コーシー・アダマールの公式とは

コーシー・アダマールの公式(Cauchy-Hadamard Formula)は、べき級数の収束半径を求めるための重要な公式だよ。
フランスの数学者オーギュスタン・ルイ・コーシー(Augustin-Louis Cauchy)とジャック・アダマール(Jacques Hadamard)にちなんで名付けられたんだ。
この公式は、複素解析や実解析の分野で非常に重要で、無限級数がどこで収束するかを判定するために使われるよ。
べき級数とは?
まず、コーシー・アダマールの公式を理解するために、べき級数について説明するね。
べき級数の定義
べき級数(Power Series)とは、次のような形をした無限級数のことだよ:
$$f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n = a_0 + a_1 z + a_2 z^2 + a_3 z^3 + \cdots$$
ここで:
- $z$ は変数(実数または複素数)
- $a_n$ は各項の係数(定数)
- $n$ は0から無限大までの整数
具体例
例1:指数関数
$$e^z = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!} = 1 + z + \frac{z^2}{2!} + \frac{z^3}{3!} + \cdots$$
例2:幾何級数
$$\frac{1}{1-z} = \sum_{n=0}^{\infty} z^n = 1 + z + z^2 + z^3 + \cdots$$
例3:三角関数
$$\cos z = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n z^{2n}}{(2n)!} = 1 – \frac{z^2}{2!} + \frac{z^4}{4!} – \frac{z^6}{6!} + \cdots$$
一般形のべき級数
より一般的には、$z = a$ を中心とするべき級数は次のように書けるよ:
$$f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n = a_0 + a_1(z-a) + a_2(z-a)^2 + \cdots$$
ここで $a$ を展開の中心と呼ぶんだ。
収束半径とは?
次に、収束半径という概念を理解しよう。
収束半径の定義
べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n$ には、収束半径 $R$ という値が定まるんだ。
収束半径の性質:
- $|z| < R$ のとき:級数は絶対収束する
- $|z| > R$ のとき:級数は発散する
- $|z| = R$ のとき:収束するか発散するかは場合による
収束円
複素平面上で考えると、$|z| < R$ を満たす領域は、原点を中心とする半径 $R$ の円の内部になるよ。この円を収束円と呼ぶんだ。
収束半径には、次の3つのパターンがあるよ:
パターン1:$R = \infty$(無限大)
- すべての $z$ に対して級数が収束する
- 例:$e^z = \sum \frac{z^n}{n!}$
パターン2:$0 < R < \infty$(有限の正の値)
- $|z| < R$ で収束、$|z| > R$ で発散
- 例:$\sum z^n$($R = 1$)
パターン3:$R = 0$
- $z = 0$ 以外のすべての $z$ で発散
- 例:$\sum n! z^n$
コーシー・アダマールの公式

それでは、いよいよコーシー・アダマールの公式を紹介するよ。
公式の内容
べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n$ の収束半径 $R$ は、次の式で与えられるんだ:
$$\frac{1}{R} = \limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}$$
または同じことだけど:
$$R = \frac{1}{\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}}$$
ここで $\limsup$(リムサップ)は上極限を表すよ。
上極限(limsup)とは?
数列 ${a_n}$ の上極限は、次のように定義されるんだ:
$$\limsup_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} \left( \sup_{k \geq n} a_k \right)$$
簡単に言うと:
- $n$ 以降の項の中で最大値(上限)を取る
- その上限の極限を取る
なぜ上極限を使うの?
普通の極限 $\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}$ は存在しないことがあるんだ。
でも、上極限は必ず存在する(拡大実数の範囲で)から、より一般的に使えるんだね。
極限が存在する場合の簡略版
もし $\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}$ が存在する場合は、次のように書けるよ:
$$R = \frac{1}{\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}}$$
特殊なケース:
- $\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = 0$ のとき → $R = \infty$(すべての $z$ で収束)
- $\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = \infty$ のとき → $R = 0$($z=0$ でのみ収束)
コーシー・アダマールの公式の使い方
実際に公式を使って収束半径を計算してみよう。
例題1:幾何級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} z^n$$
この場合、$a_n = 1$ だから:
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{1} = 1$$
よって:
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = 1$$
$$R = \frac{1}{1} = 1$$
答え:収束半径は $R = 1$
これは、幾何級数が $|z| < 1$ で収束することと一致するね。
例題2:指数関数
$$e^z = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!}$$
この場合、$a_n = \frac{1}{n!}$ だから:
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{\frac{1}{n!}} = \frac{1}{\sqrt[n]{n!}}$$
$n!$ はとても速く増加するから、$\sqrt[n]{n!} \to \infty$($n \to \infty$)
よって:
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = 0$$
$$R = \frac{1}{0} = \infty$$
答え:収束半径は $R = \infty$
つまり、$e^z$ はすべての $z$ で収束するんだね。
例題3:係数が交互の級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n n^2}{2^n} z^n$$
この場合、$a_n = \frac{(-1)^n n^2}{2^n}$ だから:
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{\frac{n^2}{2^n}} = \frac{n^{2/n}}{2}$$
$n^{2/n} \to 1$($n \to \infty$)だから:
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = \frac{1}{2}$$
$$R = \frac{1}{1/2} = 2$$
答え:収束半径は $R = 2$
例題4:飛び飛びの項を持つ級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} 2^n z^{2n}$$
この級数は $z^1, z^3, z^5, \cdots$ の項がない(係数が0)んだ。
これを $\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n$ の形で書くと:
$$a_0 = 1, a_1 = 0, a_2 = 2, a_3 = 0, a_4 = 2^2, a_5 = 0, a_6 = 2^3, \cdots$$
つまり:
- $a_{2k} = 2^k$
- $a_{2k+1} = 0$
上極限を計算すると:
$$\sup_{n \geq k} \sqrt[n]{|a_n|} = \sup_{2m \geq k} \sqrt[2m]{2^m} = \sup_{2m \geq k} \sqrt{2} = \sqrt{2}$$
よって:
$$\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt{2}$$
$$R = \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2}$$
答え:収束半径は $R = \frac{1}{\sqrt{2}}$
例題5:収束半径が0の級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} n^n z^n$$
この場合、$a_n = n^n$ だから:
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{n^n} = n$$
よって:
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|} = \infty$$
$$R = \frac{1}{\infty} = 0$$
答え:収束半径は $R = 0$
この級数は $z = 0$ でしか収束しないんだね。
ダランベールの公式との比較

