2次方程式の解の公式は、中学や高校で誰もが習いますよね。
でも「3次方程式の解の公式」があることを知っていましたか?
実は、3次方程式にも解の公式が存在するんです。それがカルダノの公式です。
この公式の発見には、数学史上に残る大スキャンダルが隠されています。約束を破った出版、怒り狂う数学者、そして数学試合…まるでドラマのような展開なんですよ。
この記事では、カルダノの公式とその背後にある波乱万丈の歴史について、分かりやすく解説していきますね。
カルダノの公式って何?

3次方程式の解の公式
カルダノの公式は、3次方程式の解を求めるための公式です。
2次方程式 ax² + bx + c = 0 には「解の公式」がありますよね。あれと同じように、3次方程式 ax³ + bx² + cx + d = 0 にも解の公式があるんです。
ただし、2次方程式の公式と比べると、かなり複雑な形をしています。
いつ発見されたのか
2次方程式の解の公式は、なんと紀元前の古代バビロニア時代にはすでに知られていました。
それに対して、3次方程式の解の公式が発見されたのは16世紀、つまり1500年代になってからです。
数千年もの間、誰も3次方程式を一般的に解く方法を見つけられなかったということになります。
波乱万丈の発見秘話
最初の発見者:デル・フェロ
3次方程式の解法を最初に発見したのは、シピオーネ・デル・フェロ(1465-1526)というイタリアの数学者だと言われています。
しかし、当時のヨーロッパには面白い習慣がありました。
数学者たちが互いに問題を出し合い、一定期間内により多くの問題を解いた方が勝者となる数学試合が流行していたんです。勝者には賞金や名誉が与えられました。
そのため、数学者は優れた解法を発見しても、すぐには公表せず、次の試合のために秘密にしておくのが普通だったんですよ。
デル・フェロも解法を秘密にしたまま亡くなってしまいました。ただし、彼の解法は弟子に受け継がれていきます。
タルタリアの再発見
次に登場するのが、ニコロ・フォンタナという数学者です。
彼は若い頃に戦争で顔に傷を負い、吃音(きつおん)になってしまったため、「タルタリア」(吃音者という意味)というあだ名で呼ばれていました。
タルタリア(1500-1557)は、1535年頃に独自に3次方程式の解法を発見します。
デル・フェロの弟子フィオーレとの数学試合では、タルタリアが圧勝しました。これでタルタリアの名声は高まります。
カルダノの登場
この噂を聞きつけたのが、ジェロラモ・カルダノ(1501-1576)というミラノの数学者です。
カルダノはタルタリアのもとを何度も訪れ、「お願いだから解法を教えて!」としつこく頼み込みました。
最初は断っていたタルタリアも、ついに根負けして、「絶対に他人には公表しない」という約束でカルダノに解法を教えてしまいます。1539年のことです。
約束の破棄と大スキャンダル
カルダノは天才でした。タルタリアから教えてもらった解法のヒントだけで、すぐに背後にある数学的原理を理解してしまいます。
さらに、カルダノはあらゆる形の3次方程式を解けるように方法を一般化し、弟子のルドヴィコ・フェラーリ(1522-1565)とともに4次方程式の解法まで発見します。
カルダノは、これらの成果を出版したくてたまりませんでした。
1543年、カルダノはボローニャを訪れた際、デル・フェロの遺稿を見る機会を得ます。そこには3次方程式の解法が書かれていました。
カルダノは考えました。「タルタリアが最初の発見者ではない。デル・フェロが先だ。ということは、タルタリアとの約束を守る必要はないのでは?」
そして1545年、カルダノは『アルス・マグナ』(偉大なる術)という書物を出版してしまいます。
この本の中で、カルダノは3次方程式と4次方程式の解法を詳しく解説しました。デル・フェロとタルタリアの功績についても言及していますが、タルタリアは激怒します。
タルタリアの復讐
怒り狂ったタルタリアは、カルダノに数学試合を申し込みます。
しかし、カルダノは自分では出場せず、代わりに弟子のフェラーリを送り込みました。フェラーリは優秀で、この試合に圧勝します。
結果として、タルタリアの評判は地に落ち、彼は貧困のうちに生涯を終えます。
一方、カルダノは数学史に名を残し、3次方程式の解法は「カルダノの公式」と呼ばれるようになったのです。
歴史的意義
この出来事は数学史においても大きな意味を持ちます。
『アルス・マグナ』の出版は、現代数学の始まりとされることもあるほど重要な出来事でした。
