数学には、シンプルなルールから驚くべき性質が生まれる美しい例がたくさんあります。
その中でも特に有名なのが「パスカルの三角形」です。
一見、ただの数の並びに見えるこの三角形ですが、よく見ると、二項定理、組み合わせ、確率、フィボナッチ数列、フラクタル図形など、数学の様々な分野が詰まった宝箱のような存在なんです。
作り方はとても簡単。「上の2つの数を足す」というルールだけ。でもそこから生まれるパターンは無限に広がり、今でも新しい性質が発見され続けています。
この記事では、パスカルの三角形の基本から、その驚くべき性質、実際の応用まで、わかりやすく解説していきます。
パスカルの三角形とは

基本的な形
パスカルの三角形は、次のような三角形状に数を並べたものです:
1
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
1 5 10 10 5 1
1 6 15 20 15 6 1
一番上に「1」があり、下に行くほど数が増えていきます。
作り方のルール
パスカルの三角形を作るルールはとてもシンプルです:
ルール1: 一番上と、各段の両端には「1」を置く
ルール2: それ以外の場所には、左上の数と右上の数を足した値を置く
具体例:
1
1 1 ← 両端は1
1 2 1 ← 真ん中の2は、上の1+1
1 3 3 1 ← 3は1+2、もう一つの3は2+1
このルールを繰り返すだけで、無限に三角形を作り続けることができます!
パスカルの三角形の歴史
名前の由来
「パスカルの三角形」という名前は、17世紀フランスの数学者ブレーズ・パスカル(1623-1662)に由来します。
パスカルは1665年に『算術三角形論』を著し、この三角形の様々な性質を体系的にまとめました。
でも、パスカルが最初ではない!
実は、パスカルより何世紀も前から、世界中の数学者がこの三角形を研究していました。
中国:
- 11世紀:数学者の賈憲(かけん)が研究
- 13世紀:数学者の楊輝(ようき)が詳しく研究
- 中国では「楊輝三角」または「賈憲三角」と呼ばれる
ペルシャ:
- 11世紀:詩人で数学者のウマル・ハイヤームが研究
- ペルシャでは「ハイヤームの三角形」と呼ばれる
インド:
- 10世紀:数学者ピンガラの研究に関する注釈で言及
ヨーロッパ:
- 13世紀:ヨルダヌス・デ・ネモレ
- 16世紀:ペトルス・アピアヌス、ニコロ・タルタリア
- イタリアでは「タルタリアの三角形」とも呼ばれる
つまり、パスカルの三角形は、世界中で独立に発見された普遍的な数学的パターンなんです!
二項係数との関係
二項係数とは
n個のものからk個を選ぶ組み合わせの数を二項係数といい、記号 ₙCₖ または (n choose k) で表します。
公式:
ₙCₖ = n! / (k!(n-k)!)
パスカルの三角形 = 二項係数の配列
実は、パスカルの三角形の各数は二項係数そのものなんです!
₀C₀
₁C₀ ₁C₁
₂C₀ ₂C₁ ₂C₂
₃C₀ ₃C₁ ₃C₂ ₃C₃
₄C₀ ₄C₁ ₄C₂ ₄C₃ ₄C₄
具体的な数値に直すと:
1
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
ルールの説明:
- 上からn段目(0段目から数えて)
- 左からk番目(0番目から数えて)
- その位置の数 = ₙCₖ
具体例
例1: ₄C₂ を求めたい
パスカルの三角形の5段目(0から数えて4段目)の、左から3番目(0から数えて2番目)を見ると…
答え:6
計算で確認:₄C₂ = 4!/(2!×2!) = 24/(2×2) = 6 ✓
例2: 7人から3人選ぶ組み合わせは?
₇C₃ を求めればよい。パスカルの三角形の8段目、左から4番目を見ると…
答え:35通り
二項定理との関係

二項定理とは
(a + b)ⁿ を展開するとき、その係数がパスカルの三角形に現れます。
二項定理:
(a + b)ⁿ = ₙC₀aⁿ + ₙC₁aⁿ⁻¹b + ₙC₂aⁿ⁻²b² + … + ₙCₙbⁿ
パスカルの三角形で展開が簡単に!
