数学を学んでいると、「連分数」という言葉に出会うことがあります。
連分数は、分母の中にさらに分数が含まれる、入れ子構造を持った特殊な分数です。一見複雑に見えますが、実は無理数を表現したり、最良の近似分数を見つけたりする上で非常に強力なツールなんです。
この記事では、連分数の基本的な定義から、有名な黄金比との関係、実用的な計算方法まで、わかりやすく解説していきます。
連分数とは?
連分数(れんぶんすう、英: continued fraction)とは、分母にさらに分数を含む、入れ子構造の分数のことです。
基本的な定義
最も一般的な連分数の形は次のようになります:
1
a₀ + --------
1
a₁ + ----
1
a₂ + ----
a₃ + ...
これを略記法で表すと:
または
a₀ + 1/(a₁ + 1/(a₂ + 1/(a₃ + …)))
単純連分数(正則連分数)
分子がすべて1である連分数を単純連分数または正則連分数(英: simple continued fraction, regular continued fraction)と呼びます。
単に「連分数」と言った場合、通常はこの単純連分数を指します。
一方、分子が1以外の数も含まれる場合は非正則連分数(irregular continued fraction)と呼ばれます。
用語の説明
- a₀, a₁, a₂, …:部分商(partial quotients)
- a₀:整数部分
- 有限連分数:有限回で終わる連分数
- 無限連分数:無限に続く連分数
連分数の具体例
理解を深めるために、いくつかの具体例を見ていきましょう。
例1: 簡単な有理数
まず、分数 22/7 を連分数で表してみましょう。
計算:
22 ÷ 7 = 3 余り 1
よって:
22/7 = 3 + 1/7
これは連分数で表すと:
[3; 7]
つまり:
22/7 = 3 + 1/7
例2: もう少し複雑な有理数
415/93 を連分数展開してみましょう。
ユークリッドの互除法を使って:
415 = 93 × 4 + 43
93 = 43 × 2 + 7
43 = 7 × 6 + 1
7 = 1 × 7 + 0
これを変形すると:
415/93 = 4 + 43/93
= 4 + 1/(93/43)
= 4 + 1/(2 + 7/43)
= 4 + 1/(2 + 1/(43/7))
= 4 + 1/(2 + 1/(6 + 1/7))
連分数表記:
[4; 2, 6, 7]
例3: √2(ルート2)
無理数√2の連分数展開は、非常に規則的なパターンになります:
√2 = [1; 2, 2, 2, 2, 2, …]
つまり:
√2 = 1 + 1/(2 + 1/(2 + 1/(2 + 1/(2 + …))))
例4: 黄金比φ(ファイ)
黄金比φ = (1 + √5)/2 は、最もシンプルな連分数表現を持ちます:
φ = [1; 1, 1, 1, 1, 1, …]
つまり:
φ = 1 + 1/(1 + 1/(1 + 1/(1 + 1/(1 + …))))
これは連分数として最も「美しい」形をしており、すべての部分商が1です。
有理数と無理数の連分数展開
連分数展開には、重要な性質があります。
定理:有理数と有限連分数
定理:
- 有理数の連分数展開は必ず有限で終わる
- 逆に、有限連分数は必ず有理数を表す
理由:
連分数展開は、ユークリッドの互除法と対応しています。ユークリッドの互除法は有理数に対しては有限回で終了するため、連分数展開も有限回で終わります。
無理数と無限連分数
定理:
- 無理数の連分数展開は必ず無限に続く
- 逆に、無限連分数は必ず無理数を表す
無理数は有理数ではないため、ユークリッドの互除法が無限に続き、連分数展開も無限になります。
循環連分数と二次無理数
定理(Lagrange):
ある数の連分数展開が周期的(循環する)であることと、その数が二次無理数(二次方程式の無理数解)であることは同値である。
例:
- √2 = [1; 2, 2, 2, …]は周期2の循環連分数
- √3 = [1; 1, 2, 1, 2, 1, 2, …]は周期(1, 2)の循環連分数
- √5 = [2; 4, 4, 4, …]は周期4の循環連分数
連分数展開の計算方法
実際に連分数展開を求める方法を見ていきましょう。
アルゴリズム
任意の実数xに対して、次のアルゴリズムで連分数展開を求められます:
ステップ1: x₀ = x とする
ステップ2: a₀ = ⌊x₀⌋ (x₀の整数部分)を求める
ステップ3: x₁ = 1/(x₀ – a₀) を計算
ステップ4: a₁ = ⌊x₁⌋ を求める
ステップ5: x₂ = 1/(x₁ – a₁) を計算
以下、同様に繰り返す。
具体例:πの連分数展開
