ビジネスシーンで欠かせない「名刺」。
初対面の人と会うとき、まず名刺交換から始まりますよね。
でも、ふと疑問に思ったことはありませんか?
「名刺は紙でできているのに、なぜ『名紙』じゃなくて『名刺』なの?」
「『刺す』って、何を刺すの?」
確かに、名前を書いた紙なら「名紙」の方がしっくりくる気がします。
わざわざ物騒な「刺」という字を使う理由とは、一体何なのでしょうか。
今回は、「名刺」という言葉の語源と歴史について詳しく解説します。
「名刺」の意味

まず、「名刺」という言葉の意味を確認しておきましょう。
名刺(めいし)
- 自らの名前と所属・連絡先等を示すために他人に渡すことを目的とした紙片(カード)
- 初対面の人に自己紹介の一環として交換される
- 職業上の儀礼のために手渡される
氏名を最も強調し、所属(肩書き)、連絡先(電話番号・所在地など)を記載するのが一般的です。
なぜ「名紙」ではなく「名刺」なのか?
名刺は確かに紙でできています。
それなのに、なぜ「名紙」ではなく「名刺」と書くのでしょうか。
答え:昔は紙ではなく木や竹の札だったから
実は、名刺の起源となったものは紙ではなく、木や竹でできた札だったのです。
名刺の歴史は、約2000年前の中国の古代(漢や唐の時代)まで遡ります。
当時、訪問先が不在だった際、訪問したことを知らせるために、木や竹を削って姓名を刻んだ札を使っていました。
この木や竹の札を「刺(し)」と呼んでいたのです。
戸口や箱に「刺す」から「刺」
では、なぜこの札を「刺」と呼んだのでしょうか。
訪問先が不在の場合、この札を戸口や玄関に置かれた箱に刺しておくという使い方をしていました。
実際に「刺し込む」「挟む」という行為をしていたため、「刺」という名前になったのです。
つまり、物理的に「刺す」行為が語源になっているんですね。
「刺」という漢字の意味
「刺」という漢字には、私たちがよく知っている「さす」「つきさす」という意味以外にも、実は「なふだ(名札)」という意味があります。
漢字辞典での「刺」の意味
- さす、つきさす(刺客、刺激、刺繍)
- そしる、なじる(風刺)
- とげ、はり(有刺鉄線)
- なふだ(名刺)
つまり、「刺」という漢字自体に「名札」の意味があり、「名刺」は本来「名前の札」という意味なのです。
「名刺」を分解すると「名前の名札」となり、ややこしい意味合いになりますが、これは「刺」が既に「札」の意味を持っているためです。
名刺の歴史
名刺がどのように発展してきたのか、その歴史を見ていきましょう。
中国での始まり(紀元前後〜)
名刺の起源は、約2000年前の中国の漢や唐の時代だとされています。
使い方:
- 誰かの家を訪問したとき、相手が不在の場合に使用
- 木や竹の札に自分の名前と身分を書いた
- 戸口に置かれた箱に入れたり、戸口に刺し込んだりして訪問を告げた
有名な逸話:
漢の高祖・劉邦が妻を娶る際、その父親に面会を申し込むために「刺」にメッセージを入れて取り次ぎを頼んだという話が伝わっています。
ヨーロッパへの伝播(15〜17世紀)
15世紀の中国で「Meishi(名刺)」と呼ばれる訪問カードが使われていました。
この習慣が17世紀頃にヨーロッパに伝わりました。
ヨーロッパでの発展:
- フランスで「Visite Biletes(訪問カード)」として普及
- 貴族や上流階級の間で使用
- 遊びカードサイズで、金箔や紋章で装飾された豪華なもの
- 家には来客用のカードトレイが置かれた
Trade Card(トレードカード)の登場:
17世紀のロンドンでは、住所表示システムがなかったため、商人が以下のような「トレードカード」を作りました。
- 表面:店舗や商品の宣伝
- 裏面:店までの地図や道順
このトレードカードと訪問カードが融合して、現代のビジネスカードが誕生しました。
日本での歴史(江戸時代〜)
日本で名刺が使われ始めたのは、19世紀初頭の江戸時代からです。
江戸時代:
- 和紙に墨で名前を書いたものを使用
- 中国と同様、訪問先が不在のときの不在票として利用
- 江戸幕府の役人などが使用していた
幕末(1850年代〜):
- 西洋の印刷技術が伝来
- 木版印刷の名刺が登場
- 名前の上に家紋を印刷したデザインが主流
- 外国人との交流のために使用
記録に残る最古の日本の名刺:
- 1778年、蝦夷地(現在の北海道)根室に来航したロシアの通商交渉人に対して、松前藩士が渡した名刺(ロシア国立古文書館に現存)
- 1858年の日米修好通商条約のとき、日本の役人がアメリカの外交官に渡した印刷された名刺
明治時代:
- 鹿鳴館を中心に西洋諸国との交流が盛んに
- 上流階級の社交用アイテムとして人気
- ヨーロッパの社交界の影響を受けた使い方が広まった
昭和時代:
- 身分証明の役割も持つように
- ビジネスツールとして一般に普及
英語では何と言う?

名刺は英語でいくつかの呼び方があります。
Business Card(ビジネスカード)
最も一般的な呼び方で、現代のビジネスシーンで使われます。
Visiting Card(ビジティングカード)
イギリス英語での呼び方。
「訪問カード」という意味で、名刺の起源に近い表現です。
Calling Card(コーリングカード)
アメリカ英語での呼び方。
「呼びかけカード」という意味です。
Name Card(ネームカード)
直訳的な表現で、アジア圏でよく使われます。
現代の名刺のサイズ
日本の一般的な名刺サイズは91mm × 55mmです。
このサイズになった理由には諸説ありますが、以下のような説があります。
- 携帯しやすいサイズ
- 名刺入れや財布に収まりやすい
- 印刷の効率性
国によって名刺のサイズは異なり、欧米では異なるサイズが使われることもあります。
名刺文化の違い
日本
- 名刺交換は儀礼として非常に重要
- 両手で丁寧に渡し、受け取る
- 相手の名刺は大切に扱う
- すぐにポケットにしまわず、テーブルの上に置く
- 名刺は「その人の分身」として扱われる
欧米
- 比較的カジュアルな扱い
- 片手で渡すことも多い
- 会議後にまとめて交換することもある
中国
- 現代では貿易業など対外的にビジネスを展開する人のみが使用
- 国内事業ではほとんど使われていない
まとめ
「名刺」という言葉は、見た目では「名前を刺す」と読めてしまいますが、実際には深い歴史的背景がありました。
重要なポイント:
- 昔は紙ではなく木や竹の札だった
中国古代では木や竹を削って名前を刻んでいた - 「刺」という札を戸口に刺していた
訪問先が不在のとき、戸口や箱に刺し込んでいたことが語源 - 「刺」という漢字には「名札」の意味がある
「刺す」という意味だけでなく、「なふだ」という意味も持つ - 日本では江戸時代から使用開始
当初は和紙に墨で名前を書いていた - 明治以降、社交ツールとして普及
上流階級から一般へと広がり、現代のビジネスツールに - 英語では「Business Card」「Visiting Card」
起源を表す「訪問カード」という意味
「名刺」という言葉一つとっても、約2000年の歴史があり、文化や技術の変遷を反映しているんですね。
次に名刺交換をするときは、この長い歴史を思い出してみてください。
単なる紙切れではなく、古代中国から続く「人と人をつなぐツール」の伝統を受け継いでいることに気づくはずです。
ビジネスシーンで何気なく使っている名刺には、こんなに深い物語が隠されていたのです。


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