「この関数は無限回微分可能です」
数学の授業や教科書で、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
「無限回微分って、本当に無限回も微分するの?」
「微分可能と無限回微分可能は何が違うの?」
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、無限回微分可能(C^∞級関数)について、中学生にもわかるように基礎から丁寧に解説します。
微分可能性の階層を理解しよう

無限回微分可能を理解するには、まず関数の「滑らかさ」の階層を知る必要があります。
連続関数(C^0級)
関数が「つながっている」「途切れていない」状態です。
例:y = |x|(絶対値関数)
この関数は連続ですが、x = 0で折れ曲がっています。
微分可能な関数
導関数(微分した関数)が存在する関数です。
ただし、導関数が存在しても、その導関数が連続とは限りません。
C^1級関数(1階連続的微分可能)
導関数が存在し、なおかつその導関数が連続である関数です。
定義
関数f(x)がC^1級であるとは、以下の条件を満たすことです。
- f(x)が微分可能
- 導関数f'(x)が連続
具体例
- y = x^2(2次関数)
- y = sin x(正弦関数)
- y = e^x(指数関数)
これらはすべてC^1級です。
C^1級でない例
f(x) = x^2 sin(1/x) (x ≠ 0のとき)
f(x) = 0 (x = 0のとき)
この関数は微分可能ですが、導関数がx = 0で連続ではないため、C^1級ではありません。
C^n級関数(n階連続的微分可能)
n回微分でき、n階導関数が連続である関数です。
定義
関数f(x)がC^n級であるとは、以下の条件を満たすことです。
- n階導関数f^(n)(x)が存在する
- f(x), f'(x), f”(x), …, f^(n)(x)がすべて連続
具体例:C^2級だがC^3級でない関数
f(x) = x|x| = x^2 (x ≥ 0のとき)
f(x) = -x^2 (x < 0のとき)
この関数はC^1級(1回微分可能で連続)ですが、2階導関数がx = 0で微分可能ではないため、C^2級ではありません。
より一般的には、以下の関数があります。
f(x) = x^(n+1) (x ≥ 0のとき)
f(x) = -x^(n+1) (x < 0のとき)
この関数はC^n級ですが、n階導関数がx = 0で微分可能ではないため、C^(n+1)級ではありません。
無限回微分可能(C^∞級関数)とは

定義
関数f(x)が無限回微分可能(C^∞級、C-infinity級)であるとは、何回でも微分できる関数のことです。
正確な定義
すべての自然数nについて、n階導関数f^(n)(x)が存在し、連続であることを意味します。
重要な注意点
「無限回微分可能」という言葉は少し誤解を招きやすいです。
「無限回微分」という操作があるわけではありません。
正しい意味は、「任意の回数だけ微分できる」ということです。
- 1回微分できる
- 2回微分できる
- 3回微分できる
- …
- n回微分できる(任意のnについて)
このように、どんな回数でも微分できる状態を「無限回微分可能」と呼びます。
別名:滑らかな関数(smooth function)
C^∞級関数は、滑らかな関数とも呼ばれます。
直観的には、グラフの各点をどんなに拡大しても尖っていない関数のことです。
無限回微分可能な関数の具体例
以下の関数はすべてC^∞級(無限回微分可能)です。
例1:指数関数
f(x) = e^x
何回微分しても同じ指数関数になります。
- f'(x) = e^x
- f”(x) = e^x
- f”'(x) = e^x
- …
例2:三角関数
f(x) = sin x
f(x) = cos x
三角関数は何回微分しても、sinとcosの組み合わせになります。
sin xの場合
- f'(x) = cos x
- f”(x) = -sin x
- f”'(x) = -cos x
- f^(4)(x) = sin x
- …(4回ごとに元に戻る)
例3:多項式関数
f(x) = x^n(nは自然数)
多項式関数も無限回微分可能です。
ただし、ある回数以上微分すると0になります。
例:f(x) = x^3の場合
- f'(x) = 3x^2
- f”(x) = 6x
- f”'(x) = 6
- f^(4)(x) = 0
- f^(5)(x) = 0
- …(以降すべて0)
例4:定数関数
f(x) = c(cは定数)
定数関数も無限回微分可能です。
1回微分すると0になり、それ以降も0のままです。
例5:有理関数(分数関数)
f(x) = 1/(1+x^2)
定義域内では無限回微分可能です。
例6:対数関数
f(x) = log x(x > 0)
正の実数の範囲で無限回微分可能です。
関数の階層関係

