マクローリン展開とは?公式から具体例まで分かりやすく解説

数学

「マクローリン展開」という言葉を聞いて、難しそうだなと感じていませんか?

実は、マクローリン展開は複雑な関数を扱いやすい形に変える、とても便利な数学のテクニックなんです。三角関数や指数関数といった、一見計算が面倒な関数を、簡単な多項式の形で表すことができます。

この記事では、マクローリン展開の基本から具体的な使い方まで、順を追って解説していきます。

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マクローリン展開とは何か

マクローリン展開は、関数を「多項式」の形で表す方法です。

多項式というのは、x、x²、x³のような形の項を足し合わせた式のこと。中学校で習う二次関数「y = ax² + bx + c」も多項式の一種ですね。

なぜ多項式に変換するのか

複雑な関数を多項式に変換すると、次のような良いことがあります:

計算が簡単になる
例えば sin(0.1) の値を求めたいとき、電卓がなくても多項式を使えば手計算で近似値を出せます。

関数の性質が分かりやすくなる
多項式の形にすると、その関数がどんな振る舞いをするのか理解しやすくなります。

微分や積分がしやすくなる
複雑な関数の微分や積分も、多項式に変換すれば計算が楽になります。

テイラー展開との関係

マクローリン展開について説明する前に、「テイラー展開」という言葉も覚えておきましょう。

テイラー展開は、関数をある点 a の周りで多項式に展開する方法です。その中でも、特に a = 0(つまり0の周り)で展開した場合を「マクローリン展開」と呼びます。

簡単に言うと:

  • テイラー展開:任意の点 a の周りで展開
  • マクローリン展開:0の周りで展開(テイラー展開の特殊ケース)

なぜ0の周りでの展開に特別な名前がついているかというと、0を代入すると計算が簡単になるからです。

マクローリン展開の公式

マクローリン展開の公式を見ていきましょう。

基本公式

関数 f(x) のマクローリン展開は、次の式で表されます:

f(x) = f(0) + f'(0)x + f''(0)/2! × x² + f'''(0)/3! × x³ + f⁽⁴⁾(0)/4! × x⁴ + ...

無限級数の形(Σ記号)で書くと:

f(x) = Σ[n=0→∞] f⁽ⁿ⁾(0)/n! × xⁿ

公式の意味を理解する

この公式に出てくる記号を一つずつ見ていきましょう。

f(0)
元の関数に x = 0 を代入した値です。これがマクローリン展開の定数項になります。

f'(0), f”(0), f”'(0), …
関数 f(x) を1回、2回、3回…と微分して、それぞれに x = 0 を代入した値です。

この記号の意味:

  • f'(0):1階微分(1回微分)
  • f”(0):2階微分(2回微分)
  • f”'(0):3階微分(3回微分)
  • f⁽ⁿ⁾(0):n階微分(n回微分)

n!(階乗)
n! は「n の階乗」と読みます。これは「1からnまでの整数をすべて掛け合わせた数」のことです。

例:

  • 2! = 2 × 1 = 2
  • 3! = 3 × 2 × 1 = 6
  • 4! = 4 × 3 × 2 × 1 = 24
  • 5! = 5 × 4 × 3 × 2 × 1 = 120

階乗は急速に大きな数になるので、高次の項(x³、x⁴など)の係数が小さくなり、展開式が収束しやすくなります。

展開の手順

マクローリン展開を実際に行う手順は次の通りです:

  1. 関数 f(x) を何度も微分する
  2. それぞれの微分に x = 0 を代入する
  3. 求めた値を公式に当てはめる
  4. 必要な次数まで計算を続ける

これだけ見ると難しそうですが、具体例を見れば理解しやすくなります。次の章で実際にやってみましょう。

代表的な関数のマクローリン展開

よく使われる関数のマクローリン展開を、実際に計算して確認していきます。

指数関数 e^x のマクローリン展開

指数関数 e^x(イーのエックス乗)は、マクローリン展開の代表例です。

計算手順

まず、e^x を何度も微分してみます。

f(x) = e^x
f'(x) = e^x
f''(x) = e^x
f'''(x) = e^x
...

