スポーツ選手の引退試合や退職のニュースで、よく耳にする「有終の美を飾る」という言葉。なんとなく意味は分かるけれど、正しく使えているか自信がない…そんな方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「有終の美を飾る」の正しい意味や由来、使い方から注意点まで、分かりやすく解説していきます。ビジネスシーンでも日常会話でも使える便利な表現なので、しっかり理解しておきましょう。
「有終の美を飾る」の基本的な意味

「有終の美を飾る」は「ゆうしゅうのびをかざる」と読み、物事を最後まで立派にやり遂げ、素晴らしい結果を残すことを意味します。単に終わらせるだけでなく、「見事な締めくくりをする」というポジティブなニュアンスが込められた表現です。
言葉を分解してみると、理解が深まります。
「有終」:最後まで成し遂げること、終わりを全うすること
「美」:見事なこと、立派なこと
「飾る」:価値のあるものを添える、華やかさを加える
これらが組み合わさって、「最後まできちんとやり遂げて、立派な成果を上げる」という意味になるわけです。
短縮形「有終の美」も使われる
「有終の美を飾る」は、短縮して「有終の美」だけでも使われます。「彼は引退試合で有終の美を飾った」とも「彼の引退試合は有終の美だった」とも表現できます。どちらも正しい使い方です。
よくある間違い:「優秀の美」ではない!
注意したいのが表記です。「ゆうしゅう」という音から、つい「優秀の美を飾る」と書いてしまう人がいますが、これは間違いです。
「優秀」は「能力や成績が優れていること」を意味する言葉で、「有終」とはまったく異なります。メールや文書で使う際には、誤変換しないよう特に注意しましょう。
「有終の美を飾る」の由来と歴史
この言葉がどこから来たのかを知ると、より深く理解できます。
中国最古の詩集『詩経』が起源
「有終の美を飾る」の由来は、中国最古の詩集『詩経(しきょう)』にあります。『詩経』は紀元前11世紀から紀元前6世紀頃、黄河流域の国々で歌われていた詩や民謡を集めたもので、儒教の開祖である孔子が編纂したと伝えられています。
その中の「大雅・蕩(たいが・とう)」という詩に、次のような一節があります。
「靡不有初 鮮克有終(初め有らざる靡(な)し、克(よ)く終わり有るもの鮮(すく)なし)」
これは「物事を始める人は誰でもいるが、それを最後までやり遂げる人は少ない」という意味です。
王朝の衰退を嘆いた詩だった
この詩は、衰退していく周王朝を嘆いて詠まれたものです。
当時の王は即位当初は立派だったものの、やがて乱れた政治を行うようになり、国を混乱させてしまうことが多かったのです。
「始めは誰でも熱心に取り組むが、最後までやり遂げることは難しい」という教訓から、転じて「最後まで成し遂げることの素晴らしさ」「最後に良い結果を残すこと」を表す言葉として使われるようになりました。
この歴史的背景を知ると、「有終の美を飾る」という言葉の重みが増しますね。
「有終の美を飾る」の使い方と例文
それでは、実際にどんな場面でどのように使うのか、具体例を見ていきましょう。
スポーツシーンでの使用例
引退試合での活躍
- 長年活躍してきたエースピッチャーは、引退試合で完封勝利を収め、有終の美を飾った
- 彼女は最後のオリンピックで金メダルを獲得し、見事に有終の美を飾ることができた
- チームはシーズン最後の試合に勝利し、有終の美を飾った
スポーツ選手の引退や、シーズン最後の試合などでよく使われます。特に、長年の活躍の末に素晴らしい結果で締めくくる場面で効果的です。
ビジネスシーンでの使用例
退職・異動時
- 部長は最後のプロジェクトを大成功に導き、有終の美を飾って定年退職された
- 長年お世話になったこの会社で、有終の美を飾ることができました
- 彼は在籍中の集大成として素晴らしい企画を実現し、有終の美を飾って転職した
退職や異動の際、最後の仕事を立派に仕上げた場合に使います。送別会のスピーチや挨拶文でもよく使われる表現です。
プロジェクト完了時
- このプロジェクトを成功させて、有終の美を飾りましょう
- 皆様のご協力のおかげで、有終の美を飾ることができました
- 最後まで気を抜かず、有終の美を飾るために全力を尽くします
チームで取り組んできたプロジェクトや企画を成功させる場面でも使えます。
日常生活での使用例
学校行事
- 3年間の集大成として、文化祭で最優秀賞を獲得し、有終の美を飾った
- 卒業論文で教授から高い評価をいただき、有終の美を飾ることができた
学生生活の締めくくりを素晴らしい形で終える場面でも使えます。
その他の場面
- 連載を続けてきた漫画家が、最終回で感動的なストーリーを描き、有終の美を飾った
- 最後の演奏会で完璧な演奏を披露し、音楽活動に有終の美を飾った
何かを長く続けてきた人が、その最後を見事に締めくくる場面で幅広く使えます。
否定形での使い方
「有終の美を飾ることができなかった」という否定形でも使われます。
- ケガに悩まされ、残念ながら有終の美を飾ることはできなかった
- 最終試合で敗れてしまい、有終の美を飾れずに悔しい思いをした
期待に反して最後がうまくいかなかった場合に使います。
使ってはいけない場面に要注意!

