ネーターの定理とは|対称性と保存則をつなぐ物理学の美しい定理

数学

「なぜエネルギーは保存されるのか」「なぜ運動量は保存されるのか」と考えたことはありますか。
これらの保存則は、単なる経験則ではなく、もっと深い原理から導かれています。

ドイツの数学者エミー・ネーターが1918年に公表した「ネーターの定理」は、物理学における対称性と保存則の関係を明らかにした画期的な定理です。
この定理により、時間の対称性からエネルギー保存則が、空間の対称性から運動量保存則が導かれることが証明されました。

この記事では、ネーターの定理の意味、重要性、具体的な例、そして現代物理学における応用まで、中学3年生でも理解できるようわかりやすく解説します。

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  1. ネーターの定理とは何か
    1. 定理の内容
    2. なぜ重要なのか
    3. 対称性とは
  2. エミー・ネーターとその業績
    1. エミー・ネーターの生涯
    2. ゲッティンゲン大学時代
    3. 定理の発表
    4. 晩年とアメリカ亡命
  3. 対称性と保存則の対応関係
    1. 時間並進対称性とエネルギー保存則
    2. 空間並進対称性と運動量保存則
    3. 回転対称性と角運動量保存則
    4. その他の対称性と保存則
  4. ネーターの定理の数学的定式化
    1. ラグランジアンの定義
    2. 作用積分の定義
    3. ネーターの定理の数学的表現
  5. 具体的な例で理解する
    1. 例1:自由粒子の運動
    2. 例2:中心力場における運動
    3. 例3:単振動
    4. 例4:循環座標
  6. 解析力学における位置づけ
    1. ラグランジュ形式
    2. ハミルトン形式
    3. ポアソン括弧との関係
  7. 場の理論への拡張
    1. 場の理論における対称性
    2. ネーターカレントとネーターチャージ
    3. 電磁場のゲージ対称性
    4. エネルギー運動量テンソル
  8. 現代物理学における応用
    1. 素粒子物理学
    2. 一般相対性理論
    3. 量子場の理論
    4. 超対称性理論
  9. 対称性の破れと保存則の破れ
    1. 対称性の破れの種類
    2. エネルギー保存則と宇宙の膨張
    3. CP対称性の破れ
  10. ネーターの定理の限界と拡張
    1. 適用できない場合
    2. 離散対称性と保存則
    3. 一般化と拡張
  11. よくある質問
    1. ネーターの定理はニュートン力学でも成り立つのか
    2. 対称性がなければ保存則はないのか
    3. 量子力学でもネーターの定理は成り立つのか
    4. ネーターの第一定理と第二定理の違いは何か
  12. まとめ

ネーターの定理とは何か

ネーターの定理の基本的な内容を説明します。

定理の内容

ネーターの定理は、以下のように表現されます。

「物理系に連続的な対称性がある場合、それに対応する保存則が存在する」

もう少し詳しく言うと、系のラグランジアン(運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの差)に何らかの対称性がある場合、その対称性に対応する物理量が時間的に変化しない保存量となります。

なぜ重要なのか

ネーターの定理は、以下の理由で物理学において極めて重要です。

エネルギー保存則や運動量保存則などの基本的な保存則が、単なる経験則ではなく、より深い原理(対称性)から必然的に導かれることを示しました。
対称性から保存量を体系的に見つける方法を提供しました。
現代の素粒子物理学や場の理論の基礎となっています。
理論を構築する際の指針となり、どのような保存則が存在するかを予測できます。

アインシュタインは、ネーターの定理を「深遠な数学的思考」と称賛しました。

対称性とは

対称性とは、ある変換を行っても物理法則が変わらない性質のことです。

例えば、実験を今日行っても明日行っても同じ結果が得られるなら、その物理法則には「時間並進対称性」があります。
実験を東京で行っても大阪で行っても同じ結果が得られるなら、その物理法則には「空間並進対称性」があります。

このような対称性が存在する場合、必ず対応する保存量が存在するというのがネーターの定理です。

エミー・ネーターとその業績

ネーターの定理を証明した数学者について紹介します。

エミー・ネーターの生涯

アマーリエ・エミー・ネーター(Amalie Emmy Noether)は、1882年にドイツのエアランゲンで生まれました。

父マックス・ネーターも著名な数学者でした。
当時のドイツでは女性の大学入学が制限されていましたが、特別聴講生として数学を学びました。
1907年にエアランゲン大学で博士号を取得しました。

ゲッティンゲン大学時代

1915年、ダフィット・ヒルベルトとフェリックス・クラインに招かれ、ゲッティンゲン大学に移りました。

彼女はアインシュタインの一般相対性理論に関する数学的問題を解決するために招かれました。
しかし、女性であることを理由に正式な教員としての地位を与えられませんでした。
ヒルベルトは「ここは大学であって浴場ではない」と述べて彼女の採用を擁護しましたが、認められませんでした。

