ストークスの定理とは?渦と循環を結ぶ美しい数学の定理

数学

台風の渦、お風呂の排水口にできる渦、コーヒーカップをかき混ぜたときの渦――

私たちの身の回りには、さまざまな「渦」が存在します。こうした渦の性質を数学的に記述する上で、とても重要な役割を果たすのがストークスの定理です。

この定理は、物理学や工学の多くの分野で使われていて、特に電磁気学や流体力学では欠かせない道具になっています。

この記事では、ストークスの定理がどんなものなのか、わかりやすく解説していきます。

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ストークスの定理ってどんな定理?

ストークスの定理は、ベクトル解析における最も重要な定理の一つです。

19世紀のイギリスの物理学者、ジョージ・ガブリエル・ストークスの名前が付けられています。

簡単に言うと

「曲面全体での渦の総和は、その曲面の縁(へり)をぐるっと一周したときの循環と等しい」

これがストークスの定理の本質です。

数式で表すと

**∮_C *A·dr* = ∬_S (∇×A) · dS**

少し難しく見えますが、一つずつ見ていきましょう。

**左辺:∮_C *A·dr***

  • C:閉じた曲線(ループ)
  • A:ベクトル場(空間の各点でベクトルが定義されている)
  • ∮:一周して元に戻ってくる線積分(周回積分)
  • 曲面の境界線に沿った循環を表す

右辺:∬_S (∇×A) · dS****

  • S:Cを境界とする曲面
  • ∇×AAの回転(rot A または curl A とも書く)
  • ∬:面積分(曲面上での積分)
  • 曲面全体での渦の総和を表す

つまり、「外周に沿った循環 = 内部の渦の総和」という関係を表しているんです。

直感的なイメージで理解しよう

数式だけ見ると難しそうですが、イメージで考えると意外とわかりやすいんです。

小さな渦が集まって大きな渦に

ストークスの定理は、こんなイメージで捉えることができます。

  1. 曲面を細かい格子状に区切る
  2. 各小領域には小さな渦がある
  3. 隣り合う領域の境界では、渦の向きが逆になって打ち消し合う
  4. 結局、外周部分の回転だけが残る

これを図で表すと:

┌─→─┐─→─┐─→─┐
↑      ↓      ↓      ↓
└─←─┴─←─┴─←─┘

隣り合う部分では、境界で矢印が逆向きになって打ち消し合います。最終的に残るのは外周部分だけですね。

水の流れで考えると

プールに水を流して、全体が渦を巻いているとします。

  • 右辺(面積分):プール全体での水の回転の強さ
  • 左辺(線積分):プールの縁をぐるっと一周したときの水の流れ

ストークスの定理は、この2つが等しいと言っているんです。

回転(rot, curl)って何?

ストークスの定理を理解するには、回転(rotation、curl)という概念を知っておく必要があります。

回転の意味

ベクトル場の回転(rot A または ∇×A)は、「その点での渦の強さと向き」を表すベクトルです。

記号は:

  • **rot *A***(rotation の略)
  • ∇×A****(ナブラ クロス A)
  • **curl *A***(英語で「渦」という意味)

どれも同じものを指しています。

回転の計算式

3次元空間で、ベクトル場 A = (Ax, Ay, Az) の回転は:

∇×A** = (∂Az/∂y – ∂Ay/∂z, ∂Ax/∂z – ∂Az/∂x, ∂Ay/∂x – ∂Ax/∂y)**

各方向の偏微分を組み合わせたものです。

物理的な意味

回転がゼロでないベクトル場は、その点で「渦を巻いている」ということです。

例:天気図の低気圧

低気圧の中心では、風がぐるぐる回っています。この「回転の強さ」を数学的に表したものが、ベクトル場の回転なんです。

グリーンの定理との関係

ストークスの定理は、グリーンの定理を3次元に拡張したものと考えることができます。

グリーンの定理(2次元)

平面上の閉曲線Cとその内部の領域Dに対して:

**∮_C *A·dr* = ∬_D (∂Ay/∂x – ∂Ax/∂y) dA**

これは2次元版のストークスの定理と言えます。

ストークスの定理(3次元)

グリーンの定理を3次元に拡張したのがストークスの定理です。

平面だけでなく、曲がった曲面にも適用できるようになっています。

つながり

  • グリーンの定理:平面上の領域
  • ストークスの定理:3次元空間内の曲面

どちらも「境界での循環 = 内部の渦」という構造は同じです。

ストークスの定理の歴史

この定理には、面白い歴史的背景があります。

最初に発見したのは?

