サラスの公式とは?3次行列式の計算方法を図解でわかりやすく解説

数学

「3次行列の行列式を計算するのが面倒…」
「もっと簡単に計算できる方法はないの?」

そんな悩みを持つ方におすすめなのが、サラスの公式です。

サラスの公式は、3次行列の行列式を機械的に計算できる便利な方法で、線形代数を学ぶ大学生なら必ず知っておきたいテクニックです。この記事では、サラスの公式について、図解を交えながら分かりやすく解説していきます。

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サラスの公式とは?

基本情報

サラスの公式(Sarrus’ rule、サラスの方法、サラスの展開とも呼ばれます)は、2次および3次の正方行列の行列式を、視覚的・機械的に計算する方法です。

この公式は、フランスの数学者ピエール・フレデリック・サラス(Pierre Frédéric Sarrus、1798-1861)によって発見されました。

適用範囲

重要な注意点があります。

サラスの公式が使えるのは、2次と3次の行列のみ

4次以上の行列には適用できません。そのため、高次の行列式を計算する場合は、余因子展開などの他の方法を使う必要があります。

なぜ行列式を計算するのか?

行列式は、次のような場面で重要な役割を果たします。

  • 逆行列の存在判定:行列式が0でない ⇔ 逆行列が存在する
  • 連立方程式の解の判定:行列式が0 ⇔ 解が一意に定まらない
  • 面積・体積の計算:ベクトルが張る図形の面積や体積を求める
  • 線形写像の性質:変換による図形の拡大・縮小率を表す

2次行列のサラスの公式(たすき掛け)

まず、より簡単な2次行列から見ていきましょう。

公式

2次正方行列

$$A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \ a_{21} & a_{22} \end{pmatrix}$$

の行列式は、次のように計算できます。

$$\det(A) = |A| = a_{11}a_{22} – a_{12}a_{21}$$

計算方法のイメージ

    a₁₁  a₁₂
     ↘  ↙
    a₂₁  a₂₂
  • 左上から右下(↘方向)の積:$a_{11}a_{22}$をプラス
  • 右上から左下(↙方向)の積:$a_{12}a_{21}$をマイナス

これを「たすき掛け」と呼ぶこともあります。

具体例1

$$A = \begin{pmatrix} 2 & 3 \ 5 & 6 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めてみましょう。

$$|A| = 2 \times 6 – 3 \times 5 = 12 – 15 = -3$$

具体例2

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \ 3 & 4 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めます。

$$|A| = 1 \times 4 – 2 \times 3 = 4 – 6 = -2$$

具体例3:三角関数を含む行列

$$A = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}$$

の行列式を求めます。

$$|A| = \cos\theta \times \cos\theta – (-\sin\theta) \times \sin\theta$$
$$= \cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$$

この行列は回転行列で、行列式は常に1になります。

3次行列のサラスの公式

それでは、本題の3次行列のサラスの公式を見ていきましょう。

公式

3次正方行列

$$A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \ a_{21} & a_{22} & a_{23} \ a_{31} & a_{32} & a_{33} \end{pmatrix}$$

の行列式は、次のように計算できます。

$$\begin{aligned}
|A| &= a_{11}a_{22}a_{33} + a_{12}a_{23}a_{31} + a_{13}a_{21}a_{32} \
&\quad – a_{13}a_{22}a_{31} – a_{11}a_{23}a_{32} – a_{12}a_{21}a_{33}
\end{aligned}$$

計算方法の視覚的イメージ

サラスの公式を理解する最も簡単な方法は、行列の左右がつながっている(ドラクエやFFの世界地図のように円筒状)とイメージすることです。

手順

  1. 行列の右側に、左の2列を書き写す
  2. 左上から右下に向かう斜めの3成分の積を3つ作り、すべてプラスで足す
  3. 右上から左下に向かう斜めの3成分の積を3つ作り、すべてマイナスで引く

図解

行列を拡張:
    a₁₁  a₁₂  a₁₃ | a₁₁  a₁₂
    a₂₁  a₂₂  a₂₃ | a₂₁  a₂₂
    a₃₁  a₃₂  a₃₃ | a₃₁  a₃₂

