「虎視眈々とチャンスを狙う」「虎視眈々と次期社長の座を狙っている」――ビジネスやスポーツの世界でよく耳にする、この四字熟語。
「虎視眈々」とは、虎が獲物を狙うように、鋭い目つきで機会をじっと待ち構えていることを意味します。野心を持ち、チャンスが来るのを辛抱強く待つ姿勢を表します。
この記事では、「虎視眈々」の意味や由来、正しい使い方、類義語、英語表現まで詳しく解説していきます。
「虎視眈々」とは?基本的な意味

「虎視眈々(こしたんたん)」とは、虎が鋭い目つきで獲物をじっと狙っているように、じっと機会をうかがい、すきがあればつけ入ろうとする様子を意味する四字熟語です。
「虎視」と「眈々」の意味
この四字熟語は2つの部分から成り立っています。
「虎視(こし)」
- 虎が獲物を見ること
- 虎が獲物に狙いを定めて鋭い目つきで様子をうかがっている様子
「眈々(たんたん)」または「眈眈」
- 「眈(にら)む」という漢字
- 鋭い目つきで獲物を見下ろすこと
- 欲深そうな目つきでねらう様子
この2つが組み合わさって、「虎が眼光鋭く獲物に狙いを定める様子」を表します。
転じた意味
元々は虎の習性を表す言葉でしたが、転じて:
- おのれの野望を遂げるために、じっと機会を狙っている
- 相手のすきを狙って、じっくりと機会をうかがうこと
- チャンスを逃すまいと常に機会を狙っている様子
という意味で使われるようになりました。
重要な注意点
「眈」と「耽」を間違えないこと
× 虎視耽々(誤り)
○ 虎視眈々(正しい)
「耽(ふける)」は「深く熱中する」という意味で、「眈(にらむ)」とは全く異なります。「眈」は「めへん」、「耽」は「みみへん」です。
「虎視眈々」の由来
この言葉の由来は、古代中国の書物『易経(えききょう)』にあります。
『易経』とは
『易経』は、四書五経と呼ばれる儒教の経典の一つで、古代中国の占いについて述べられた書物です。
原文と意味
『易経』の「頤卦(いか)」に、次のような一節があります。
原文:
「顚頤吉。虎視眈眈、其欲逐逐、无咎。」
読み下し文:
「顚(さかしま)に頤(やしな)わるるも吉なり。虎視眈眈、その欲、逐逐(ちくちく)たれば、咎(とが)なし。」
現代語訳:
「上に立つ者が下に立つ者に面倒を見てもらうこともいいことだ。虎のように鋭く目を光らせて自分の徳を磨き続ければ問題はない。」
または
「自分に比べると優秀ではないような者に養われることになっても、自分の徳を磨くチャンスを逃さない姿勢を忘れなければ、問題ない。」
本来の意味と現代の意味の違い
本来の意味:
上の立場の者が、下の立場の者から寝首を掻かれないように、鋭く目を光らせて警戒すること。
当時の中国では「国王は優秀な部下に政治を任せればいい」という考えがありましたが、それでは部下から甘く見られ、政権を乗っ取られる恐れがありました。そうならないために、国王は部下に対して「にらみ」を利かせる必要があったのです。
現代の意味:
下の立場の人が上の立場を狙うために、じっと機会をうかがうこと。
つまり、上から下を見下ろすという本来の意味から、下から上を狙うという意味にも使われるようになったのです。
「虎視眈々」の使い方と例文
では、具体的にどんな場面で使えるのでしょうか?
