「傍心って何?」「内心とどう違うの?」
三角形の特別な点を学ぶとき、傍心という概念が出てきます。
この記事では、傍心の基本的な意味から、内心との違い、傍接円との関係、傍心の性質まで、具体例を豊富に使って分かりやすく解説していきます。
三角形の五心(重心・外心・内心・垂心・傍心)の中でも、傍心は少し特殊で、1つの三角形に3つ存在するという面白い性質があります。
それでは、詳しく見ていきましょう。
傍心とは何か

傍心(ぼうしん)とは、三角形の1つの内角の二等分線と、他の2つの外角の二等分線が交わる点のことです。
英語では「excenter(エクスセンター)」と言います。
基本的な定義
三角形ABCにおいて:
- 頂点Aでの内角の二等分線
- 頂点Bでの外角の二等分線
- 頂点Cでの外角の二等分線
この3つの直線は1点で交わります。この交点が傍心です。
傍心は3つ存在する
重要なポイントは、1つの三角形に対して傍心は3つ存在するということです。
- 頂点Aの内角を選んだ場合 → 傍心IA
- 頂点Bの内角を選んだ場合 → 傍心IB
- 頂点Cの内角を選んだ場合 → 傍心IC
どの頂点の内角を選ぶかによって、異なる傍心ができます。
傍心の位置
傍心は、三角形の外側に存在します。
これは、外角の二等分線を使うためです。
(内心は三角形の内側にありますが、傍心は外側にあります)
傍接円との関係
傍心と密接に関係するのが、傍接円(ぼうせつえん)です。
傍接円とは
傍接円とは、三角形の1辺と、他の2辺の延長線に接する円のことです。
英語では「excircle(エクスサークル)」または「escribed circle」と言います。
傍心は傍接円の中心
傍心は、傍接円の中心になります。
例:
傍心IAは、以下の3つの直線に接する円の中心です:
- 辺BCそのもの
- 辺ABの延長線
- 辺ACの延長線
傍接円も3つ存在する
傍心が3つあるので、傍接円も3つ存在します。
それぞれの傍接円は:
- 1つの辺に接する
- 他の2つの辺の延長線に接する
内心との比較
傍心をより深く理解するために、内心と比較してみましょう。
内心とは
内心は、三角形の3つの内角の二等分線が交わる点です。
内心は内接円(三角形の3辺すべてに内側から接する円)の中心になります。
内心と傍心の違い
| 項目 | 内心 | 傍心 |
|---|---|---|
| 定義 | 3つの内角の二等分線の交点 | 1つの内角と2つの外角の二等分線の交点 |
| 個数 | 1個 | 3個 |
| 位置 | 三角形の内側 | 三角形の外側 |
| 円の中心 | 内接円(3辺に内側から接する) | 傍接円(1辺と2辺の延長線に接する) |
共通点
内心と傍心には、共通する性質もあります:
共通点1:角の二等分線の交点
どちらも「角の二等分線の交点」という点では同じです。
共通点2:等距離の性質
- 内心:3辺から等距離
- 傍心:1辺と2辺の延長線から等距離
共通点3:面積との関係
どちらも、三角形の面積を計算する公式に登場します。
傍心の存在証明
本当に傍心は存在するのでしょうか?きちんと証明してみましょう。
証明の方針
「1つの内角の二等分線と、他の2つの外角の二等分線は1点で交わる」ことを示します。
証明
三角形ABCにおいて、頂点Aの内角の二等分線を考えます。
ステップ1:2つの外角の二等分線の交点を作る
頂点Bの外角の二等分線と、頂点Cの外角の二等分線の交点をPとします。
ステップ2:角の二等分線の性質を使う
角の二等分線上の点は、その角を作る2つの直線から等距離にあります。
- Pは頂点Bの外角の二等分線上にあるので、辺BAの延長線とBCから等距離
- Pは頂点Cの外角の二等分線上にあるので、辺CAの延長線とCBから等距離
ステップ3:等距離の性質から結論を導く
これらから、PはBAの延長線とCAの延長線から等距離です。
したがって、Pは∠Aの二等分線上にあります。
結論:
2つの外角の二等分線の交点Pは、残りの内角の二等分線上にもある。
よって、これら3つの直線は1点で交わります。
傍心の作図方法
実際にコンパスと定規を使って、傍心を作図してみましょう。
必要な道具
- 定規
- コンパス
- 鉛筆
- 三角形ABC
作図手順
手順1:1つの内角の二等分線を作る
例えば、∠Aの二等分線を作ります。
- 頂点Aにコンパスの針を置き、適当な半径で円弧を描く
- この円弧がAB、ACと交わる点をそれぞれP、Qとする