プラス項(左上→右下):
    ↘①   ↘②   ↘③

① a₁₁ × a₂₂ × a₃₃
② a₁₂ × a₂₃ × a₃₁  
③ a₁₃ × a₂₁ × a₃₂

マイナス項(右上→左下):
    ↙④   ↙⑤   ↙⑥

④ a₁₃ × a₂₂ × a₃₁
⑤ a₁₁ × a₂₃ × a₃₂
⑥ a₁₂ × a₂₁ × a₃₃

行列式 = ① + ② + ③ – ④ – ⑤ – ⑥

3次行列の計算例

実際に数値を使って計算してみましょう。

例題1:基本的な計算

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \ 4 & 5 & 6 \ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。

解答

サラスの公式を適用します。

プラス項

  • ① $1 \times 5 \times 9 = 45$
  • ② $2 \times 6 \times 7 = 84$
  • ③ $3 \times 4 \times 8 = 96$

マイナス項

  • ④ $3 \times 5 \times 7 = 105$
  • ⑤ $1 \times 6 \times 8 = 48$
  • ⑥ $2 \times 4 \times 9 = 72$

$$\begin{aligned}
|A| &= (45 + 84 + 96) – (105 + 48 + 72) \
&= 225 – 225 \
&= 0
\end{aligned}$$

行列式が0なので、この行列の逆行列は存在しません。

例題2:負の数を含む計算

$$A = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \ 3 & 4 & -3 \ -2 & -1 & 0 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。

解答

プラス項

  • ① $0 \times 4 \times 0 = 0$
  • ② $1 \times (-3) \times (-2) = 6$
  • ③ $2 \times 3 \times (-1) = -6$

合計:$0 + 6 – 6 = 0$

マイナス項

  • ④ $2 \times 4 \times (-2) = -16$
  • ⑤ $0 \times (-3) \times (-1) = 0$
  • ⑥ $1 \times 3 \times 0 = 0$

合計:$-16 + 0 + 0 = -16$

$$|A| = 0 – (-16) = 16$$

例題3:文字を含む計算

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1 \ 3 & 4 & 0 \ 0 & 2 & 1 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。

解答

プラス項

  • ① $1 \times 4 \times 1 = 4$
  • ② $2 \times 0 \times 0 = 0$
  • ③ $1 \times 3 \times 2 = 6$

合計:$4 + 0 + 6 = 10$

マイナス項

  • ④ $1 \times 4 \times 0 = 0$
  • ⑤ $1 \times 0 \times 2 = 0$
  • ⑥ $2 \times 3 \times 1 = 6$

合計:$0 + 0 + 6 = 6$

$$|A| = 10 – 6 = 4$$

例題4:対称的な行列

$$B = \begin{pmatrix} a & b & c \ c & a & b \ b & c & a \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。

解答

プラス項

  • ① $a \times a \times a = a^3$
  • ② $b \times b \times b = b^3$
  • ③ $c \times c \times c = c^3$

合計:$a^3 + b^3 + c^3$

マイナス項

  • ④ $c \times a \times b = abc$
  • ⑤ $a \times b \times c = abc$
  • ⑥ $b \times c \times a = abc$

合計:$3abc$

$$|B| = a^3 + b^3 + c^3 – 3abc$$

因数分解すると:

$$|B| = (a + b + c)(a^2 + b^2 + c^2 – ab – bc – ca)$$

例題5:回転行列

$$A = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta & 0 \ \sin\theta & \cos\theta & 0 \ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。

解答

プラス項

  • ① $\cos\theta \times \cos\theta \times 1 = \cos^2\theta$
  • ② $(-\sin\theta) \times 0 \times 0 = 0$
  • ③ $0 \times \sin\theta \times 0 = 0$

合計:$\cos^2\theta$

マイナス項

  • ④ $0 \times \cos\theta \times 0 = 0$
  • ⑤ $\cos\theta \times 0 \times 0 = 0$
  • ⑥ $(-\sin\theta) \times \sin\theta \times 1 = -\sin^2\theta$

合計:$-\sin^2\theta$

$$|A| = \cos^2\theta – (-\sin^2\theta) = \cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$$