便利な言葉ですが、使うべきでない場面もあります。マナー違反にならないよう、注意点をしっかり押さえておきましょう。
葬儀・弔辞では使わない
「有終の美を飾る」はポジティブで祝福のニュアンスを含む言葉です。そのため、人の死に際して使うのは不適切です。
故人がどんなに立派な最期を迎えたとしても、葬儀や弔辞で「有終の美を飾られました」とは言いません。死は悲しみを伴うものであり、「美しい終わり」として表現するのは遺族の気持ちに配慮していないと受け取られかねません。
結婚式・祝辞でも避けるべき
結婚式は新しい門出を祝う場です。ところが「有終の美」には「終わり」を連想させる言葉が含まれています。
結婚式では「終わり」「別れ」「去る」といった言葉は忌み言葉(いみことば)とされ、避けるべきとされています。「有終の美を飾る」も同様に、結婚式のスピーチや祝辞では使わない方が無難です。
使える慶事と使えない慶事の違い
- 使える:退職祝い、引退セレモニー、卒業式、プロジェクト完了祝い
- 使えない:結婚式、出産祝い、開店祝い、就任祝い
基本的に、「何かが終わる場面」では使えますが、「何かが始まる場面」では使わないと覚えておくといいでしょう。
「有終の美を飾る」の類語と言い換え表現
似た意味を持つ言葉を知っておくと、表現の幅が広がります。
掉尾を飾る(ちょうびをかざる)
「掉尾を飾る」は「有終の美を飾る」とほぼ同じ意味で、物事の最後を立派に締めくくることを表します。
「掉尾」とは「最後に勢いが増すこと」「最終段階」という意味です。読み方は「ちょうび」が一般的ですが、慣用読みで「とうび」と読むこともあります。
使用例
- 彼女の掉尾を飾るにふさわしい、素晴らしいコンサートだった
- 最後の試合に勝って、見事に掉尾を飾った
「有終の美を飾る」と比べると、「掉尾を飾る」の方が使用頻度は低く、やや文語的な印象があります。ただし意味はほぼ同じなので、置き換えて使うことができます。
立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず)
「立つ鳥跡を濁さず」は立ち去る者は、跡を見苦しくないようにすべきであるという意味のことわざです。
水鳥が飛び立った後も水面が濁らず澄んでいる様子から、「去り際は潔くあるべき」という教訓を表しています。
使用例
- 立つ鳥跡を濁さずというように、きちんと引継ぎをして退職したい
- 彼は誰からも惜しまれる、立つ鳥跡を濁さずの退職だった
「有終の美を飾る」と似ていますが、若干ニュアンスが異なります。
違い
- 「有終の美を飾る」:最後に素晴らしい結果を出すことを強調
- 「立つ鳥跡を濁さず」:後始末をきちんとして、迷惑をかけずに去ることを強調
つまり、「有終の美」は「成功」に焦点があり、「立つ鳥跡を濁さず」は「潔さ」に焦点があるのです。
花道を飾る(はなみちをかざる)
「花道を飾る」は華々しい活躍をして、人に惜しまれながら引退することを意味します。
歌舞伎の舞台で、役者が客席の中を通って登場・退場する「花道」が語源です。拍手喝采を浴びながら退場する様子から生まれた表現です。
使用例
- 彼は最後の大会で優勝し、花道を飾って引退した
- 素晴らしい業績を残して花道を飾る退職となった
「有終の美を飾る」よりも、「人々に惜しまれながら」「華やかに」というニュアンスが強い表現です。
終わりよければ全てよし
シェイクスピアの戯曲タイトルでもある「終わりよければ全てよし」も、似た意味で使われます。
意味
物事は結末さえ良ければ、途中の過程がうまくいかなくても問題ないということ。
使用例
- 途中は苦労したが、最後に成功したのだから終わりよければ全てよしだ
ただし、「有終の美を飾る」は「最初から最後まで頑張り通した」というニュアンスがあるのに対し、「終わりよければ全てよし」は「途中は良くなくても最後が良ければOK」という意味なので、完全に同じではありません。
「有終の美を飾る」の対義語
反対の意味を持つ言葉も知っておくと、理解が深まります。
竜頭蛇尾(りゅうとうだび)
「竜頭蛇尾」は最初は勢いがあるが、最後は振るわないことを意味する四字熟語です。
頭は竜のように立派だが、尾は蛇のように貧弱だという様子から、「初めは良かったが尻すぼみに終わる」ことを表します。
使用例
- あのプロジェクトは竜頭蛇尾に終わってしまった
- 始めは意欲的だったが、結局は竜頭蛇尾だった
「有終の美を飾る」とは正反対の状態を表す言葉です。
晩節を汚す(ばんせつをけがす)
「晩節を汚す」はそれまで高い評価を得ていた人が、最後になって評価を落とす過ちを犯すことを意味します。
「晩節」とは人生や時代の終わり、晩年という意味です。
使用例
- 彼はスキャンダルで晩節を汚してしまった
- 晩節を汚さないよう、最後まで誠実でありたい