定理の発表

ネーターの定理は1915年に証明され、1918年7月16日にゲッティンゲン王立学会で発表されました。

ネーター自身は学会員ではなかったため、フェリックス・クラインが代わりに発表しました。
論文のタイトルは「不変変分問題」(Invariante Variationsprobleme)です。
この論文で、現在「ネーターの第一定理」と「ネーターの第二定理」と呼ばれる2つの定理を証明しました。

晩年とアメリカ亡命

1933年、ナチス政権により全てのユダヤ系教員が大学から追放されました。

ネーターはアメリカに亡命し、ペンシルベニア州のブリンマー大学で教鞭を執りました。
1935年、腫瘍の摘出手術を受けましたが、術後の感染により4日後に53歳で亡くなりました。

アインシュタインはニューヨーク・タイムズに追悼文を寄せ、「高等教育が女性に開かれて以来、最も重要な創造的数学者」と称えました。

対称性と保存則の対応関係

ネーターの定理により、どの対称性がどの保存則に対応するかが明らかになります。

時間並進対称性とエネルギー保存則

時間並進対称性とは、物理法則が時間に依存しない性質です。

実験を今日行っても明日行っても同じ結果が得られる場合、その系には時間並進対称性があります。
ラグランジアンが時間を陽に含まない場合、時間並進対称性を持ちます。

ネーターの定理により、時間並進対称性がある場合、エネルギーが保存されることが証明されます。

空間並進対称性と運動量保存則

空間並進対称性とは、物理法則が空間位置に依存しない性質です。

実験を東京で行っても大阪で行っても同じ結果が得られる場合、その系には空間並進対称性があります。
系全体を一定方向に平行移動しても物理法則が変わらない場合、並進対称性があります。

ネーターの定理により、空間並進対称性がある場合、運動量が保存されることが証明されます。

回転対称性と角運動量保存則

回転対称性とは、物理法則が空間の方向に依存しない性質です。

宇宙には特別な方向がなく、どの方向を向いても物理法則は同じです。
系全体を回転させても物理法則が変わらない場合、回転対称性があります。

ネーターの定理により、回転対称性がある場合、角運動量が保存されることが証明されます。

その他の対称性と保存則

ネーターの定理は、上記以外の対称性と保存則の関係も説明します。

ゲージ対称性(電磁場のゲージ変換に対する不変性)は、電荷保存則に対応します。
ローレンツ変換に対する対称性は、相対論的な保存量に対応します。
内部対称性(アイソスピン対称性など)は、素粒子物理学における保存則に対応します。

ネーターの定理の数学的定式化

ネーターの定理を数学的に表現します。

ラグランジアンの定義

ラグランジアンLは、運動エネルギーTとポテンシャルエネルギーUの差として定義されます。

L = T – U

例えば、質量mの質点が速度vで運動し、位置xにポテンシャルエネルギーU(x)を持つ場合、ラグランジアンは以下のようになります。

L = (1/2)mv² – U(x)

作用積分の定義

作用Sは、ラグランジアンの時間積分として定義されます。

S = ∫ L dt

物理系は、作用が最小(または停留値)となるように運動します。
これを「最小作用の原理」または「ハミルトンの原理」と呼びます。

ネーターの定理の数学的表現

座標qに対する無限小変換q → q + εf(q)を考えます。
ここでεは微小パラメータ、f(q)は座標の関数です。

この変換に対してラグランジアンが不変である場合、以下の量が保存されます。

C = Σ (∂L/∂q̇ᵢ) fᵢ(q)