関数の滑らかさには、以下のような包含関係があります。
C^ω級 ⊂ C^∞級 ⊂ C^n級 ⊂ ... ⊂ C^2級 ⊂ C^1級 ⊂ 微分可能 ⊂ 連続 ⊂ すべての関数
- C^ω級:解析的(テイラー展開可能)
- C^∞級:無限回微分可能
- C^n級:n回微分可能で、n階導関数が連続
- C^1級:1回微分可能で、導関数が連続
- C^0級:連続関数
重要なポイント
- より滑らかな関数ほど、左側に位置します
- 左側にある関数は、右側の性質もすべて満たします
- 逆は成立しません(例:連続だからといって微分可能とは限らない)
C^∞級関数 vs 解析関数(C^ω級)
無限回微分可能よりもさらに強い条件として、解析的(analytic)という概念があります。
解析関数(C^ω級)の定義
関数がある点の近傍でテイラー展開(べき級数展開)できるとき、その関数は解析的であるといいます。
テイラー展開とは
関数f(x)をx = aの周りでべき級数で表すことです。
f(x) = f(a) + f'(a)(x-a) + f''(a)(x-a)^2/2! + f'''(a)(x-a)^3/3! + ...
重要な事実
解析的 ⇒ 無限回微分可能
解析的な関数は必ず無限回微分可能です。
しかし、逆は成立しません。
無限回微分可能でも、テイラー展開できない関数が存在します。
無限回微分可能だがテイラー展開できない例
最も有名な例は、以下の関数です。
f(x) = e^(-1/x) (x > 0のとき)
f(x) = 0 (x ≤ 0のとき)
この関数の特徴
1. 無限回微分可能
この関数は、x = 0を含むすべての点で無限回微分可能です。
2. x = 0でのすべての導関数が0
x = 0における任意の階数の導関数は、すべて0になります。
- f(0) = 0
- f'(0) = 0
- f”(0) = 0
- f”'(0) = 0
- …
3. テイラー展開できない
x = 0を中心としたテイラー級数は、
g(x) = 0 + 0・x + 0・x^2 + 0・x^3 + ... = 0(恒等的に0)
となります。
しかし、元の関数はx > 0で正の値を持ちます。
f(x) = e^(-1/x) > 0 (x > 0)
したがって、f(x) ≠ g(x)となる点が存在し、テイラー展開できません。
なぜこんなことが起きるのか
テイラー級数は、ある点での関数の値と導関数の情報から、関数全体を再構成しようとします。
しかし、上の例では、x = 0での情報(すべての導関数が0)だけでは、x > 0での振る舞い(正の値を持つ)を再現できません。
この関数の「指数関数的な減衰」が、どんな多項式近似でも捉えられないほど急激だからです。
バンプ関数:応用上重要な例
上記の関数を使って、バンプ関数(bump function)という重要な関数を作ることができます。
バンプ関数の定義
特定の範囲でのみ正の値を持ち、その外側では0になる無限回微分可能な関数です。
例
f(x) = e^(-1/(1-x^2)) (|x| < 1のとき)
f(x) = 0 (|x| ≥ 1のとき)
この関数は、
- x ∈ (-1, 1)で正の値
- |x| ≥ 1で0
- すべての実数で無限回微分可能
という性質を持ちます。
バンプ関数の応用
バンプ関数は、以下の分野で非常に重要です。
1. 分配関数(partition of unity)の構成
微分可能多様体の理論で必須の道具です。
2. モリファイアー(mollifier)
超関数(分布)の理論で使われます。
3. 数値解析
滑らかな近似や補間に使用されます。
4. 信号処理
ウィンドウ関数として使用されます。
複素関数の場合:特別な性質

複素数の関数(複素関数)の場合、状況が劇的に変わります。
正則関数は自動的に解析的
複素関数が1回でも複素微分可能(正則)であれば、自動的に無限回微分可能であり、さらに解析的です。
これは実関数とは大きく異なる性質です。
実関数の場合
- 1回微分可能 ⇏ 無限回微分可能
- 無限回微分可能 ⇏ 解析的
複素関数の場合
- 1回微分可能 ⇒ 無限回微分可能 ⇒ 解析的
このため、複素解析では「無限回微分可能だが解析的でない関数」は存在しません。
多変数関数の場合
2変数以上の関数でも、無限回微分可能性を定義できます。
定義
関数f(x, y)がC^n級であるとは、n階のすべての偏導関数が存在し、連続であることを意味します。
例:C^2級の条件
以下の4つの2階偏導関数がすべて存在し、連続であること。
- ∂^2f/∂x^2(xで2回偏微分)
- ∂^2f/∂x∂y(xとyで1回ずつ偏微分)
- ∂^2f/∂y∂x(yとxで1回ずつ偏微分)
- ∂^2f/∂y^2(yで2回偏微分)
シュワルツの定理
f(x, y)がC^2級ならば、偏微分の順序を交換できます。
∂^2f/∂x∂y = ∂^2f/∂y∂x
これは、C^n級(n ≥ 2)の関数では、n階までの偏微分の順序を自由に入れ替えられることを意味します。
無限回微分可能性の応用
無限回微分可能性は、数学のさまざまな分野で重要な役割を果たします。
1. 微分方程式論
微分方程式の解の滑らかさを議論するときに必要です。
例:熱方程式
∂u/∂t = Δu(Δはラプラシアン)
初期条件が連続であっても、解は瞬時に無限回微分可能になります。
2. 微分幾何学
滑らかな多様体(smooth manifold)の理論では、座標変換が無限回微分可能であることが要求されます。
3. 関数解析
無限回微分可能な関数の空間C^∞は、関数解析における重要な例です。
4. 物理学
古典力学や電磁気学では、物理量が無限回微分可能であることを仮定します。
例:物体の運動
物体の位置x(t)が時間tの関数として表されるとき、
- x(t):位置
- x'(t):速度
- x”(t):加速度
物理法則を記述するには、少なくともC^2級が必要です。
滑らかな運動を表現するには、C^∞級が望ましいです。
5. 数値解析
滑らかな関数は、数値計算で近似しやすいという利点があります。
6. 信号処理・画像処理
フィルタリングやスムージングで、滑らかな関数が使われます。
よくある質問