面白いことに、e^x は何回微分しても e^x のままです。

次に、それぞれに x = 0 を代入します:

f(0) = e⁰ = 1
f'(0) = e⁰ = 1
f''(0) = e⁰ = 1
f'''(0) = e⁰ = 1
...

すべて1になりますね(e⁰ = 1 なので)。

これを公式に当てはめると:

e^x = 1 + 1×x + 1/2! × x² + 1/3! × x³ + 1/4! × x⁴ + ...
    = 1 + x + x²/2 + x³/6 + x⁴/24 + x⁵/120 + ...

無限級数の形では:

e^x = Σ[n=0→∞] xⁿ/n!

この展開の特徴

e^x のマクローリン展開は、すべての実数 x に対して収束します。つまり、どんな値の x を代入しても正確な値に近づいていくということです。

sin x のマクローリン展開

次は三角関数の sin x です。

計算手順

sin x を順番に微分していきます:

f(x) = sin x
f'(x) = cos x
f''(x) = -sin x
f'''(x) = -cos x
f⁽⁴⁾(x) = sin x
...

4回微分すると元に戻るパターンが見えますね。

x = 0 を代入すると:

f(0) = sin 0 = 0
f'(0) = cos 0 = 1
f''(0) = -sin 0 = 0
f'''(0) = -cos 0 = -1
f⁽⁴⁾(0) = sin 0 = 0
f⁽⁵⁾(0) = cos 0 = 1
...

0, 1, 0, -1, 0, 1, 0, -1… というパターンで繰り返されます。

公式に当てはめると:

sin x = 0 + 1×x + 0×x²/2! + (-1)×x³/3! + 0×x⁴/4! + 1×x⁵/5! + ...
      = x - x³/6 + x⁵/120 - x⁷/5040 + ...

無限級数の形では:

sin x = Σ[n=0→∞] (-1)ⁿ × x^(2n+1) / (2n+1)!

この展開の特徴

sin x のマクローリン展開には、偶数次の項(x²、x⁴など)が含まれません。これは sin x が奇関数であることを反映しています。

また、すべての実数 x に対して収束します。

cos x のマクローリン展開

続いて cos x を見てみましょう。

計算手順

cos x を順番に微分します:

f(x) = cos x
f'(x) = -sin x
f''(x) = -cos x
f'''(x) = sin x
f⁽⁴⁾(x) = cos x
...

x = 0 を代入すると:

f(0) = cos 0 = 1
f'(0) = -sin 0 = 0
f''(0) = -cos 0 = -1
f'''(0) = sin 0 = 0
f⁽⁴⁾(0) = cos 0 = 1
...

1, 0, -1, 0, 1, 0, -1, 0… というパターンです。

公式に当てはめると:

cos x = 1 + 0×x + (-1)×x²/2! + 0×x³/3! + 1×x⁴/4! + ...
      = 1 - x²/2 + x⁴/24 - x⁶/720 + ...

無限級数の形では:

cos x = Σ[n=0→∞] (-1)ⁿ × x^(2n) / (2n)!

この展開の特徴

cos x のマクローリン展開には、奇数次の項(x、x³など)が含まれません。これは cos x が偶関数であることを表しています。

こちらもすべての実数 x に対して収束します。

対数関数 ln(1+x) のマクローリン展開

最後に、自然対数関数 ln(1+x) を見てみましょう。

計算手順

ln(1+x) を微分します:

f(x) = ln(1+x)
f'(x) = 1/(1+x)
f''(x) = -1/(1+x)²
f'''(x) = 2/(1+x)³
f⁽⁴⁾(x) = -6/(1+x)⁴
...

x = 0 を代入すると:

f(0) = ln 1 = 0
f'(0) = 1
f''(0) = -1
f'''(0) = 2
f⁽⁴⁾(0) = -6
...

