「a² + b² = c²」という式を見たことはありませんか?
これは、数学の歴史の中でも最も有名な定理の一つ、ピタゴラスの定理です。直角三角形の辺の長さを求めるときに使う、とても便利な公式なんです。
でも「どうしてこの式が成り立つの?」「いつ使えばいいの?」と疑問に思う人も多いはずです。この記事では、ピタゴラスの定理の基本から証明、実践的な使い方まで、分かりやすく解説していきます!
ピタゴラスの定理とは?【基本の公式】

定理の内容
ピタゴラスの定理は、直角三角形の3つの辺の長さの関係を表す定理です。日本では三平方の定理とも呼ばれます。
公式:
a² + b² = c²
a、b:直角を挟む2つの辺の長さ
c:斜辺(直角の向かい側の辺)の長さ
言葉で表すと:
「直角三角形において、直角を挟む2辺の長さをそれぞれ2乗して足すと、斜辺の長さの2乗に等しい」
図で理解する
直角三角形があったとき:
|\
a | \ c (斜辺)
| \
|___\
b
この三角形で、a² + b² = c²が成り立ちます。
ピタゴラスとは?
ピタゴラス(Pythagoras)は、紀元前6世紀頃の古代ギリシャの数学者・哲学者です。
この定理は、彼やその弟子たちによって証明されたと言われています。実は、この定理自体はピタゴラス以前から知られていたという説もありますが、厳密な証明を与えたのがピタゴラスだとされています。
ピタゴラスの定理の使い方【基本計算】
斜辺の長さを求める
直角を挟む2辺の長さが分かっているとき、斜辺の長さを求められます。
例題1:
a = 3、b = 4の直角三角形の斜辺cの長さを求めなさい。
解き方:
a² + b² = c²
3² + 4² = c²
9 + 16 = c²
25 = c²
c = 5
答え: 5
他の辺の長さを求める
斜辺と1つの辺が分かっているとき、もう1つの辺の長さを求められます。
例題2:
c = 10、a = 6の直角三角形の辺bの長さを求めなさい。
解き方:
a² + b² = c²
6² + b² = 10²
36 + b² = 100
b² = 64
b = 8
答え: 8
公式の変形:
斜辺以外を求めるときは、公式を変形します。
b² = c² - a²
a² = c² - b²
注意点:負の解は考えない
b² = 64を解くと、数学的にはb = ±8ですが、長さは正の数なので、b = 8だけが答えになります。
有名なピタゴラス数
a² + b² = c²を満たす整数の組をピタゴラス数(ピタゴラスの三つ組)といいます。
よく使われるピタゴラス数
3-4-5
3² + 4² = 5²
9 + 16 = 25
5-12-13
5² + 12² = 13²
25 + 144 = 169
8-15-17
8² + 15² = 17²
64 + 225 = 289
7-24-25
7² + 24² = 25²
49 + 576 = 625
9-40-41
9² + 40² = 41²
81 + 1600 = 1681
ピタゴラス数の倍数
ピタゴラス数を何倍かした組も、ピタゴラス数になります。
例:
3-4-5の2倍:6-8-10
6² + 8² = 10²
36 + 64 = 100
3-4-5の3倍:9-12-15
9² + 12² = 15²
81 + 144 = 225
ピタゴラス数を覚えるメリット
有名なピタゴラス数を覚えておくと、計算が速くなります。「この組み合わせは見たことがある!」と気づけば、すぐに答えが分かります。
ピタゴラスの定理の証明
この定理が正しいことを、いくつかの方法で証明できます。
証明1:正方形を使った証明
これは最も有名な証明方法の一つです。
手順:
1辺がa + bの正方形を2通りの方法で考えます。
方法1:大きな正方形として
面積 = (a + b)²
方法2:中央の正方形+4つの三角形として
中央の正方形の面積:c²
4つの直角三角形の面積:4 × (ab/2) = 2ab
合計 = c² + 2ab
2つを等しいとおく:
(a + b)² = c² + 2ab
a² + 2ab + b² = c² + 2ab
a² + b² = c²
証明できました!
証明2:相似を使った証明
直角三角形を、斜辺から垂線を引いて2つに分けます。
この2つの小さな三角形は、どちらも元の三角形と相似になります。相似比を使って計算すると、a² + b² = c²が導けます。
他にもたくさんの証明
ピタゴラスの定理には、400以上もの異なる証明方法があると言われています。数学史上、最も多くの証明が考えられた定理の一つです。
ピタゴラスの定理の応用

