「弦(げん)」という言葉を聞いて、まず思い浮かべるのは楽器の弦かもしれませんね。でも数学にも「弦」という重要な概念があるんです。
数学での弦とは、簡単に言えば 円や曲線の上にある2つの点を結んだ線分 のことです。英語では “chord” といい、これは「紐(ひも)」や「コード」と同じ語源を持っています。
この記事では、円の弦の基本から、弦に関する重要な定理、弦の長さの求め方、そして実生活での応用まで、具体例をたっぷり使いながら丁寧に解説していきます。
最後まで読めば、「弦って意外と身近で便利な概念だ!」と思えるはずですよ。
それでは、まず「弦とは何か」から見ていきましょう!
弦の基本定義:円周上の2点を結ぶ線分

弦(げん) とは、円や曲線上にある2つの点を結んだ線分のことです。
円における弦
円の場合、円周上の任意の2点を選んで直線で結ぶと、その線分が弦になります。
説明:
弦は円の内部を通る線分で、両端が円周上にあります。円周の一部(弧)に対応する「橋渡し」のような線分だと考えると分かりやすいですね。
実例:
- 円周上にA点とB点があるとき、線分ABが弦です
- 円周上のどこでも2点を選べば、必ず弦が引けます
- 弦は円の中心を通らなくてもOKです
直径は特別な弦
直径(ちょっけい) は、円の中心を通る弦のことです。
説明:
すべての弦の中で、直径が最も長い弦になります。直径は特別な弦であり、「最長の弦」という性質を持っています。
実例:
- 半径が5cmの円の直径は10cm
- これが最も長い弦です
- 中心を通らない弦は、すべて直径より短くなります
弦と弧の関係
弦に対応して、円周上には 弧(こ) があります。
説明:
弦ABがあるとき、円周はA点とB点で2つの部分に分かれます。この円周の一部分を弧といいます。
実例:
- 弦ABに対して、短い方の弧を「劣弧(れっこ)」
- 長い方の弧を「優弧(ゆうこ)」と呼びます
- 弦の両端を結ぶ経路には、円周を通る方法(弧)と直線で結ぶ方法(弦)の2つがあります
弦の長さを求める方法
弦の長さは、いくつかの方法で求めることができます。
中心角が分かっている場合
円の中心から見た角度(中心角)が分かっていれば、弦の長さを計算できます。
公式:弦の長さ = 2r sin(θ/2)
説明:
- rは円の半径
- θは中心角(ラジアンまたは度)
- sin は三角関数のサイン
実例:
半径10cmの円で、中心角が60度の弦の長さは:
- 弦の長さ = 2 × 10 × sin(60°/2)
- = 20 × sin(30°)
- = 20 × 0.5
- = 10cm
中心からの距離が分かっている場合
弦の中点と円の中心との距離(弦心距離)が分かっている場合です。
公式:弦の長さ = 2√(r² – d²)
説明:
- rは円の半径
- dは中心から弦までの距離(弦心距離)
- √は平方根
これは ピタゴラスの定理 から導かれます。
実例:
半径5cmの円で、中心から弦までの距離が3cmのとき:
- 弦の長さ = 2√(5² – 3²)
- = 2√(25 – 9)
- = 2√16
- = 2 × 4
- = 8cm
座標を使う方法
円周上の2点の座標が分かっていれば、2点間の距離の公式で求められます。
公式:2点(x₁, y₁)と(x₂, y₂)の距離 = √{(x₂-x₁)² + (y₂-y₁)²}
実例:
点A(3, 4)と点B(6, 8)を結ぶ弦の長さは:
- √{(6-3)² + (8-4)²}
- = √(3² + 4²)
- = √(9 + 16)
- = √25
- = 5
弦に関する重要な定理
弦には、いくつかの美しい幾何学的性質があります。
等しい弦は等しい弧に対応する
定理:同じ円または合同な円で、等しい長さの弦は等しい長さの弧に対応する。
説明:
弦の長さが同じなら、その弦が作る弧の長さも同じになります。
実例:
半径5cmの円で、長さ6cmの弦AБと長さ6cmの弦CDがあれば、弧AБの長さと弧CDの長さは等しくなります。
弦の垂直二等分線は中心を通る
定理:円の弦の垂直二等分線は、必ず円の中心を通る。