- PとQにコンパスを置き、同じ半径で円弧を描く
- 2つの円弧の交点をRとする
- 直線ARが∠Aの二等分線
手順2:外角を作る
辺ABと辺ACを、三角形の外側に延長します。
手順3:外角の二等分線を作る
頂点Bの外角の二等分線を作ります(手順1と同じ方法)。
頂点Cの外角の二等分線を作ります(手順1と同じ方法)。
手順4:交点を見つける
これら3つの二等分線が交わる点が、傍心IAです。
手順5:傍接円を描く
傍心IAから辺BCに垂線を下ろし、その長さを半径として円を描くと、傍接円ができます。
傍心の性質

傍心には、いくつかの重要な性質があります。
性質1:等距離の性質
傍心から、1辺と2辺の延長線までの距離は等しい。
例:
傍心IAから:
- 辺BCまでの距離
- 辺ABの延長線までの距離
- 辺ACの延長線までの距離
この3つの距離はすべて等しく、これが傍接円の半径になります。
性質2:内心との関係
3つの傍心を頂点とする三角形の垂心は、元の三角形の内心と一致する
つまり、傍心IA、IB、ICを頂点とする三角形を作ると、その垂心が内心Iになります。
性質3:一直線上に並ぶ
傍心も内心も、角の二等分線の交点なので:
傍心IAと内心Iは、直線AI上に存在する
同様に:
- IBとIは、直線BI上
- ICとIは、直線CI上
性質4:面積との関係
三角形の面積をS、傍接円の半径をrA、辺の長さをa、b、c、半周長をsとすると:
S = rA(s – a)
ここで:
- s = (a + b + c) / 2(半周長)
- a は傍心IAに対応する辺BCの長さ
- rAは傍接円の半径
これは、内接円の公式 S = rs(rは内接円の半径)と似た形をしています。
傍心の半径の公式
傍接円の半径(傍半径)を求める公式があります。
傍半径の公式
三角形ABCにおいて、辺BCに対する傍接円の半径rAは:
rA = S / (s – a)
ここで:
- S:三角形の面積
- s:半周長 = (a + b + c) / 2
- a:辺BCの長さ
同様に:
- rB = S / (s – b)(辺ACに対する傍接円の半径)
- rC = S / (s – c)(辺ABに対する傍接円の半径)
内接円の半径との関係
内接円の半径rとの関係:
S = rs = rA(s – a) = rB(s – b) = rC(s – c)
これらから:
- r × s = rA × (s – a)
- r × s = rB × (s – b)
- r × s = rC × (s – c)
具体例で計算してみよう
実際の数値を使って、傍心の半径を計算してみましょう。
例題:傍心の半径を求める
三角形ABCにおいて、BC = 9、CA = 8、AB = 13 とする。
辺BCに対する傍接円の半径rAを求めよ。
解答:
ステップ1:半周長を求める
s = (a + b + c) / 2 = (9 + 8 + 13) / 2 = 30 / 2 = 15
ステップ2:三角形の面積を求める
ヘロンの公式を使います:
S = √[s(s-a)(s-b)(s-c)]
S = √[15 × 6 × 7 × 2]
S = √1260
S = √(36 × 35)
S = 6√35
ステップ3:傍半径を求める
rA = S / (s – a)
rA = 6√35 / (15 – 9)
rA = 6√35 / 6
rA = √35
答え:√35
検算
面積の公式で確認:
S = rA(s – a)
6√35 = √35 × 6
6√35 = 6√35 ✓
正しく計算できています。
三角形の五心との関係
傍心は、三角形の五心の1つです。
三角形の五心とは
三角形には、5つの重要な点があります:
1. 重心(じゅうしん)
- 3つの中線の交点
- 三角形の「バランスの中心」
2. 外心(がいしん)
- 3つの辺の垂直二等分線の交点
- 外接円の中心
3. 内心(ないしん)
- 3つの内角の二等分線の交点
- 内接円の中心
4. 垂心(すいしん)
- 3つの高さ(頂点から対辺への垂線)の交点
5. 傍心(ぼうしん)
- 1つの内角と2つの外角の二等分線の交点
- 傍接円の中心
- 3つ存在する
五心の中で傍心だけが特別
傍心だけが、1つの三角形に対して3つ存在します。
他の4つの心(重心・外心・内心・垂心)は、それぞれ1つだけです。
傍心の応用
傍心の概念は、どんな場面で使われるのでしょうか?
