「この関数はべき級数展開可能か?」
大学の数学で、こんな問題に出会ったことはありませんか?
べき級数展開可能とは、関数を無限級数の形で表せることを意味する重要な概念です。この記事では、べき級数展開可能な関数(解析的関数)について、基礎から具体例まで分かりやすく解説していきます。
べき級数とは?

まず、「べき級数」について理解しましょう。
べき級数の定義
べき級数(power series)とは、次のような形の無限級数です。
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n (x-a)^n = a_0 + a_1(x-a) + a_2(x-a)^2 + a_3(x-a)^3 + \cdots$$
ここで:
- $a_n$:各項の係数
- $x$:変数
- $a$:展開の中心(基準点)
具体例
最も簡単なべき級数の例として、等比級数があります。
$$\frac{1}{1-x} = 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} x^n$$
これは$|x| < 1$のとき収束します。
べき級数の特徴
無限に続く多項式のようなもの
べき級数は、無限の項を持つ多項式と考えることができます。
多項式は:
$$P(x) = a_0 + a_1x + a_2x^2 + \cdots + a_nx^n$$
べき級数は、これが無限に続くイメージです。
収束する範囲がある
べき級数は、すべての$x$で収束するわけではありません。収束する範囲には「収束半径」という概念があります(後述)。
べき級数展開可能とは?
それでは、「べき級数展開可能」の意味を見ていきましょう。
定義
関数$f(x)$が点$x = a$の近くで、次のようにべき級数として表せるとき、「$f(x)$は$x = a$の周りでべき級数展開可能」といいます。
$$f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n (x-a)^n$$
解析的関数(analytic function)
定義域のすべての点において、その点の周りでべき級数展開可能な関数を解析的関数(または正則関数)といいます。
つまり、解析的関数とは:
- どの点$a$においても
- その点の十分近くで
- べき級数として表現できる関数
のことです。
重要な注意点
無限回微分可能 ≠ べき級数展開可能
関数が無限回微分可能($C^{\infty}$級)であっても、べき級数展開可能とは限りません。これは重要なポイントです。
無限回微分可能でも、べき級数展開できない関数が存在するんです(後で具体例を示します)。
テイラー展開とマクローリン展開
べき級数展開の最も重要な形が、テイラー展開とマクローリン展開です。
テイラー展開(Taylor expansion)
関数$f(x)$が点$x = a$の周りでべき級数展開可能なとき、その展開式は次のように与えられます。
$$f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$$
$$= f(a) + \frac{f'(a)}{1!}(x-a) + \frac{f”(a)}{2!}(x-a)^2 + \frac{f”'(a)}{3!}(x-a)^3 + \cdots$$
ここで:
- $f^{(n)}(a)$:点$a$における$n$階導関数
- $n!$:$n$の階乗
マクローリン展開(Maclaurin expansion)
テイラー展開で展開の中心を$a = 0$とした特別な場合が、マクローリン展開です。
$$f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$$
$$= f(0) + \frac{f'(0)}{1!}x + \frac{f”(0)}{2!}x^2 + \frac{f”'(0)}{3!}x^3 + \cdots$$
マクローリン展開は「原点を中心としたテイラー展開」と言えます。
テイラー展開の感覚的理解
テイラー展開は、関数を点$a$の周りで「近似」する方法と考えられます。
1次近似:$f(x) \approx f(a) + f'(a)(x-a)$(接線による近似)
2次近似:$f(x) \approx f(a) + f'(a)(x-a) + \frac{f”(a)}{2}(x-a)^2$(放物線による近似)
項を増やすほど、より正確な近似になります。
収束半径
べき級数には、「どこまで収束するか」という重要な概念があります。
収束半径の定義
べき級数$\sum_{n=0}^{\infty} a_n (x-a)^n$に対して、次を満たす$R \geq 0$を収束半径(radius of convergence)といいます。
- $|x-a| < R$のとき、級数は絶対収束する
- $|x-a| > R$のとき、級数は発散する
収束半径は$R = 0$(どこでも発散)から$R = \infty$(どこでも収束)までの値を取ります。
収束半径の求め方
ダランベールの公式(最もよく使われる)
$$R = \lim_{n \to \infty} \left|\frac{a_n}{a_{n+1}}\right|$$
この極限が存在するとき、これが収束半径です。
コーシー・アダマールの公式
$$R = \frac{1}{\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}}$$
こちらは必ず収束半径を求めることができますが、計算が複雑です。
収束半径と特異点の関係
重要な性質:テイラー展開の収束半径は、展開の中心点から最も近い特異点までの距離に等しい。
特異点とは、関数が解析的でなくなる点(定義されない点、微分できない点など)のことです。
例えば、$f(x) = \frac{1}{1-x}$を$x = 0$の周りで展開すると、特異点は$x = 1$なので、収束半径は$R = 1$です。