説明:
弦を真ん中で直角に切る線(垂直二等分線)を引くと、その線は円の中心を通ります。これは円の弦の重要な性質です。
実例:
弦ABがあるとき、その真ん中のM点で弦に垂直な線を引くと、この線は円の中心Oを必ず通ります。
応用:
この性質を使えば、円周上の3点から円の中心を見つけることができます。2本の弦の垂直二等分線を引き、交点が中心です。
中心から弦に垂線を下ろすと弦を二等分する
定理:円の中心から弦に垂線を下ろすと、その垂線は弦を二等分する。
説明:
円の中心Oから弦ABに垂直な線を引くと、その線は弦ABをちょうど半分に分けます。
実例:
弦ABの長さが10cmで、中心Oから垂線を引いたとき、垂線と弦の交点をMとすると:
- AM = MB = 5cm
証明のヒント:
円の中心から弦の両端までの距離は等しい(どちらも半径r)ので、直角三角形OAMとOBMが合同になります。
円周角の定理
定理:同じ弧に対する円周角は、その弧に対する中心角の半分である。
説明:
弧ABを円周上の点Pから見た角度(円周角)は、同じ弧ABを中心Oから見た角度(中心角)の半分になります。
実例:
中心角が80度の弧に対して、円周角は40度になります。
重要な応用:
同じ弧に対する円周角は、どこから見ても等しくなります。これは 円周角の定理 として知られています。
接弦定理:接線と弦の角度
接弦定理(せつげんていり) は、円の接線と弦が作る角度に関する定理です。
接弦定理の内容
定理:円の接線と、その接点を通る弦が作る角は、その弦に対する円周角に等しい。
説明:
円に接線を引き、接点から弦を引いたとき、接線と弦の間の角度は、反対側にある円周角と等しくなります。
実例:
点Aで円に接する接線があり、点Aから点Bへ弦を引いたとき:
- 接線と弦ABが作る角 = 弧ABに対する円周角
応用:
この定理は、接線の角度を求める問題でよく使われます。
方べきの定理:2つの弦の交点
方べきの定理(ほうべきのていり) は、円と線分の関係を表す重要な定理です。英語では “Power of a Point Theorem” といいます。
円の内部で交わる場合
定理:円の内部で2つの弦が交わるとき、交点で分けられた線分の積は等しい。
PA × PB = PC × PD
説明:
2本の弦ABとCDが点Pで交わるとき、AP×PB = CP×PDが成り立ちます。
実例:
弦ABと弦CDが点Pで交わり:
- AP = 3cm、PB = 4cm、CP = 2cm
- このとき、PD = (3×4)/2 = 6cm
円の外部から引いた割線
定理:円の外部の点から2本の割線を引くとき、外部の点から各割線と円の交点までの距離の積は等しい。
PA × PB = PC × PD
説明:
点Pが円の外にあり、そこから2本の線を引いて円と2点ずつ交わるとき、この関係が成り立ちます。
接線と割線の場合
定理:円の外部の点から接線と割線を引くとき、接線の長さの2乗は、割線の長さの積に等しい。
(PT)² = PA × PB
説明:
点Pから接線PTと割線PABを引くとき、接線の長さの2乗が、割線の外部と遠い方の交点までの距離の積と等しくなります。
実例:
円の外の点Pから:
- 接線の長さが6cm
- 割線が円と交わる近い方の点までが2cm
- このとき、遠い方の点までは:6²/2 = 36/2 = 18cm
弦と扇形・弓形

弦は 扇形(せんけい) や 弓形(ゆみがた) といった図形とも関係があります。
扇形(せんけい)
扇形 とは、2本の半径と1つの弧で囲まれた図形です。
説明:
扇形は「おうぎ」の形をした図形で、ピザのスライスのような形ですね。扇形の底辺に当たる部分を弦で結ぶこともできます。
面積の公式:S = πr²θ/360° または S = (1/2)r²θ(θはラジアン)
実例:
半径6cm、中心角60度の扇形の面積:
- S = π×6²×60/360 = 36π/6 = 6π ≒ 18.85cm²
弓形(ゆみがた)
弓形 とは、弦と弧で囲まれた図形のことです。
説明:
弦を1本引くと、円が2つの部分に分かれます。このうち小さい方の部分を弓形といいます。弓(bow)の形に似ているからこの名前が付きました。
面積の求め方:弓形の面積 = 扇形の面積 – 三角形の面積
実例:
半径5cm、中心角60度の弓形の面積を求めます。
まず扇形の面積:
- S₁ = π×5²×60/360 = 25π/6 cm²
次に三角形の面積:
- 2本の半径と弦で作る三角形
- S₂ = (1/2)×5×5×sin60° = 25√3/4 cm²
弓形の面積:
- S = S₁ – S₂ = 25π/6 – 25√3/4 ≒ 2.31 cm²
楕円における弦
弦の概念は円だけでなく、楕円(だえん) などの曲線にも適用できます。
楕円の弦
楕円 は、円を一方向に引き伸ばしたような形の曲線です。
説明:
楕円上の2点を結んだ線分も弦と呼びます。ただし、楕円には中心を通る最長の弦(長軸)と、それに垂直な最短の弦(短軸)があります。
実例:
長軸が10cm、短軸が6cmの楕円では:
- 最長の弦(長軸)= 10cm
- 最短の弦(短軸)= 6cm
- その他の弦はこの間の長さになります
放物線における弦
放物線 にも弦の概念があります。
説明:
放物線は無限に続く曲線ですが、その上の2点を選んで結べば、それが弦になります。
特別な弦:焦点弦
放物線の焦点を通る弦を 焦点弦(しょうてんげん) といい、特別な性質を持っています。
三角関数と弦の歴史的関係
実は「サイン」という名前は、もともと弦に関係しています。
古代の弦の表
古代インドや中世のイスラム数学では、角度に対応する「弦の長さ」の表が作られていました。
説明:
半径1の円で、中心角θに対する弦の長さを表にしたものが、三角関数の原型です。現代のサインの2倍が、当時の弦の長さに相当します。
歴史的事実:
- サイン(sine)の語源は、サンスクリット語の「弓の弦」を意味する言葉
- アラビア語、ラテン語を経由して「sine」になりました
正弦と弦の関係
正弦(せいげん) は、サイン(sine)の日本語訳です。
説明:
単位円(半径1の円)で中心角θの弦の長さは 2sinθ/2) です。つまり、サインの値は半分の弦の長さに関係しています。
実例:
- 中心角90度の弦の長さ = 2sin(45°) = 2×(√2/2) = √2 ≒ 1.414
実生活での弦の応用
弦の概念は、実生活のさまざまな場面で使われています。
アーチ構造
橋や建築物のアーチは、円の一部(弧)を使った構造です。
実例:
- 石橋のアーチ部分
- ドーム型の天井
- トンネルの断面
説明:
アーチの幅(スパン)が弦の長さに相当します。アーチの高さと幅から、必要な円の半径を計算できます。
レインボーブリッジと弦
つり橋のケーブルは放物線を描きますが、橋の床面は弦のような直線になります。
実例:
- 橋の長さ(スパン)が弦
- ケーブルの曲線が弧に相当
- 2つの距離の差から、ケーブルの長さが分かります
天文学での応用
地球の 地平線 までの距離を計算するときも、弦の考え方を使います。
実例:
観測者の高さから見える地平線までの距離は、地球を円と考えたときの弦として計算できます。
計算例:
高さ100mの場所から見える地平線までの距離:
- 地球の半径 ≒ 6,371km
- 計算すると約35.7km先まで見えます
音楽と弦
楽器の弦も、実は円弧と関係があります。
説明:
弦を弾くと、弦は振動して円弧に近い形を描きます。弦の張力や長さを変えることで、音の高さが変わります。
実例:
- ギターの弦を短く押さえると音が高くなる
- ピアノの弦は長さが違うことで音階を作る
スポーツでの応用
アーチェリー の弓と弦の関係は、まさに幾何学的な弦そのものです。
実例:
- 弓を引くと、弦が円弧を作る
- 弦の引き幅(ドローレングス)が弦に相当
- 弓の曲率半径から必要な力を計算できます
弦を使った作図と証明
弦を使って、いろいろな幾何学的な作図や証明ができます。
円の中心の見つけ方
円周しか分からないとき、中心を見つける方法があります。
手順:
- 円周上に適当に3点A、B、Cを取る
- 弦ABと弦BCを引く
