「この曲線グラフの下の面積を求めなさい」
こんな問題、困りませんか?
四角形なら「縦×横」、三角形なら「底辺×高さ÷2」で簡単に面積が求まります。
でも、曲線で囲まれた部分の面積は…?
実は、19世紀のドイツの数学者リーマンが、この問題に画期的な答えを出しました。
「細長い短冊(たんざく)に分けて、全部足せばいいじゃないか!」
これがリーマン積分の基本アイデアです。
単純に聞こえますよね? でも、この「細かく分けて足す」という発想が、物理学から経済学まで、あらゆる分野で使われる強力な道具になったんです。
この記事では、リーマン積分とは何か、どんな仕組みなのか、そして実際にどう使われているのかを、数学が苦手な人でも分かるように解説していきます。
リーマン積分の基本:短冊で面積を近似する

リーマン積分の基本的な考え方
リーマン積分を一言で説明すると、こうなります。
リーマン積分とは: 「曲線の下の面積を、たくさんの細い長方形(短冊)で近似して求める方法」
イメージで理解:
- 曲線の下を細い短冊に分ける
- それぞれの短冊の面積を計算
- 全部足し合わせる
- 短冊を細くするほど正確になる
具体例: 山の形をしたグラフの面積を求めたい → 階段状に近似する → 階段の段数を増やすと山の形に近づく → 無限に細かくすると、ぴったり一致!
なぜ「リーマン」の名前がついているの?
この方法を厳密に定義したのがリーマンです。
ベルンハルト・リーマン(1826-1866):
- ドイツの天才数学者
- わずか39歳で亡くなった
- 積分の厳密な定義を確立
- リーマン予想でも有名
実は積分自体は:
- ニュートンとライプニッツが発明(17世紀)
- でも厳密な定義がなかった
- リーマンが数学的に完璧にした(19世紀)
だから「リーマン積分」と呼ばれます。
短冊の作り方:左端、右端、中点
短冊の高さをどこで決めるかで、3つの方法があります。
- 左端で高さを決める(左リーマン和)
- 各区間の左端の値を高さにする
- 増加関数なら過小評価
- 計算が簡単
- 右端で高さを決める(右リーマン和)
- 各区間の右端の値を高さにする
- 増加関数なら過大評価
- これも計算が簡単
- 中点で高さを決める(中点リーマン和)
- 各区間の中央の値を高さにする
- より正確な近似
- 少し計算が複雑
どの方法でも: 短冊を無限に細くすれば、同じ値に収束します。
この章のポイント:リーマン積分は「短冊の足し算」で面積を求める。
短冊を細くするほど正確。左端、右端、中点のどこで高さを取ってもOK。
具体例で理解:実際に計算してみよう
簡単な例:y = x の面積
まずは一番簡単な例から始めましょう。
問題: y = x(0 ≤ x ≤ 1)とx軸で囲まれた面積
これは直角三角形なので、答えは1/2と分かっています。
リーマン積分で確認してみましょう。
4分割で計算(短冊4本):
- 幅:1/4 = 0.25
- 左端の高さ:0, 0.25, 0.5, 0.75
- 各短冊の面積:0, 0.0625, 0.125, 0.1875
- 合計:0.375(過小評価)
8分割で計算(短冊8本):
- 幅:1/8 = 0.125
- 合計:0.4375(より正確に)
無限分割の極限: → 1/2(正確な値)
もう少し複雑:y = x² の面積
二次関数でも同じ方法が使えます。
問題: y = x²(0 ≤ x ≤ 1)とx軸で囲まれた面積
4分割での近似:
- 区間:[0, 0.25], [0.25, 0.5], [0.5, 0.75], [0.75, 1]
- 左端の高さ:0², 0.25², 0.5², 0.75²
- = 0, 0.0625, 0.25, 0.5625
- 各面積:0, 0.0156, 0.0625, 0.1406
- 合計:0.2188
正確な値: 1/3 ≈ 0.3333…
分割を増やすと:
- 10分割:0.285
- 100分割:0.3283
- 1000分割:0.3328 → 1/3 に近づく!
実用例:走行距離の計算
速度から距離を求める問題です。
状況: 速度が変化する車の走行距離を求めたい
- 0〜10秒:加速中(速度 = 2t m/s)
- 距離 = 速度の積分
1秒ごとに近似:
- 各1秒間を等速と仮定
- 0〜1秒:0 m/s → 0 m
- 1〜2秒:2 m/s → 2 m
- 2〜3秒:4 m/s → 4 m …
- 合計:90 m
正確な値(積分): 100 m
分割を細かくするほど正確になります。
この章のポイント:簡単な関数でも短冊で近似できる。分割数を増やすと正確になる。速度から距離など、実用的な計算にも使える。
リーマン積分の条件:すべての関数で使える?

