数学や物理学を学んでいると、「収束半径」という言葉に出会うことがあります。特に複素解析や微分方程式の分野では欠かせない概念です。
でも、「収束半径って結局何なの?」と疑問に思ったことはありませんか?
この記事では、収束半径の定義から具体的な求め方、そして実際の応用まで、分かりやすく解説していきます。難しく感じるかもしれませんが、一つひとつ丁寧に見ていけば理解できますよ。
べき級数とは何か

収束半径を理解するには、まず「べき級数」を知っておく必要があります。
べき級数の定義
べき級数とは、変数のべき乗の無限和として表される関数です。数式で書くと次のようになります。
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n = a_0 + a_1(z-a) + a_2(z-a)^2 + a_3(z-a)^3 + \cdots$$
ここで、$a_n$ は級数の係数、$a$ は展開の中心と呼ばれる定数、$z$ は変数です。
変数 $z$ は実数でも複素数でも構いません。複素数の場合は複素平面上で考えることになります。
身近な例:等比級数
最もシンプルなべき級数は等比級数です。
$$1 + z + z^2 + z^3 + z^4 + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} z^n$$
この級数は $|z| < 1$ のとき収束して $\frac{1}{1-z}$ になりますが、$|z| \geq 1$ では発散します。
つまり、べき級数には「収束する範囲」と「発散する範囲」があるということです。
指数関数の級数表示
もう一つ重要な例は、指数関数のマクローリン展開です。
$$e^z = 1 + z + \frac{z^2}{2!} + \frac{z^3}{3!} + \frac{z^4}{4!} + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!}$$
この級数は、どんな複素数 $z$ に対しても収束します。つまり収束範囲が無限大なんですね。
収束半径の定義
べき級数が収束するかどうかは、変数 $z$ の値によって決まります。そこで登場するのが「収束半径」という概念です。
収束半径とは
べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n$ について、次の条件を満たす非負の実数 $R$($0 \leq R \leq \infty$)を収束半径といいます。
- $|z-a| < R$ のとき、級数は絶対収束する
- $|z-a| > R$ のとき、級数は発散する
収束半径が $R$ のとき、展開の中心 $a$ から半径 $R$ の円の内部では級数が収束し、外部では発散するということです。
収束円という概念
複素平面で考えると、$|z-a| = R$ は中心が $a$ で半径が $R$ の円を表します。この円を「収束円」と呼びます。
収束円の内側では級数が収束し、外側では発散する。だから「収束半径」という名前なんです。
特殊なケース
収束半径には3つのパターンがあります。
- $R = 0$:$z = a$ のときだけ収束(それ以外はすべて発散)
- $0 < R < \infty$:半径 $R$ の円内で収束
- $R = \infty$:すべての $z$ で収束
たとえば、$\sum_{n=0}^{\infty} n! z^n$ は $R = 0$、等比級数は $R = 1$、指数関数の級数は $R = \infty$ です。
収束円の境界ではどうなるか
$|z-a| = R$、つまり収束円のちょうど境界上ではどうなるのでしょうか?
実は、境界上での挙動は一般には決まりません。収束することも発散することもあります。
具体例で見てみましょう
収束半径が $R = 1$ のべき級数で、境界上の挙動が異なる3つの例を紹介します。
例1:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{z^n}{n}$
- $|z| = 1$ で $z = 1$ のとき:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n}$(調和級数)→発散
- $|z| = 1$ で $z = -1$ のとき:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^n}{n}$(交代調和級数)→収束
例2:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{z^n}{n^2}$
- $|z| = 1$ のとき:どの点でも収束
例3:$\sum_{n=0}^{\infty} z^n$(等比級数)
- $|z| = 1$ のとき:どの点でも発散
このように、収束半径だけでは境界上の挙動は分かりません。境界上の各点について個別に調べる必要があります。
収束半径の求め方