収束半径を求めるもう1つの有名な方法に、ダランベールの公式(比判定法)があるよ。
ダランベールの公式
$$R = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right|$$
または:
$$\frac{1}{R} = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right|$$
どちらを使うべき?
ダランベールの公式が使いやすい場合:
- 階乗が含まれている:$a_n = \frac{1}{n!}$
- 連続する項の比が簡単に計算できる
コーシー・アダマールの公式が使いやすい場合:
- $n$ 乗が含まれている:$a_n = \frac{1}{2^n}$
- 飛び飛びの項がある:$\sum z^{2n}$ など
- ダランベールの極限が存在しない
例題:どちらの公式を使うか
例1:$e^z = \sum \frac{z^n}{n!}$
→ ダランベールの公式が簡単
$$\left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right| = \frac{1/n!}{1/(n+1)!} = n+1 \to \infty$$
$$R = \infty$$
例2:$\sum \frac{z^n}{2^n}$
→ コーシー・アダマールの公式が簡単
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{\frac{1}{2^n}} = \frac{1}{2}$$
$$R = 2$$
コーシー・アダマールの公式の証明(概略)
公式がなぜ成り立つのか、簡単に説明するね(厳密な証明は省略)。
基本的な考え方
べき級数の収束は、幾何級数との比較で判定できるんだ。
幾何級数 $\sum r^n$ は:
- $|r| < 1$ のとき収束
- $|r| > 1$ のとき発散
証明の概略
Step 1:$|z| < R$ のとき収束することを示す
$|z| < R$ ならば、ある $\lambda$ が存在して $|z| < \lambda < R$ となる。
このとき:
$$\frac{1}{\lambda} > \frac{1}{R} = \limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}$$
だから、十分大きな $n$ に対して:
$$\sqrt[n]{|a_n|} < \frac{1}{\lambda}$$
$$|a_n z^n| < \left(\frac{|z|}{\lambda}\right)^n$$
$|z|/\lambda < 1$ だから、$\sum |a_n z^n|$ は幾何級数と比較して収束する。
Step 2:$|z| > R$ のとき発散することを示す
$|z| > R$ のとき、無限個の $n$ に対して:
$$\sqrt[n]{|a_n|} > \frac{1}{|z|}$$
$$|a_n z^n| > 1$$
よって、一般項が0に収束しないから、級数は発散する。
実際の応用例
コーシー・アダマールの公式は、様々な場面で使われるよ。
応用例1:三角関数の収束範囲
$$\cos z = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n z^{2n}}{(2n)!}$$
係数は $a_{2n} = \frac{(-1)^n}{(2n)!}$、$a_{2n+1} = 0$
ダランベールの公式を使うと:
$$\left| \frac{a_{2n}}{a_{2(n+1)}} \right| = \frac{(2n+2)!}{(2n)!} = (2n+1)(2n+2) \to \infty$$
$$R = \infty$$
答え:$\cos z$ はすべての複素数 $z$ で収束する
応用例2:対数関数の級数展開
$$\ln(1+z) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1}}{n} z^n$$
係数は $a_n = \frac{(-1)^{n+1}}{n}$
$$\sqrt[n]{|a_n|} = \frac{1}{\sqrt[n]{n}} \to 1$$
$$R = 1$$
答え:収束半径は1
ただし、$z = 1$ では級数は収束する(交代級数だから)。
応用例3:二項級数
$$(1+z)^\alpha = \sum_{n=0}^{\infty} \binom{\alpha}{n} z^n$$
ここで $\binom{\alpha}{n} = \frac{\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-n+1)}{n!}$
ダランベールの公式を使うと:
$$\left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right| = \frac{n+1}{|\alpha – n|} \to 1$$
$$R = 1$$
答え:収束半径は1
複素解析での重要性
コーシー・アダマールの公式は、複素解析で特に重要な役割を果たすよ。
正則関数とべき級数
正則関数(解析関数)は、収束円の内部でべき級数として表せるんだ。
逆に言えば、べき級数は収束円の内部で正則関数を定義するよ。
テイラー展開とローラン展開
収束半径は、関数がどこまでテイラー展開できるかを教えてくれるんだ。
たとえば、$\frac{1}{1-z}$ は $|z| < 1$ でテイラー展開できるけど、$z = 1$ に特異点があるから、収束半径は1になるんだね。
解析接続
収束半径の外側でも、関数を「解析接続」という方法で拡張できることがあるよ。
よくある質問(FAQ)

