「偏角」という言葉を聞いたことはありますか?実はこの言葉、数学と地理の世界で全く違う意味を持っているんです。
数学では「複素数の偏角」、地理では「磁気偏角」を指します。どちらも「角度」に関係していますが、使われる場面は全く異なります。
この記事では、この2つの偏角について、中学生でも理解できるように丁寧に解説していきます。
【数学編】複素数の偏角とは?

複素数って何だっけ?
まず、複素数について簡単におさらいしましょう。
複素数とは、「実数部分」と「虚数部分」からできている数のことです。
複素数の形: z = a + bi
- a:実数部分(普通の数)
- b:虚数部分の係数
- i:虚数単位(i² = -1となる特別な数)
例えば、3 + 4i や -2 + 5i などが複素数の例です。
複素数平面(アルガン図)で視覚化する
複素数は、座標平面のように図で表すことができます。これを「複素数平面」や「アルガン図」と呼びます。
複素数平面の仕組み:
- 横軸(x軸):実数部分を表す
- 縦軸(y軸):虚数部分を表す
- 原点:0を表す
例えば、複素数 3 + 4i は、座標 (3, 4) の点として表されます。
偏角の定義 – それは「角度」のこと
複素数の偏角とは:
原点から複素数までの直線が、実軸(横軸)の正の部分となす角度のことです。
この角度は、反時計回りに測ります。記号では「arg(z)」や「θ」で表します。
イメージで理解しよう:
複素数平面上で、原点から点(複素数)に線を引きます。
その線と横軸(実軸)がつくる角度が偏角なんです。
偏角の求め方 – 三角関数を使おう
複素数 z = a + bi の偏角 θ は、三角関数の tan(タンジェント)を使って求められます。
基本公式:
tan θ = b/a
つまり、虚数部分を実数部分で割った値のアークタンジェント(逆正接)が偏角になります。
θ = tan⁻¹(b/a)
ただし注意! この公式だけでは不十分です。複素数がどの象限(エリア)にあるかによって、調整が必要になります。
象限ごとの偏角の求め方
複素数平面は4つの象限に分かれています。それぞれの象限で、偏角の求め方が少し変わります。
第1象限(a > 0, b > 0):
θ = tan⁻¹(b/a)
例:z = 1 + √3i の場合
- tan θ = √3/1 = √3
- θ = 60°(または π/3 ラジアン)
第2象限(a < 0, b > 0):
θ = π + tan⁻¹(b/a)
例:z = -1 + i の場合
- tan α = 1/1 = 1(αは参考角)
- θ = 180° – 45° = 135°(または 3π/4 ラジアン)
第3象限(a < 0, b < 0):
θ = -π + tan⁻¹(b/a)
または θ = π + tan⁻¹(b/a)
第4象限(a > 0, b < 0):
θ = tan⁻¹(b/a)(負の値になる)
例:z = 3 – 2i の場合
- tan θ = -2/3
- θ = -33.7°程度(負の角度)
主値と一般値 – 偏角は無限にある?
実は、同じ複素数でも偏角は無限に存在します。なぜなら、360°(2π ラジアン)回転しても同じ方向を向くからです。
主値(主偏角):
-π < θ ≤ π(-180° < θ ≤ 180°)の範囲に収まる偏角のことです。
これを「Arg(z)」と大文字で書くこともあります。
一般値:
arg(z) = θ + 2nπ(n は整数)
主値に 2π の整数倍を足したものが、すべて偏角になります。
偏角の性質と公式 – 計算を楽にする
複素数の偏角には、便利な性質があります。
積の偏角:
arg(z₁ × z₂) = arg(z₁) + arg(z₂)
2つの複素数を掛けると、偏角は足し算になります。
商の偏角:
arg(z₁ ÷ z₂) = arg(z₁) – arg(z₂)
2つの複素数を割ると、偏角は引き算になります。
これらの性質を使うと、複雑な計算がぐっと簡単になりますよ。
偏角の実用例 – どこで使うの?
複素数の偏角は、様々な場面で活躍します。
極形式への変換:
複素数を「大きさ × 方向」の形で表すとき、偏角が方向を表します。
z = r(cos θ + i sin θ)
電気工学:
交流回路の計算で、電圧や電流の位相(タイミングのずれ)を表すときに使います。
物理学:
波の干渉や振動の分析で、位相差を表現するのに役立ちます。
【地理編】磁気偏角とは?
真北と磁北 – 実は違う方向を向いている
さて、ここからは全く違う世界の「偏角」について説明します。
地図を見るとき、上が「北」ですよね。でも、実は「北」には2種類あるんです。
真北(しんぼく):
地理上の北極点を指す方向です。地図の上がこの真北になります。
磁北(じほく):
方位磁石が指す北のことです。地磁気の北極を指します。
そして驚くべきことに、この2つは同じ方向ではありません!