例1: (x + y)² を展開
2段目(0から数えて)を見ると:1, 2, 1
よって:
(x + y)² = 1·x² + 2·xy + 1·y² = x² + 2xy + y²
例2: (x + y)³ を展開
3段目を見ると:1, 3, 3, 1
よって:
(x + y)³ = 1·x³ + 3·x²y + 3·xy² + 1·y³
例3: (x + y)⁴ を展開
4段目を見ると:1, 4, 6, 4, 1
よって:
(x + y)⁴ = x⁴ + 4x³y + 6x²y² + 4xy³ + y⁴
パスカルの三角形があれば、複雑な展開も一瞬でできます!
パスカルの三角形に隠れた数列
パスカルの三角形を斜めに見ていくと、様々な数列が現れます。
1. 外側の列:すべて1
一番外側(左右の端)は、すべて「1」です。
1
1 1
1 2 1
1 3 3 1
2. 2列目:自然数
外側から2番目の列を見ると:1, 2, 3, 4, 5, 6, 7…
自然数が順番に並んでいます!
3. 3列目:三角数
外側から3番目の列を見ると:1, 3, 6, 10, 15, 21…
これは三角数です。三角数とは、点を正三角形状に並べたときの点の総数です。
第1三角数:● = 1
第2三角数:● ● = 3
●
第3三角数:● ● ● = 6
● ●
●
一般項:Tₙ = n(n+1)/2
4. 4列目:四面体数
外側から4番目の列:1, 4, 10, 20, 35…
これは四面体数(または三角錐数)です。点を正四面体状に積み上げたときの点の総数です。
一般項:Pₙ = n(n+1)(n+2)/6
フィボナッチ数列との関係
斜めの和
パスカルの三角形を斜めに見て、桂馬跳びのようにジグザグに数を拾って足すと、なんとフィボナッチ数列が現れます!
1 = 1
1 1 = 1
1 2 1 1を取る = 1
1 3 3 1 2を取る = 2
1 4 6 4 1 1+3を取る = 4(実際は3)
1 5 10 10 5 1 2+3を取る = 5
正しくは、左端から斜め方向に「桂馬跳び」で数を拾います:
- 1 = 1(フィボナッチ第1項)
- 1 = 1(フィボナッチ第2項)
- 1+1 = 2(フィボナッチ第3項)
- 1+2 = 3(フィボナッチ第4項)
- 1+3+1 = 5(フィボナッチ第5項)
- 1+4+3 = 8(フィボナッチ第6項)
- 1+5+6+1 = 13(フィボナッチ第7項)
このように、1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21… というフィボナッチ数列が現れます!
各段の和:2のべき乗
規則性の発見
各段の数をすべて足すと、2のべき乗になります!
| 段 | 数 | 和 | 2のべき乗 |
|---|---|---|---|
| 0段目 | 1 | 1 | 2⁰ = 1 |
| 1段目 | 1, 1 | 2 | 2¹ = 2 |
| 2段目 | 1, 2, 1 | 4 | 2² = 4 |
| 3段目 | 1, 3, 3, 1 | 8 | 2³ = 8 |
| 4段目 | 1, 4, 6, 4, 1 | 16 | 2⁴ = 16 |
| 5段目 | 1, 5, 10, 10, 5, 1 | 32 | 2⁵ = 32 |
一般的な公式:
n段目の和 = 2ⁿ
なぜ2のべき乗になるのか?
二項定理から説明できます:
(x + y)ⁿ = ₙC₀xⁿ + ₙC₁xⁿ⁻¹y + … + ₙCₙyⁿ
ここで x = 1, y = 1 とすると:
(1 + 1)ⁿ = ₙC₀ + ₙC₁ + … + ₙCₙ
2ⁿ = n段目の数の和
11のべき乗との関係
驚くべき一致
各段の数を横に並べて1つの数と見ると、なんと11のべき乗になります!
| 段 | 数の並び | 1つの数として | 11のべき乗 |
|---|---|---|---|
| 0段目 | 1 | 1 | 11⁰ = 1 |
| 1段目 | 1 1 | 11 | 11¹ = 11 |
| 2段目 | 1 2 1 | 121 | 11² = 121 |
| 3段目 | 1 3 3 1 | 1331 | 11³ = 1331 |
| 4段目 | 1 4 6 4 1 | 14641 | 11⁴ = 14641 |
5段目以降は?