ここで∂L/∂q̇ᵢは一般化運動量と呼ばれます。

具体的な例で理解する

実際の物理系を例に、ネーターの定理を確認します。

例1:自由粒子の運動

外力が働かない自由粒子を考えます。

ラグランジアンは L = (1/2)mv² です。
このラグランジアンは位置xに依存しないため、並進対称性があります。

ネーターの定理により、運動量 p = mv が保存されます。
実際、外力がなければ運動量は一定に保たれます。

例2:中心力場における運動

重力や静電気力のような中心力が働く場合を考えます。

ポテンシャルエネルギーU(r)は、中心からの距離rのみに依存します。
このラグランジアンは回転に対して不変です(回転対称性)。

ネーターの定理により、角運動量が保存されます。
惑星の公転運動において角運動量が保存されるのは、この対称性のためです。

例3:単振動

ばねにつながれた質点の運動を考えます。

ラグランジアンは L = (1/2)mx̂² – (1/2)kx² です。
このラグランジアンは時間を陽に含まないため、時間並進対称性があります。

ネーターの定理により、エネルギー E = (1/2)mx̂² + (1/2)kx² が保存されます。

例4:循環座標

ラグランジアンがある座標qₖに依存しない場合、その座標を「循環座標」と呼びます。

例えば、球座標(r, θ, φ)で表されたラグランジアンが角度φを含まない場合、φは循環座標です。
この場合、φに対応する運動量が保存されます。

これは、回転対称性がある場合の角運動量保存則の特殊な場合です。

解析力学における位置づけ

ネーターの定理は解析力学の枠組みで定式化されます。

ラグランジュ形式

ラグランジュ形式では、ラグランジアンから運動方程式が導かれます。

ラグランジュ方程式は以下のように表されます。

d/dt (∂L/∂q̇ᵢ) – ∂L/∂qᵢ = 0

この枠組みでネーターの定理を適用すると、対称性から直接保存量を導出できます。

ハミルトン形式

ハミルトン形式では、ハミルトニアンから運動方程式が導かれます。

ハミルトニアンHは、ラグランジアンのルジャンドル変換として定義されます。
正準方程式は以下のように表されます。

dqᵢ/dt = ∂H/∂pᵢ
dpᵢ/dt = -∂H/∂qᵢ

ハミルトン形式でも、対称性と保存量の関係を定式化できます。

ポアソン括弧との関係

ハミルトン形式では、保存量はハミルトニアンとのポアソン括弧がゼロになる量として特徴づけられます。

物理量Aがハミルトニアンhと可換({A, H} = 0)であれば、Aは保存量です。
ネーターの定理は、この関係を対称性の観点から説明します。

対称性変換の生成子がハミルトニアンと可換であれば、その生成子が保存量となります。

場の理論への拡張

ネーターの定理は、粒子の運動だけでなく場の理論にも適用できます。

場の理論における対称性

場の理論では、粒子ではなく場φ(x,t)を基本的な対象とします。

場のラグランジアン密度Lから作用を定義します。
場に対する変換φ → φ’に対して作用が不変であれば、対称性があります。

ネーターカレントとネーターチャージ

場の理論におけるネーターの定理は、保存量を「ネーターカレント」として表現します。

ネーターカレントjμは4元ベクトルで、以下の連続方程式を満たします。

∂μjμ = 0

ネーターカレントを空間積分した量をネーターチャージと呼び、これが保存量となります。

電磁場のゲージ対称性

電磁場の理論は、ゲージ変換に対する対称性を持ちます。

ゲージ対称性から、電荷保存則が導かれます。
4元電流密度jμの保存則は、∂μjμ = 0 と表されます。

これは、ネーターの定理をゲージ対称性に適用した結果です。

エネルギー運動量テンソル

時空の並進対称性からは、エネルギー運動量テンソルTμνが導かれます。

エネルギー運動量テンソルの保存則は、∂μTμν = 0 と表されます。
T⁰⁰成分がエネルギー密度、T⁰ⁱ成分が運動量密度に対応します。

一般相対性理論では、エネルギー運動量テンソルが重力場の源となります。

現代物理学における応用

ネーターの定理は、現代物理学の様々な分野で重要な役割を果たしています。

素粒子物理学

素粒子物理学の標準模型は、ゲージ対称性に基づいて構築されています。

電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用は、それぞれU(1)、SU(2)、SU(3)というゲージ対称性から導かれます。
これらの対称性から、電荷、弱アイソスピン、カラーチャージの保存則が導かれます。

ネーターの定理は、これらの保存則の理論的基礎を与えています。

一般相対性理論

ネーターの定理は、もともと一般相対性理論の問題を解決するために導かれました。

一般相対性理論では、エネルギーの局所的な定義が困難でした。
ネーターの定理により、時空の対称性から保存量を導出する方法が明らかになりました。

特に、ネーターの第二定理は、一般座標変換の対称性と関係しています。

量子場の理論

量子場の理論でも、ネーターの定理は基本的な役割を果たします。

対称性の自発的破れの現象を理解する上で重要です。
南部・ゴールドストーンの定理は、連続対称性の自発的破れに伴って質量ゼロの粒子(南部・ゴールドストーン粒子)が現れることを述べます。

これらの現象の理解にも、ネーターの定理の枠組みが不可欠です。

超対称性理論

超対称性理論では、ボゾンとフェルミオンを結びつける対称性を考えます。

超対称性変換に対してもネーターの定理が適用でき、超対称チャージという保存量が導かれます。
超対称性理論は、素粒子物理学の未解決問題を解決する候補として研究されています。