Q1: 収束半径の境界($|z| = R$)ではどうなる?
A: 境界上では、収束するか発散するかは級数によって異なるんだ。
例:
- $\sum z^n$:$|z| = 1$ では発散
- $\sum \frac{z^n}{n^2}$:$|z| = 1$ でも収束
- $\sum \frac{z^n}{n}$:$z = 1$ では発散、$z = -1$ では収束
Q2: ダランベールの公式とコーシー・アダマールの公式、どちらが正確?
A: 両方とも正しいよ。ただし、適用できる範囲が違うんだ。
- ダランベールの公式:極限が存在する場合のみ使える
- コーシー・アダマールの公式:上極限を使うので、常に使える
ダランベールの極限が存在すれば、両者は同じ結果を与えるよ。
Q3: 上極限がよく分からないのですが…
A: 上極限は、数列の「振動しながらも最終的に落ち着く上限」を表すんだ。
簡単な例:数列 ${(-1)^n} = {-1, 1, -1, 1, \cdots}$ の場合
- 普通の極限は存在しない
- でも上極限は $1$ になる
Q4: 収束半径が無限大ってどういう意味?
A: すべての複素数(または実数)に対して級数が収束するという意味だよ。
これを整関数(entire function)と呼ぶんだ。
例:$e^z$、$\sin z$、$\cos z$ など
Q5: 収束半径が0ってどういう意味?
A: $z = 0$ 以外のすべての点で級数が発散するという意味だよ。
実用的にはあまり使えない級数だね。
例:$\sum n! z^n$、$\sum n^n z^n$ など
Q6: 実数と複素数で収束半径は違う?
A: いいえ、同じだよ。
ただし、複素数の場合は「収束円」、実数の場合は「収束区間」と呼ばれることがあるね。
実数の場合は、$-R < x < R$ という区間で収束するんだ。
Q7: コーシー・アダマールの公式は誰が発見したの?
A: この公式は、フランスの数学者:
- オーギュスタン・ルイ・コーシー(1789-1857)
- ジャック・アダマール(1865-1963)
によって発展させられたんだ。コーシーが基礎を築き、アダマールが一般化したよ。
まとめ
コーシー・アダマールの公式について、重要なポイントをまとめるね。
公式:
$$R = \frac{1}{\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}}$$
特徴:
- べき級数 $\sum a_n z^n$ の収束半径 $R$ を求める公式
- 上極限を使うので、常に適用できる
- $|z| < R$ で収束、$|z| > R$ で発散
使い分け:
| 状況 | 推奨する方法 |
|---|---|
| 階乗が含まれる | ダランベールの公式 |
| $n$ 乗が含まれる | コーシー・アダマールの公式 |
| 飛び飛びの項 | コーシー・アダマールの公式 |
| 極限が存在しない | コーシー・アダマールの公式 |
重要な例:
| 級数 | 収束半径 |
|---|---|
| $\sum z^n$ | $R = 1$ |
| $\sum \frac{z^n}{n!}$ | $R = \infty$ |
| $\sum n! z^n$ | $R = 0$ |
| $\sum \frac{z^n}{2^n}$ | $R = 2$ |
応用分野:
- 複素解析
- 微分方程式の級数解
- 関数の近似
- テイラー展開の有効範囲
コーシー・アダマールの公式は、数学の様々な分野で基礎となる重要な道具なんだ。収束半径を正確に求めることで、関数の性質をより深く理解できるようになるよ!

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