長年積み上げた信頼や名声を、最後の段階で失ってしまう状況を表します。
仏作って魂入れず(ほとけつくってたましいいれず)
「仏作って魂入れず」は形だけ整えて、肝心なものが欠けていることを意味することわざです。
仏像を作っても、魂を入れる儀式(開眼供養)をしなければ、ただの木や石に過ぎないという意味から来ています。
使用例
- せっかく企画書を作ったのに、肝心のコスト計算が抜けているとは、仏作って魂入れずだ
最後の仕上げが不十分で完成に至らない状態を表します。
「有終の美を飾る」の英語表現
国際的なビジネスシーンでも使えるよう、英語での表現方法も覚えておきましょう。
“to perfection”
「完璧に」「完璧な状態で」という意味の表現です。
例文
- I did it to perfection.(私はそれを有終の美で飾った)
- She worked her tasks to perfection.(彼女は仕事を有終の美で飾った)
“successful conclusion”
「成功裏の結果」「成功した結末」という意味です。
例文
- He brought the project to a successful conclusion.(彼はそのプロジェクトを成功裏に完結させた/有終の美を飾った)
- The event came to a successful conclusion.(そのイベントは成功裏に終了した)
“crowning glory”
「最高の栄光」「最後を飾る名誉」という意味で、有終の美のニュアンスを表現できます。
例文
- Winning the championship was the crowning glory of his career.(選手権での優勝は彼のキャリアの有終の美だった)
“finish strong”
シンプルに「力強く終える」という表現も使えます。
例文
- He finished strong in his last race.(彼は最後のレースを有終の美で飾った)
“end on a high note”
「良い調子で終える」という慣用表現です。
例文
- The concert ended on a high note.(そのコンサートは有終の美を飾った)
「有終の美を飾る」を使う時のポイント
最後に、この言葉を使う際の実践的なポイントをまとめます。
自分にも他人にも使える
「有終の美を飾る」は、自分の成果について話す場合にも、他人を称賛する場合にも使えます。
自分について
- 皆様のご協力のおかげで、有終の美を飾ることができました
他人について
- 〇〇さんは素晴らしい成績で有終の美を飾られました
ただし、自分について使う場合は謙虚さも忘れないようにしましょう。「周囲のおかげで」といった表現を添えると、より好印象です。
目上の人にも使える
「有終の美を飾る」は敬語ではありませんが、丁寧な表現なので目上の人に対しても使用できます。
例文
- 部長は最後まで素晴らしいリーダーシップを発揮され、有終の美を飾られました
完了形で使うのが基本
「有終の美を飾る」は基本的に、すでに終わったことについて使います。
正しい使い方
- 〇〇選手は有終の美を飾った(過去形・完了形)
- 有終の美を飾ることができました(完了形)
未来のことには使いにくい
- 有終の美を飾りたい(願望として可)
- 有終の美を飾りましょう(目標として可)
ただし、これから取り組むことについて「有終の美を飾りたい」「有終の美を飾ろう」と目標や願望として使うことはできます。
過程も重要であることを忘れずに
「有終の美を飾る」は最後の結果だけを指すのではなく、それまでの努力や過程があってこそ成り立つ言葉です。
一時的にうまくいっただけでは「有終の美」とは言えません。
長く続けてきたこと、積み重ねてきたことを、最後に見事に締めくくる場合に使う表現だということを理解しておきましょう。
まとめ:美しい終わり方を目指して
「有終の美を飾る」は、物事を最後まで立派にやり遂げ、素晴らしい結果を残すことを意味する美しい日本語表現です。
この記事のポイント
- 「有終の美を飾る」は「ゆうしゅうのびをかざる」と読む
- 「優秀の美」は間違い、「有終の美」が正しい表記
- 中国の古典『詩経』が由来で、「最後まで成し遂げる人は少ない」という教訓から生まれた
- スポーツの引退、退職、プロジェクト完了など幅広い場面で使える
- 葬儀や結婚式では使わないのがマナー
- 類語には「掉尾を飾る」「立つ鳥跡を濁さず」「花道を飾る」などがある
- 対義語は「竜頭蛇尾」「晩節を汚す」など
- 英語では”to perfection”や”successful conclusion”などで表現できる


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