フィボナッチ数列は有名ですが、それと似た性質を持つ美しい数列があることをご存知でしょうか? それが「パドヴァン数列」です。
この数列は、建築や芸術の世界で「プラスチック数」という黄金比に似た定数と深く関わっており、正三角形の螺旋として視覚化できる魅力的な数学的対象です。今回は、このあまり知られていない美しい数列について詳しく解説していきます。
パドヴァン数列とは: 基本的な定義

定義
パドヴァン数列 P(n) は、以下の初期値と漸化式で定義される整数の数列です。
初期値:
- P(0) = 1
- P(1) = 1
- P(2) = 1
漸化式:
P(n) = P(n-2) + P(n-3) (n ≥ 3)
つまり、「2つ前の項」と「3つ前の項」の和が次の項になります。
数列の最初の項
実際に計算してみると:
1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, 16, 21, 28, 37, 49, 65, 86, 114, 151, 200, 265, 351, 465, 616, 816, 1081, …
計算例:
- P(3) = P(1) + P(0) = 1 + 1 = 2
- P(4) = P(2) + P(1) = 1 + 1 = 2
- P(5) = P(3) + P(2) = 2 + 1 = 3
- P(6) = P(4) + P(3) = 2 + 2 = 4
- P(7) = P(5) + P(4) = 3 + 2 = 5
特徴的な点
フィボナッチ数列が「直前の2項の和」であるのに対し、パドヴァン数列は:
- 直前の1項をスキップ
- 2つ前と3つ前の項の和
この違いが、独特の性質を生み出します。
フィボナッチ数列との比較
漸化式の違い
フィボナッチ数列:
- F(0) = 0, F(1) = 1
- F(n) = F(n-1) + F(n-2)
- 数列: 0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, …
パドヴァン数列:
- P(0) = P(1) = P(2) = 1
- P(n) = P(n-2) + P(n-3)
- 数列: 1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, 16, 21, …
共通の項
興味深いことに、両方の数列に現れる数がいくつかあります:
共通項: 1, 2, 3, 5, 21, …
ただし、これらの共通項が有限個なのか無限個なのかは、まだ分かっていません!
増加速度の違い
パドヴァン数列は、フィボナッチ数列よりもずっとゆっくり増加します。
比較 (第20項):
- フィボナッチ: F(20) = 6765
- パドヴァン: P(20) = 151
約45倍の差があります。
プラスチック数: パドヴァン数列の極限比
プラスチック数とは
フィボナッチ数列の隣接項の比が黄金比(φ ≈ 1.618…)に収束するように、パドヴァン数列の隣接項の比はプラスチック数(plastic number)に収束します。
プラスチック数 ρ (ロー):
ρ ≈ 1.324717957244746…
収束の様子
| n | P(n) | P(n-1) | 比 P(n)/P(n-1) |
|---|---|---|---|
| 10 | 9 | 7 | 1.285714… |
| 20 | 151 | 114 | 1.324561… |
| 30 | 2513 | 1897 | 1.324723… |
| 40 | 41824 | 31572 | 1.324718… |
| 50 | 696081 | 525456 | 1.324717959… |
| 60 | 11584946 | 8745217 | 1.324717957… |
nが大きくなるほど、プラスチック数 ρ ≈ 1.32471795…に近づいていくことが分かります。
プラスチック数の定義
プラスチック数は、以下の3次方程式の唯一の正の実数解です:
x³ – x – 1 = 0
または:
x³ = x + 1
これを解くと:
ρ = ³√((9 + √69)/18) + ³√((9 – √69)/18)
≈ 1.324717957244746025960908854…
プラスチック数の意味
「プラスチック」の語源:
- ここでの「plastic」は「可塑性のある、形を作れる」という意味
- 建築における形態の認識と深く関わる定数
プラスチック数は、黄金比の3次元版とも呼ばれます。
幾何学的表現: 正三角形の螺旋

視覚的な証明
パドヴァン数列は、正三角形を螺旋状に配置することで視覚的に表現できます。
作り方:
- 一辺が1の正三角形を3つ配置する
- 次に一辺が2の正三角形を配置
- 一辺が2の正三角形を配置
- 一辺が3の正三角形を配置
- これを繰り返す
このとき:
- 各三角形の辺の長さがパドヴァン数列になる
- 各三角形は他の2つの三角形と辺を共有する
- これが視覚的に P(n) = P(n-2) + P(n-3) を証明している
フィボナッチ数列が正方形の螺旋で表現されるのに対し、パドヴァン数列は正三角形の螺旋で表現されるのです。
立体的な表現
正三角形だけでなく、直方体(箱)を使った3次元の螺旋も作れます:
- 1×1×1の立方体から始める
- 1×1×2の直方体を隣に配置
- 1×2×2の直方体を配置
- 2×2×3の直方体を配置
- 方向を「東、南、下、西、北、上」と回転させながら継続
各段階で形成される直方体の3辺が、連続する3つのパドヴァン数になります。
別の漸化式表現
パドヴァン数列の面白い点は、複数の異なる漸化式で同じ数列を生成できることです。
基本形
P(n) = P(n-2) + P(n-3) (n ≥ 3)
第2の形: 1つ前と5つ前の和
n ≥ 5 のとき:
P(n) = P(n-1) + P(n-5)
これは正三角形の螺旋を見ると分かります。新しい三角形の辺は、螺旋上で1個前と5個前の三角形の辺の和になっているのです!
検証例:
- P(10) = 12
- P(9) = 9, P(5) = 3
- 12 = 9 + 3 ✓
第3の形: 総和との関係
最初のn項の和は、P(n+5) より2小さい:
Σ(i=0 to n) P(i) = P(n+5) – 2
例: P(0)からP(5)までの和
1 + 1 + 1 + 2 + 2 + 3 = 10
P(10) – 2 = 12 – 2 = 10 ✓
パドヴァン数列の性質
1. 母関数
パドヴァン数列の母関数(generating function)は:
G(x) = x / (1 – x² – x³)
これを展開すると、各項の係数がパドヴァン数になります。
2. 一般項の公式
パドヴァン数列の一般項は、特性方程式 x³ – x – 1 = 0 の3つの根 r₁, r₂, r₃ を使って:
P(n) = a·r₁ⁿ + b·r₂ⁿ + c·r₃ⁿ
と表せます。ここで:
- r₁ = ρ (プラスチック数) ≈ 1.32472 (実根)
- r₂, r₃ は複素共役根で、絶対値 < 1
r₂とr₃の絶対値が1未満なので、nが大きくなると:
P(n) ≈ a·ρⁿ
つまり、P(n)はプラスチック数のn乗で近似できます。
3. 組み合わせ論的解釈
P(n)は、n+2を2と3の和で表す方法の数を表します。
例: P(6) = 4
8を2と3の和で表す方法は4通り:
- 2+2+2+2
- 2+3+3
- 3+2+3
- 3+3+2
4. 7項の性質
連続する7項を取ると、面白い性質があります:
P(n)² + P(n+2)² + P(n+6)² = P(n+1)² + P(n+3)² + P(n+4)² + P(n+5)²
つまり、第1、3、7項の平方和 = 第2、4、5、6項の平方和
5. 完全平方数
パドヴァン数列には完全平方数が含まれます:
- P(7) = 9 = 3²
- P(12) = 16 = 4²
- P(18) = 49 = 7²
興味深いことに、これらの平方根 3, 4, 7 もパドヴァン数です!