では、具体的にどうやって収束半径を求めるのでしょうか?主に2つの方法があります。
ダランベールの判定法(係数比判定法)
最もよく使われる方法です。級数の隣り合う項の比の極限を考えます。
公式
べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n$ について、極限
$$L = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right|$$
が存在するとき、収束半径は
$$R = \frac{1}{L}$$
となります。
ただし、$L = 0$ のときは $R = \infty$、$L = \infty$ のときは $R = 0$ と約束します。
なぜこの公式が成り立つか
比の判定法(ダランベールの判定法)を思い出してください。級数が収束する条件は
$$\lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}(z-a)^{n+1}}{a_n(z-a)^n} \right| = L|z-a| < 1$$
です。これを変形すると $|z-a| < 1/L$ となり、$R = 1/L$ が導かれます。
コーシー・アダマールの公式
もう一つの重要な方法です。こちらは係数のn乗根を使います。
公式
べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n$ について、
$$C = \limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}$$
とおくと、収束半径は
$$R = \frac{1}{C}$$
となります。
ここで $\limsup$ は上極限を表します。上極限とは、数列が振動している場合に考えられる極限値のうち最大のものです。
どちらの方法を使うべきか
一般的には、ダランベールの判定法のほうが計算しやすいです。ただし、係数の比 $a_{n+1}/a_n$ の極限が存在しない場合は、コーシー・アダマールの公式を使う必要があります。
コーシー・アダマールの公式は、より一般的で常に適用できる方法ですが、計算がやや複雑になることがあります。
具体例で理解を深めよう
実際にいくつかの例で収束半径を求めてみましょう。
例1:$\sum_{n=1}^{\infty} n^2 z^n$
係数は $a_n = n^2$ です。ダランベールの判定法を使います。
$$L = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = \lim_{n \to \infty} \frac{(n+1)^2}{n^2} = \lim_{n \to \infty} \left(1 + \frac{1}{n}\right)^2 = 1$$
したがって、収束半径は $R = 1/L = 1$ です。
例2:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{z^n}{n}$
係数は $a_n = 1/n$ です。
$$L = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{1/(n+1)}{1/n} \right| = \lim_{n \to \infty} \frac{n}{n+1} = 1$$
収束半径は $R = 1$ です。
例3:$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(n!)^2}{(2n)!} z^n$
係数は $a_n = \frac{(n!)^2}{(2n)!}$ です。
$$L = \lim_{n \to \infty} \frac{((n+1)!)^2/(2(n+1))!}{(n!)^2/(2n)!} = \lim_{n \to \infty} \frac{(n+1)^2}{(2n+2)(2n+1)} = \frac{1}{4}$$
収束半径は $R = 4$ です。
例4:$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!}$(指数関数)
係数は $a_n = 1/n!$ です。
$$L = \lim_{n \to \infty} \frac{1/(n+1)!}{1/n!} = \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n+1} = 0$$
$L = 0$ なので、収束半径は $R = \infty$ です。つまり、すべての複素数で収束します。
例5:$\sum_{n=0}^{\infty} n! z^n$
係数は $a_n = n!$ です。
$$L = \lim_{n \to \infty} \frac{(n+1)!}{n!} = \lim_{n \to \infty} (n+1) = \infty$$
$L = \infty$ なので、収束半径は $R = 0$ です。$z = 0$ でしか収束しません。
テイラー展開と収束半径の関係
関数のテイラー展開を考えるとき、収束半径は重要な役割を果たします。
テイラー級数の収束半径
関数 $f(z)$ を点 $a$ の周りでテイラー展開すると、
$$f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n$$
となります。
複素関数の場合、この級数の収束半径は「点 $a$ から最も近い特異点までの距離」に等しいことが知られています。
特異点とは、関数が微分できない点や、値が定義されない点のことです。
具体例:有理関数
関数 $f(z) = \frac{1}{1-z}$ を考えましょう。この関数の $z = 0$ 周りのテイラー展開は
$$\frac{1}{1-z} = 1 + z + z^2 + z^3 + \cdots$$
です。
この関数の特異点は $z = 1$(ここで分母が0になる)だけです。原点からの距離は $|1-0| = 1$ なので、収束半径は $R = 1$ です。
実際、等比級数として $|z| < 1$ で収束することが分かります。
収束半径の実用的な意味
収束半径を知ることには、どんな意味があるのでしょうか?
近似計算の有効範囲
工学や物理学では、複雑な関数をべき級数で近似することがよくあります。このとき、収束半径は「その近似がどこまで有効か」を教えてくれます。
例えば、$\sin(x)$ や $\cos(x)$ のマクローリン展開は収束半径が無限大なので、どんな値でも級数展開で計算できます。
一方、$\ln(1+x)$ の展開は収束半径が1なので、$|x| \geq 1$ では使えません。
微分方程式の解の範囲
微分方程式をべき級数の方法で解くとき、収束半径は解が有効な範囲を決定します。
物理現象をモデル化した微分方程式を解く際、その解がどこまで物理的に意味のある範囲なのかを知ることは重要です。
複素関数論での重要性
複素関数論では、正則関数(どこでも微分可能な関数)は局所的にべき級数で表せます。収束半径は、その表現が有効な領域を示します。
また、特異点の位置を調べることで、関数の性質を理解する手がかりになります。
収束半径に関する重要な定理
べき級数の収束について、いくつか重要な性質があります。
一様収束性
収束半径が $R$ のべき級数は、$|z-a| \leq r < R$ を満たす任意の $r$ について、その円内で一様収束します。
一様収束とは、収束の速さが領域全体で一定の評価を持つという、通常の収束より強い性質です。
項別微分・積分の可能性
収束円の内部では、べき級数を項別に微分したり積分したりできます。
しかも、微分後の級数や積分後の級数も、元の級数と同じ収束半径を持ちます。
$$\frac{d}{dz}\sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n = \sum_{n=1}^{\infty} n a_n (z-a)^{n-1}$$
$$\int \sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n dz = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{a_n}{n+1} (z-a)^{n+1} + C$$
これは、べき級数が「良い性質」を持っていることを示しています。
解析関数との関係
収束半径が正のべき級数は、収束円の内部で解析関数を定義します。解析関数とは、局所的にべき級数で表せる関数のことです。
逆に、複素関数が解析的であれば、任意の点の周りでべき級数展開できます。
まとめ:収束半径を理解することの重要性
収束半径は、べき級数の収束範囲を決める基本的な量です。
この記事のポイント
- 収束半径 $R$ は、べき級数が収束する円の半径を表す
- $|z-a| < R$ で絶対収束、$|z-a| > R$ で発散
- 収束円の境界 $|z-a| = R$ では、収束・発散の両方がありえる
- ダランベールの判定法やコーシー・アダマールの公式で求められる
- テイラー展開の収束半径は、最も近い特異点までの距離に等しい
応用分野
収束半径の概念は、次のような分野で活用されています。
- 複素解析:解析関数の性質を調べる
- 微分方程式:べき級数法による解の構成
- 数値計算:関数の近似計算の有効範囲の判定
- 信号処理:ラプラス変換やフーリエ級数の収束性
- 量子力学:摂動論における級数展開の有効性
収束半径を正しく理解することで、べき級数をより効果的に使いこなせるようになります。数学や物理、工学の多くの問題で、この知識は大いに役立つでしょう。


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