リーマン可積分な関数
実は、すべての関数がリーマン積分できるわけではありません。
リーマン可積分の条件: 「有界閉区間で、不連続点が少ない関数」
もっと簡単に言うと:
- グラフが暴れすぎない
- 無限大に飛ばない
- プツプツ切れすぎない
可積分な関数の例:
- 連続関数(つながった曲線)
- 階段関数(有限個の段)
- 有限個の点で不連続
可積分でない関数の例:
- 無限個の点で不連続
- ディリクレ関数(有理数で1、無理数で0)
上積分と下積分
厳密な定義では、2つの積分を考えます。
上積分(じょうせきぶん):
- 各区間で最大値を高さにする
- 必ず過大評価
- 上からの近似
下積分(かせきぶん):
- 各区間で最小値を高さにする
- 必ず過小評価
- 下からの近似
リーマン可積分の条件: 上積分 = 下積分 となること
イメージ: 上と下から挟み撃ちにして、同じ値になれば積分可能!
不連続点があっても大丈夫?
少しなら問題ありません。
OKな例:
- 階段関数(段差があってもOK)
- 点でジャンプする関数
- 有限個の穴がある関数
NGな例:
- 至る所で不連続
- 振動が激しすぎる関数
実用上は: ほとんどの関数は積分可能なので、心配無用です。
この章のポイント:連続関数はリーマン積分可能。少しの不連続なら大丈夫。上と下から挟んで同じ値になれば積分できる。
実生活での応用:リーマン積分が活躍する場面

物理学での応用
物理現象の多くが積分で表されます。
仕事とエネルギー:
- 仕事 = 力 × 距離
- 力が変化する場合 → 積分
- W = ∫F(x)dx
電気料金の計算:
- 電力が変動する場合
- 消費電力量 = ∫電力(t)dt
- これを短冊で近似して計算
水の流量:
- 断面を通る水の速度が場所で違う
- 流量 = ∫速度(位置)d面積
- 実測では短冊状に分けて測定
経済学での応用
需要と供給の分析に使われます。
消費者余剰:
- 需要曲線の下の面積
- 「払ってもいい額」-「実際の価格」
- リーマン積分で計算
生産者余剰:
- 供給曲線の上の面積
- 「実際の価格」-「最低販売価格」
- これも積分で求める
GDP(国内総生産):
- 時間変化する生産量
- 年間GDP = ∫生産率dt
- 月次データから近似計算
コンピュータでの数値計算
実は、コンピュータはリーマン積分しかできません。
数値積分の方法:
- 台形則(台形で近似)
- シンプソン則(放物線で近似)
- すべてリーマン積分の発展形
画像処理:
- 画像の明るさの総和
- ヒストグラムの面積
- ピクセルごとの短冊
AI・機械学習:
- 損失関数の積分
- 確率密度関数の積分
- すべて短冊の足し算で計算
統計学での活用
確率や分布の計算に必須です。
正規分布:
- 釣鐘型の曲線
- ある範囲の確率 = 曲線下の面積
- 積分で計算
平均値の計算:
- 連続データの平均
- 平均 = ∫xf(x)dx / ∫f(x)dx
- 重み付き平均の一般化
この章のポイント:物理、経済、コンピュータ、統計…あらゆる分野で活躍。実際の計算はほぼすべてリーマン積分の考え方。
他の積分との違い:ルベーグ積分って何?
リーマン積分の限界
実は、リーマン積分には弱点があります。
苦手な関数:
- 不連続点が無限にある
- 激しく振動する
- 測度論的に複雑
例:ディリクレ関数
- 有理数で1、無理数で0
- リーマン積分不可能
- でも面積を定義したい…
ルベーグ積分の登場
20世紀に新しい積分が生まれました。
ルベーグ積分の考え方:
- リーマン:x軸方向に分割(縦切り)
- ルベーグ:y軸方向に分割(横切り)
たとえ話:
- リーマン:コインを場所ごとに集める
- ルベーグ:コインを金額ごとに分類
メリット:
- より多くの関数が積分可能
- 極限と積分の順序交換が楽
- 現代数学には必須
どっちを使えばいい?
用途によって使い分けます。
リーマン積分で十分な場合:
- 高校・大学初級の数学
- 物理や工学の基本計算
- 連続関数の積分
- 数値計算
ルベーグ積分が必要な場合:
- 測度論、確率論
- 関数解析
- 現代的な数学研究
実用的には: リーマン積分で99%の問題は解決します!
この章のポイント:リーマン積分で十分な場合がほとんど。ルベーグ積分は専門的な数学で必要。使い分けが大切。
まとめ:リーマン積分は「細かく分けて足す」シンプルな天才
ここまで、リーマン積分について詳しく見てきました。
重要ポイントの整理:
基本概念:
- 曲線下の面積を短冊で近似
- 短冊を細くすると正確になる
- 無限に細かくした極限が積分値
- 左端、右端、中点どこでもOK
- リーマンが厳密に定義
計算方法:
- 区間を n 等分
- 各短冊の面積 = 幅 × 高さ
- 全部足し合わせる
- n → ∞ の極限を取る
- これが定積分の値
積分可能な条件:
- 連続関数は必ず可能
- 有限個の不連続はOK
- 上積分 = 下積分なら可能
- ほとんどの実用関数は問題なし
実生活での応用:
- 物理:仕事、エネルギー、流量
- 経済:余剰、GDP、コスト
- 統計:確率、平均、分布
- コンピュータ:数値計算全般
- どこでも「短冊の足し算」
学習のアドバイス:
- まず図でイメージ
- 簡単な例で練習
- 分割数を変えて実験
- 実用例と結びつける
- 厳密さは後回しでOK
リーマン積分は、一見難しそうに見えますが、本質はとてもシンプルです。
「細かく分けて、足し合わせる」 これだけです。
この単純なアイデアが、なぜこんなに強力なのか? それは、複雑な形も、細かく見れば単純な長方形の集まりだから。
山の体積も、 川の流量も、 経済の動きも、 すべて「短冊の足し算」で理解できる。
リーマンの天才は、この直感的なアイデアを数学的に完璧にしたこと。 150年以上経った今でも、私たちはこの方法を使い続けています。
次に積分を見たら、思い出してください。 それは無数の短冊が織りなす、美しい数学の織物だということを!
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