ただし、これが偶然なのか一般的な規則なのかは不明です。
パドヴァン素数
定義
パドヴァン素数とは、素数でもあるパドヴァン数のことです。
最初のパドヴァン素数
2, 2, 3, 5, 7, 37, 151, 3329, 23833, 1267 1631, 1553 8133, 11047 3079, …
対応するインデックスnは:
3, 4, 5, 7, 8, 14, 19, 30, 37, 84, 128, 469, 666, 1262, 1573, …
研究状況
パドヴァン素数の研究は、フィボナッチ素数ほど進んでいません。
大きなパドヴァン素数の探索は現在も続けられています。
ペラン数列との関係

ペラン数列
パドヴァン数列と同じ漸化式を持つが、初期値が異なる数列があります:
ペラン数列 R(n):
- R(0) = 3, R(1) = 0, R(2) = 2
- R(n) = R(n-2) + R(n-3)
数列: 3, 0, 2, 3, 2, 5, 5, 7, 10, 12, 17, 22, 29, …
共通点
両方とも:
- 同じ漸化式
- 隣接項の比がプラスチック数に収束
- 同じ特性方程式 x³ – x – 1 = 0
ペラン数列の特別な性質
ペラン数列には、素数判定に関する興味深い性質があります:
pが素数ならば、R(p)はpで割り切れる
例:
- R(2) = 2 = 2×1
- R(3) = 3 = 3×1
- R(5) = 5 = 5×1
- R(7) = 7 = 7×1
- R(11) = 22 = 11×2
ただし逆は必ずしも真ではありません。
歴史的背景
発見者たち
パドヴァン数列の発見には、複数の人物が関わっています。
ジェラール・コルドニエ (Gérard Cordonnier):
- 1924年、17歳のフランス人建築学生
- この数列を最初に発見
- 「radiant number(輝く数)」と命名
- 建築への応用を考察
ハンス・ファン・デル・ラーン (Hans van der Laan, 1904-1991):
- オランダの修道士・建築家
- 1928年に独立に発見
- 「plastic number(プラスチック数)」と命名
- 建築設計に実際に応用
リチャード・パドヴァン (Richard Padovan, 1935-):
- イギリスの建築家
- 1994年の論文でファン・デル・ラーンの業績を紹介
- 「Dom. Hans van der Laan: Modern Primitive」を執筆
- 数列が彼の名前を冠することに
イアン・スチュワート (Ian Stewart):
- 1996年、Scientific Americanのコラムで一般に紹介
- 「Math Hysteria」という著書でも取り上げた
名称について
この数列は以下のようにも呼ばれます:
- パドヴァン数列 (最も一般的)
- コルドニエ数列 (発見者の名前から)
- Padovan sequence (英語)
建築への応用
ファン・デル・ラーンの建築理論
ハンス・ファン・デル・ラーンは、プラスチック数を建築設計の基礎としました。
基本概念:
- プラスチック数は、人間が大きさの違いを認識する能力と関連
- 約3:4の比率: 大きさが「わずかに異なる」と認識できる下限
- 約1:7の比率: 大きさの違いを認識できる上限
実際の建築
聖ベネディクト山修道院教会 (オランダ):
- ファン・デル・ラーンが設計
- プラスチック比を用いた比例システム
- 1967年完成
この教会では、空間の寸法がプラスチック数の比率で設計されています。
黄金比との比較
黄金比 φ ≈ 1.618:
- 2次方程式から導出
- 平面的・2次元的
- 古代から知られる
プラスチック数 ρ ≈ 1.325:
- 3次方程式から導出
- 立体的・3次元的
- 20世紀の発見
プラスチック数は「黄金比の3次元版」と呼ばれることがあります。
計算例と練習問題
例題1: 基本的な計算
問題: P(10)を求めよ。
解答:
P(0) = 1, P(1) = 1, P(2) = 1
P(3) = P(1) + P(0) = 1 + 1 = 2
P(4) = P(2) + P(1) = 1 + 1 = 2
P(5) = P(3) + P(2) = 2 + 1 = 3
P(6) = P(4) + P(3) = 2 + 2 = 4
P(7) = P(5) + P(4) = 3 + 2 = 5
P(8) = P(6) + P(5) = 4 + 3 = 7
P(9) = P(7) + P(6) = 5 + 4 = 9
P(10) = P(8) + P(7) = 7 + 5 = 12
例題2: 第2の漸化式の検証
問題: P(n) = P(n-1) + P(n-5) が成り立つことを P(8) で確認せよ。
解答:
P(8) = 7
P(7) = 5, P(3) = 2
P(7) + P(3) = 5 + 2 = 7 = P(8) ✓
例題3: 組み合わせ論的解釈
問題: 6を2と3の和で表す方法は何通りか?