実は、ストークスではありませんでした

最初にこの定理を記述したのは、イギリスの物理学者ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿)です。

1850年7月2日、トムソンはストークス宛ての手紙の追伸で、この定理を書き記しました。

ストークスと試験問題

ストークスは1854年、ケンブリッジ大学のスミス賞の試験問題として、この定理を出題しました。

これが印刷された形で現れた最初の記録です。

興味深い受験生

この試験を受けた学生の中に、後に電磁気学で有名になるジェームズ・クラーク・マクスウェルがいました。マクスウェルはエドワード・ラウスと共にスミス賞を受賞しています。

名前の由来

なぜストークスの名前が付いたのかというと、ストークスがこの定理を試験問題として出題し、広く知られるようになったからです。

後にマクスウェルが自身の著作『電気磁気論』(1873年)の中でこの定理を紹介し、「ストークスの定理」として参考文献にストークスの試験問題を挙げました。

最初の証明

最初にストークスの定理の証明を与えたのは、ドイツの数学者ヘルマン・ハンケルです(1861年)。

より一般的な証明は、トムソン自身が1867年に出版した著作の中で与えています。

ストークスの定理の応用

ストークスの定理は、物理学や工学の多くの分野で使われています。

1. 電磁気学

マクスウェル方程式からアンペールの法則を導く

電磁気学では、ストークスの定理を使ってマクスウェル方程式からアンペールの法則を導くことができます。

アンペールの法則

閉曲線Cを流れる電流Iと、その周りの磁場Bの関係:

**∮_C *B·dl* = μ₀I**

これは、「電流の周りに磁場が発生する」という法則です。

導出

マクスウェル方程式の一つ:

∇×B** = μ₀j**

j は電流密度)

ストークスの定理を適用すると:

**∮_C *B·dl* = ∬_S (∇×B) · dS = ∬_S μ₀j · dS = μ₀I**

このように、ストークスの定理を使って、微分形のマクスウェル方程式から積分形のアンペールの法則が導けるんです。

ファラデーの電磁誘導の法則

同様に、ファラデーの法則も導くことができます。

磁場が時間変化すると、その周りに電場(起電力)が発生するという法則です。

2. 流体力学

循環と渦度

流体力学では、流体の「循環」と「渦度」を関係づけるのにストークスの定理が使われます。

  • 循環:流体の速度場を閉曲線に沿って線積分したもの
  • 渦度:速度場の回転(curl)

ストークスの定理により、「曲面内の渦度の総和 = 境界での循環」という関係が成り立ちます。

これは、竜巻や台風のような渦の構造を理解する上で重要です。

3. その他の応用

  • 複素解析:コーシーの積分定理との関連
  • 微分幾何学:多様体上の積分理論
  • コンピュータグラフィックス:ベクトル場の可視化

具体例で計算してみよう

実際にストークスの定理を使って計算してみましょう。

例題:単位円上での線積分

問題

xy平面上の単位円C(x² + y² = 1)を境界とする平面Sを考えます。

ベクトル場 A = (y, 2x, 0) に対して、ストークスの定理を使って以下を確認してください。

**∮_C *A·dr* = ∬_S (∇×A) · dS**

解答

ステップ1:左辺(線積分)を計算

単位円のパラメータ表示:

r(t) = (cos t, sin t, 0)、0 ≤ t ≤ 2π

dr/dt = (-sin t, cos t, 0)

A(r(t)) = (sin t, 2cos t, 0)

A · dr/dt = sin t × (-sin t) + 2cos t × cos t
= -sin²t + 2cos²t
= -sin²t + 2(1 – sin²t)
= 2 – 3sin²t

積分:

∮_C A·dr = ∫₀²π (2 – 3sin²t) dt

sin²t の積分は π なので:

= 2 × 2π – 3 × π = 4π – 3π = π

ステップ2:右辺(面積分)を計算

回転を計算:

∇×A = (∂Az/∂y – ∂Ay/∂z, ∂Ax/∂z – ∂Az/∂x, ∂Ay/∂x – ∂Ax/∂y)

A = (y, 2x, 0) なので:

  • ∂Az/∂y = 0
  • ∂Ay/∂z = 0
  • ∂Ax/∂z = 0
  • ∂Az/∂x = 0
  • ∂Ay/∂x = 2
  • ∂Ax/∂y = 1

∇×A = (0, 0, 2 – 1) = (0, 0, 1)

単位円の内部は平面なので、法線ベクトルは n = (0, 0, 1)

(∇×A) · n = 1

面積分:

∬_S (∇×A) · dS = ∬_S 1 dS = 単位円の面積 = π

結果

左辺 = π、右辺 = π

確かに一致しました!ストークスの定理が成り立っていますね。

ストークスの定理の限界

ストークスの定理は非常に強力ですが、いくつかの制限があります。

1. 曲面の滑らかさ

定理が適用できるのは、滑らか(区分的に滑らか)な曲面に限られます。

尖った点がたくさんある曲面や、フラクタル構造(コッホ曲線など)のような複雑な境界には適用できません。

2. 向き付け可能性

曲面は向き付け可能でなければなりません。

つまり、曲面全体にわたって一貫した法線ベクトルの向きを定義できる必要があります。

例:メビウスの輪

メビウスの輪は、向き付け不可能な曲面の有名な例です。この曲面にはストークスの定理を適用できません。

3. 境界の条件

境界Cは、閉じた単純曲線(自分自身と交わらない閉曲線)でなければなりません。

ベクトル解析の3大定理

ストークスの定理は、ベクトル解析における3つの重要な定理の一つです。

1. ガウスの発散定理

**∬_S *A·n* dS = ∭_V (∇·A) dV**

  • 閉曲面を通る流れ = 内部の源の総和

2. グリーンの定理(2次元)

**∮_C *A·dr* = ∬_D (∂Ay/∂x – ∂Ax/∂y) dA**

  • 境界での循環 = 内部の回転の総和(平面版)

3. ストークスの定理(3次元)

**∮_C *A·dr* = ∬_S (∇×A) · dS**

  • 境界での循環 = 内部の回転の総和(3次元版)

これら3つの定理は、微分積分学の基本定理を高次元に拡張したものと考えることができます。

まとめ

ストークスの定理は、渦と循環を結びつける美しい数学の定理です。

ストークスの定理の重要ポイント

  • 数式:∮_C A·dr = ∬_S (∇×A) · dS
  • 意味:境界での循環 = 内部の渦の総和
  • 直感的理解:小さな渦が集まると大きな渦になる

歴史

  • 最初の発見:ウィリアム・トムソン(1850年)
  • 試験問題として出題:ジョージ・ガブリエル・ストークス(1854年)
  • 受験者にマクスウェルがいた
  • 最初の証明:ヘルマン・ハンケル(1861年)

主な応用分野

  • 電磁気学:マクスウェル方程式、アンペールの法則、ファラデーの法則
  • 流体力学:循環と渦度の関係
  • 複素解析、微分幾何学

関連する定理

  • グリーンの定理(2次元版)
  • ガウスの発散定理(発散に関する定理)
  • 微分積分学の基本定理(1次元版)

ストークスの定理は、一見難しそうに見えますが、「外周の循環は、内部の渦を全部足したものと同じ」というシンプルなアイデアが本質です。

この定理のおかげで、複雑な面積分を簡単な線積分に変換したり、その逆を行ったりすることができます。

電磁気学や流体力学を学ぶ方にとって、ストークスの定理は必須の道具です。そして、自然界に存在する渦や循環という現象の背後にある数学的な美しさを教えてくれる、魅力的な定理でもあるんです。

数学と物理の世界を探求する旅の中で、ストークスの定理はきっと頼もしい仲間になってくれるでしょう。

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