ベクトル解析を勉強すると必ず出会う、grad(勾配)、div(発散)、rot(回転)という3つの微分演算子。それぞれ個別に見ると難しそうですが、実はこれらには深い関係性があって、知っておくと計算がグッと楽になるんです。
この記事では、grad、div、rotがどう繋がっているのか、どんな法則が成り立つのかを、できるだけ分かりやすく解説していきます。物理や工学を学ぶ上で避けて通れない重要な知識ですよ。
まずは基本のおさらい: grad、div、rotって何?

関係性の話に入る前に、まずは各演算子の基本を確認しましょう。
grad(勾配): スカラーからベクトルを作る
grad f = ∇f = (∂f/∂x, ∂f/∂y, ∂f/∂z)
スカラー場(温度分布など)に対して使う演算子で、「その場所で最も急激に値が増える方向」を示すベクトルを作ります。山でいえば、最も急な登り坂の方向を指し示すイメージですね。
入力: スカラー場
出力: ベクトル場
div(発散): ベクトルからスカラーを作る
div F = ∇·F = ∂Fx/∂x + ∂Fy/∂y + ∂Fz/∂z
ベクトル場(水の流れなど)に対して使う演算子で、「その点でどれだけ湧き出ているか」を表すスカラー値を作ります。水が湧き出る泉ならプラス、吸い込む排水口ならマイナスの値になります。
入力: ベクトル場
出力: スカラー場
rot(回転): ベクトルからベクトルを作る
rot F = ∇×F = (∂Fz/∂y – ∂Fy/∂z, ∂Fx/∂z – ∂Fz/∂x, ∂Fy/∂x – ∂Fx/∂y)
ベクトル場に対して使う演算子で、「その点でどれだけ渦が発生しているか」を表すベクトルを作ります。台風の渦のように、回転の軸と強さを表現しているんです。
入力: ベクトル場
出力: ベクトル場
ナブラ記号(∇)で統一的に理解する
これら3つの演算子は、ナブラ(∇)という便利な記号を使うと、すっきり書けます。
∇ = (∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z)
ナブラをベクトルのように扱うことで:
- grad f = ∇f (ナブラとスカラーの「積」)
- div F = ∇·F (ナブラとベクトルの内積)
- rot F = ∇×F (ナブラとベクトルの外積)
と表現できるわけです。この記法を使うと、計算も覚えやすくなりますよ。
超重要! grad、div、rotの組み合わせ法則
ここからが本題です。これらの演算子を組み合わせると、いくつかの重要な恒等式が成り立ちます。
法則1: rot(grad f) = 0 (勾配の回転は常にゼロ)
スカラー場の勾配を取ってから、さらに回転を計算すると、必ずゼロベクトルになります。
∇×(∇f) = 0
物理的な意味: もし勾配に回転があったら、螺旋階段のようにグルグル回りながら登り続けられることになってしまいます。でも温度や高度といったスカラー量は、一つの場所で一つの値しか持てません。だから、勾配には回転がないんです。
この性質から、あるベクトル場がスカラーのgradで表せる(ポテンシャルを持つ)とき、そのベクトル場は「無回転」であることが分かります。
法則2: div(rot F) = 0 (回転の発散は常にゼロ)
ベクトル場の回転を取ってから、さらに発散を計算すると、必ずゼロになります。
∇·(∇×F) = 0
物理的な意味: 渦は湧き出しも吸い込みもしません。台風を考えてみてください。風がグルグル回っていますが、台風の中心から空気が湧き出たり消えたりはしていませんよね。回転運動そのものには、源も吸い込み口もないということです。
法則3: div(grad f) = ∇²f (ラプラシアン)
スカラー場の勾配を取ってから、さらに発散を計算すると、ラプラシアンという重要な量になります。
∇·(∇f) = ∇²f = ∂²f/∂x² + ∂²f/∂y² + ∂²f/∂z²
ラプラシアンは、二階微分の和を表す演算子で、物理学では至る所で登場します。熱方程式、波動方程式、量子力学のシュレディンガー方程式など、重要な方程式にはほぼ必ず出てくるんですよ。
法則4: rot(rot F) = grad(div F) – ∇²F
回転を2回計算すると、こんな式になります。
∇×(∇×F) = ∇(∇·F) – ∇²F
ここでの∇²Fはベクトルのラプラシアンで、各成分ごとにラプラシアンを計算したものです。
この公式は電磁気学のマクスウェル方程式を変形するときなどによく使われます。特に、div F = 0という条件がある場合(これを「ソレノイダル条件」といいます)、右辺第一項が消えて計算がすごく楽になるんです。
組み合わせパターンの整理
組み合わせがたくさんあって混乱しそうなので、整理してみましょう。
意味のある組み合わせ
- grad → div: ○ ラプラシアンになる
- grad → rot: ○ ゼロベクトルになる
- rot → div: ○ ゼロになる
- rot → rot: ○ 複雑だが意味がある
- div → grad: ○ スカラーのgradなので可能
意味のない組み合わせ
- div → div: × (divの結果はスカラーなので、もう一度divは適用できない)
- grad → grad: × (gradの結果はベクトルなので、もう一度gradは適用できない)
- div → rot: × (divの結果はスカラーなので、rotは適用できない)
入力と出力の型(スカラーかベクトルか)を意識すると、何が可能で何が不可能か分かりやすくなります。
ベクトル恒等式の覚え方
ベクトル解析には、他にもたくさんの恒等式があります。全部暗記するのは大変ですが、コツがあるんです。
次元チェックで確認
左辺と右辺で、スカラーかベクトルかの型が一致しているか確認しましょう。型が合わない式は絶対に成り立ちません。
線形性を利用
grad、div、rotはすべて微分演算子なので、線形性を持ちます。つまり:
- grad(αf + βg) = α grad f + β grad g
- div(αF + βG) = α div F + β div G
- rot(αF + βG) = α rot F + β rot G
この性質は計算を簡単にするときに便利ですよ。
積の公式
スカラーとベクトルの積に対しても、微分の積の公式のような法則が成り立ちます。
例えば:
- grad(fg) = g grad f + f grad g
- div(fF) = grad f · F + f div F
- rot(fF) = grad f × F + f rot F
通常の微分と似ているので、覚えやすいはずです。
物理での応用例