解答:
P(4) = 2 なので、答えは2通り
確認:
- 2 + 2 + 2
- 3 + 3
練習問題
- P(15)を求めよ
- P(0) + P(1) + … + P(8) を計算し、P(13) – 2 と等しいことを確認せよ
- P(12) = 16 は完全平方数である。次のパドヴァン完全平方数を求めよ
関連する数学的対象
トリボナッチ数列
定義:
T(n) = T(n-1) + T(n-2) + T(n-3)
初期値: T(0) = 0, T(1) = 0, T(2) = 1
特徴:
- 直前の3項すべてを足す
- パドヴァンは直前の1項をスキップ
ペル数列
定義:
Pell(n) = 2·Pell(n-1) + Pell(n-2)
特徴:
- 隣接項の比が白銀比 1 + √2 ≈ 2.414… に収束
リュカ数列
定義:
L(n) = L(n-1) + L(n-2)
初期値: L(0) = 2, L(1) = 1
特徴:
- フィボナッチと同じ漸化式、異なる初期値
- ペラン数列とパドヴァン数列の関係に類似
プログラミング実装
Python実装例
def padovan(n):
"""パドヴァン数列の第n項を返す"""
if n <= 2:
return 1
p0, p1, p2 = 1, 1, 1
for i in range(3, n + 1):
p_new = p0 + p1
p0, p1, p2 = p1, p2, p_new
return p2
# 最初の20項を表示
for i in range(20):
print(f"P({i}) = {padovan(i)}")
プラスチック数を使った近似計算
import math
# プラスチック数
plastic = (((9 + math.sqrt(69)) / 18) ** (1/3) +
((9 - math.sqrt(69)) / 18) ** (1/3))
s = 1.0453567932525329623
def padovan_approx(n):
"""プラスチック数を使った近似計算"""
return round((plastic ** (n - 1)) / s)
# 検証
for i in range(10, 21):
exact = padovan(i)
approx = padovan_approx(i)
print(f"P({i}): 正確={exact}, 近似={approx}")
まとめ: パドヴァン数列の魅力
パドヴァン数列について、重要なポイントをまとめます。
基本定義:
- P(0) = P(1) = P(2) = 1
- P(n) = P(n-2) + P(n-3)
- 数列: 1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, …
フィボナッチとの違い:
- 直前の1項をスキップする
- より緩やかに増加
- 正三角形の螺旋で視覚化
プラスチック数:
- ρ ≈ 1.32471795…
- x³ – x – 1 = 0 の正の実数解
- 隣接項の比の極限
- 黄金比の3次元版
複数の漸化式:
- P(n) = P(n-2) + P(n-3)
- P(n) = P(n-1) + P(n-5) (n ≥ 5)
- Σ P(i) = P(n+5) – 2
応用分野:
- 建築設計(ファン・デル・ラーン)
- 組み合わせ論(和の表現)
- 整数論(素数研究)
歴史:
- 1924年: コルドニエが発見
- 1928年: ファン・デル・ラーンが独立に発見
- 1994年: パドヴァンが紹介
- 1996年: スチュワートが一般化
美しい性質:
- 幾何学的視覚化が可能
- 組み合わせ論的解釈がある
- 完全平方数を含む
- ペラン数列との深い関係

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