応用1:三角形の面積計算
傍接円の半径が分かれば、面積を計算できます。
S = rA(s – a)
この公式は、辺の長さだけでなく、傍接円の情報からも面積が求められることを示しています。
応用2:幾何学の証明問題
傍心の性質を使った証明問題は、高校数学や数学オリンピックでよく出題されます。
例:
- 傍心と内心の関係を使った証明
- 九点円とフォイエルバッハの定理
- 傍心が作る三角形の性質
応用3:座標幾何での計算
座標平面上の三角形の傍心の座標を求める問題もあります。
頂点A(x₁, y₁)、B(x₂, y₂)、C(x₃, y₃)の三角形の傍心IAの座標は:
IA = ((-ax₁ + bx₂ + cx₃) / (-a + b + c), (-ay₁ + by₂ + cy₃) / (-a + b + c))
ここで、a、b、cは対辺の長さです。
よくある間違いと注意点
傍心を学ぶとき、注意したいポイントがあります。
間違い1:内心と混同する
間違った理解:
「傍心は内心と同じ」
正しい理解:
- 内心:3つの内角の二等分線の交点(1つ)
- 傍心:1つの内角と2つの外角の二等分線の交点(3つ)
間違い2:位置の勘違い
間違った理解:
「傍心は三角形の内側にある」
正しい理解:
傍心は三角形の外側にあります。
間違い3:個数の間違い
間違った理解:
「傍心は1つだけ」
正しい理解:
傍心は3つあります。どの頂点の内角を選ぶかによって異なります。
間違い4:傍接円の接し方
間違った理解:
「傍接円は3辺すべてに接する」
正しい理解:
傍接円は:
- 1辺に接する
- 他の2辺の延長線に接する
傍心の記号と表記

傍心を表すときの記号について整理しましょう。
一般的な記号
傍心は、次のように表記されます:
- IA:頂点Aの内角の二等分線上にある傍心
- IB:頂点Bの内角の二等分線上にある傍心
- IC:頂点Cの内角の二等分線上にある傍心
呼び方
- 「頂点Aに対する傍心」
- 「角Aの内部の傍心」
- 「辺BCに対する傍心」
これらはすべて同じ傍心IAを指します。
傍接円の半径
傍接円の半径は:
- rA:傍心IAの傍接円の半径
- rB:傍心IBの傍接円の半径
- rC:傍心ICの傍接円の半径
内接円の半径rと区別するため、添字をつけます。
練習問題
実際に問題を解いて、理解を深めましょう。
問題1:基本的な理解
三角形ABCの傍心は何個あるか?
解答:
3個
理由:頂点A、B、Cのそれぞれに対して、1つずつ傍心が存在するため。
問題2:位置の判定
傍心は三角形のどこに位置するか?
解答:
三角形の外側
理由:外角の二等分線を使うため、交点は三角形の外側になる。
問題3:計算問題
三角形ABCにおいて、a = 6、b = 8、c = 10、面積S = 24 とする。
辺BCに対する傍接円の半径rAを求めよ。
解答:
半周長:s = (6 + 8 + 10) / 2 = 12
傍半径:rA = S / (s – a) = 24 / (12 – 6) = 24 / 6 = 4
答え:4
問題4:性質の理解
内心Iと傍心IAは、どの直線上にあるか?
解答:
直線AI上
理由:両方とも∠Aの二等分線上にあるため。
発展的な内容
さらに深く学びたい人のために、発展的な内容を紹介します。
フォイエルバッハの定理
九点円は、内接円と3つの傍接円のすべてに接する
この定理は、1822年にカール・フォイエルバッハによって発見されました。
接点をフォイエルバッハ点と呼びます。
傍心の三角形
3つの傍心IA、IB、ICを頂点とする三角形を考えると、面白い性質があります:
元の三角形の内心は、傍心が作る三角形の垂心になる
つまり、内心と傍心は互いに特別な関係にあります。
リュイリエの定理
3つの傍接円の半径の逆数の和は、内接円の半径の逆数に等しい:
1/rA + 1/rB + 1/rC = 1/r
これは美しい対称性を示す定理です。
まとめ
傍心は、三角形の五心の中でも特別な性質を持つ点です。
この記事のポイント:
- 傍心とは、1つの内角と2つの外角の二等分線の交点
- 1つの三角形に対して傍心は3つ存在する
- 傍心は三角形の外側に位置する
- 傍心は傍接円の中心である
- 傍接円は1辺と2辺の延長線に接する円
- 内心は3つの内角の二等分線の交点(1つだけ)
- 傍心から1辺と2辺の延長線までの距離は等しい
- 面積の公式:S = rA(s – a)
- 傍半径の公式:rA = S / (s – a)
- 3つの傍心を頂点とする三角形の垂心は内心と一致
- 内心と傍心は、角の二等分線上で一直線上にある
傍心を理解するポイントは:
- 外角の二等分線を使うこと
- 3つ存在すること
- 三角形の外側にあること
- 内心との違いと共通点
傍心は内心と似ていますが、外角を使うという点で異なります。
この違いが、傍心が3つ存在し、外側に位置するという特徴を生み出しています。
まずは基本的な定義をしっかり理解し、作図で実際に傍心を見つけてみることから始めましょう。
そして、内心との違いを意識しながら、さまざまな性質を学んでいくと、より深い理解につながります!


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