これらの関係性は、単なる数学の遊びではありません。物理の重要な法則を表現するのに使われています。
マクスウェル方程式
電磁気学の基本法則であるマクスウェル方程式は、grad、div、rotを使って美しく書けます。
div E = 4πρ (ガウスの法則)
div B = 0 (磁場に磁荷はない)
rot E = -(1/c)∂B/∂t (ファラデーの法則)
rot B = (4π/c)J + (1/c)∂E/∂t (アンペール・マクスウェルの法則)
ここでEは電場、Bは磁場です。もしgrad、div、rotを知らなかったら、これらの式は偏微分だらけの複雑な式になってしまいます。
流体力学
流体の運動を記述する際にも、これらの演算子が大活躍します。
渦度(渦の強さ)は速度場の回転として定義されます:
ω = rot v
また、非圧縮性流体では:
div v = 0
という条件が課されます。
実際に計算してみよう
理論だけだと分かりにくいので、具体例で確かめてみましょう。
例1: rot(grad f) = 0の確認
f = x²y + yz² というスカラー場を考えます。
まず勾配を計算:
grad f = (2xy, x² + z², 2yz)
次にこの回転を計算:
rot(grad f) = (∂(2yz)/∂y – ∂(x² + z²)/∂z, ∂(2xy)/∂z – ∂(2yz)/∂x, ∂(x² + z²)/∂x – ∂(2xy)/∂y)
= (2z – 2z, 0 – 0, 2x – 2x)
= (0, 0, 0)
確かにゼロベクトルになりましたね!
例2: div(rot F) = 0の確認
F = (yz, xz, xy) というベクトル場を考えます。
まず回転を計算:
rot F = (∂(xy)/∂y – ∂(xz)/∂z, ∂(yz)/∂z – ∂(xy)/∂x, ∂(xz)/∂x – ∂(yz)/∂y)
= (x – x, y – y, z – z)
= (0, 0, 0)
この例では、たまたまrotそのものがゼロになってしまいました。別の例でやってみましょう。
G = (y, -x, 0) というベクトル場では:
rot G = (0, 0, -1 – 1) = (0, 0, -2)
この発散は:
div(rot G) = ∂(0)/∂x + ∂(0)/∂y + ∂(-2)/∂z = 0
やはりゼロになりますね!
微分形式との深い関係
少し高度な話になりますが、grad、div、rotには実は統一的な理解の仕方があります。
それが微分形式という考え方です。
微分形式の枠組みでは:
- gradは0-形式の外微分
- rotは1-形式の外微分
- divは2-形式の外微分
と見なせます。そして、外微分を2回適用すると必ずゼロになる(d² = 0)という性質があるんです。
これが、rot(grad f) = 0やdiv(rot F) = 0という関係式の本質的な理由になっています。
ベクトル解析の基本定理との関係
微積分学には「微分積分学の基本定理」という重要な定理がありますが、ベクトル解析にも対応する定理があります。
勾配の定理
∫(C) grad f · dr = f(終点) – f(始点)
経路に沿った勾配の積分は、終点と始点の値の差だけで決まります。
グリーンの定理
平面上で、rotとdivに関する積分定理が成り立ちます。
ストークスの定理
∫∫(S) (rot F) · dS = ∫(C) F · dr
曲面上でのrotの面積分は、境界線上での線積分に等しくなります。
ガウスの定理(発散定理)
∫∫∫(V) div F dV = ∫∫(S) F · dS
領域内でのdivの体積積分は、境界面での面積分に等しくなります。
これらの定理は、微分と積分を結びつける重要な橋渡しをしてくれるんです。
実用的なヒント: 公式の使い方
実際に問題を解くときのコツをいくつか紹介します。
ヒント1: まず型をチェック
計算を始める前に、スカラーかベクトルかを確認しましょう。これだけで間違いがぐっと減ります。
ヒント2: ゼロになる組み合わせを覚える
rot(grad) = 0とdiv(rot) = 0は超頻出です。この2つは必ず覚えておきましょう。
ヒント3: ラプラシアンを見逃さない
div(grad f)が出てきたら、即座に∇²fと書き換える習慣をつけると、計算がシンプルになります。
ヒント4: ベクトル3重積の公式を活用
rot(rot F)の公式は、ベクトルの3重積の公式(a×(b×c) = (a·c)b – (a·b)c)と似た構造を持っています。この類似性を意識すると覚えやすくなりますよ。
まとめ: grad、div、rotは仲間
ベクトル解析のgrad、div、rotは、それぞれ別々の概念ではなく、深く結びついた関係性を持っています。
重要な関係式:
- rot(grad f) = 0 (勾配に回転はない)
- div(rot F) = 0 (回転に発散はない)
- div(grad f) = ∇²f (ラプラシアンが登場)
- rot(rot F) = grad(div F) – ∇²F (複雑だが有用)

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