5段目:1 5 10 10 5 1
これを単純に並べると「15101051」ですが、11⁵ = 161051 とは違います。
なぜなら、10は2桁なので繰り上がりが必要です:
1 5 10 10 5 1
→ 繰り上がりを処理すると…
→ 1 6 1 0 5 1
→ 161051 ✓
つまり、繰り上がりを処理すれば、11のべき乗と一致します!
フラクタル図形:シェルピンスキーのギャスケット

奇数と偶数を塗り分ける
パスカルの三角形で、奇数を黒(または1)、偶数を白(または0)に塗り分けると、美しいフラクタル図形が現れます。
1 ● (奇数 = 黒)
1 1 ● ● (両方奇数 = 黒)
1 2 1 ● ○ ● (2だけ偶数 = 白)
1 3 3 1 ● ● ● ● (全部奇数 = 黒)
1 4 6 4 1 ● ○ ○ ○ ● (4と6が偶数)
これを何段も続けると、シェルピンスキーのギャスケットという有名なフラクタル図形になります。
フラクタルの性質
- どこを拡大しても同じパターンが現れる
- 三角形の中に三角形がある自己相似的な構造
- 無限に複雑な構造を持つ
再帰的な構造
このパターンは次のように作られます:
- 小さな三角形を作る
- それを3つコピーして、大きな三角形の各頂点に配置
- 真ん中は空白(白)にする
- 1-3を無限に繰り返す
パスカルの三角形の奇偶パターンは、まさにこの構造を持っているんです!
確率への応用:コイントス
コインを投げる実験
パスカルの三角形は、コインを何回か投げたときの結果の組み合わせを表します。
1回投げる場合:
- 結果:H(表)または T(裏)
- パスカルの三角形の1段目:1, 1
- 意味:表が1回、裏が1回の可能性
2回投げる場合:
- 結果:HH, HT, TH, TT
- パスカルの三角形の2段目:1, 2, 1
- 意味:
- 表2回:HH(1通り)
- 表1回・裏1回:HT, TH(2通り)
- 裏2回:TT(1通り)
3回投げる場合:
- パスカルの三角形の3段目:1, 3, 3, 1
- 意味:
- 表3回:HHH(1通り)
- 表2回・裏1回:HHT, HTH, THH(3通り)
- 表1回・裏2回:HTT, THT, TTH(3通り)
- 裏3回:TTT(1通り)
確率の計算
3回投げて表が2回出る確率は?
全体の場合の数 = 2³ = 8(各段の和)
表が2回出る場合の数 = 3(3段目の2番目)
確率 = 3/8
組み合わせの計算

問題例1
問題: 7人の中から委員を3人選ぶ方法は何通りあるか?
解答:
₇C₃ を求めればよい。
パスカルの三角形の8段目(0から数えて7段目)、左から4番目(0から数えて3番目)を見る。
段目を数えていくと...
0: 1
1: 1 1
2: 1 2 1
3: 1 3 3 1
4: 1 4 6 4 1
5: 1 5 10 10 5 1
6: 1 6 15 20 15 6 1
7: 1 7 21 35 35 21 7 1 ← これ!
7段目の4番目は 35
答え:35通り
問題例2
問題: 子供が5人いて、男の子が2人・女の子が3人になる確率は?
解答:
子供の性別は1/2ずつの確率とすると:
₅C₂ = パスカルの三角形の6段目の3番目 = 10
全体の場合 = 2⁵ = 32
確率 = 10/32 = 5/16
答え:5/16
パスカルの三角形の公式
基本公式
上からn段目、左からk番目の数は:
ₙCₖ = n! / (k!(n-k)!)