πの連分数展開を最初の数項だけ計算してみましょう。
計算:
x₀ = π = 3.14159…
a₀ = ⌊3.14159…⌋ = 3
x₁ = 1/(π – 3) = 1/0.14159… = 7.06251…
a₁ = ⌊7.06251…⌋ = 7
x₂ = 1/(7.06251… – 7) = 1/0.06251… = 15.9965…
a₂ = ⌊15.9965…⌋ = 15
x₃ = 1/(15.9965… – 15) = 1/0.9965… = 1.0035…
a₃ = ⌊1.0035…⌋ = 1
よって:
π = [3; 7, 15, 1, …]
古代から知られる近似値22/7は、π = [3; 7]に対応します。
√2の連分数展開を求める
√2の連分数展開を実際に計算してみましょう。
計算:
x₀ = √2 = 1.41421…
a₀ = ⌊1.41421…⌋ = 1
x₁ = 1/(√2 – 1) = 1/(√2 – 1) × (√2 + 1)/(√2 + 1) = (√2 + 1)/(2 – 1) = √2 + 1 = 2.41421…
a₁ = ⌊2.41421…⌋ = 2
x₂ = 1/(√2 + 1 – 2) = 1/(√2 – 1) = √2 + 1 = 2.41421…
a₂ = 2
以降、x₂ = x₁なので、a₃ = a₄ = a₅ = … = 2
よって:
√2 = [1; 2, 2, 2, 2, …]
近似分数(収束項)
連分数を途中で打ち切ると、元の数の近似分数が得られます。これを近似分数または収束項(convergent)と呼びます。
近似分数の計算
連分数[a₀; a₁, a₂, …, aₙ]の第n近似分数をpₙ/qₙとすると、次の漸化式で計算できます:
分子の漸化式:
- p₋₁ = 1, p₀ = a₀
- pₙ = aₙpₙ₋₁ + pₙ₋₂ (n ≥ 1)
分母の漸化式:
- q₋₁ = 0, q₀ = 1
- qₙ = aₙqₙ₋₁ + qₙ₋₂ (n ≥ 1)
具体例:√2の近似分数
√2 = [1; 2, 2, 2, …]の近似分数を計算してみましょう。
計算表:
| n | aₙ | pₙ = aₙpₙ₋₁ + pₙ₋₂ | qₙ = aₙqₙ₋₁ + qₙ₋₂ | pₙ/qₙ | 誤差 |
|---|---|---|---|---|---|
| -1 | – | 1 | 0 | – | – |
| 0 | 1 | 1 | 1 | 1/1 = 1.000… | 0.414… |
| 1 | 2 | 2×1+1 = 3 | 2×1+0 = 2 | 3/2 = 1.500… | 0.086… |
| 2 | 2 | 2×3+1 = 7 | 2×2+1 = 5 | 7/5 = 1.400… | 0.014… |
| 3 | 2 | 2×7+3 = 17 | 2×5+2 = 12 | 17/12 = 1.41666… | 0.0024… |
| 4 | 2 | 2×17+7 = 41 | 2×12+5 = 29 | 41/29 = 1.41379… | 0.00041… |
誤差が急速に小さくなっていることがわかります。
黄金比と連分数
黄金比φは、連分数と深い関係があります。
黄金比の定義
黄金比φは、次の方程式を満たす正の数です:
φ² = φ + 1
これを変形すると:
φ = 1 + 1/φ
黄金比の連分数展開
φ = 1 + 1/φ の両辺のφに再帰的に代入していくと:
φ = 1 + 1/(1 + 1/φ)
= 1 + 1/(1 + 1/(1 + 1/φ))
= 1 + 1/(1 + 1/(1 + 1/(1 + …)))
よって:
φ = [1; 1, 1, 1, 1, …]
黄金比とフィボナッチ数列
黄金比の近似分数は、フィボナッチ数列と直接関係しています。
フィボナッチ数列: 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, …
(Fₙ = Fₙ₋₁ + Fₙ₋₂, F₁ = F₂ = 1)
黄金比φ = [1; 1, 1, 1, …]の近似分数を計算すると:
| n | pₙ | qₙ | pₙ/qₙ |
|---|---|---|---|
| 0 | 1 | 1 | 1/1 |
| 1 | 2 | 1 | 2/1 |
| 2 | 3 | 2 | 3/2 |
| 3 | 5 | 3 | 5/3 |
| 4 | 8 | 5 | 8/5 |
| 5 | 13 | 8 | 13/8 |
驚くべき事実:
- 分子pₙはフィボナッチ数列 {1, 2, 3, 5, 8, 13, …}
- 分母qₙもフィボナッチ数列 {1, 1, 2, 3, 5, 8, …}
つまり、フィボナッチ数列の隣接する項の比Fₙ₊₁/Fₙは、黄金比φに収束します!
