数学で複雑な関数を扱うとき、「もっと扱いやすい形に変えられないかな」と思ったことはありませんか?
実は、多くの関数は「無限の足し算」で表現できるんです。これがべき級数と呼ばれるもので、その中でも特に重要なのがテイラー級数です。
難しそうに聞こえますが、実は私たちが普段使っている電卓やスマホの計算機能も、この仕組みを使っているんですよ。
この記事では、べき級数とテイラー級数について、基礎から実用例まで丁寧に解説します。数学が苦手な方でも理解できるように、具体例を交えながら説明していきますね。
べき級数とは?無限に続く「べき乗の足し算」

べき級数の基本定義
べき級数とは、変数xのべき乗(x、x²、x³、x⁴…)を無限に足し合わせた形の級数のことです。
数式で表すと、次のようになります:
a₀ + a₁(x-c) + a₂(x-c)² + a₃(x-c)³ + ...
ここで:
- a₀、a₁、a₂… は各項の係数(掛け算される数)
- c は展開の中心(基準となる点)
- x は変数
もっとシンプルに言えば、べき級数は「無限次の多項式」のようなものなんです。
身近な例で理解しよう
たとえば、次のような簡単な級数を考えてみましょう:
1 + x + x² + x³ + x⁴ + ...
この級数は、実は数学でよく知られた「等比級数」です。
xの値が-1と1の間にあるとき、この級数は以下の関数と等しくなります:
1/(1-x) = 1 + x + x² + x³ + ... (-1 < x < 1のとき)
つまり、複雑そうに見える無限の足し算が、実はシンプルな分数の形で表せるわけですね。
テイラー級数とは?関数を「微分」でべき級数に変換する方法
テイラー級数の定義
べき級数の中でも、特定の関数を表現するために使われるのがテイラー級数です。
関数f(x)がある点x=aで何回でも微分可能なとき、次のようなべき級数で表すことができます:
f(x) = f(a) + f'(a)(x-a) + f''(a)/2!(x-a)² + f'''(a)/3!(x-a)³ + ...
ここで:
- f(a) は点aでの関数の値
- f'(a) は点aでの1階微分(傾き)
- f”(a) は点aでの2階微分
- n! はn階乗(例:3! = 3×2×1 = 6)
難しく見えますが、要するに「ある点での微分情報を使って、関数全体を近似する」という仕組みなんです。
マクローリン級数とは?
テイラー級数の中でも、展開の中心をx=0にした特別なケースをマクローリン級数と呼びます。
この場合、式は次のようになります:
f(x) = f(0) + f'(0)x + f''(0)/2!x² + f'''(0)/3!x³ + ...
多くの基本的な関数(sin x、cos x、eˣなど)は、マクローリン級数で美しい形に展開できるため、計算や理論の研究でよく使われます。
具体例で理解する!代表的な関数のテイラー展開
実際の関数がどうテイラー級数で表されるか、具体例を見ていきましょう。
例1:指数関数 eˣ のマクローリン展開
指数関数eˣは、次のように美しい形でマクローリン展開できます:
eˣ = 1 + x + x²/2! + x³/3! + x⁴/4! + ...
この級数は、すべての実数xに対して収束します(つまり、どんなxでも計算できます)。
例2:三角関数 sin x のマクローリン展開
正弦関数sin xは、奇数乗だけが残る面白い展開になります:
sin x = x - x³/3! + x⁵/5! - x⁷/7! + ...
符号がプラス・マイナスと交互に現れ、偶数乗の項(x²、x⁴など)は消えてしまうんですね。
例3:三角関数 cos x のマクローリン展開
余弦関数cos xは、逆に偶数乗だけが残ります:
cos x = 1 - x²/2! + x⁴/4! - x⁶/6! + ...
sin xとcos xのパターンの違いが面白いですよね。
例4:対数関数 ln(1+x) のマクローリン展開
自然対数ln(1+x)は、次のように展開されます:
ln(1+x) = x - x²/2 + x³/3 - x⁴/4 + ... (-1 < x ≤ 1のとき)
ただし、この級数は-1 < x ≤ 1の範囲でのみ収束する点に注意が必要です。
収束半径とは?べき級数が「使える範囲」を知ろう
収束半径の意味
べき級数は、すべてのxで使えるわけではありません。級数が「正しく計算できる範囲」を示すのが収束半径です。
収束半径をRとすると、|x-c| < Rの範囲で級数は収束します(つまり、計算結果が意味のある値になります)。
特異点と収束半径の関係
収束半径は、展開の中心から最も近い特異点(関数が定義されない点)までの距離と一致します。
具体例:
関数 f(x) = 1/(1-x) を考えてみましょう。
- この関数はx=1で分母が0になり、定義されません(これが特異点)
- 原点x=0で展開すると、収束半径はR=1となります
- つまり、-1 < x < 1の範囲でのみ、べき級数が正しく機能するわけです
べき級数・テイラー級数の便利な性質
性質1:項別微分・積分ができる
べき級数の素晴らしい点は、各項を個別に微分したり積分したりできることです。
例:
eˣ = 1 + x + x²/2! + x³/3! + ...
これを項別に微分すると:
(eˣ)' = 0 + 1 + 2x/2! + 3x²/3! + ... = 1 + x + x²/2! + ...
