「単位元(たんいげん)」という言葉を聞いたことはありますか?
数学の授業で出てきたけど、よく分からなかった…という人も多いかもしれません。でも実は、単位元は私たちが普段から無意識に使っている、とても身近な数学の概念なんです。
例えば:
- 5 + 0 = 5(どんな数に0を足しても、元の数のまま)
- 7 × 1 = 7(どんな数に1をかけても、元の数のまま)
この「0」や「1」のように、計算しても相手を変えない特別な数を「単位元」と呼びます。
この記事では、単位元とは何か、なぜ重要なのか、どこで使われているのかを、高校生や大学生でも分かりやすいように解説します。数学が苦手な人でも大丈夫。一緒に単位元の世界を探検しましょう!
単位元とは?簡単に言うと

単位元を一言で説明すると:
「どんな数と計算しても、その数を変えない特別な数」
これだけです。シンプルですよね?
身近な例で理解しよう
例1:お金の計算
あなたが1,000円持っていて、友達から0円もらったとします。
1,000円 + 0円 = 1,000円
お金は増えも減りもしませんね。この「0」が足し算の単位元です。
例2:倍率の計算
あるゲームで、攻撃力が50のキャラクターに「1倍」のバフ(強化効果)をかけたとします。
50 × 1 = 50
攻撃力は変わりませんね。この「1」がかけ算の単位元です。
例3:もっと日常的な例
- 誰もいない部屋に誰も入ってこなければ、部屋は空のまま(0人 + 0人 = 0人)
- 100%の力で動いているものは、100%のままで力を出している(100% × 1 = 100%)
こうした「何もしない」「変えない」という性質を持つのが単位元なんです。
単位元の正式な定義
ここからは少し数学的になりますが、丁寧に説明しますね。
数学的な定義
集合(数の集まり)Sと、二項演算(2つの数を使う計算)*があるとき、
Sの中の要素eが単位元である
↓
すべてのSの要素aに対して、a * e = e * a = a が成り立つ
専門用語の説明
集合(しゅうごう)
数の集まりのこと。例えば、整数全体の集合、実数全体の集合など。
二項演算(にこうえんざん)
2つの数を使って計算する演算のこと。足し算、引き算、かけ算、割り算などが代表例。
要素(ようそ)
集合の中に含まれている個々の数やモノのこと。集合{1, 2, 3}なら、1、2、3がそれぞれ要素。
分かりやすく言い換えると
「集合Sの中で、ある演算*をするとき、どんな数aと計算しても、その数aをそのまま返してくれる特別な数e」
これが単位元です。
具体的な単位元の例
単位元は演算によって異なります。主な例を見てみましょう。
例1:足し算(加法)における単位元は「0」
整数、実数、複素数などすべての数で、
5 + 0 = 0 + 5 = 5
-10 + 0 = 0 + (-10) = -10
3.14 + 0 = 0 + 3.14 = 3.14
どんな数に0を足しても、元の数のまま。
だから、足し算の単位元は0です。
これを「加法単位元(かほうたんいげん)」または「零元(れいげん)」とも呼びます。
例2:かけ算(乗法)における単位元は「1」
正の数、実数、複素数など(0でない数)で、
7 × 1 = 1 × 7 = 7
-5 × 1 = 1 × (-5) = -5
2.5 × 1 = 1 × 2.5 = 2.5
どんな数に1をかけても、元の数のまま。
だから、かけ算の単位元は1です。
これを「乗法単位元(じょうほうたんいげん)」とも呼びます。
例3:行列のかけ算における単位元
線形代数を勉強したことがある人は知っているかもしれませんが、行列のかけ算にも単位元があります。
単位行列(たんいぎょうれつ)がそれです。
例えば、2×2の単位行列は:
I = [1 0]
[0 1]
どんな行列Aにこの単位行列Iをかけても、Aのまま変わりません。
例4:集合の演算における単位元
和集合(∪)の場合:
空集合 ∅ が単位元
A ∪ ∅ = A
例:{1, 2} ∪ { } = {1, 2}
積集合(∩)の場合:
全体集合 U が単位元
A ∩ U = A
例:{1, 2} ∩ {すべての整数} = {1, 2}
例5:論理演算における単位元
