日本で一番有名なことわざ
「犬も歩けば棒に当たる」は、日本で最も有名なことわざの一つです。
「いろはかるた」の最初の札「い」に使われているので、多くの人が子供の頃から知っていますよね。
でも、このことわざの本当の意味を知っていますか?
実は、正反対の2つの意味があるんです。
2つの意味:災難説と幸運説
「犬も歩けば棒に当たる」には、次の2つの意味があります。
意味1:災難説(ネガティブ)
「何かをしようとすれば、思わぬ災難に遭うことが多い」
つまり:
- でしゃばると災難に遭う
- 余計なことをしないほうがいい
- 行動するとトラブルに巻き込まれる
という戒めの意味です。
意味2:幸運説(ポジティブ)
「出歩けば思わぬ幸運に出会うことがある」
つまり:
- 積極的に行動すれば幸運に恵まれる
- とにかく動いてみることが大切
- 何もしなければ何も得られない
という励ましの意味です。
なぜ正反対の意味になるのか?
同じことわざが、なぜこんなに違う意味を持つのでしょうか?
「棒に当たる」の解釈の違い
ポイントは「棒に当たる」をどう解釈するかにあります。
災難説の解釈
「棒に当たる」=「棒で殴られる」
犬がうろうろ歩いていると、人間に棒で叩かれてしまう。
だから、むやみに出歩くと災難に遭うという意味になります。
幸運説の解釈
「棒に当たる」=「何かに偶然遭遇する」
江戸時代には、「当たる」は「偶然出会う」という意味でも使われました。
だから、出歩けば何かに出会える(幸運に恵まれる)という意味になります。
江戸っ子の言語感覚
幸運説には、もう一つ面白い解釈があります。
江戸っ子の「逆さ言葉」の文化です。
江戸っ子は:
- 自分のことを謙遜して「犬」に例える
- 良いことをわざと「棒に当たる」と逆の言葉で表現する
- 全体を逆説として、幸運を表す
つまり、「犬(つまらない自分)が歩いたら棒に当たった(災難)」と謙遜することで、実は「幸運に恵まれた」と表現しているんです。
これは、好きな物を「憎い」と言ったり、素晴らしいものを「やばい」と言ったりする、江戸っ子の斜に構えた言語感覚の表れなんですね。
どちらの意味が元々なのか?
では、どちらの意味が本来の意味なのでしょうか?
古い用例を見てみると
幸運説の最古の用例
- 1705年の雑俳『三番続』
- 「ありけば犬も棒にあたりし・夜参の宮にて拾ふ櫃(ひつ)の底」
災難説の最古の用例
- 1758年の浄瑠璃『蛭小島武勇問答』
- 「犬も歩けば棒にあふ」
幸運説の方が約50年古いですが、この程度の差ではどちらが先かは判断できません。
定説はない
実は、どちらが元の意味かは確定していません。
江戸時代から、両方の意味で使われていたことがわかっています。
現代ではどちらの意味で使われる?
現代では、幸運説(ポジティブな意味)で使われることが圧倒的に多いです。
幸運説が主流になった理由
- 前向きで励ましになる
- 行動することの大切さを伝えられる
- ビジネスや就職活動などで使いやすい
でも注意が必要
文脈によっては、災難説の意味で使われることもあります。
聞く人によって解釈が変わる可能性があるので、使う時は注意が必要です。
「いろはかるた」との関係
「犬も歩けば棒に当たる」は、江戸いろはかるたの「い」の札として有名です。
江戸いろはかるたとは
江戸時代後期に作られたかるたで:
- いろは47文字+「京」の48文字
- それぞれに教訓や戒めのことわざ
- 「犬も歩けば」が最初だから「犬棒かるた」とも呼ばれる
かるたの絵は災難説
面白いことに、かるたの絵は災難説を描いていることが多いんです。
犬が棒を投げつけられて、痛そうに片足を上げている絵が一般的です。
これを見ると、災難説が元々の意味だったのかもしれません。
地域による違い
ちなみに、「いろはかるた」は地域で内容が違います:
- 江戸:犬も歩けば棒に当たる
- 大阪:一を聞いて十を知る
- 京都:一寸先は闇
使い方の例文
実際にどう使うか、例文で見てみましょう。
幸運説(ポジティブ)の例文
例文1:就職活動
「とにかく色々な会社を受けてみなよ。犬も歩けば棒に当たるって言うでしょ」
例文2:チャレンジ
「新しい趣味を始めたら、素敵な友人ができた。犬も歩けば棒に当たるとはこのことだね」
例文3:偶然の出会い
「道に迷ったけど、偶然評判のレストランを見つけた。犬も歩けば棒に当たるって本当だな」
災難説(ネガティブ)の例文
例文1:失敗
「新しいことに挑戦したら大きなミスをした。まさに犬も歩けば棒に当たるだ」
例文2:トラブル
「SNSで発言したら予想外に炎上してしまった。余計なことを言うものじゃないな…犬も歩けば棒に当たる」
例文3:注意
「外で遊ぶのもいいけど、犬も歩けば棒に当たるって言うから気をつけてね」
類語・似たことわざ
「犬も歩けば棒に当たる」と似た意味のことわざを紹介します。
幸運説に近いことわざ
歩く足には泥がつく
- 行動すれば何かに出会う
- 努力すれば報われる
歩く足には棒あたる
- 「犬も歩けば」のバリエーション
- 行動することの大切さ
注意:意味が違うことわざ
猿も木から落ちる
河童の川流れ
これらは「得意なことでも失敗することがある」という意味で、「犬も歩けば」とは違う意味です。
混同しないように注意しましょう。
英語ではどう言う?
