テレビ番組の視聴率が「15%」と発表されたとします。
でも、ちょっと考えてみてください。 日本の全世帯(約5,000万世帯)すべてを調査したわけじゃありませんよね?
実際は、関東地区で600世帯くらいしか調査していません。 たった600世帯のデータから、「15%」という数字を出しているんです。
じゃあ、本当の視聴率は?
- ぴったり15.0%?
- 14.5%くらい?
- もしかして16%?
この疑問に答えるのが「点推定」と「区間推定」という2つの方法です。
今回は、限られたデータから全体を推測する、統計学の基本テクニックについて、身近な例を使いながら解説していきます!
点推定と区間推定の基本を理解しよう

点推定を一言で説明すると
点推定とは「最も可能性が高い、たった1つの値を答える推定方法」です。
もっと簡単に言うと:
- ズバリ「○○です」と1つの数値で答える
- 一番ありえそうな値を選ぶ
- シンプルだけど、外れるリスクもある
例:
- クラスの平均身長は「165.3cm」
- 明日の最高気温は「25℃」
- このケーキのカロリーは「350kcal」
区間推定を一言で説明すると
区間推定とは「ある範囲(幅)を持たせて答える推定方法」です。
もっと簡単に言うと:
- 「○○から△△の間」と幅を持って答える
- 確実性を重視する
- 安全だけど、ぼんやりした答えになる
例:
- クラスの平均身長は「163cm~167cmの間」
- 明日の最高気温は「23℃~27℃」
- このケーキのカロリーは「300~400kcal」
なぜ2つの方法があるの?
場面によって必要な情報が違うからです。
点推定が向いている場面:
- 計画を立てるとき(予算など)
- 比較するとき(どちらが大きいか)
- シンプルな答えが欲しいとき
区間推定が向いている場面:
- リスクを考えたいとき
- 確実性が大事なとき
- 判断に幅を持たせたいとき
身近な例で理解する点推定
例1:クラスのテスト平均点
40人のクラスから5人を選んでテストの点数を聞きました。
- Aさん:75点
- Bさん:82点
- Cさん:68点
- Dさん:90点
- Eさん:85点
5人の平均:80点
点推定の答え:「クラス全体の平均は80点」
これが点推定。5人のデータから、クラス全体を1つの数値で推定しています。
例2:お菓子の重さ
ポテトチップスの袋に「60g」と書いてあります。 でも、10袋測ったら:58g、61g、59g、62g、60g、59g、61g、60g、58g、62g
平均:60g
点推定の答え:「この商品の重さは60g」
例3:支持率調査
1,000人に聞いた結果、420人が「支持する」と回答。
支持率 = 420/1000 = 42%
点推定の答え:「支持率は42%」
でも、別の1,000人に聞いたら少し違う結果になるかも…
身近な例で理解する区間推定
例1:クラスのテスト平均点(区間推定版)
同じ5人のデータから、今度は区間推定します。
データのばらつきを考慮して: 区間推定の答え:「クラス全体の平均は72点~88点の間(95%の確率で)」
この幅があることで、「たまたま選んだ5人が特別だったかも」という不確実性を表現できます。
例2:お菓子の重さ(区間推定版)
10袋のデータから: 区間推定の答え:「この商品の重さは58.5g~61.5gの間」
工場の製造誤差があることを考慮した、現実的な答えです。
例3:支持率調査(区間推定版)
1,000人で42%の支持率から: 区間推定の答え:「支持率は39%~45%の間(95%の確率で)」
新聞でよく見る「誤差±3%」というのが、まさにこれです!
信頼区間って何?
95%信頼区間の意味
区間推定でよく出てくる「95%信頼区間」。 これは何を意味するのでしょうか?
正しい理解: 「同じ調査を100回やったら、95回はこの範囲に真の値が入る」
間違った理解: 「この範囲に入る確率が95%」(これは微妙に違います)
なぜ95%なの?
実は、90%や99%でも構いません。
- 90%信頼区間:幅が狭い、外れやすい
- 95%信頼区間:バランスが良い(一番使われる)
- 99%信頼区間:幅が広い、外れにくい
95%は「確実性」と「精度」のちょうど良いバランスなんです。
信頼区間の幅を決める要因
区間の幅は3つの要因で決まります:
- サンプル数(調査人数)
- 多い → 幅が狭くなる(精度UP)
- 少ない → 幅が広くなる(精度DOWN)
- データのばらつき
- 小さい → 幅が狭くなる
- 大きい → 幅が広くなる
- 信頼水準(90%、95%、99%)
- 低い → 幅が狭くなる
- 高い → 幅が広くなる
点推定と区間推定の使い分け