論理和(OR)の場合:
偽(False)が単位元
True OR False = True
False OR False = False
論理積(AND)の場合:
真(True)が単位元
True AND True = True
False AND True = False
単位元が存在しない例
すべての演算に単位元があるわけではありません。
例1:正の整数の足し算
正の整数の集合 {1, 2, 3, 4, …} で足し算を考えると、
1 + e = 1 を満たすeを探すと、e = 0 になります。
でも、0は正の整数ではないので、この集合には単位元が存在しません。
例2:偶数のかけ算
偶数の集合 {2, 4, 6, 8, …} でかけ算を考えると、
2 × e = 2 を満たすeを探すと、e = 1 になります。
でも、1は偶数ではないので、この集合には乗法の単位元が存在しません。
例3:ベクトルの外積
3次元ベクトルの外積(クロス積)には単位元がありません。
理由は、2つのベクトルの外積は必ず元のベクトルに垂直な方向を向くため、「元のベクトルをそのまま返す」ことができないからです。
左単位元と右単位元
演算の順序によって、単位元の定義を細かく分けることがあります。
左単位元(ひだりたんいげん)
e * a = a を満たすとき、eを左単位元と呼びます。
つまり、「左側から演算したときに、相手を変えない」という意味です。
右単位元(みぎたんいげん)
a * e = a を満たすとき、eを右単位元と呼びます。
つまり、「右側から演算したときに、相手を変えない」という意味です。
両側単位元(りょうがわたんいげん)
e * a = a * e = a を満たすとき、eを単位元(両側単位元)と呼びます。
普通の足し算やかけ算では、計算の順序を変えても結果が同じ(交換法則が成り立つ)ので、左単位元と右単位元は一致します。
でも、行列のかけ算のように順序が関係ある演算では、左右を区別することが重要です。
例:特殊な演算
集合 S = {a, b, c} で、演算 * を次のように定義します:
| * | a | b | c |
|---|---|---|---|
| a | a | a | a |
| b | b | b | c |
| c | c | c | c |
この場合:
- 左単位元:a(なぜなら、a * b = b、a * c = c)
- 右単位元:存在しない
このように、特殊な演算では左単位元と右単位元が異なることもあります。
単位元の重要な性質

性質1:単位元は唯一(ゆいいつ)
もし左単位元と右単位元の両方が存在すれば、それらは等しく、単位元はただ一つしか存在しません。
証明:
eを左単位元、fを右単位元とします。
e * f = f (eは左単位元なので)
e * f = e (fは右単位元なので)
よって、e = f
つまり、単位元が存在するなら、それは一意的(ただ一つ)です。
性質2:単位元は演算によって異なる
同じ集合でも、演算が違えば単位元も違います。
例えば、実数の集合では:
- 足し算の単位元:0
- かけ算の単位元:1
0 ≠ 1 なので、同じ集合でも単位元は演算ごとに異なります。
性質3:単位元の単位元は自分自身
単位元eの単位元は、e自身です。
なぜなら、e * e = e だから。
ちょっとトリッキーですが、数学では自然な性質です。
逆元(ぎゃくげん)との関係
単位元を理解したら、次は「逆元」という概念も知っておくと便利です。
逆元とは?
単位元eがあるとき、ある要素aに対して、
a * b = e
を満たすbを「aの逆元」と呼びます。
足し算の逆元
足し算の単位元は0なので、
a + b = 0
を満たすbがaの逆元です。
例えば、5の逆元は -5 です。
5 + (-5) = 0
かけ算の逆元
かけ算の単位元は1なので、
a × b = 1
を満たすbがaの逆元です。
例えば、3の逆元は 1/3 です。
3 × 1/3 = 1
重要な注意点
逆元を定義するには、まず単位元が必要です。
単位元がない演算では、逆元も定義できません。
単位元が重要な理由
なぜ単位元がこれほど重要なのでしょうか?