3次・4次方程式の解法の発見は、その後の代数学の発展、特にガロア理論へとつながっていきます。
カルダノの公式の形

標準形への変換
一般の3次方程式は次の形をしています:
ax³ + bx² + cx + d = 0
まず、両辺をaで割って、最高次の係数を1にします:
x³ + (b/a)x² + (c/a)x + (d/a) = 0
次に、チルンハウス変換と呼ばれる置き換えを行います:
x = y – b/(3a)
この置き換えを行うと、x²の項が消えて、次の形の方程式が得られます:
y³ + py + q = 0
この形を還元3次方程式または簡約3次方程式と呼びます。
ここで、pとqは元の係数a, b, c, dから計算される値です。
カルダノの公式
還元3次方程式 y³ + py + q = 0 の解は、次の公式で表されます:
y = ³√(-q/2 + √((q/2)² + (p/3)³)) + ³√(-q/2 – √((q/2)² + (p/3)³))
³√ は3乗根(立方根)を表します。
この公式が、カルダノの公式です。
見た目はかなり複雑ですね。2次方程式の解の公式と比べても、ずっと長くて複雑な形をしています。
判別式
(q/2)² + (p/3)³ という部分を判別式と呼びます。
この判別式の符号によって、解の性質が変わります:
- 判別式 > 0 のとき:1つの実数解と2つの複素数解
- 判別式 = 0 のとき:3つの実数解(うち2つが重解)
- 判別式 < 0 のとき:3つの異なる実数解
公式の導出方法
カルダノの巧妙なアイデア
還元3次方程式 y³ + py + q = 0 を解くために、カルダノは天才的なアイデアを使いました。
y = u + v とおく
yを2つの未知数uとvの和として表現するんです。これで自由度が1つ増えます。
この置き換えを方程式に代入すると:
(u + v)³ + p(u + v) + q = 0
展開すると:
u³ + v³ + q + (3uv + p)(u + v) = 0
2つの条件
この式が成り立つためには、次の2つの条件を満たせば十分です:
u³ + v³ = -q
3uv = -p
2つ目の式を変形すると:
uv = -p/3
両辺を3乗すれば:
u³v³ = -(p/3)³
2次方程式への帰着
ここで、u³ = U, v³ = V とおくと:
U + V = -q
UV = -(p/3)³
これは、UとVを2つの解とする2次方程式の「解と係数の関係」そのものです!
つまり、UとVは次の2次方程式の解になります:
t² + qt – (p/3)³ = 0
これを2次方程式の解の公式で解けば:
U, V = -q/2 ± √((q/2)² + (p/3)³)
したがって:
u³ = -q/2 + √((q/2)² + (p/3)³)
v³ = -q/2 – √((q/2)² + (p/3)³)
それぞれ3乗根をとれば、uとvが求まり、y = u + v から解が得られます。
これがカルダノの公式の導出の流れです。
1の虚数3乗根とすべての解
ωの登場
実は、3乗根には3つの値があります。
例えば、1の3乗根は、1だけではありません。複素数の範囲では、次の3つの値があります:
1, ω, ω²
ここで、ω = (-1 + √3i)/2 は1の虚数3乗根と呼ばれる特別な数です。
ωは次の性質を持っています:
- ω³ = 1
- ω² + ω + 1 = 0
- ω² = (-1 – √3i)/2
3つの解
u³とv³の3乗根をそれぞれ3通りずつ選べるので、理論的には9通りの組み合わせがあります。
しかし、uv = -p/3 という条件を満たすのは、次の3組だけです:
(u, v), (ωu, ω²v), (ω²u, ωv)
したがって、還元3次方程式の3つの解は:
y₁ = u + v
y₂ = ωu + ω²v
y₃ = ω²u + ωv
元の方程式の解は、y = x + b/(3a) を使って変換すればOKです。
カルダノの憂鬱:虚数の必要性
不可解な問題
カルダノの公式には、当時の数学者たちを悩ませる大きな問題がありました。
例えば、x³ – 15x – 4 = 0 という方程式を考えてみましょう。
この方程式は、因数分解すると (x – 4)(x² + 4x + 1) = 0 となり、3つの実数解 x = 4, -2±√3 を持ちます。
計算途中に現れる虚数
しかし、カルダノの公式を使って計算すると、途中で √(-121) = 11i のような虚数が現れてしまうんです!