つまり、eˣを微分してもeˣのまま!これが指数関数の有名な性質ですね。
しかも、収束半径は微分や積分をしても変わりません。
性質2:級数の一意性
ある関数が展開の中心でべき級数展開できる場合、その展開は唯一つしかありません。
つまり、どんな方法で計算しても、同じ関数なら必ず同じテイラー級数になるんです。
性質3:解析関数としての性質
収束半径が正のべき級数は、その収束域の内部で解析関数となります。
解析関数とは、何回でも微分できる「非常に滑らかな関数」のことです。テイラー級数で表せる関数は、数学的に扱いやすい性質をたくさん持っているんですね。
テイラー級数の実用的な応用例
応用例1:関数の近似計算
テイラー級数の最も重要な応用は、複雑な関数を多項式で近似することです。
たとえば、sin xの値を計算したいとき、級数の最初の数項だけを使えば、かなり正確な近似値が得られます。
x = 0.1のときのsin x:
- 真の値:約0.0998
- 第1項(x)だけ:0.1
- 第2項まで(x – x³/6):0.0998
たった2項で、小数点以下4桁まで一致するんです!
応用例2:微分方程式の解法
物理学や工学で頻繁に現れる微分方程式を解くとき、解をテイラー級数(べき級数)の形で求める方法があります。
これは「級数解法」と呼ばれ、解析的に解けない問題でも、級数の形で解を表現できる場合があります。
応用例3:数値計算への応用
電卓やコンピュータで三角関数や指数関数を計算するとき、テイラー級数の原理が使われています。
ただし、実際の計算機では速度を優先するため、テイラー級数そのものではなく、数表(あらかじめ計算した値の表)と補完計算を組み合わせた方法が一般的です。
応用例4:オイラーの公式の導出
数学で最も美しいと言われるオイラーの公式も、テイラー級数から導けます。
指数関数と三角関数のマクローリン展開を組み合わせると:
e^(ix) = cos x + i sin x
特にx=πを代入すると、有名なオイラーの等式が得られます:
e^(iπ) + 1 = 0
この式には、数学の基本的な定数(e、i、π、1、0)がすべて含まれており、数学の深い美しさを示しています。
べき級数とテイラー級数の違いと関係
べき級数とテイラー級数の関係
ここで、混乱しやすい2つの用語の関係を整理しましょう。
- べき級数:形式的には、xのべき乗の無限和の形をした級数全般を指します
- テイラー級数:特定の関数を微分を使ってべき級数の形で表したもの
つまり、テイラー級数はべき級数の一種なんです。
重要な定理
もし関数f(x)が点x=aの周りでべき級数展開できるなら、その展開は必ずテイラー級数になります。
逆に言えば、べき級数で表せる関数には、常にその級数の係数を決定する「元となる関数」が存在するわけです。
注意点:テイラー級数が関数に等しくない場合もある
実は、関数が無限回微分可能でテイラー級数を作れても、そのテイラー級数が元の関数と一致しない場合があります。
反例:
f(x) = e^(-1/x²) (x ≠ 0のとき)
f(0) = 0
この関数は、x=0で何回でも微分できますが、すべての微分係数がf⁽ⁿ⁾(0) = 0となるため、x=0でのテイラー級数は「0」になってしまいます。
でも、関数自体はx≠0では0ではありません。このような例は珍しいですが、注意が必要なケースです。
べき級数をもっと深く:複素数への拡張
複素関数のテイラー級数
べき級数とテイラー級数は、実数だけでなく複素数にも拡張できます。
複素変数zの関数f(z)が点z=aの周りで正則(微分可能)なら、次のテイラー級数で表せます:
f(z) = Σ [f⁽ⁿ⁾(a)/n!] (z-a)ⁿ
複素関数のテイラー級数は、収束する範囲が「円形領域」になるという面白い特徴があります。
複素解析での重要性
複素関数の理論では、正則関数(複素平面で微分可能な関数)はすべて解析的であり、テイラー級数で表現できます。
これは、実数の場合よりもさらに強力な性質で、複素解析の基礎となる重要な事実です。
テイラー級数の計算方法:実践編
実際にテイラー級数を計算する方法は、いくつかあります。
方法1:定義に従って微分する
最も基本的な方法は、定義通りに各階微分を計算して係数を求めることです。
手順:
- 関数f(x)の各階微分 f'(x)、f”(x)、f”'(x)… を求める
- 展開の中心x=aでの微分係数 f(a)、f'(a)、f”(a)… を計算する
- これらを使って級数の各項を作る
方法2:既知の級数を変形する
よく知られたテイラー級数を、置き換えや四則演算で変形する方法もあります。
例:
1/(1-x) = 1 + x + x² + x³ + … という級数がわかっているとき、
xを-x²に置き換えると:
1/(1+x²) = 1 – x² + x⁴ – x⁶ + …
これを項別に積分すれば、arctan xの級数が得られます。
方法3:級数の積・商・合成を利用する
べき級数同士の掛け算や割り算、合成関数の級数も、係数の計算規則に従って求められます。
これらの方法を組み合わせることで、複雑な関数のテイラー級数も効率的に計算できるようになります。
まとめ:べき級数・テイラー級数は関数を理解する強力なツール
この記事のポイント:
- べき級数は、変数のべき乗の無限和で表される級数
- テイラー級数は、微分を使って関数をべき級数で表したもの
- 展開の中心がx=0の場合をマクローリン級数という
- 収束半径によって、級数が使える範囲が決まる
- べき級数は項別に微分・積分ができ、数値計算や関数の近似に便利
- eˣ、sin x、cos xなど、多くの基本関数が美しいテイラー級数を持つ
- 複素数に拡張でき、複素解析の基礎理論となっている
べき級数とテイラー級数は、一見難しそうに見えますが、「複雑な関数を扱いやすくする道具」として、数学や物理学、工学で幅広く活用されています。
最初はとっつきにくいかもしれませんが、具体的な関数の例を通じて慣れていけば、その美しさと有用性がきっと理解できるはずです。
数学の世界には、まだまだ発見すべき面白い仕組みがたくさんあります。
この記事が、その世界への第一歩となれば嬉しいです!

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