べき級数展開可能な関数の具体例

代表的な関数のマクローリン展開($a = 0$でのテイラー展開)を見ていきましょう。
指数関数
$$e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots$$
収束半径:$R = \infty$(すべての$x$で収束)
これは最も重要な展開式の一つです。
三角関数
正弦関数
$$\sin x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!}x^{2n+1} = x – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} – \frac{x^7}{7!} + \cdots$$
余弦関数
$$\cos x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!}x^{2n} = 1 – \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} – \frac{x^6}{6!} + \cdots$$
収束半径:どちらも$R = \infty$
注目すべき点:
- $\sin x$は奇関数なので、奇数次の項のみ
- $\cos x$は偶関数なので、偶数次の項のみ
対数関数
$$\log(1+x) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1}}{n}x^n = x – \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} – \frac{x^4}{4} + \cdots$$
収束半径:$R = 1$
特異点が$x = -1$にあるため、収束半径は1です。
幾何級数(等比級数)
$$\frac{1}{1-x} = \sum_{n=0}^{\infty} x^n = 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots$$
収束半径:$R = 1$
これは最も基本的なべき級数です。
二項級数
$$(1+x)^p = \sum_{n=0}^{\infty} \binom{p}{n} x^n = 1 + px + \frac{p(p-1)}{2!}x^2 + \cdots$$
ここで$\binom{p}{n}$は一般化された二項係数です。
$p$が負の整数や分数の場合でも成り立ちます。
収束半径:$R = 1$($p$が非負整数でない場合)
双曲線関数
双曲線正弦
$$\sinh x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!} = x + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} + \cdots$$
双曲線余弦
$$\cosh x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^{2n}}{(2n)!} = 1 + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$$
収束半径:どちらも$R = \infty$
べき級数展開できない関数の例
すべての関数がべき級数展開できるわけではありません。
例1:無限回微分可能だが解析的でない関数
最も有名な例は、次の関数です。
$$f(x) = \begin{cases}
e^{-1/x^2} & (x \neq 0) \
0 & (x = 0)
\end{cases}$$
この関数は:
- すべての点で無限回微分可能($C^{\infty}$級)
- $x = 0$でのすべての導関数が0:$f^{(n)}(0) = 0$($n = 0, 1, 2, \ldots$)
- したがって、マクローリン展開は$f(x) = 0 + 0 + 0 + \cdots = 0$
- しかし、$x \neq 0$では$f(x) \neq 0$
つまり、マクローリン展開の級数は元の関数を表していません。
これは、「無限回微分可能」であっても「べき級数展開可能(解析的)」とは限らないことを示す重要な例です。
例2:絶対値関数
$$f(x) = |x|$$
この関数は$x = 0$で微分不可能なため、そもそもテイラー展開の式が定義できません。
例3:特異点を持つ関数
$$f(x) = \frac{1}{x}$$
この関数は$x = 0$で定義されていないため、$x = 0$の周りではべき級数展開できません。
ただし、$x = 1$の周りなど、他の点を中心とすればべき級数展開可能です。
べき級数展開可能であることの判定条件
関数がべき級数展開可能かどうかを判定する方法があります。
剰余項の収束
テイラーの定理によると、関数$f(x)$は次のように書けます。
$$f(x) = \sum_{n=0}^{N-1} \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n + R_N(x)$$
ここで$R_N(x)$は剰余項(remainder term)と呼ばれます。
判定条件:$N \to \infty$のとき$R_N(x) \to 0$となれば、$f(x)$はべき級数展開可能です。
複素解析における判定
複素関数の場合、次の重要な定理があります。
定理:複素関数$f(z)$が領域$D$で正則(複素微分可能)ならば、$D$内の任意の点$a$の周りでべき級数展開可能である。
つまり、複素関数では「1回微分可能 = 無限回微分可能 = べき級数展開可能」という素晴らしい性質があります。
これは実関数にはない、複素関数の大きな特徴です。
べき級数展開の応用
べき級数展開は、数学や物理学、工学などで広く応用されています。
1. 関数の近似計算
べき級数を有限項で打ち切ることで、関数を近似できます。
