分に配置した行列を作る
  • その転置を取る(行と列を入れ替える)

余因子行列の例

$$
A = \begin{pmatrix}
1 & -2 & -3 \
-1 & -3 & 0 \
1 & -1 & -4
\end{pmatrix}
$$

手順1:すべての余因子を計算

$$
A_{11} = \begin{vmatrix}
-3 & 0 \
-1 & -4
\end{vmatrix} = 12
$$

$$
A_{12} = -\begin{vmatrix}
-1 & 0 \
1 & -4
\end{vmatrix} = -4
$$

(他の余因子も同様に計算)

$$
\begin{pmatrix}
A_{11} & A_{12} & A_{13} \
A_{21} & A_{22} & A_{23} \
A_{31} & A_{32} & A_{33}
\end{pmatrix}
= \begin{pmatrix}
12 & -4 & 4 \
1 & -1 & -1 \
-9 & 3 & -5
\end{pmatrix}
$$

手順2:転置を取る

$$
\tilde{A} = \begin{pmatrix}
12 & 1 & -9 \
-4 & -1 & 3 \
4 & -1 & -5
\end{pmatrix}
$$

逆行列の公式

余因子行列を使うと、逆行列が求められます!

定理:

正則行列(逆行列が存在する行列)$A$に対して:

$$
A^{-1} = \frac{1}{\det A} \tilde{A}
$$

つまり:

  • 余因子行列を求める
  • 行列式$\det A$で割る
  • これが逆行列!

なぜこの公式が成り立つ?

余因子展開の性質から、以下が成り立ちます:

$$
A \tilde{A} = \tilde{A} A = (\det A) I
$$

($I$は単位行列)

両辺を$\det A$で割ると:

$$
A \cdot \frac{1}{\det A}\tilde{A} = I
$$

これはまさに逆行列の定義$AA^{-1} = I$ですね。

余因子展開の性質と定理

性質1:行と列の展開は同じ

どの行で展開しても、どの列で展開しても、結果は同じ行列式の値になります。

性質2:転置行列の行列式

$$
\det A = \det A^T
$$

転置しても行列式の値は変わりません。これは余因子展開から証明できます。

性質3:行列式の積の法則

$$
\det(AB) = \det A \cdot \det B
$$

2つの行列の積の行列式は、それぞれの行列式の積に等しい。

性質4:逆行列の行列式

$$
\det(A^{-1}) = \frac{1}{\det A}
$$

余因子展開を使わない方法 – 比較

余因子展開以外にも行列式を求める方法があります。

方法1:基本変形(掃き出し法)

行基本変形を使って上三角行列にする方法です。

メリット:

  • 大きな行列でも効率的
  • コンピュータ計算に適している

デメリット:

  • 手計算では面倒
  • 符号の管理が必要

方法2:定義に基づく計算

行列式の定義(置換の符号付き和)から直接計算する方法です。

デメリット:

  • $n!$個の項を計算する必要がある
  • 4×4で24項、5×5で120項!
  • 実用的ではない

余因子展開の位置づけ

余因子展開のメリット:

  • 理論的に重要
  • 逆行列の公式に使える
  • 0の多い行列では非常に効率的

デメリット:

  • 0が少ない大きな行列では計算量が多い
  • $n!$のオーダーで計算量が増える

練習問題

問題1:3×3行列

次の行列式を余因子展開で求めよ。

$$
\begin{vmatrix}
2 & 1 & 3 \
1 & -2 & -2 \
2 & -1 & -1
\end{vmatrix}
$$

ヒント:第1行に沿って展開してみましょう。

問題2:0の多い行列

次の行列式を最も効率的な方法で求めよ。

$$
\begin{vmatrix}
1 & 2 & 0 & 0 \
3 & 4 & 0 & 0 \
5 & 6 & 1 & 0 \
7 & 8 & 0 & 1
\end{vmatrix}
$$

ヒント:0の最も多い行または列を選びましょう。

問題3:余因子の計算

次の行列の$(2, 3)$余因子を求めよ。

$$
A = \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \
5 & 6 & 7 & 8 \
9 & 10 & 11 & 12 \
13 & 14 & 15 & 16
\end{pmatrix}
$$

まとめ – 余因子展開のエッセンス

余因子展開について、詳しく解説してきました。

重要ポイントのおさらい

1. 余因子の定義

$$
A_{ij} = (-1)^{i+j} M_{ij}
$$

  • $M_{ij}$:小行列式($i$行$j$列を取り除いた行列の行列式)
  • $(-1)^{i+j}$:符号(市松模様のパターン)

2. 余因子展開の公式

行展開:

$$
|A| = \sum_{j=1}^{n} a_{ij}A_{ij}
$$

列展開:

$$
|A| = \sum_{i=1}^{n} a_{ij}A_{ij}
$$

3. 計算のコツ

  • 0の多い行・列を選ぶ
  • どの行・列を選んでも結果は同じ
  • 4×4以上の行列では威力を発揮

4. 余因子行列と逆行列

$$
A^{-1} = \frac{1}{\det A} \tilde{A}
$$

余因子展開の使い道

理論的側面:

  • 行列式の性質の証明
  • 逆行列の公式
  • 線形代数の理論的基礎

実用的側面:

  • 4×4以上の行列式の計算
  • 0の多い行列の効率的計算
  • 逆行列の導出

さらに学ぶために

関連トピック:

  • 行列式の性質
  • 逆行列の求め方
  • 線形方程式の解法(クラメルの公式)
  • 固有値・固有ベクトル

練習のために:

  • 3×3行列で手を動かす
  • 4×4行列にチャレンジ
  • 0の配置を工夫した問題を解く

最後に:

余因子展開は、一見複雑に見えますが、実は規則的で機械的な計算方法です。

成功の秘訣:

  1. 小行列式と余因子の違いを理解する
  2. 符号のパターン(市松模様)を覚える
  3. 0の多い行・列を選ぶ習慣をつける
  4. 計算を丁寧に、段階的に進める

何度も練習して、余因子展開をマスターしましょう!

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