基本的な使い方
「虎視眈々」は、一般的に「虎視眈々と〜」という形で、動作を修飾して使います。
特に多いのが:
- 「虎視眈々と〇〇を狙う」
- 「虎視眈々として」
- 「虎視眈々とチャンスをうかがう」
ビジネスシーンでの例文
例文1:出世
「副社長である彼は、次期社長の座を虎視眈々と狙っているようだ」
例文2:昇進
「彼は前々から、虎視眈々と次期部長の座を狙っている」
例文3:人事
「彼女は虎視眈々とそのポストを狙い、着実に実力をつけてきた」
例文4:ビジネスチャンス
「私はあの会社と取引するために、ライバル会社から切り替えてもらうのを虎視眈々と狙っている」
例文5:市場参入
「某企業が、大物選手の獲得を虎視眈々と狙っているらしい」
政治・国際関係での例文
例文6:政権交代
「野党は虎視眈々と政権交代の機会をうかがっている」
例文7:領土
「敵国への侵入の機会を虎視眈々と狙っている」
例文8:権力
「彼は虎視眈々と天下を狙う野心家として描かれることが多い」
スポーツでの例文
例文9:逆転
「準備は終わり、今は虎視眈々と時期を見計らっている段階です」
例文10:勝利
「チームは虎視眈々と優勝の機会をうかがっている」
例文11:野球
「9回裏のピンチで、バッターは虎視眈々と決勝打を狙っている」
例文12:相撲
「相撲の取り組みはまわしに裸一貫で、激しいぶつかり合いのなか、虎視眈々と技を狙うのがカッコいい」
日常生活での例文
例文13:恋愛
「彼が最近彼女と親しいのは、彼女の財産を虎視眈々と狙っているからだ」
例文14:投資
「不動産価格の下落のタイミングを虎視眈々と狙って、一気に利ザヤを稼ぐ」
例文15:復讐
「人間関係を作った上で、恨みを晴らすべく復讐のタイミングを虎視眈々と伺っていた」
例文16:証拠集め
「旦那の浮気疑惑に、虎視眈々と言い逃れできない証拠を集めている」
ネガティブな使い方
例文17:悪意
「あの人はいつも虎視眈々としているので、あまり好きになれない」
例文18:警戒
「いい気になってると、今まで部下だった連中が虎視眈々と実力をつけ立場逆転を狙われてますよ」
例文19:攻撃機会
「相手は虎視眈々と攻撃のチャンスをねらっている」
文学作品での使用例
安部公房『他人の顔』(1964年)
「虎視眈々と獲物の到来を待ち受けていたのである」
内田百閒『百鬼園随筆』(1933年)
「大人がその機を狙うに虎視眈々たる事は」
「虎視眈々」のニュアンス

基本的にはネガティブな印象
「虎視眈々」には、野心的・戦略的な意味合いが強いため、ネガティブな文脈で用いられることが多いです。
理由:
- 「にらむ」「見下ろす」という攻撃的なニュアンス
- 「隙あらば狙う」という油断ならない印象
- 戦国時代なら「主君の寝首も掻き切りかねない要注意人物」
ポジティブに使う場合もある
ただし、チャンスを逃さない姿勢や目標に向かって準備する様子という意味では、ポジティブに使われることもあります。
例:
「彼は一見おとなしそうだけど、虎視眈々と世界進出を狙っているんだ」
→ 野心があり、計画的に行動している
執念深さも表現
「いつ何時も対象を気にかけているという執念深さ」も表現されます。
「虎視眈々」の類義語
似た意味を持つ四字熟語や表現を紹介します。
野心満々(やしんまんまん)
意味: 大きな望みを叶えようと気概が満ちあふれていること。不相応なほどに、今よりも良い地位や名声を得ようとすること。
例文:
「芸能界には、虎視眈々と天下を狙う野心家が多いと言われる」
違い:
- 虎視眈々:機会をうかがうニュアンス
- 野心満々:野心そのものの大きさを強調
垂涎三尺(すいぜんさんじゃく)
意味: あるものを激しく欲しがる様子。美味しいものを見てよだれを三尺(約90cm)ほど垂らすさまから。
例文:
「多くの企業がその技術を垂涎三尺で狙っている」
違い:
- 虎視眈々:じっと機会をうかがう
- 垂涎三尺:激しく欲しがる(機会をうかがう意味は含まない)
竜驤虎視(りゅうじょうこし)
意味: 竜が躍り上がり虎がにらむように、意気盛んに権力を持ち、世の中を威圧すること。
「竜驤(りゅうじょう)」は「竜が躍り上がること」、「虎視」は「鋭い目つきで獲物を睨むこと」を表します。
例文:
「彼は竜驤虎視の勢いで業界を席巻した」
違い:
権力を持って世間を見渡す様子を表し、「虎視眈々」よりも威厳があるニュアンス。
雌伏(しふく)
意味: メスの鶏がうつ伏せの状態でじっと耐えている様子から転じて、我慢の期間を過ごしながら機会を待つこと。
例文:
「彼は長い雌伏の時を経て、ついにチャンスを掴んだ」
違い:
- 虎視眈々:機会を狙う積極的な姿勢
- 雌伏:じっと耐え忍ぶ消極的な姿勢
(じまん)
意味: 十分に準備して機会を待つこと。もともとは弓道に由来する言葉で、弓を十分に弾いて構えることから転じた。
例文:
「時満の構えで次の展開を待つ」
息を潜める(いきをひそめる)
意味: 存在がバレないように息を抑えてじっと待つこと。機会をうかがうという意味も持つ。
例文:
「彼らは息を潜めて、攻撃の機会を待った」
違い:
- 虎視眈々:鋭い目で狙う攻撃的な姿勢
- 息を潜める:存在を隠す防御的な姿勢
「虎視眈々」の対義語
反対の意味を持つ表現も知っておきましょう。
(さじをなげる)
意味: 見込みがないと判断して手を引くこと、諦めること。
調剤用の匙を医者が投げ出す様子から、治療を諦めるという意味が転じたもの。
例文:
「この問題はあまりにも複雑で、私は匙を投げた」
お手上げ
意味: どうしようもないと判断して、諦めること。両手を上げて降参することが由来。
例文:
「もうお手上げ状態だ」
諦める
最もシンプルな対義語です。機会を待つのではなく、機会を放棄すること。
「虎視眈々」の英語表現
英語で同じニュアンスを表す際の表現を紹介します。
watch vigilantly for
意味: 警戒しながら〜を待つ、用心深く観察する
“vigilantly”は「警戒して」「用心深く」という意味の副詞です。
例文:
“He is watching vigilantly for an opportunity to attack you.”
(彼は虎視眈々と攻撃の機会をうかがっている)
“We watched vigilantly for a chance to attack the enemy.”
(我々は、敵軍を攻める機会を虎視眈々と狙っている)
look eagerly / look enviously
意味: 熱心に見つめる / 羨ましそうに見つめる
例文:
“He is looking enviously at the position.”
(彼はそのポジションを虎視眈々と狙っている)
“At a sports shop, my son looked eagerly for gold spike shoes.”
(スポーツショップで、息子は金のスパイクを熱心に見つめていた)
cast covetous eyes on
意味: 強欲な目線を投げかける
“covetous”は「強欲な」「むやみに欲しがる」という意味です。
例文:
“He cast covetous eyes on something.”
(彼は何かを虎視眈々と狙っている)
bide one’s time
意味: チャンスを待つ、時機を待つ
適切な瞬間や機会を待つ行為を指す表現です。
例文:
“They were biding their time, like a tiger, waiting for a chance to pounce.”
(彼らは虎のように、飛びかかるチャンスを虎視眈々と待ち構えていた)
“Let’s just bide our time and wait for the right opportunity.”
(我々はただじっと時を待ち、適切な機会を狙いましょう)
lie in wait / lying in wait
意味: 待ち伏せする、潜んで待つ
例文:
“They were lying in wait for just the right chance.”
(彼らはまさに適切なチャンスを虎視眈々と待ち構えていた)
“Let’s lie in wait for the opportunity.”
(その機会を虎視眈々と狙って待ち構えましょう)
watch like a hawk
意味: 鷹のように見張る、非常に注意深く監視する
何も見逃さないという意味が含まれています。
例文:
“Let’s watch like a hawk for the right opportunity.”
(適切な機会を虎視眈々と狙って待ち構えましょう)
aim to / be eager to
意味: 〜を狙う / 〜を熱望する
よりシンプルな表現です。
例文:
“He aims to be the next leader.”
(彼は次のリーダーを狙っている)
“He is eager to be the next leader.”
(彼は次のリーダーを熱望している)
lurking / crouching
意味: 潜んでいる / うずくまっている
例文:
“The tiger is lurking on its prey.”