対称性の破れと保存則の破れ

対称性が完全でない場合、保存則も厳密には成り立ちません。

対称性の破れの種類

対称性の破れには、明示的な破れと自発的な破れがあります。

明示的な破れは、ラグランジアンに対称性を破る項が含まれる場合です。
自発的な破れは、ラグランジアンは対称でも基底状態(真空)が対称性を持たない場合です。

エネルギー保存則と宇宙の膨張

膨張宇宙では、厳密には時間並進対称性が成り立たないため、エネルギー保存則が破れます。

宇宙の膨張により、光子のエネルギーは赤方偏移によって減少します。
ダークエネルギーの振る舞いも、通常のエネルギー保存則では説明できません。

これは、時空そのものが動的に変化しているためです。

CP対称性の破れ

素粒子物理学では、CP対称性(粒子と反粒子を入れ替え、さらに鏡像反転する対称性)が破れていることが観測されています。

K中間子やB中間子の崩壊で、CP対称性の破れが実験的に確認されました。
この破れは、宇宙に物質が反物質より多く存在する理由の一つと考えられています。

対称性の破れは、物理学の新しい発見につながる重要な現象です。

ネーターの定理の限界と拡張

ネーターの定理にも適用範囲の限界があります。

適用できない場合

ネーターの定理は、以下の場合には直接適用できません。

散逸系(摩擦がある系)では、エネルギーが熱に変わるため、機械的エネルギー保存則は成り立ちません。
離散的な対称性(鏡像対称性など)には、ネーターの定理は直接適用できません。
量子力学的な異常(アノマリー)により、古典論では保存される対称性が量子論では破れる場合があります。

離散対称性と保存則

離散的な対称性にも、保存則が対応する場合があります。

空間反転対称性(パリティ)は、離散的な対称性です。
時間反転対称性も、離散的な対称性です。

これらの対称性にも保存量が対応しますが、連続的な対称性とは異なる扱いが必要です。

一般化と拡張

ネーターの定理は、様々な方向に一般化されています。

無限次元の対称性に対する拡張があります。
ツイスター理論など、より抽象的な数学的枠組みへの拡張も研究されています。

現代的な観点では、ネーターの定理は微分幾何学や代数的トポロジーの言葉で再定式化されています。

よくある質問

ネーターの定理に関するよくある質問に答えます。

ネーターの定理はニュートン力学でも成り立つのか

はい、成り立ちます。

ニュートン力学もラグランジアンの形式で書き直すことができます。
この場合、ネーターの定理から運動量保存則やエネルギー保存則が導かれます。

実際、ネーターの定理は古典力学、量子力学、場の理論すべてに適用できる普遍的な定理です。

対称性がなければ保存則はないのか

はい、連続的な対称性がない場合、対応する厳密な保存則は存在しません。

ただし、近似的な対称性があれば、近似的な保存則が成り立ちます。
また、離散的な対称性に対応する保存量も存在します。

量子力学でもネーターの定理は成り立つのか

はい、量子力学でもネーターの定理は成り立ちます。

古典力学のラグランジアンを量子化すると、ハミルトニアンや観測可能量が得られます。
古典論での対称性が量子論でも保存される場合、対応する保存量が存在します。

ただし、古典論では対称だった理論が量子論で対称性を失う「量子異常」という現象もあります。

ネーターの第一定理と第二定理の違いは何か

ネーターの1918年の論文には、2つの定理が含まれています。

第一定理は、有限個のパラメータを持つ対称性(大域的対称性)と保存量の関係を述べます。
第二定理は、無限個のパラメータを持つ対称性(局所的対称性)に関する定理で、一般相対性理論と関係しています。

通常「ネーターの定理」と言う場合、第一定理を指すことが多いです。

まとめ

ネーターの定理は、物理学における対称性と保存則の深い関係を明らかにした定理です。

エミー・ネーターが1915年に証明し、1918年に公表したこの定理は、現代物理学の基礎となっています。
時間並進対称性からエネルギー保存則、空間並進対称性から運動量保存則、回転対称性から角運動量保存則が導かれます。
ネーターの定理は、古典力学、場の理論、量子力学、一般相対性理論、素粒子物理学など、物理学のあらゆる分野で応用されています。

ネーターの定理の美しさは、抽象的な数学的概念(対称性)と具体的な物理現象(保存則)を結びつける点にあります。
この定理により、保存則は単なる経験則ではなく、より深い原理から必然的に導かれることが明らかになりました。

エミー・ネーターは女性であることを理由に当時のアカデミアで正当な評価を受けられませんでしたが、彼女の業績は今日では物理学と数学の両分野で最も重要なものの一つとして認識されています。

ネーターの定理を理解することは、物理学の根本原理を理解する上で不可欠です。
対称性という美しい概念が、私たちの宇宙を支配する保存則の源であることを示したネーターの洞察は、まさに物理学史上の金字塔と言えるでしょう。

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