- それぞれの弦の垂直二等分線を引く
- 2本の垂直二等分線の交点が中心O
説明:
弦の垂直二等分線は必ず中心を通るという性質を利用しています。
正多角形の作図
円に内接する 正多角形 を作図するとき、弦を等しく分割します。
実例:正六角形の作図
- 円の半径と等しい長さで、円周上に6つの点を取る
- 隣り合う点を弦で結ぶ
- 正六角形が完成
説明:
正六角形の1辺は、円の半径と等しくなります。これは中心角が60度だからです。
円の面積の近似
円に内接する正多角形の辺(弦)を増やしていくと、円の面積に近づきます。
説明:
これは 極限 の考え方で、古代ギリシャの数学者アルキメデスも使った方法です。正多角形の辺の数を無限に増やすと、円周率πの値が求まります。
トレミーの定理:円に内接する四角形の弦
トレミーの定理 は、円に内接する四角形の弦と対角線の関係を表します。
トレミーの定理の内容
定理:円に内接する四角形ABCDにおいて、AC × BD = AB × CD + AD × BC
説明:
対角線の積が、向かい合う辺の積の和に等しいという美しい関係です。
実例:
円に内接する四角形で:
- AB = 3、BC = 4、CD = 5、DA = 6
- 対角線AC、BDの長さから、この関係を確認できます
応用:距離の計算
地図上の4つの地点が円周上にあるとき、トレミーの定理を使って距離を計算できることがあります。
弦に関する計算問題の解き方
実際に弦の長さや角度を求める問題の解き方を見てみましょう。
問題1:弦の長さを求める
問題:半径8cmの円で、中心角120度の弦の長さを求めよ。
解き方:
公式 弦の長さ = 2r sin(θ/2) を使います。
- r = 8cm、θ = 120°
- 弦の長さ = 2 × 8 × sin(120°/2)
- = 16 × sin(60°)
- = 16 × (√3/2)
- = 8√3 ≒ 13.86cm
問題2:中心角を求める
問題:半径5cmの円で、長さ5cmの弦に対する中心角を求めよ。
解き方:
弦の長さ = 2r sin(θ/2) から:
- 5 = 2 × 5 × sin(θ/2)
- sin(θ/2) = 0.5
- θ/2 = 30°
- θ = 60°
問題3:弓形の面積を求める
問題:半径6cm、中心角90度の弓形の面積を求めよ。
解き方:
扇形の面積から三角形の面積を引きます。
扇形の面積:
- S₁ = π × 6² × 90/360 = 9π cm²
三角形の面積(直角二等辺三角形):
- S₂ = (1/2) × 6 × 6 = 18 cm²
弓形の面積:
- S = 9π – 18 ≒ 28.27 – 18 = 10.27 cm²
まとめ:弦は幾何学の基本要素
弦は、シンプルな概念ですが、円や曲線の性質を理解する上で欠かせない重要な要素です。
弦の基本:
- 円や曲線上の2点を結ぶ線分
- 直径は最長の弦
- 弦に対応して弧がある
- 弦の両端を結ぶ方法は2つ(直線と曲線)
弦の長さの求め方:
- 中心角から:2r sin(θ/2)
- 弦心距離から:2√(r² – d²)
- 座標から:2点間の距離の公式
重要な定理:
- 等しい弦は等しい弧に対応
- 弦の垂直二等分線は中心を通る
- 中心からの垂線は弦を二等分
- 円周角の定理
- 接弦定理
- 方べきの定理
関連する図形:
- 扇形:2本の半径と弧で囲まれた図形
- 弓形:弦と弧で囲まれた図形
- 楕円や放物線にも弦がある
実生活での応用:
- アーチ構造の設計
- 橋の長さの計算
- 天文学での地平線の計算
- 音楽の弦楽器
- アーチェリーの弓と弦
歴史的背景:
- 三角関数の語源は弦に由来
- 古代から弦の表が作られていた
- サイン(正弦)は弦と深い関係
弦の概念をしっかり理解すると、円の性質や三角関数の理解がより深まります。
図形を見たときに「ここに弦を引いたら…」と考えられるようになると、幾何学の問題がグッと解きやすくなりますよ!


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