応用1:対角線の長さ
問題:
縦3cm、横4cmの長方形の対角線の長さを求めなさい。
解き方:
対角線は直角三角形の斜辺になります。
c² = 3² + 4²
c² = 9 + 16
c² = 25
c = 5 (cm)
答え: 5cm
応用2:正方形の対角線
問題:
1辺が10cmの正方形の対角線の長さを求めなさい。
解き方:
c² = 10² + 10²
c² = 100 + 100
c² = 200
c = √200 = 10√2 (cm)
答え: 10√2 cm(約14.14cm)
応用3:立体図形での使用
直方体の対角線の長さを求めるときにも使えます。
問題:
縦3cm、横4cm、高さ12cmの直方体の対角線の長さを求めなさい。
解き方:
まず底面の対角線を求めます。
d² = 3² + 4² = 25
d = 5
次に、この対角線と高さで直角三角形を作ります。
c² = 5² + 12²
c² = 25 + 144
c² = 169
c = 13 (cm)
答え: 13cm
応用4:座標平面での距離
2点間の距離もピタゴラスの定理で求められます。
問題:
座標平面上の2点A(1, 2)とB(4, 6)の距離を求めなさい。
解き方:
横の距離:4 – 1 = 3
縦の距離:6 – 2 = 4
距離² = 3² + 4²
距離² = 9 + 16
距離² = 25
距離 = 5
答え: 5
ピタゴラスの定理が使えない場合
直角三角形でない場合
ピタゴラスの定理は、直角三角形でのみ成り立ちます。
普通の三角形では、別の公式(余弦定理)を使います。
直角の確認
三角形が直角かどうか分からないとき、ピタゴラスの定理の逆を使って確認できます。
ピタゴラスの定理の逆:
3つの辺の長さa、b、cについて、a² + b² = c²が成り立つならば、その三角形は直角三角形である。
例:
辺の長さが5、12、13の三角形は直角三角形か?
確認:
5² + 12² = 25 + 144 = 169 = 13²
成り立つので、直角三角形です!
3次元への拡張
ピタゴラスの定理は3次元空間にも拡張できます。
直方体の対角線
直方体の辺の長さをa、b、c、対角線の長さをdとすると:
d² = a² + b² + c²
3次元座標での距離
3次元空間の2点P(x₁, y₁, z₁)とQ(x₂, y₂, z₂)の距離は:
距離² = (x₂ - x₁)² + (y₂ - y₁)² + (z₂ - z₁)²
実践問題で理解を深めよう
問題1:基本問題
直角三角形の2辺がa = 5、b = 12のとき、斜辺cの長さを求めなさい。
解答:
c² = 5² + 12²
c² = 25 + 144
c² = 169
c = 13
答え: 13
問題2:他の辺を求める
直角三角形の斜辺c = 17、1辺a = 8のとき、もう1辺bの長さを求めなさい。
解答:
8² + b² = 17²
64 + b² = 289
b² = 225
b = 15
答え: 15
問題3:平方根を含む答え
直角三角形の2辺がa = 2、b = 3のとき、斜辺cの長さを求めなさい。
解答:
c² = 2² + 3²
c² = 4 + 9
c² = 13
c = √13
答え: √13(約3.61)
問題4:正方形の対角線
1辺が6cmの正方形の対角線の長さを求めなさい。
解答:
c² = 6² + 6²
c² = 36 + 36
c² = 72
c = √72 = 6√2 (cm)
答え: 6√2 cm
問題5:立方体の対角線
1辺が3cmの立方体の対角線の長さを求めなさい。
解答:
d² = 3² + 3² + 3²
d² = 9 + 9 + 9
d² = 27
d = √27 = 3√3 (cm)
答え: 3√3 cm
ピタゴラスの定理にまつわる話
古代文明での使用
ピタゴラスの定理は、紀元前2000年頃の古代バビロニアや古代エジプトでもすでに知られていました。
エジプト人は、3-4-5の比率のロープを使って直角を作り、建築に利用していたと言われています。
ピタゴラス教団
ピタゴラスは数学者であると同時に、哲学者でもありました。彼は「万物は数である」と考え、数の神秘性を研究する集団を作りました。
この教団では、数学の発見は秘密とされ、外部に漏らすことが禁じられていたそうです。
無理数の発見
ピタゴラスの定理から、√2のような無理数が発見されました。
1辺が1の正方形の対角線は√2ですが、これは整数の比で表せないことが分かりました。この発見は、当時の数学界に大きな衝撃を与えたと言われています。
ピタゴラスの定理を覚えるコツ
視覚的に覚える
正方形を使った証明を図で見ると、定理の意味が直感的に理解できます。
有名な数の組を覚える
3-4-5、5-12-13などの有名なピタゴラス数を覚えておくと便利です。
実際に計算する
たくさんの問題を解いて、使い方に慣れることが大切です。
日常で探す
テレビ画面のサイズ(対角線の長さ)、部屋の対角線など、身の回りでピタゴラスの定理が使える場面を探してみましょう。
よくある質問
Q1:なぜ2乗するの?
面積で考えると分かりやすくなります。a²はa×aで、1辺がaの正方形の面積を表します。定理は「2つの小さな正方形の面積の和が、大きな正方形の面積と等しい」という意味になります。
Q2:直角三角形以外でも使える?
いいえ、ピタゴラスの定理は直角三角形でのみ成り立ちます。他の三角形には余弦定理を使います。
Q3:3辺の長さから直角かどうか判定できる?
はい、できます。a² + b² = c²が成り立てば直角三角形です。これを「ピタゴラスの定理の逆」といいます。
Q4:なぜこんなに有名なの?
とてもシンプルで美しい式なのに、応用範囲が非常に広いからです。幾何学、三角法、座標幾何、ベクトル、物理学など、様々な分野で使われます。
発展:余弦定理との関係
一般の三角形では、余弦定理を使います。
余弦定理:
c² = a² + b² - 2ab cos C
C:角Cの大きさ
角Cが90度(直角)のとき、cos 90° = 0なので:
c² = a² + b² - 2ab × 0
c² = a² + b²
ピタゴラスの定理になります!
つまり、ピタゴラスの定理は余弦定理の特別な場合なんです。
まとめ
ピタゴラスの定理は、数学の基礎であり、応用範囲の広い重要な定理です。
この記事のポイント
- ピタゴラスの定理:a² + b² = c²
- 直角三角形でのみ成り立つ
- a、bは直角を挟む辺、cは斜辺
- 有名なピタゴラス数:3-4-5、5-12-13など
- 長方形の対角線、座標の距離などに応用できる
- ピタゴラス数の倍数もピタゴラス数
- 3次元にも拡張できる:d² = a² + b² + c²
- 定理の逆を使って直角の判定ができる
- 古代から知られていた定理
ピタゴラスの定理は、見た目はシンプルですが、数学や物理学の様々な場面で活躍する強力な道具です。基本をしっかり理解して、たくさんの問題に取り組んでみましょう。使えば使うほど、その便利さが実感できますよ!

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