点推定を使うべき場面
予算を立てるとき 「来月の売上は500万円」と点推定 → 仕入れや人件費の計画が立てやすい
順位を決めるとき 「Aチームの勝率は65%、Bチームは58%」 → どちらが強いか比較しやすい
目標を設定するとき 「今年の目標は売上1,000万円」 → 明確な数値目標が必要
区間推定を使うべき場面
リスク管理 「来月の売上は450万~550万円」 → 最悪のケースも想定できる
品質管理 「不良品率は1%~3%」 → 安全マージンを考慮できる
投資判断 「利益率は5%~15%」 → リスクとリターンを天秤にかけられる
両方使うのがベスト
実は、プロは両方使います。
例:天気予報
- 点推定:「明日の最高気温25℃」
- 区間推定:「降水確率30%~40%」
例:経済予測
- 点推定:「GDP成長率2.0%」
- 区間推定:「1.5%~2.5%の見込み」
計算方法の基本(簡単に)
点推定の計算
最も簡単な点推定は「平均値」です。
手順:
- データを集める
- 全部足す
- 個数で割る
- それが推定値
例:5人の身長(160, 165, 170, 175, 180) 平均 = (160+165+170+175+180) ÷ 5 = 170cm
区間推定の簡易計算
正確な計算は複雑ですが、簡易的には:
95%信頼区間 ≈ 平均 ± 2 × 標準誤差
標準誤差 ≈ ばらつき ÷ √サンプル数
サンプルが多いほど、区間は狭くなります。
エクセルでの計算
実務ではエクセルを使います。
点推定: =AVERAGE(データ範囲)
区間推定(95%信頼区間): 下限 = AVERAGE(データ) – CONFIDENCE.T(0.05, STDEV(データ), COUNT(データ)) 上限 = AVERAGE(データ) + CONFIDENCE.T(0.05, STDEV(データ), COUNT(データ))
よくある間違いと注意点

間違い1:点推定を過信する
「平均年収600万円」と聞いて、みんな600万円だと思う。 → 実際は300万~1,000万円とばらついているかも
間違い2:区間推定の意味を誤解
「95%信頼区間」を「95%の人がこの範囲」と勘違い。 → 正しくは「推定の確からしさ」の話
間違い3:サンプル数を考慮しない
3人に聞いて「支持率100%!」 → サンプルが少なすぎて信頼できない
間違い4:偏ったサンプル
渋谷で若者だけに聞いて「日本人の平均」とする。 → 代表性がない
実際の活用例
ビジネスでの活用
売上予測
- 点推定:来月の売上は1,000万円
- 区間推定:900万~1,100万円(90%信頼区間)
- 活用:在庫は1,100万円分まで準備
顧客満足度調査
- 点推定:満足度スコア4.2点
- 区間推定:4.0~4.4点(95%信頼区間)
- 活用:確実に4.0以上なら合格ライン
医療での活用
薬の効果
- 点推定:有効率75%
- 区間推定:70%~80%(95%信頼区間)
- 判断:最悪でも70%なら承認
検査値の正常範囲
- 点推定:平均血圧120
- 区間推定:110~130が正常範囲
- 診断:この範囲外なら要注意
スポーツでの活用
打率の予測
- 点推定:今シーズンの打率.280
- 区間推定:.260~.300
- 評価:最低でも.260なら及第点
勝率の計算
- 点推定:勝率60%
- 区間推定:55%~65%
- 判断:過半数は確実に勝てそう
統計ソフトでの表示例
研究論文でよく見る表記
「平均値 ± 標準誤差」 例:身長 170.5 ± 2.3 cm
「平均値(95%信頼区間)」 例:支持率 42%(39%-45%)
グラフでの表現
エラーバー(誤差棒):
- 点推定値を中心に
- 上下に区間推定の幅を表示
- I型の縦線で表現
箱ひげ図:
- 中央値(点推定)
- 四分位範囲(区間推定の一種)
- 外れ値も表示
まとめ:使い分けが大切
点推定と区間推定について、たくさん学んできましたね。
押さえておきたいポイント:
点推定
- 1つの値でズバリ答える
- シンプルで分かりやすい
- 計画や比較に便利
- 外れるリスクがある
区間推定
- 幅を持って答える
- 不確実性を表現できる
- リスク管理に適している
- 答えがぼんやりする
使い分けのコツ:
- まず点推定で大まかな値を把握
- 重要な判断には区間推定を追加
- リスクが大きい場合は区間を重視
- 相手に応じて使い分ける
実践的なアドバイス:
- ニュースの数字は点推定が多い
- 「誤差±○%」があれば区間推定
- 大事な決定は両方確認
- サンプル数も必ずチェック
視聴率も、支持率も、平均年収も。 世の中の数字の多くは「推定値」です。
点推定と区間推定を理解すれば、これらの数字をもっと正しく、賢く解釈できるようになります。
次にニュースで「○○%」という数字を見たら、「これは点推定かな?誤差はどれくらいかな?」と考えてみてください。 統計の目で世界を見る第一歩です!
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