磁気偏角の定義
磁気偏角とは:
真北と磁北のずれの角度のことです。
方位磁石は地球の磁場に反応して北を指しますが、その向きと本当の北(真北)との間には角度のずれがあります。
東偏と西偏:
- 東偏:磁北が真北より東にずれている
- 西偏:磁北が真北より西にずれている
日本では現在、すべての地域で「西偏」となっています。
日本各地の磁気偏角
国土地理院が公表している「磁気図2020.0年値」によると、日本の磁気偏角は次のようになっています。
主要都市の偏角:
- 札幌:約9度(西偏)
- 東京:約7~8度(西偏)
- 大阪・京都:約6~8度(西偏)
- 福岡:約6~8度(西偏)
- 那覇:約5度(西偏)
最大値と最小値:
- 最大:北海道中頓別町の上頓部 – 西向き約11.2度
- 最小:南鳥島 – 西向き約0.2度
つまり、日本では方位磁石の北が、地図の北より少し西を向いているということです。
なぜ偏角が生まれるのか?
磁気偏角が発生する理由は、地球の磁場の複雑さにあります。
主な原因:
- 地球内部の複雑な磁場分布
地球の核で発生する磁気が、地球規模で複雑に分布しているため - 磁極と地理上の極のずれ
北磁極は北極点と同じ場所にはなく、カナダ北部の辺りにあります - 地磁気の時間変化
地球の磁場は刻々と変化しているため、偏角も年々変わります
偏角は変化し続けている
驚くべきことに、磁気偏角は時間とともに変化しています。
日本での変化:
- 全国平均:過去5年間で西向きに約0.3度増加
- 東京の変化:過去50年間で西向きに約1.4度増加
歴史的な変化:
伊能忠敬が全国測量を開始した1800年頃は、方位磁石の北と地図の北がほぼ一致していました。
さらに、地球の長い歴史の中では、磁極が南北逆転した時期が何度もあったことが分かっています。千葉県市原市の「チバニアン」は、その証拠が残る地層として有名です。
登山やナビゲーションでの重要性
磁気偏角は、実生活で特に登山者にとって重要です。
紙の地図とコンパスを使う場合:
地図の北(真北)と方位磁石の北(磁北)がずれているため、正確なナビゲーションには偏角の補正が必要になります。
例えば、東京で8度の西偏があるとすると:
- コンパスが指す北より、8度東が本当の北になります
- 長距離を歩くと、このずれが大きな誤差になることがあります
スマホのGPSやカーナビは?
現代のスマートフォンやカーナビは、磁気センサーで測定した磁北を自動的に真北に補正してくれます。そのため、普段の生活では偏角を意識する必要はありません。
ただし、古い地図を使う場合や、スマホが使えない山奥では注意が必要です。
偏角の調べ方
自分のいる場所の磁気偏角は、以下の方法で調べられます。
国土地理院の情報:
国土地理院のウェブサイト「地理院地図」で、任意の場所の偏角を確認できます。
地形図に記載:
国土地理院発行の2万5千分の1地形図にも、その地域の偏角が記載されています。
定期的な更新:
国土地理院は5年ごとに「磁気図」を公表しており、最新のデータを入手できます。
偏角が関わる地磁気の3要素
磁気偏角は、地磁気を表す3つの重要な要素の1つです。
地磁気の3要素:
- 偏角(へんかく)
真北と磁北のずれの角度 - 伏角(ふっかく)
磁針が水平面となす角度(下向きの角度)
赤道付近では0度、極に近づくほど90度に近くなる - 全磁力(ぜんじりょく)
その場所での地磁気の強さ
これら3つの要素で、地球上のあらゆる場所の地磁気を完全に表現できます。
まとめ – 2つの偏角を使い分けよう
「偏角」という言葉には、2つの全く異なる意味がありました。
複素数の偏角:
- 複素数平面上で、原点から複素数への直線と実軸がなす角度
- 三角関数 tan を使って計算できる
- 数学、物理学、電気工学で重要
- 記号:arg(z) または θ
磁気偏角:
- 真北と磁北(方位磁石の北)のずれの角度
- 日本では西偏(真北より西を指す)
- 登山やナビゲーションで重要
- 時間とともに変化する
どちらも「角度」に関する概念ですが、使われる分野は全く違います。
数学の問題で「偏角を求めよ」と言われたら複素数の偏角、登山の本で「偏角を確認しよう」と書かれていたら磁気偏角のことです。
覚えておくべきポイント:
- 複素数の偏角は数学の世界の概念
- 磁気偏角は地球科学・地理の概念
- どちらも角度を表すが、全く異なるもの
- 文脈から判断すれば、どちらを指しているか分かる
この記事で、2つの偏角についてしっかり理解できましたね。
複素数の偏角は数学の試験で、磁気偏角は登山や野外活動で役立つ知識です。それぞれの場面で、正しく使い分けられるようになりましょう!

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