黄金比の値
φ = (1 + √5)/2 = 1.6180339887…
連分数の重要な性質
連分数には、近似理論において非常に重要な性質があります。
最良近似
定理:
連分数の近似分数pₙ/qₙは、分母がqₙ以下のすべての分数の中で、元の数に最も近い分数である。
これを最良近似(best approximation)と呼びます。
例:
√2の第3近似分数17/12について:
分母が12以下の任意の分数a/b(b ≤ 12)に対して:
|√2 – 17/12| < |√2 – a/b|
が成り立ちます。
収束性
定理:
近似分数は交互に真の値に近づいていく。
- 偶数番目の近似分数は真の値より小さく、単調増加
- 奇数番目の近似分数は真の値より大きく、単調減少
例(√2の場合):
1/1 < 7/5 < 41/29 < … < √2 < … < 17/12 < 3/2
誤差の評価
第n近似分数pₙ/qₙと真の値xの誤差は:
1/(qₙ(qₙ + qₙ₊₁)) < |x – pₙ/qₙ| < 1/(qₙqₙ₊₁)
が成り立ちます。
連分数の応用
連分数は、理論だけでなく実用的な場面でも活躍します。
1. 近似値の計算
無理数を簡単な分数で近似したい場合、連分数の近似分数が最も効率的です。
例:πの近似
- π ≈ 3 = 3/1 (誤差: 0.14)
- π ≈ [3; 7] = 22/7 = 3.142857… (誤差: 0.0013)
- π ≈ [3; 7, 15] = 333/106 = 3.141509… (誤差: 0.000083)
- π ≈ [3; 7, 15, 1] = 355/113 = 3.14159292… (誤差: 0.00000027)
355/113は、分母が3桁でπの小数点以下6桁まで正確という驚異的な近似です!
2. 不定方程式の解法
連分数を使って、一次不定方程式ax + by = 1の解を求めることができます。
a/bの連分数展開の近似分数を用いると、解の候補が得られます。
3. 音楽の音階設計
楽器の音階設計において、完全五度の周波数比3:2をどう調律するかという問題で、連分数が使われます。
4. 天文学
惑星の公転周期の比を簡単な整数比で近似する際に、連分数が用いられます。
5. カレンダーの設計
1年が約365.2422日であることを、閏年の挿入ルールで近似する際、連分数の考え方が使われています。
365.2422… = [365; 4, 7, 1, 3, …]
第1近似: 365 + 1/4 → 4年に1回閏年(ユリウス暦)
第2近似: [365; 4, 7] → より正確な補正(グレゴリオ暦)
よくある質問(FAQ)
Q1: 連分数と普通の分数の違いは何ですか?
A: 普通の分数は「a/b」という形で、分子と分母が1つずつです。連分数は分母の中にさらに分数が含まれる入れ子構造を持ちます。ただし、有限連分数は通分すれば普通の分数に変換できます。
Q2: すべての数は連分数で表せますか?
A: はい。有理数は有限連分数、無理数は無限連分数で表せます。ただし、複素数は(実数係数の)連分数では表せません。
Q3: なぜ黄金比の連分数はすべて1なのですか?
A: 黄金比はφ = 1 + 1/φという性質を持つため、この式を再帰的に代入していくと、すべての部分商が1になります。これが黄金比を「最も無理数らしい数」にしている理由の一つです。
Q4: 連分数の計算は難しいですか?
A: 基本的な連分数展開の計算は、ユークリッドの互除法と同じくらいシンプルです。漸化式を使った近似分数の計算も、四則演算だけでできます。
Q5: πやeの連分数には規則性がありますか?
A: πの連分数には明確な規則性は見つかっていません。一方、eの連分数にはe = [2; 1, 2, 1, 1, 4, 1, 1, 6, 1, 1, 8, …]という美しいパターンがあります。
Q6: 連分数はいつ発見されましたか?
A: 連分数の概念は古代ギリシャから知られていましたが、体系的な理論は17世紀にホイヘンスやオイラーによって発展しました。現代的な形にまとめたのは19世紀のガウスやラグランジュです。
Q7: 循環連分数と循環小数の違いは?
A: 循環小数(0.333…や0.142857142857…)は有理数を表しますが、循環連分数は二次無理数(√2, √3など)を表します。どちらもパターンの繰り返しですが、表す数の種類が異なります。
まとめ
連分数は、一見複雑に見えますが、数の本質を深く理解するための強力なツールです。
この記事の要点:
- 連分数は分母に分数が含まれる入れ子構造の分数
- 有理数は有限連分数、無理数は無限連分数で表される
- 二次無理数の連分数は周期的(循環する)
- 連分数の近似分数は最良近似を与える
- 黄金比はφ = [1; 1, 1, 1, …]という最もシンプルな無限連分数
- 黄金比の近似分数はフィボナッチ数列の比になる
- πやeなど、様々な重要な定数が連分数で表現できる
- 実用的にも、近似計算や不定方程式の解法など多くの応用がある
連分数は、数論、近似理論、代数学など、数学の様々な分野で重要な役割を果たしています。
また、自然界に現れる黄金比やフィボナッチ数列との深い関係は、数学の美しさを示す好例と言えるでしょう。
この基礎知識を身につけることで、より高度な数学の理解へとつながっていきます!

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