再帰的な公式
パスカルの三角形の作り方そのものを表す公式:
ₙ₊₁Cₖ₊₁ = ₙCₖ + ₙCₖ₊₁
これは「左上 + 右上 = 真下」というルールを数式で表したものです。
証明(組み合わせで考える)
n+1人から k+1人を選ぶ方法を考えます。
特定の1人(Aさんとします)に注目すると:
- Aさんを選ぶ場合: 残りn人から k人選ぶ → ₙCₖ 通り
- Aさんを選ばない場合: n人から k+1人選ぶ → ₙCₖ₊₁ 通り
合計:ₙCₖ + ₙCₖ₊₁ = ₙ₊₁Cₖ₊₁
パスカルの三角形の対称性
左右対称
パスカルの三角形は、左右対称です。
1
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
これは、次の公式で表されます:
ₙCₖ = ₙCₙ₋ₖ
意味: n個から k個選ぶことと、n個から (n-k)個選ぶことは同じ
例:₅C₂ = ₅C₃ = 10
パスカルの三角形の3次元版
パスカルの四面体
パスカルの三角形を3次元に拡張すると、パスカルの四面体(または3次元パスカルの三角形)ができます。
これは、(a + b + c)ⁿ の展開、つまり三項定理と関係があります。
トリボナッチ数列も、この四面体から作ることができます!
実際の応用例
1. 数学
- 二項展開の係数を簡単に求める
- 組み合わせの計算
- 数列の研究
2. 確率・統計
- 二項分布の確率計算
- コイントスやサイコロの問題
- 遺伝学の確率計算
3. コンピュータ科学
- 動的計画法のアルゴリズム
- 組み合わせ最適化問題
- フラクタル図形の生成
4. その他
- プログラミングの練習問題
- パズルやゲーム
- 芸術やデザイン
面白い問題
問題1
パスカルの三角形の10段目の数をすべて足すといくつになるか?
ヒント: 各段の和は 2ⁿ
解答:
10段目なので、2¹⁰ = 1024
答え:1024
問題2
₆C₄ をパスカルの三角形を使って求めよ。
解答:
7段目(0から数えて6段目)の5番目(0から数えて4番目)
0: 1
1: 1 1
2: 1 2 1
3: 1 3 3 1
4: 1 4 6 4 1
5: 1 5 10 10 5 1
6: 1 6 15 20 15 6 1 ← これの5番目
答え:15
問題3
パスカルの三角形の5段目で、素数はいくつあるか?
解答:
5段目:1, 5, 10, 10, 5, 1
素数は:5(2個)
答え:2個
実は、n段目が素数pのとき、両端の1を除くすべての数がpで割り切れるという性質があります!
まとめ
パスカルの三角形について、重要なポイントをまとめます。
1. 作り方:
- 上と両端は「1」
- それ以外は「左上 + 右上」
2. 二項係数:
- n段目、k番目 = ₙCₖ
- 組み合わせの数を表す
3. 二項定理:
- (a + b)ⁿ の展開係数がn段目に現れる
4. 隠れた数列:
- 外側から2列目:自然数
- 外側から3列目:三角数
- 斜めの和:フィボナッチ数列
5. 各段の和:
- n段目の和 = 2ⁿ
6. 11のべき乗:
- 各段を数として見ると 11ⁿ(繰り上がりを処理すれば)
7. フラクタル:
- 奇偶を塗り分けるとシェルピンスキーのギャスケット
8. 確率:
- コイントスの結果の組み合わせ
- 二項分布の計算
9. 対称性:
- 左右対称:ₙCₖ = ₙCₙ₋ₖ
10. 歴史:
- 世界中で独立に発見された
- 中国では楊輝三角、ペルシャではハイヤームの三角形
パスカルの三角形は、たった1つの簡単なルール「左上 + 右上」から、無限に豊かな数学的性質が生まれる驚異的な例です。
二項定理、組み合わせ、確率、フィボナッチ数列、フラクタル図形など、数学の様々な分野がこの小さな三角形の中に詰まっています。
しかも、まだ発見されていない性質があるかもしれません。あなたも、パスカルの三角形を作って、新しいパターンを探してみませんか?
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