3つの実数解を持つ方程式なのに、公式で計算すると途中で虚数が出てくる…これは当時の数学者にとって非常に不可解でした。
この現象は「カルダノの憂鬱」と呼ばれることもあります。
虚数の受容
16世紀当時、負の数でさえまだ十分に理解されていない時代でした。ましてや「2乗して-1になる数」など、想像もできなかったはずです。
しかし、カルダノの公式のおかげで、数学者たちは虚数を避けて通れなくなりました。
「想像上の数」として虚数を一時的に認めて計算を進めると、最終的には虚数が消えて実数解が得られる…という不思議な体験をすることになったのです。
こうして、3次方程式の解法の発見は、虚数・複素数の発展にも大きく貢献したんですよ。
具体例で理解しよう
問題
次の3次方程式を解いてみましょう:
x³ + 3x – 14 = 0
解答
この方程式はすでに還元3次方程式の形(x²の項がない)なので、直接カルダノの公式が使えます。
p = 3, q = -14 です。
判別式を計算すると:
(q/2)² + (p/3)³ = (-14/2)² + (3/3)³ = 49 + 1 = 50
正の値なので、1つの実数解と2つの複素数解を持ちます。
カルダノの公式より:
x = ³√(7 + √50) + ³√(7 – √50)
この式を整理していくと(計算は複雑ですが)、x = 2 という解が得られます。
実際、x = 2 を元の方程式に代入すると:
2³ + 3×2 – 14 = 8 + 6 – 14 = 0 ✓
残りの2つの解は、(x – 2)で割って得られる2次方程式から求められます。
4次方程式への発展
フェラーリの貢献
カルダノの弟子フェラーリは、師匠と一緒に3次方程式を研究する中で、さらに進んだ発見をします。
フェラーリは、4次方程式を3次方程式に帰着させる方法を見つけたんです。
つまり、4次方程式もカルダノの公式を使って解けることになります。
これらの成果も『アルス・マグナ』に収録されました。
5次方程式の壁
3次・4次と来たら、次は5次方程式も解けそうですよね?
数学者たちは、5次以上の方程式の解の公式を求めて努力しました。
しかし、1826年、ノルウェーの数学者ニールス・アーベルが驚くべき結果を証明します。
5次以上の一般的な代数方程式には、解の公式が存在しない
これをアーベル-ルフィニの定理と言います。
つまり、四則演算と累乗根だけでは、5次以上の方程式の解を一般的に表すことはできないんです。
カルダノの公式の限界と現実的な問題
なぜ教科書に載っていないのか
2次方程式の解の公式は中学・高校で必ず習いますが、カルダノの公式はほとんど教えられません。
その理由はいくつかあります:
1. あまりにも複雑
式が長くて複雑すぎて、暗記も実用も困難です。
2. 計算途中で虚数が現れる
実数解しかない場合でも、計算途中で複素数が現れることがあります。これは高校数学の範囲を超えてしまいます。
3. 因数定理の方が実用的
高校数学では、因数定理や組立除法を使って解く方が現実的です。
4. 数値計算法の方が便利
実際に解を求めたいだけなら、ニュートン法などの数値計算法の方が簡単で確実です。
歴史的・理論的な意義
それでも、カルダノの公式には大きな意義があります:
- 代数方程式論の発展の出発点となった
- 複素数の重要性を示した
- ガロア理論など、より高度な数学への道を開いた
- 「解の公式が存在する」という事実そのものが重要
実用性よりも、数学史における位置づけや理論的な重要性の方が大きいと言えます。
まとめ
カルダノの公式は、3次方程式の解を求めるための公式です。
歴史的背景:
- デル・フェロが最初に発見(秘密のまま)
- タルタリアが独自に再発見
- カルダノが約束を破って出版
- 数学史上最大のスキャンダルの一つ
公式の形:
- 還元3次方程式 y³ + py + q = 0 の解:
- y = ³√(-q/2 + √((q/2)² + (p/3)³)) + ³√(-q/2 – √((q/2)² + (p/3)³))
重要な特徴:
- y = u + v という置き換えで3次方程式を2次方程式に帰着
- 実数解しかない場合でも、計算途中で虚数が現れることがある
- 1の虚数3乗根 ω を使えば、3つすべての解が得られる
数学史における意義:
- 複素数の発展に貢献
- 4次方程式の解法にもつながった
- 『アルス・マグナ』の出版は現代数学の始まりとされる
- 5次以上には解の公式が存在しない(アーベル-ルフィニの定理)
カルダノの公式は、複雑で実用性には乏しいものの、代数学の発展において極めて重要な役割を果たした公式です。
そして何より、約束の破棄、怒り狂う数学者、数学試合…といったドラマチックな歴史が付随しているのが面白いところですね。
数学の発展は、常に論理だけで進んできたわけではなく、人間のドラマや情熱によって形作られてきたことを、カルダノの公式の歴史は教えてくれます。
現代では、複雑な方程式を解くにはコンピュータを使うのが一般的です。でも、それでも「解の公式が存在する」という事実そのものが、数学の美しさと深さを物語っているんですよ。

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