流束とは?ベクトル解析の基礎から物理への応用まで徹底解説

数学

「流束(りゅうそく)」または「フラックス(flux)」という言葉を聞いたことはありますか?

大学の数学や物理学で出てくるこの概念は、一見難しそうに思えるかもしれません。でも実は、私たちの身の回りにある様々な現象を理解するための非常に重要な道具なんです。

水の流れ、電場、磁場、熱の移動──これらすべてに流束の考え方が関わっています。

流束を簡単に言えば、「ある面を通過する何かの量」です。川の断面を単位時間あたりにどれだけの水が流れるか、窓ガラスを単位時間あたりにどれだけの熱が通過するか、といったことを数学的に表現するのが流束なんです。

この記事では、流束の基本的な意味から、数学的な定義、物理学での応用まで、わかりやすく解説していきます。


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流束の基本的なイメージ

日常的な例で理解する

流束を理解する最も簡単な方法は、水の流れを考えることです。

例:川の流れ

川に枠を立てて、その枠を単位時間(1秒間など)にどれだけの水が通過するかを測るとします。

  • 流れが速いほど、多くの水が通過する
  • 枠が大きいほど、多くの水が通過する
  • 枠が流れに対して垂直に立っているときが最も多くの水が通過する

この「枠を通過する水の量」が、まさに流束の考え方です。

より一般的な定義

流束とは、ある面を単位時間あたりに通過する何かの総量のことです。

「何か」は状況によって変わります:

  • 流体力学では:流体の体積や質量
  • 電磁気学では:電場や磁場
  • 熱力学では:熱エネルギー
  • その他:光、粒子、運動量など

ベクトル場と流束

ベクトル場とは

流束を数学的に理解するには、まず「ベクトル場」という概念を知る必要があります。

ベクトル場とは、空間の各点にベクトル(大きさと向きを持つ量)が定義されている状態のことです。

例:

  • 風速場:各地点での風の速さと方向
  • 電場:各地点での電気力の大きさと方向
  • 重力場:各地点での重力の大きさと方向

流束の数学的定義

ベクトル場 F があり、そこにある面 S があるとき、この面を通過する流束 Φ は次のように定義されます:

Φ = ∫∫_S F · n dS

ここで:

  • F:ベクトル場
  • n:面に垂直な単位法線ベクトル
  • dS:面の微小面積要素
  • ·:内積(ドット積)

この式は「面の各微小部分について、ベクトル場と法線方向の成分を掛け合わせて、それを面全体で足し合わせる」という意味です。


流束の物理的意味

内積 F · n の意味

ベクトル場 F と法線ベクトル n の内積 F · n は、ベクトル場の法線方向の成分を表します。

つまり、面を通過する方向の成分だけを取り出しているんです。

例えば:

  • ベクトル場が面に垂直 → F · n は最大
  • ベクトル場が面に平行 → F · n はゼロ(何も通過しない)
  • ベクトル場が面に斜め → F · n は中間の値

面積との関係

微小面積 dS が大きいほど、より多くの流束が通過します。

これは直感的にもわかりますよね。窓が大きければ大きいほど、より多くの光が入ってくるのと同じです。

積分の意味

面全体にわたって積分することで、面全体を通過する総流束を求めます。

面の場所によってベクトル場の強さや向きが変わる場合でも、この積分によって正確に総流束を計算できます。


流束密度と流束の違い

流束密度

流束密度(flux density)は、単位面積あたりの流束のことです。

実は、ベクトル場 F そのものが流束密度を表していることが多いです。

例:

  • 電流密度:単位面積あたりの電流
  • 熱流束密度:単位面積あたりの熱の流れ
  • 質量流束密度:単位面積あたりの質量の流れ

流束

流束は、ある面全体を通過する総量です。

流束 = 流束密度 × 面積(面が一様で、流束密度が一定の場合)

より一般的には、流束は流束密度を面全体で積分したものになります。


閉曲面を通る流束と発散

閉曲面とは

閉曲面とは、ある立体の表面を完全に囲む曲面のことです。

例:球の表面、立方体の表面、円筒の側面と両端の円盤を合わせたもの

外向きの流束

閉曲面については、通常「外向き」の法線ベクトルを選びます。

閉曲面を通る外向きの流束は、その内部から外部へ流れ出る正味の量を表します。

物理的な意味:

  • 正の流束:内部に「湧き出し」がある(sourceがある)
  • 負の流束:内部に「吸い込み」がある(sinkがある)
  • ゼロの流束:湧き出しと吸い込みが釣り合っている、または何もない

発散(ダイバージェンス)

ベクトル場 F発散(divergence)は、記号 div F または ∇·F で表され、「単位体積あたりの湧き出しの強さ」を示します。

発散の定義:

div F = ∂Fx/∂x + ∂Fy/∂y + ∂Fz/∂z

(デカルト座標系の場合)

ガウスの発散定理

流束と発散を結びつける重要な定理が、ガウスの発散定理(またの名を発散定理)です。

∫∫_S F · n dS = ∫∫∫_V div F dV

ここで:

  • 左辺:閉曲面 S を通る外向き流束
  • 右辺:S に囲まれた領域 V 内での発散の体積積分

この定理は「表面を通る流束の総和は、内部の湧き出しの総和に等しい」ことを示しています。


具体的な計算例

例1:平面を通る流束

ベクトル場 F = (3x, 2y, z) があり、xy平面上の単位円(x² + y² ≤ 1, z = 0)を通る上向きの流束を求めましょう。

解答:

ステップ1:法線ベクトルを決める
xy平面上で上向きなので、n = (0, 0, 1)

ステップ2:F · n を計算する
F · n = (3x, 2y, z) · (0, 0, 1) = z

ステップ3:面上では z = 0 なので
F · n = 0

ステップ4:流束を計算する
Φ = ∫∫ 0 dS = 0

答え:流束は 0

これは、ベクトル場が xy平面上で z成分を持たない(平面に平行)ため、通過する流束がないことを意味します。

例2:球面を通る流束

ベクトル場 F = (x, y, z) があり、原点中心・半径 R の球面を通る外向き流束を求めましょう。

解答:

球面上の点 (x, y, z) での外向き法線ベクトルは n = (x, y, z)/R

F · n = (x, y, z) · (x, y, z)/R = (x² + y² + z²)/R = R²/R = R

球面の表面積は 4πR² なので:

Φ = ∫∫_球面 R dS = R × 4πR² = 4πR³

答え:流束は 4πR³


流束の物理学での応用

1. 電磁気学

電束(電気的な流束):

電場 E の流束は「電束」と呼ばれます。

ガウスの法則:閉曲面を通る電束は、内部の電荷の総量に比例します。

∫∫_S E · n dS = Q/ε₀

ここで Q は内部の電荷、ε₀ は真空の誘電率です。

磁束(磁気的な流束):

磁場 B の流束は「磁束」と呼ばれます。

重要な性質:任意の閉曲面を通る磁束は常にゼロです(磁気単極子が存在しないため)。

∫∫_S B · n dS = 0

2. 流体力学

質量流束:

速度場 v と密度 ρ を持つ流体について、質量流束密度は ρv です。

ある面を通る質量流量(単位時間あたりの質量)は:

dm/dt = ∫∫_S ρv · n dS

連続の式:

流体の質量保存則から、閉曲面を通る正味の質量流出は、内部の質量減少率に等しい:

∫∫_S ρv · n dS = -d/dt ∫∫∫_V ρ dV

3. 熱伝導

熱流束:

熱流束密度(熱流)q は、フーリエの法則によって与えられます:

q = -k∇T

ここで k は熱伝導率、T は温度、∇T は温度勾配です。

ある面を通る熱流量は:

dQ/dt = ∫∫_S q · n dS


流束と保存則

保存則の一般形

物理学における多くの保存則(質量保存、エネルギー保存、運動量保存など)は、流束を使って表現できます。

一般的な形:

∂ρ/∂t + div(ρv) = 0

ここで:

  • ρ:保存量の密度
  • ρv:流束密度
  • この式は「密度の時間変化率 + 流束の発散 = 0」を意味します

積分形と微分形

保存則は、積分形(ある領域全体で成り立つ式)と微分形(各点で成り立つ式)の両方で表現できます。

積分形:
d/dt ∫∫∫_V ρ dV = -∫∫_S ρv · n dS

「領域内の保存量の減少率は、境界を通る外向き流束に等しい」

微分形:
∂ρ/∂t + div(ρv) = 0

発散定理によって、積分形と微分形は等価です。


2次元の流束

曲線を通る流束

3次元の面積分に対応する2次元版として、曲線を通る流束があります。

平面上のベクトル場 F = (P, Q) と曲線 C があるとき、曲線を通る流束は:

Φ = ∫_C F · n ds

ここで n は曲線に垂直な単位法線ベクトルです。

グリーンの定理との関係

2次元のガウスの発散定理に相当するのがグリーンの定理です:

∫_C F · n ds = ∫∫_D div F dA

これは閉曲線 C を通る外向き流束が、C に囲まれた領域 D 内の発散の積分に等しいことを示しています。


まとめ

流束は、ベクトル解析と物理学をつなぐ重要な概念です。

この記事のポイント:

  1. 流束とは: ある面を通過する何かの総量(単位時間あたり)
  2. 数学的定義: Φ = ∫∫_S F · n dS(ベクトル場と法線の内積を面全体で積分)
  3. F · n の意味: 面を通過する方向の成分だけを取り出す
  4. 閉曲面の流束: 内部の湧き出し・吸い込みを表す
  5. 発散: 単位体積あたりの湧き出しの強さ
  6. ガウスの発散定理: 表面を通る流束 = 内部の発散の積分
  7. 物理での応用: 電磁気学(電束、磁束)、流体力学(質量流束)、熱伝導(熱流束)
  8. 保存則: 多くの物理法則が流束を使って表現できる

流束の考え方は、直感的には「何かが面を通過する量」という単純なものですが、それを数学的に厳密に定式化したものがベクトル解析における流束の概念です。

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