この3次元回転行列の行列式も1です。

サラスの公式が成り立つ理由

サラスの公式は、行列式の定義から導かれます。

行列式の定義

行列式は、置換(permutation)を使って定義されます。

3次行列の場合、各行から1つずつ成分を取り出して掛け合わせ、その置換の符号に応じてプラスまたはマイナスを付けて足し合わせます。

置換と符号

3次行列では、列の選び方は$3! = 6$通りあります。

選び方置換の偶奇符号
(1,2,3)$a_{11}a_{22}a_{33}$偶置換+
(2,3,1)$a_{12}a_{23}a_{31}$偶置換+
(3,1,2)$a_{13}a_{21}a_{32}$偶置換+
(3,2,1)$a_{13}a_{22}a_{31}$奇置換
(1,3,2)$a_{11}a_{23}a_{32}$奇置換
(2,1,3)$a_{12}a_{21}a_{33}$奇置換

これがサラスの公式の6つの項に対応しています。

サラスの公式を使うコツ

サラスの公式を効率的に使うためのコツを紹介します。

コツ1:拡張した行列を書く

計算ミスを防ぐために、行列の右側に左の2列を実際に書き写すことをおすすめします。

1  2  3 | 1  2
4  5  6 | 4  5
7  8  9 | 7  8

コツ2:0が多い場合は有利

0が多い行列では、計算がかなり楽になります。

例えば、上三角行列や下三角行列では:

$$\begin{vmatrix} a & b & c \ 0 & d & e \ 0 & 0 & f \end{vmatrix} = a \times d \times f$$

対角成分の積だけになります。

コツ3:符号の付け方を覚える

「左上から右下はプラス、右上から左下はマイナス」

このパターンを視覚的に覚えましょう。

コツ4:文字式の場合は因数分解

文字を含む行列式は、計算後に因数分解できることが多いです。

例:$a^3 + b^3 + c^3 – 3abc = (a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)$

コツ5:行列の性質を使う

計算する前に、行列の性質を使って簡単にできないか考えましょう。

  • 同じ行や列がある → 行列式は0
  • ある行が他の行の定数倍 → 行列式は0

4次以上の行列式はどうするか?

サラスの公式は3次までしか使えません。では、4次以上はどうするのでしょうか?

余因子展開

最も基本的な方法は、余因子展開(cofactor expansion)です。

4次行列

$$A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{pmatrix}$$

の行列式は、第1行で展開すると:

$$|A| = a_{11}|M_{11}| – a_{12}|M_{12}| + a_{13}|M_{13}| – a_{14}|M_{14}|$$

ここで$M_{ij}$は、第$i$行と第$j$列を除いた3次行列です。

この3次行列の行列式は、サラスの公式で計算できます。

行の基本変形

行の基本変形を使って、上三角行列や下三角行列に変形する方法も効率的です。

三角行列の行列式は対角成分の積になるので、計算が簡単です。

LU分解

より高度な方法として、LU分解を使う方法もあります。

サラスの公式の応用

サラスの公式は、様々な場面で応用できます。

応用1:四面体の体積

原点$O(0,0,0)$と3点$A(x_1, y_1, z_1)$、$B(x_2, y_2, z_2)$、$C(x_3, y_3, z_3)$で作られる四面体の体積は:

$$V = \frac{1}{6}\left|\begin{vmatrix} x_1 & y_1 & z_1 \ x_2 & y_2 & z_2 \ x_3 & y_3 & z_3 \end{vmatrix}\right|$$

サラスの公式を使えば、すばやく計算できます。

応用2:三角形の面積

原点$O(0,0)$と2点$A(x_1, y_1)$、$B(x_2, y_2)$で作られる三角形の面積は:

$$S = \frac{1}{2}\left|\begin{vmatrix} x_1 & y_1 \ x_2 & y_2 \end{vmatrix}\right|$$

2次のサラスの公式(たすき掛け)で計算できます。

応用3:ベクトルの外積

3次元空間のベクトル$\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$と$\vec{b} = (b_1, b_2, b_3)$の外積は:

$$\vec{a} \times \vec{b} = \begin{vmatrix} \vec{i} & \vec{j} & \vec{k} \ a_1 & a_2 & a_3 \ b_1 & b_2 & b_3 \end{vmatrix}$$

サラスの公式で展開すると:

$$\vec{a} \times \vec{b} = (a_2b_3 – a_3b_2)\vec{i} – (a_1b_3 – a_3b_1)\vec{j} + (a_1b_2 – a_2b_1)\vec{k}$$

