MOTHERシリーズは、コピーライター糸井重里がゲームデザインを手掛けた任天堂の名作RPGシリーズです。
ファンタジー世界が主流だった当時のRPGとは一線を画す現代風の世界観と、独特のユーモア、印象的な音楽で多くのファンを魅了してきました。
1989年の第1作から2006年の最終作まで、3作品が発売され、現在もカルトクラシックとして愛され続けています。
概要
MOTHERシリーズは、任天堂から発売された日本のコンピュータRPGシリーズです。
コピーライターの糸井重里がゲームデザイン、シナリオ、ディレクションを手掛けたことで知られています。
現代風の世界を舞台に、PSI(超能力)と呼ばれる力を使える少年たちが、街や世界の危機に立ち向かう姿が描かれます。
全3作品が発売され、シリーズは完結しています。
シリーズ全作品の紹介
MOTHER(マザー)
発売日: 1989年7月27日
ハード: ファミリーコンピュータ
海外版タイトル: EarthBound Beginnings
シリーズ第1作目です。
1980年代のアメリカ合衆国を舞台に、主人公の少年ニンテンが、各地で発生する怪奇現象の原因を探るべく冒険します。
ムーンライダーズの鈴木慶一と任天堂の田中宏和が音楽を担当しました。
発売当時のキャッチコピー「エンディングまで、泣くんじゃない。」「名作保証」は、今でも語り継がれています。
日本で大ヒットを記録しましたが、海外版は1990年に翻訳が完了したものの、スーパーファミコンの発売により1991年のリリースが見送られました。
2015年にWii UバーチャルコンソールでEarthBound Beginningsとして初めて海外で正式リリースされました。
MOTHER2 ギーグの逆襲(マザー2 ギーグのぎゃくしゅう)
発売日: 1994年8月27日(日本)/ 1995年6月5日(北米)
ハード: スーパーファミコン
海外版タイトル: EarthBound
シリーズ第2作目です。
主人公ネスと仲間たちが、宇宙人ギーグの地球征服を阻止するため、世界中を冒険します。
開発期間は5年に及び、何度も開発中止の危機に見舞われましたが、後に任天堂社長となる岩田聡がプログラマーとして参加し、プロジェクトを救いました。
前作とのストーリー上の繋がりはありませんが、世界観やキャラクターのテイストは引き継がれています。
日本では51万8000本を売り上げましたが、北米では約14万本と商業的には失敗に終わりました。
しかし、後にカルトクラシックとして再評価され、Wii Uバーチャルコンソールでは任天堂の最も売れたダウンロードゲームの一つとなりました。
北米版では「This game stinks(このゲームは臭い)」という斬新なマーケティングキャンペーンが行われました。
スクラッチカード付きの広告が展開されましたが、これが逆効果だったとも言われています。
MOTHER3(マザー3)
発売日: 2006年4月20日
ハード: ゲームボーイアドバンス
海外版: 未発売(ファン翻訳版が存在)
シリーズ第3作目にして完結編です。
主人公リュカと仲間たちの冒険が描かれます。
元々は1990年代後半にNINTENDO64向けに開発が開始され、「MOTHER3 豚王の最期」として発表されました。
2000年に一度開発中止となりましたが、2003年にゲームボーイアドバンス向けに開発が再開され、2006年に完成しました。
前2作の現代的な世界観から一転し、開拓時代のような雰囲気を持つ舞台設定となっています。
戦闘ではBGMのリズムに合わせてボタンを押すことで連続ダメージを与える「サウンドバトル」システムが導入されました。
音楽は酒井省吾が全250曲を担当しています。
公式には海外でリリースされていませんが、2008年にファンによる英語翻訳版が完成し、高い評価を受けました。
糸井重里は、MOTHER3をもってシリーズを完結させ、第4作を制作する予定はないと明言しています。
MOTHER1+2(マザーワンプラスツー)
発売日: 2003年6月20日
ハード: ゲームボーイアドバンス
MOTHERとMOTHER2を1つのカートリッジに収録した移植作品です。
日本国内のみで発売されました。
初代MOTHERにはエンディング後のエピローグが追加されています。
MOTHERシリーズの特徴
現代風の世界観
1980年代から1990年代のファンタジーRPGが主流だった時代に、MOTHERシリーズは現代(またはそれに近い時代)のアメリカ風の世界を舞台としました。
剣や魔法の代わりに、バットやフライパンを武器として使用します。
回復アイテムもハンバーガーやフライドポテトといった日常的な食べ物です。
主人公の家には電話があり、父親は電話でしか登場しません。
これはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』へのオマージュです。
ユーモラスなテキスト
コピーライターである糸井重里の手による独特のテキストは、「糸井節」とも呼ばれています。
ドラゴンクエストシリーズの「堀井節」に並び、印象的なフレーズが多く、ファンの記憶に深く残っています。
戦闘で敵を倒した際も、「〜をたおした」ではなく「〜はわれにかえった」「〜はかききえた」「〜はおとなしくなった」といったマイルドな表現が使われています。
2020年には、シリーズ全作品の全テキストを収録した書籍『MOTHERのことば。』がほぼ日から発売されました。
印象的な音楽
シリーズの音楽も高く評価されています。
MOTHERとMOTHER2では、ムーンライダーズの鈴木慶一と任天堂の田中宏和が作曲を担当しました。
フィールドで流れる『Pollyanna』や、ゲーム中で重要な役割を果たす『Eight Melodies(エイトメロディーズ)』は代表曲として知られています。
『Eight Melodies』は1992年に教育出版の小学6年生向け音楽教科書に楽譜が掲載されました。
MOTHER3では、ハル研究所の酒井省吾が全250曲を作曲しました。
