「無限に続く数の列って、どこまでもバラバラになるんじゃないの?」
「数が無限にあったら、収拾がつかなくなりそう…」
「有界って何?収束するってどういうこと?」
実は、無限に続く数列でも、ある条件を満たせば必ず規則的な部分が見つかるんです。
それを保証してくれるのが「ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理」。この定理は、一見ランダムに見える無限の数列の中にも、必ず秩序があることを教えてくれます。
数学の世界では「無限」を扱う時の基本的な道具として、解析学の土台を支える重要な定理なんです。この記事では、身近な例を使いながら、この美しい定理の本質を分かりやすく解説していきます。
ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理とは?

定理の内容を日常の言葉で
難しい数式を使わずに表現すると:
「限られた範囲内に無限個の点があれば、どこかに点が集まっている場所が必ずある」
もう少し正確に言うと:
「有界な無限数列は、必ず収束する部分列を持つ」
実例:教室の席替えで考える
30人のクラスで、毎日席替えをする場面を想像してください。
有限の場合:
- 30人が30席に座る
- 組み合わせは有限(とても多いけど)
- いつか同じ配置が繰り返される
無限版(定理のイメージ):
- 無限に席替えを続ける
- でも教室(有界な空間)は限られている
- どこかの席の周りに、何度も何度も人が集まってくる
これがボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の本質です。
重要な用語を理解しよう
有界(ゆうかい)とは?
有界とは、「ある範囲内に収まっている」ということです。
実例で理解:
- 有界な例:体温(35℃~42℃の範囲)
- 有界でない例:自然数(1, 2, 3, … と無限に大きくなる)
数学的な表現:
数列が有界 ⟺ すべての項が、ある数M以下(上に有界)
または、ある数m以上(下に有界)
収束(しゅうそく)とは?
収束とは、「だんだん特定の値に近づいていく」ことです。
実例:
1, 1/2, 1/3, 1/4, 1/5, ...
この数列は0に収束します(どんどん0に近づく)。
部分列(ぶぶんれつ)とは?
元の数列から、順番を保ったまま一部を取り出したものです。
実例:
元の数列:1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, ...
部分列の例:2, 4, 6, 8, 10, ...(偶数だけ取り出した)
別の部分列:1, 3, 5, 7, 9, ...(奇数だけ取り出した)
なぜこの定理が重要なの?

理由1:実数の完備性を保証
実数の世界に「穴」がないことを示す重要な性質です。
実例:円周率の計算
3, 3.1, 3.14, 3.141, 3.1415, ...
この数列は有界で、π(円周率)に収束する部分列を持ちます。
理由2:解析学の基礎
微積分や関数解析など、多くの数学分野の土台になっています。
応用例:
- 連続関数の性質証明
- コンパクト性の理解
- 最大値・最小値の存在証明
理由3:無限を扱う道具
無限という扱いにくい概念を、有限的な性質で制御できます。
定理の直感的な理解:鳩の巣原理との関係
有限版:鳩の巣原理
「5つの巣に6羽の鳩がいれば、少なくとも1つの巣には2羽以上いる」
これは当たり前ですよね。
無限版:ボルツァノ・ワイエルシュトラス
「有限の範囲に無限個の点があれば、どこかに無限に点が集まる」
鳩の巣原理の無限版として理解できます。
具体例で定理を実感

例1:振動する数列
数列:1, -1, 1, -1, 1, -1, ...
有界? はい(-1以上1以下)
収束する部分列は?
- 1, 1, 1, 1, …(1に収束)
- -1, -1, -1, -1, …(-1に収束)
定理通り、収束する部分列が存在します!
例2:だんだん細かく振動
数列:1, -1/2, 1/3, -1/4, 1/5, -1/6, ...
有界? はい(-1以上1以下)
収束する部分列は?
- 1/1, 1/3, 1/5, …(正の項→0に収束)
- -1/2, -1/4, -1/6, …(負の項→0に収束)
例3:有理数の稠密性
区間[0,1]内のすべての有理数を並べた数列を考えます。
性質:
- 有界(0以上1以下)
- 無限個の要素
- どんな実数にも収束する部分列が作れる
証明のアイデア(分かりやすく)
区間縮小法のイメージ
- 最初の区間を半分に分ける
- [0, 1]を[0, 0.5]と[0.5, 1]に分割
- 無限個の点があるので、どちらかに無限個含まれる
- さらに半分に分ける
- 無限個含む方をまた半分に
- また、どちらかに無限個
- 無限に繰り返す
- 区間がどんどん小さくなる
- でも常に無限個の点を含む
- 結論
- 区間が1点に収束
- その点に収束する部分列が取れる
実例:宝探しゲーム
広い野原に無限個の宝が埋まっています。
- 野原を半分に区切る
- 宝が無限にある方を選ぶ
- その領域をまた半分に
- 繰り返すと、宝が集中している場所が見つかる
これがボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の証明の核心です。
関連する定理との比較

ハイネ・ボレルの定理
内容: 実数の閉区間はコンパクト
関係: ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理から導かれる
コーシー列の収束定理
内容: 実数のコーシー列は収束する
違い:
- コーシー列:項同士が近づく
- B-W定理:部分列が収束
ワイエルシュトラスの最大値定理
内容: 閉区間上の連続関数は最大値を持つ
応用: B-W定理を使って証明される
高次元への拡張
2次元の場合
平面上の有界な無限点列を考えます。
実例:
1×1の正方形内に無限個の点
→ どこかに集積点がある
n次元の場合
n次元空間でも同じ性質が成り立ちます。
応用:
- 物理学:粒子の位置解析
- 経済学:市場の均衡点
- 機械学習:データの収束性
よくある誤解と注意点

誤解1:すべての数列が収束する
正しくは: 収束する部分列が存在する
元の数列自体は収束しなくてもOK(例:1, -1, 1, -1, …)
誤解2:収束先は1つだけ
正しくは: 複数の収束先があり得る
振動する数列では、異なる値に収束する部分列が複数存在します。
誤解3:有界でなくても成り立つ
正しくは: 有界性は必須条件
反例:1, 2, 3, 4, …(収束する部分列なし)
まとめ:無限の中に潜む秩序の美しさ
ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理は、無限の世界に秩序があることを教えてくれます。
押さえるべきポイント:
- 有界+無限 = 収束する部分列 – これが定理の核心
- 実数の完備性 – 数の世界に穴がない証拠
- 解析学の基礎 – 多くの定理の土台
- 直感的理解 – 限られた空間に無限があれば集積する
定理が教えてくれること:
- 無限は怖くない
- 制約があれば秩序が生まれる
- 数学の美しい調和
この定理は、19世紀の数学者ボルツァノとワイエルシュトラスが独立に発見しました。彼らの洞察は、現代数学の礎となっています。
無限という概念を恐れず、その中に潜む美しい規則性を楽しんでください。それが数学の醍醐味なのですから!
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