応用4:固有値の計算

行列$A$の固有値$\lambda$は、特性方程式:

$$\det(A – \lambda I) = 0$$

を解いて求めます。3次行列の場合、サラスの公式で展開できます。

練習問題

理解を深めるため、いくつか練習問題を解いてみましょう。

問題1

$$A = \begin{pmatrix} 2 & 1 & 0 \ 1 & 2 & 1 \ 0 & 1 & 2 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。
解答を見る

プラス項

  • $2 \times 2 \times 2 = 8$
  • $1 \times 1 \times 0 = 0$
  • $0 \times 1 \times 1 = 0$

マイナス項

  • $0 \times 2 \times 0 = 0$
  • $2 \times 1 \times 1 = 2$
  • $1 \times 1 \times 2 = 2$

$$|A| = 8 – 4 = 4$$

問題2

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 4 & 2 \ -1 & 0 & 2 \ 3 & 1 & 0 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。
解答を見る

プラス項

  • $1 \times 0 \times 0 = 0$
  • $4 \times 2 \times 3 = 24$
  • $2 \times (-1) \times 1 = -2$

合計:$22$

マイナス項

  • $2 \times 0 \times 3 = 0$
  • $1 \times 2 \times 1 = 2$
  • $4 \times (-1) \times 0 = 0$

合計:$2$

$$|A| = 22 – 2 = 20$$

問題3

$$A = \begin{pmatrix} 6 & \sqrt{2} \ 2\sqrt{2} & 3 \end{pmatrix}$$

の行列式を求めよ。
解答を見る

$$|A| = 6 \times 3 – \sqrt{2} \times 2\sqrt{2} = 18 – 4 = 14$$

よくある質問

Q1: なぜ4次以上の行列にはサラスの公式が使えないのですか?

4次以上の行列では、置換の組み合わせが複雑になりすぎて、サラスの公式のような単純なパターンで表現できなくなります。

4次行列では$4! = 24$通り、5次では$5! = 120$通りの項があり、視覚的に覚えられる範囲を超えてしまいます。

Q2: サラスの公式と余因子展開、どちらを使うべきですか?

3次行列の場合:サラスの公式の方が速く計算できます。

4次以上の場合:余因子展開か行の基本変形を使います。

ただし、0が多い行列では、余因子展開の方が有利なこともあります。

Q3: 行列式が0になるのはどんな場合ですか?

次のような場合、行列式は0になります。

  • ある行(または列)がすべて0
  • ある2つの行(または列)が同じ
  • ある行が他の行の定数倍
  • 行(または列)が線形従属

Q4: 計算ミスを防ぐコツはありますか?

  • 拡張した行列を実際に書く
  • 符号(プラス・マイナス)に注意
  • プラス項とマイナス項を分けて計算
  • 0を含む項は早めに気づく
  • 計算後、別の方法で検算する

Q5: サラスの公式は大学入試で使えますか?

はい、使えます。特に:

  • 四面体の体積を求める問題
  • 固有値を求める問題
  • ベクトルの問題

などで威力を発揮します。ただし、きちんと手順を示すことが大切です。

まとめ

サラスの公式について、重要なポイントをまとめます。

基本事項

  • サラスの公式は2次・3次行列の行列式を計算する方法
  • フランスの数学者サラスに由来
  • 4次以上の行列には使えない

2次行列(たすき掛け)
$$\begin{vmatrix} a & b \ c & d \end{vmatrix} = ad – bc$$

3次行列

  • 左上→右下の3成分の積を3つプラス
  • 右上→左下の3成分の積を3つマイナス
  • 行列の左右がつながっているとイメージする

計算のコツ

  • 拡張した行列を書く
  • 0が多い場合は計算が楽
  • プラス項とマイナス項を分けて計算
  • 符号に注意

応用

  • 四面体・三角形の体積計算
  • ベクトルの外積
  • 固有値の計算

4次以上の行列

  • 余因子展開を使う
  • 行の基本変形で三角行列に変形
  • LU分解を利用

サラスの公式は、一度覚えてしまえば機械的に計算できる便利な方法です。練習問題を通じて、ぜひ使いこなせるようになってください。

線形代数の学習において、行列式の計算は基礎的ですが重要なスキルです。サラスの公式を活用して、効率よく計算できるようになりましょう!

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