「犬も歩けば棒に当たる」の英語表現を見てみましょう。
Nothing ventured, nothing gained
「冒険しなければ、何も得られない」
最も近い英語表現です。
意味:
- リスクを取らなければ報酬も得られない
- 行動しなければ成果もない
由来:
- 1546年のJohn Heywoodの英語ことわざ集
- 14世紀末のフランス語のことわざ「Qui onques rien n’enprist riens n’achieva(何も企てない者は何も成し遂げない)」が起源
用例:
「Go on, apply for the job. Nothing ventured, nothing gained.」
(さあ、その仕事に応募しなよ。やってみなければ何も得られないよ)
Fortune favors the bold
「幸運は勇者に味方する」
もう一つの有名な表現です。
意味:
- 勇気を持って行動する人が成功する
- リスクを取る人が報われる
由来:
- ラテン語の「Audentes fortuna iuvat」
- ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』(紀元前30年)
用例:
「She decided to invest in the startup, believing that fortune favors the bold.」
(彼女はスタートアップに投資することを決めた。幸運は勇者に味方すると信じて)
その他の類似表現
No pain, no gain
- 「苦労なくして得るものなし」
- 1980年代のフィットネス業界で人気に
Carpe diem
- 「その日を摘め」(今を楽しめ)
- ラテン語の格言
現代における意味の変化
ことわざの意味は、時代と共に変化します。
元々は災難説だった?
多くの専門家は、元々は災難説(ネガティブな意味)だったと考えています。
理由:
- 文字通りに解釈すれば「棒で殴られる」
- かるたの絵も災難を描いている
- 日本の「待ちの姿勢」の文化に合っている
現代は幸運説が主流
しかし、現代では幸運説(ポジティブな意味)で使われることが圧倒的に多いです。
理由:
- 前向きで励ましになる
- 行動することの価値が重視される社会
- ビジネスや自己啓発の文脈で使いやすい
「誤用」が「正用」になった例
実は、多くの辞書で両方の意味が正式に認められています。
最初は「誤用」だった幸運説が、広く使われるようになって「正用」として認められたんです。
これは、言葉が生きていて変化していく証拠ですね。
まとめ
「犬も歩けば棒に当たる」について、重要なポイントをおさらいしましょう:
- 意味は2つ:災難説(ネガティブ)と幸運説(ポジティブ)
- どちらが元か不明:江戸時代から両方の意味で使われていた
- 現代は幸運説が主流:行動することの大切さを伝える意味で使われる
- 由来:江戸いろはかるたの「い」の札
- かるたの絵:災難を描いたものが多い
- 英語表現:Nothing ventured, nothing gained / Fortune favors the bold
- 注意点:文脈によって意味が変わるので使い方に注意
このことわざは、日本語の面白さを教えてくれます。
同じ言葉が正反対の意味を持つなんて、不思議ですよね。
でも、それが言葉の豊かさであり、時代と共に変化する言葉の生命力なんです。
現代では「積極的に行動しよう!」という励ましの意味で使われることが多いですが、元々は「余計なことをするな」という戒めだったかもしれません。
言葉の背景を知ると、もっと深く理解できて面白いですね。
次に「犬も歩けば棒に当たる」と聞いたら、この2つの意味を思い出してみてください。
そして、あなたはどちらの意味で使いますか?
私は、行動することの大切さを信じて、幸運説で使いたいと思います!


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