(虎が獲物を虎視眈々と狙っている)
“Crouching tiger”
(身を潜める虎=虎視眈々)
虎の習性と「虎視眈々」
実は「虎視眈々」という表現は、実際の虎の狩りの習性と一致しています。
虎の狩猟行動
虎は次のような特徴があります:
- 茂みの中に身をひそめる
周囲に溶け込み、獲物に気づかれないようにする - 相手の様子をじっと観察する
獲物の動きを注意深く見守る - 隙を見つけた途端に襲いかかる
最適なタイミングで一気に行動する - 鋭い目つきで見下ろす
上から獲物を見下ろす位置取り
この習性が、まさに「虎視眈々」という言葉のイメージそのものです。
歴史上の人物と「虎視眈々」
豊臣秀吉
織田信長の家臣時代から、虎視眈々と主君の後継者となる機会を狙っていたと言われています。
特に本能寺の変後、いち早く京に戻り「中国大返し」を成し遂げた行動は、まさにチャンスを逃さない虎視眈々の姿勢でした。
孫正義
過去のインタビューで「常に虎視眈々と次の技術革新の機会を狙っている」と語り、ソフトバンクの投資戦略をこの言葉で表現しています。
イチロー
メジャーリーグ時代、ピッチャーが投げるわずかな隙を見逃さないバッティングスタイルを「虎視眈々とボールを待つ」と評され、その集中力は伝説となりました。
「虎視眈々」を使う際の注意点
注意点1:ネガティブな印象を与えやすい
「虎視眈々」は、野心的・戦略的なニュアンスが強いため、使う相手や場面に注意が必要です。
避けるべき使い方:
「あなたは虎視眈々と上司の座を狙っていますね」
→ 相手を不快にさせる可能性がある
適切な使い方:
「彼は虎視眈々とチャンスを狙っている」(第三者について)
注意点2:自分自身には使いにくい
自分のことを「虎視眈々」と表現すると、野心家で計算高い印象を与えます。
避けるべき:
「私は虎視眈々と昇進を狙っています」
代わりに:
「チャンスを逃さないよう、準備をしています」
「目標に向かって着実に努力しています」
注意点3:ポジティブに使う場合は文脈に注意
チャンスを逃さない姿勢として褒める場合は、前後の文脈で明確にしましょう。
良い例:
「彼は虎視眈々と機会を狙い、見事に成功を掴んだ。その準備力は素晴らしい」
まとめ:チャンスを逃さない人の姿勢
「虎視眈々」について解説してきました。最後に要点をまとめます。
「虎視眈々」の基本:
- 意味は「虎が獲物を狙うように、じっと機会をうかがうこと」
- 読み方は「こしたんたん」
- 「眈」は「めへん」(「耽(みみへん)」と間違えないこと)
- 由来は中国の古典『易経』
本来の意味と現代の意味:
- 本来:上の立場の者が下を警戒する
- 現代:下の立場の者が上を狙う(意味が逆転)
基本的な使い方:
- 「虎視眈々と〜」という形で使う
- 「虎視眈々と〇〇を狙う」が最も一般的
類義語:
- 野心満々(野心の大きさを強調)
- 垂涎三尺(激しく欲しがる)
- 竜驤虎視(権力を持って威圧する)
- 雌伏(じっと耐え忍ぶ)
- 時満(準備して機会を待つ)
対義語:
- 匙を投げる
- お手上げ
- 諦める
英語表現:
- watch vigilantly for(警戒しながら待つ)
- bide one’s time(時機を待つ)
- lie in wait(待ち伏せする)
- watch like a hawk(鷹のように見張る)
- lurking / crouching(潜んでいる)
- look eagerly / enviously(熱心に/羨ましそうに見る)
- cast covetous eyes on(強欲な目線を投げかける)
ニュアンス:
- 基本的にはネガティブな印象(野心的、戦略的、執念深い)
- ポジティブに使う場合もある(チャンスを逃さない姿勢)
- 実際の虎の習性とよく一致している
使う際の注意点:
- ネガティブな印象を与えやすいので、相手や場面に注意
- 自分自身には使いにくい
- ポジティブに使う場合は文脈を明確に


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