理由1:数学の構造を理解する基礎
単位元は、群(ぐん)、環(かん)、体(たい)といった代数構造を定義する際の基本要素です。
例えば、群の定義には:
- 閉性(演算の結果が集合の中に収まる)
- 結合法則((a*b)*c = a*(b*c))
- 単位元の存在
- 逆元の存在
この4つが必要です。単位元がなければ、群とは呼べません。
理由2:方程式を解くために必要
方程式 a * x = b を解くとき、単位元と逆元の概念が不可欠です。
例えば:
2x = 6
両辺に2の逆元(1/2)をかけると、
(1/2) × 2x = (1/2) × 6
1 × x = 3
x = 3
このように、単位元と逆元を使って方程式を解きます。
理由3:様々な数学分野で登場
単位元は、以下のような様々な分野で重要な役割を果たします:
- 線形代数(行列)
- 抽象代数(群論、環論)
- 論理学
- 集合論
- コンピュータサイエンス(プログラミングの初期値など)
プログラミングにおける単位元

実は、プログラミングでも単位元の考え方が使われています。
例1:配列の連結
空の配列 [] は、配列連結の単位元です。
[1, 2, 3] + [] = [1, 2, 3]
[] + [1, 2, 3] = [1, 2, 3]
例2:文字列の連結
空文字列 “” は、文字列連結の単位元です。
“Hello” + “” = “Hello”
“” + “World” = “World”
例3:関数の合成
恒等関数(入力をそのまま返す関数)は、関数合成の単位元です。
f(identity(x)) = f(x)
identity(f(x)) = f(x)
練習問題にチャレンジ!
問題1:基本問題
次の演算における単位元を答えなさい。
(1) 整数の足し算
(2) 実数のかけ算
(3) 論理積(AND)
(4) 集合の和集合(∪)
問題2:応用問題
自然数の集合 N = {1, 2, 3, 4, …} について、以下の演算に単位元は存在するか答えなさい。
(1) 足し算
(2) かけ算
問題3:発展問題
ある演算 * が次のように定義されています:
a * b = a + b – 1
この演算の単位元を求めなさい。
解答
問題1の解答:
(1) 0
(2) 1
(3) True(真)
(4) ∅(空集合)
問題2の解答:
(1) 存在しない(0は自然数ではないため)
(2) 存在する(1が単位元)
問題3の解答:
単位元をeとすると、
a * e = a
a + e – 1 = a
e = 1
確認:
a * 1 = a + 1 – 1 = a ✓
1 * a = 1 + a – 1 = a ✓
したがって、単位元は 1
よくある質問(FAQ)
Q1:単位元と零元は同じですか?
A:違います。
- 零元:足し算の単位元(0のこと)
- 単位元:一般的な演算における「変えない元」の総称
ただし、「零元」という言葉は「加法の単位元」を指す場合が多いです。
Q2:単位元は必ず数字ですか?
A:いいえ。単位元は数字とは限りません。
- 行列の単位元:単位行列
- 集合の単位元:空集合や全体集合
- 関数の単位元:恒等関数
など、演算によって様々なものが単位元になります。
Q3:単位元と逆元の違いは?
A:
- 単位元:どんな要素と演算しても、その要素を変えない特別な要素
- 逆元:ある要素と演算すると単位元になる要素
逆元を定義するには、まず単位元が必要です。
Q4:引き算や割り算の単位元は?
A:
- 引き算:厳密には定義されませんが、0を引いても数は変わらないので、0が単位元的に振る舞います
- 割り算:a ÷ e = a を満たすeは1ですが、e ÷ a = a を満たすeは存在しないので、両側単位元はありません
Q5:単位元が複数ある演算はありますか?
A:特殊な場合を除いて、両側単位元は必ず唯一です。
ただし、左単位元だけ、または右単位元だけを考えると、複数存在することもあります。
まとめ
単位元について、基本から応用まで解説しました。
単位元のポイント:
- 定義
- どんな要素と演算しても、その要素を変えない特別な要素
- a * e = e * a = a
- 主な例
- 足し算の単位元:0
- かけ算の単位元:1
- 行列のかけ算の単位元:単位行列
- 集合の和集合の単位元:空集合
- 重要な性質
- 単位元は唯一(存在すれば)
- 演算によって異なる
- 逆元を定義するために必要
- 応用
- 群、環、体などの代数構造の基礎
- 方程式を解くための道具
- プログラミングでの初期値の考え方
- 注意点
- すべての演算に単位元があるわけではない
- 左単位元と右単位元を区別する場合がある
単位元は、一見地味に見えますが、数学の様々な分野で重要な役割を果たしている概念です。
大学で抽象代数学を学ぶ時や、プログラミングで関数型プログラミングを学ぶ時など、単位元の理解は必ず役に立ちます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、「計算しても相手を変えない特別な数」という本質を押さえれば、意外とシンプルな概念です。
この記事を通じて、単位元の面白さや重要性が少しでも伝われば嬉しいです。頑張ってください!


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