例えば、$e^x \approx 1 + x + \frac{x^2}{2}$($|x|$が小さいとき)
これは数値計算で広く使われます。
2. 微分方程式の解法
微分方程式をべき級数で解く方法(級数解法)があります。
解を$y = \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$と仮定して、係数$a_n$を求めます。
3. 特殊関数の定義
ベッセル関数、ルジャンドル関数など、多くの特殊関数はべき級数で定義されます。
4. 近似公式の導出
物理学では、微小量の近似に頻繁に使われます。
例:$(1+x)^n \approx 1 + nx$($|x| \ll 1$のとき)
5. オイラーの公式
オイラーの公式の証明にも、べき級数展開が使われます。
$$e^{ix} = \cos x + i\sin x$$
これは、$e^x$、$\sin x$、$\cos x$の各マクローリン展開を比較することで導けます。
6. データ圧縮
JPEG画像圧縮などでは、フーリエ級数(べき級数の一般化)が使われています。
7. 数値計算
無理数の近似値計算にも使われます。
例えば、自然対数の底$e$:
$$e = 1 + 1 + \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \frac{1}{4!} + \cdots = 2.71828\ldots$$
べき級数の演算

べき級数同士の演算について、重要な性質があります。
和と差
べき級数同士の和や差は、項別に計算できます。
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n \pm \sum_{n=0}^{\infty} b_n x^n = \sum_{n=0}^{\infty} (a_n \pm b_n) x^n$$
積
べき級数の積は、次のように計算できます(コーシー積)。
$$\left(\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n\right) \left(\sum_{n=0}^{\infty} b_n x^n\right) = \sum_{n=0}^{\infty} c_n x^n$$
ここで$c_n = \sum_{k=0}^{n} a_k b_{n-k}$
微分と積分
べき級数は項別に微分・積分できます。
微分:
$$\frac{d}{dx}\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n = \sum_{n=1}^{\infty} n a_n x^{n-1}$$
積分:
$$\int \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n dx = C + \sum_{n=0}^{\infty} \frac{a_n}{n+1} x^{n+1}$$
収束半径は微分・積分しても変わりません。
よくある質問
Q1: すべての連続関数はべき級数展開できますか?
いいえ、できません。連続であっても、微分可能でなければべき級数展開できません。
さらに、無限回微分可能であってもべき級数展開できない関数があります(前述の$e^{-1/x^2}$の例)。
Q2: 収束半径が無限大の関数の特徴は?
収束半径が無限大の関数は、複素平面全体で特異点を持たない「整関数」です。
代表例:$e^x$、$\sin x$、$\cos x$、多項式
Q3: テイラー展開とテイラー級数の違いは?
テイラー級数:形式的な無限級数(収束するかどうかは問わない)
テイラー展開:その級数が実際に元の関数に収束する場合
厳密には区別されますが、実際にはほぼ同じ意味で使われることが多いです。
Q4: べき級数展開は一意ですか?
はい、一意です。関数を表すべき級数が存在すれば、その係数は一意に決まります。
これを「べき級数の一意性」といいます。
Q5: 複素関数と実関数で何が違いますか?
複素関数では、「1回複素微分可能 = 無限回微分可能 = べき級数展開可能」という強い性質があります。
実関数では、無限回微分可能でもべき級数展開できないことがあります。
まとめ
べき級数展開可能について、重要なポイントをまとめます。
基本概念
- べき級数は無限に続く多項式のようなもの
- べき級数展開可能 = 解析的関数
- テイラー展開はべき級数展開の具体的な形
- マクローリン展開は原点を中心としたテイラー展開
重要な性質
- すべての関数がべき級数展開できるわけではない
- 無限回微分可能 ≠ べき級数展開可能(実関数の場合)
- 収束半径は展開の中心から最も近い特異点までの距離
- べき級数は項別に微分・積分できる
代表的な例
- $e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots$($R = \infty$)
- $\sin x = x – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} – \cdots$($R = \infty$)
- $\frac{1}{1-x} = 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots$($R = 1$)
- $\log(1+x) = x – \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} – \cdots$($R = 1$)
応用分野
- 関数の近似計算
- 微分方程式の解法
- 物理学における微小量の近似
- データ圧縮技術
べき級数展開は、高度な数学の基礎となる重要な概念です。この記事が、べき級数展開の理解を深める助けになれば幸いです。

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