Q1:無限回微分可能な関数は、どのくらい「珍しい」のですか?
A:実は、ほとんどの「よく知られた関数」は無限回微分可能です。
初等関数(指数関数、三角関数、多項式、対数など)とその組み合わせは、ほぼすべて無限回微分可能です。
逆に、微分不可能な点を持つ関数を意図的に構成する方が難しいくらいです。
ただし、には、連続関数の中でC^1級関数は「やせた集合」(測度0の集合)です。
つまり、「ほとんどの」連続関数は、どこかで微分不可能です。
Q2:テイラー展開できない無限回微分可能な関数は、実用上重要ですか?
A:はい、非常に重要です。
特に、バンプ関数は以下の応用があります。
- 分配関数の構成(微分幾何学)
- モリファイアー(超関数論)
- 有限要素法(数値解析)
- ウィンドウ関数(信号処理)
これらは、「滑らかに切り貼りする」ために必須の道具です。
Q3:無限回微分可能かどうかを判定する簡単な方法はありますか?
A:以下のルールが役立ちます。
無限回微分可能な関数
- 初等関数(e^x, sin x, cos x, x^n)
- 初等関数の有限回の和・差・積・商(定義域内)
- 初等関数の合成関数(定義域内)
無限回微分可能でない可能性がある関数
- 絶対値を含む関数(|x|, |sin x|など)
- 場合分け(piecewise)で定義された関数
- 分数関数の分母が0になる点の近く
Q4:C^∞級とC^ω級の違いを一言で言うと?
A:C^∞級は「無限回微分できる」、C^ω級は「べき級数で表せる」
C^ω級の方がより強い条件です。
C^ω級 ⊂ C^∞級
実関数では、C^∞級だがC^ω級でない関数が存在します。
複素関数では、両者は一致します(正則なら自動的に解析的)。
Q5:物理学で「滑らかな関数」を仮定するのはなぜですか?
A:以下の理由があります。
1. 物理法則の記述
ニュートンの運動方程式F = maは、2階微分が必要です。
より複雑な法則では、さらに高階の微分が現れることもあります。
2. 連続性の要請
物理量が突然ジャンプすることは通常ありません。
滑らかに変化することが自然です。
3. 数学的な扱いやすさ
無限回微分可能な関数は、テイラー展開や摂動論などの数学的手法が使えます。
4. 現実の近似
実際の物理現象は、原子・分子レベルでは不連続ですが、マクロなスケールでは滑らかに見えます。
Q6:「滑らかでない」関数も物理で使われますか?
A:はい、使われます。
例
- デルタ関数(ディラックのデルタ関数)
- ヘビサイドのステップ関数
- パルス関数
これらは厳密には関数ではなく、超関数(分布)と呼ばれる数学的対象です。
物理学では、理想化されたモデルとして頻繁に使用されます。
まとめ:無限回微分可能性の重要性
無限回微分可能(C^∞級関数)について解説しました。
重要なポイント
- 定義:任意の回数だけ微分でき、すべての導関数が連続
- 別名:滑らかな関数(smooth function)
- 記号:C^∞級関数
- 階層:C^ω ⊂ C^∞ ⊂ C^n ⊂ … ⊂ C^1 ⊂ 連続
無限回微分可能な関数の例
- 指数関数:e^x
- 三角関数:sin x, cos x
- 多項式:x^n
- 対数関数:log x(x > 0)
- 有理関数:1/(1+x^2)
無限回微分可能 ≠ テイラー展開可能
無限回微分可能でも、テイラー展開できない関数が存在します。
f(x) = e^(-1/x) (x > 0)
f(x) = 0 (x ≤ 0)
複素関数は特別
複素関数が1回でも微分可能なら、自動的に無限回微分可能かつ解析的です。
応用分野
- 微分方程式論
- 微分幾何学
- 関数解析
- 物理学(古典力学、電磁気学)
- 数値解析
- 信号処理
バンプ関数の重要性
無限回微分可能で、コンパクトな台を持つ関数(バンプ関数)は、数学の多くの分野で重要な役割を果たします。
実用的な判定方法
初等関数とその組み合わせは、ほとんどの場合、無限回微分可能です。
絶対値や場合分けを含む関数は、注意が必要です。
無限回微分可能性は、一見抽象的な概念に思えますが、実は数学と物理学の基礎を支える重要な性質です。
「滑らかさ」という直観的なイメージを、厳密な数学的概念に昇華させたものが、C^∞級関数の理論なのです。
この概念を理解することで、微分積分学の理論がより深く、より広い視野で見えてくるはずです。

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