公式に当てはめると:

ln(1+x) = 0 + 1×x + (-1)×x²/2! + 2×x³/3! + (-6)×x⁴/4! + ...
        = x - x²/2 + x³/3 - x⁴/4 + ...

無限級数の形では:

ln(1+x) = Σ[n=1→∞] (-1)^(n+1) × xⁿ / n

この展開の特徴

ln(1+x) のマクローリン展開は、-1 < x ≤ 1 の範囲でのみ収束します。この範囲を「収束半径」と呼びます。

その他の重要な関数

1/(1-x) のマクローリン展開

1/(1-x) = 1 + x + x² + x³ + x⁴ + ...
        = Σ[n=0→∞] xⁿ  (|x| < 1)

これは等比級数の公式そのものです。|x| < 1 の範囲でのみ収束します。

(1+x)^α のマクローリン展開(二項展開)

(1+x)^α = 1 + αx + α(α-1)/2! × x² + α(α-1)(α-2)/3! × x³ + ...

α が自然数の場合は有限項で終わりますが、それ以外の場合は無限級数になります。

マクローリン展開の使い方と応用

マクローリン展開は、様々な場面で実際に使われています。

関数の近似値を求める

マクローリン展開の最も基本的な使い方は、関数の値を近似計算することです。

例:e の値を求める

自然対数の底 e(約2.71828…)の値を、マクローリン展開を使って計算してみましょう。

e^x のマクローリン展開に x = 1 を代入すれば、e の値が求められます:

e¹ = 1 + 1 + 1/2! + 1/3! + 1/4! + 1/5! + ...
   = 1 + 1 + 0.5 + 0.16667 + 0.04167 + 0.00833 + ...

項を順に足していくと:

  • 2項まで:2
  • 3項まで:2.5
  • 4項まで:2.66667
  • 5項まで:2.70833
  • 6項まで:2.71667

項を増やすほど、実際の e の値(2.71828…)に近づいていきます。

例:sin 0.1 の値を求める

sin x のマクローリン展開を使って、sin 0.1 の近似値を計算してみます:

sin 0.1 ≒ 0.1 - (0.1)³/6 + (0.1)⁵/120
        = 0.1 - 0.001/6 + 0.00001/120
        = 0.1 - 0.000167 + 0.0000000833
        ≒ 0.0998334

実際の sin 0.1 の値は 0.0998334… なので、3項だけでかなり正確な近似ができています。

極限値の計算

マクローリン展開を使うと、ロピタルの定理を使わなくても、複雑な極限値を求められる場合があります。

例:lim[x→0] (sin x – x) / x³ を求める

sin x のマクローリン展開を使います:

sin x = x - x³/6 + x⁵/120 - ...

これを元の式に代入すると:

(sin x - x) / x³ = ((x - x³/6 + x⁵/120 - ...) - x) / x³
                  = (-x³/6 + x⁵/120 - ...) / x³
                  = -1/6 + x²/120 - ...

x → 0 のとき、x² 以降の項は 0 に近づくので:

lim[x→0] (sin x - x) / x³ = -1/6

オイラーの公式の導出

マクローリン展開の美しい応用例として、オイラーの公式があります。

e^x、sin x、cos x のマクローリン展開を組み合わせると、数学で最も美しいとされる公式の一つが導けます:

e^(ix) = cos x + i sin x

これは虚数 i(i² = -1)を使った式で、指数関数と三角関数をつなぐ驚くべき関係式です。

特に x = π を代入すると:

e^(iπ) + 1 = 0

これは「オイラーの等式」と呼ばれ、数学の5つの重要な定数(e、i、π、1、0)を一つの式で結びつけています。

微分方程式の解法

物理学や工学では、微分方程式を解く際にマクローリン展開(テイラー展開)が使われることがあります。

複雑な微分方程式の近似解を、多項式の形で求めることができるんです。

数値計算アルゴリズム

コンピュータで sin や cos、exp などの関数を計算する際、内部ではマクローリン展開(やそれに類する級数展開)が使われています。

電卓で sin ボタンを押したとき、裏側では多項式の計算が行われているわけです。

収束半径について理解する

マクローリン展開を使う上で、「収束半径」という概念を理解することが大切です。

収束半径とは

収束半径とは、マクローリン展開が元の関数と等しくなる範囲のことです。

例えば:

  • e^x、sin x、cos x:収束半径は無限大(すべての x で収束)
  • ln(1+x):収束半径は 1(-1 < x ≤ 1 で収束)
  • 1/(1-x):収束半径は 1(|x| < 1 で収束)

収束半径の外では使えない

収束半径の外で級数を計算しても、元の関数の値には近づきません。むしろ発散してしまいます。

例えば、1/(1-x) = 1 + x + x² + x³ + … という展開式に x = 2 を代入してみると:

1/(1-2) = -1  (正しい値)

1 + 2 + 4 + 8 + 16 + ... = ∞  (発散して意味がない)

このように、収束半径を超えた x では展開式が使えません。

なぜ収束半径があるのか

関数によって収束半径が異なるのは、関数の性質に関係しています。

例えば ln(1+x) の場合、x = -1 で関数自体が定義されません(ln 0 は定義されない)。そのため、x = -1 が展開式の「障害」となり、収束半径が制限されるのです。

一方、e^x や sin x、cos x は複素数の範囲でもどこでも微分可能な関数(「解析的」な関数と呼びます)なので、収束半径が無限大になります。

マクローリン展開の注意点

マクローリン展開を使う際には、いくつか注意すべき点があります。

無限回微分可能でないと使えない

マクローリン展開を行うには、関数が何回でも微分できる必要があります。

例えば f(x) = |x|(絶対値関数)は x = 0 で微分できないため、マクローリン展開できません。

展開できても収束しない場合がある

無限回微分可能であっても、マクローリン展開が元の関数に収束しない例があります。

有名な例として、次の関数があります:

f(x) = e^(-1/x²)  (x ≠ 0 のとき)
f(x) = 0          (x = 0 のとき)

この関数は無限回微分可能ですが、x = 0 でのすべての微分係数が 0 になるため、マクローリン展開すると:

f(x) = 0 + 0×x + 0×x² + ... = 0

となってしまい、x ≠ 0 での関数の値 e^(-1/x²) を表現できません。

打ち切り誤差に注意

実際の計算では、無限級数を途中で打ち切る必要があります。

その際、何項まで計算すれば十分な精度が得られるかを考える必要があります。一般に、項を増やせば精度は上がりますが、計算時間も増えます。

x の値が大きいと精度が落ちる

マクローリン展開は x = 0 の近くでの近似なので、x の値が 0 から離れるほど、多くの項が必要になります。

例えば sin 10 を計算する場合、sin 0.1 を計算する場合よりもはるかに多くの項が必要です。

このような場合は、三角関数の性質を使って範囲を調整したり、テイラー展開(0以外の点での展開)を使ったりする工夫が必要になります。

まとめ

マクローリン展開は、複雑な関数を扱いやすい多項式の形に変換する強力な数学ツールです。

この記事のポイント

  • マクローリン展開は、関数を x = 0 の周りで多項式に展開する方法
  • テイラー展開の特殊ケース(a = 0 の場合)
  • 公式は f(x) = Σ[n=0→∞] f⁽ⁿ⁾(0)/n! × xⁿ
  • e^x、sin x、cos x などの重要な関数には標準的な展開式がある
  • 関数の近似計算、極限値の計算、オイラーの公式など様々な応用がある
  • 収束半径の範囲内で使う必要がある

マクローリン展開は大学の微分積分学で必ず学ぶ重要な概念です。最初は難しく感じるかもしれませんが、具体例を通して練習すれば、必ず理解できるようになります。

数学、物理学、工学、コンピュータサイエンスなど、様々な分野で活用される基礎的なツールなので、しっかり身につけておきましょう。

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