開発が長期化・難航する中で、開発チームと密に連携しながら制作できる内部の作曲家が必要とされ、ゲーム内容を熟知した酒井が担当することになりました。
戦闘曲ではロックやテクノに加え、クラシック、マンボ、タンゴなど多様なジャンルが扱われています。
PSI(超能力)システム
シリーズ全作品に共通する要素として、PSI(サイ)と呼ばれる超能力があります。
主人公の少年たちはPSIを使って敵と戦います。
攻撃系のPSI、回復系のPSI、補助系のPSIなど、様々な種類が存在します。
MOTHER2では「ローリングHPメーター」という独特のシステムが導入されました。
ダメージを受けた際、HPが即座に減るのではなく、自動車の走行距離計のように徐々に減少していきます。
そのため、HPが0になる前に回復や戦闘終了などの予防措置を取ることができます。
タイトルの由来
糸井重里は、タイトルを『MOTHER』とした理由について以下のように語っています。
「今のゲームって非常に父性的なんですよ。父親の罠を息子が攻略していくみたいなね。だから母性的な匂いのするものを作りたかったんです」
また、ジョン・レノンのソロアルバム『ジョンの魂』の1曲目「マザー」からも影響を受けたと述べています。
ジョン・レノンの「マザー」は、幼少期に両親から引き離されて育った自身の経験をもとに、親への渇望と喪失を歌った曲です。
糸井重里自身も幼少期に両親が離婚し、母親が不在の家庭で父と祖母に育てられた経験があります。
また、ゲーム制作当時は仕事が忙しく自身の娘と過ごす時間が取れなかった経験もあり、ゲーム中の「電話でしか話せない父親」にはそうした思いが反映されています。
実際、MOTHERとMOTHER2では主人公の父親は姿を見せず、電話での声のみで登場します。
「母船」を意味する「マザーシップ」や「物語の母」というテーマも、タイトルに込められています。
現在のプレイ方法
2024年現在、MOTHERシリーズは以下の方法でプレイできます。
Nintendo Switch Online
2022年2月10日より、Nintendo Switch OnlineでMOTHERとMOTHER2がプレイ可能になりました。
2024年2月21日からは、Nintendo Switch Online + 追加パックでMOTHER3もプレイできるようになりました(日本国内のみ)。
各作品をプレイするために必要なサービス:
- MOTHER: ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online
- MOTHER2: スーパーファミコン Nintendo Switch Online
- MOTHER3: ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online(+ 追加パック)
Nintendo Switch Online版では「どこでもセーブ」や「巻き戻し」機能が利用できます。
パッケージ版・ダウンロード版
MOTHERシリーズは、Nintendo Switch Onlineのサービスの一部として提供されており、パッケージソフトとしての販売や、ソフト単体でのダウンロード販売はありません。
カルト的人気と影響
商業的失敗から再評価へ
MOTHER2(北米版EarthBound)は、発売当時の北米では約14万本しか売れず、商業的には失敗でした。
シンプルなグラフィック、斬新すぎるマーケティングキャンペーン、当時の北米でのRPGジャンルの不人気が原因とされています。
しかし、時間の経過とともにカルトクラシックとして再評価されました。
特に、1999年に主人公ネスが『大乱闘スマッシュブラザーズ』にプレイアブルキャラクターとして参戦したことが、シリーズの認知度向上に大きく貢献しました。
熱心なファンコミュニティ
MOTHERシリーズには、世界中に熱心なファンコミュニティが存在します。
ゲームメディアからも「非常に情熱的で活発なゲームコミュニティの一つ」として認知されています。
ファンたちは、シリーズの海外展開を求めて数千人規模の署名活動を展開しました。
2007年には、MOTHER3の英語版ローカライズを求めて、フルカラー約270ページの『EarthBound Anthology』という作品集を作成し、任天堂とメディアに送付しました。
Shacknewsはこれを「史上最高のゲームへのラブレター」と評しました。
任天堂からの反応がなかったため、ファンたちは自ら翻訳プロジェクトを立ち上げました。
Starmen.netの共同創設者でプロのゲーム翻訳者であるクライド・”トマト”・マンデリンが主導し、2006年11月の発表から2008年10月の完成まで、MOTHER3の英語ファン翻訳版を完成させました。
Virtual Console での成功
2013年にEarthBoundがWii Uバーチャルコンソールでリリースされると、任天堂の最も売れたダウンロードゲームの一つとなりました。
Wii Uのバーチャルコンソールゲームの売上ランキングでは、『スーパーマリオブラザーズ3』『スーパーマリオワールド』『スーパーマリオ64』に次ぐ第4位を記録しました。
任天堂の岩田聡社長(当時)は、オンラインコミュニティMiiverseでのファンの反応が、バーチャルコンソールでの再リリースを後押ししたと述べています。
他作品への影響
MOTHERシリーズは、多くの後続作品に影響を与えました。
特に、インディーゲーム『Undertale(アンダーテール)』の作者トビー・フォックスは、MOTHERシリーズから大きな影響を受けたことを公言しています。
また、任天堂の他のゲームにもMOTHERシリーズの要素が登場しています。
『スーパーマリオメーカー』では、ネスとリュカのキャラクターパワーアップが登場します。
『星のカービィ ロボボプラネット』には、EarthBoundシリーズを参照した「ESP」コピー能力が登場し、カービィがネスの帽子をかぶって超能力で戦います。
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズでの展開
MOTHERシリーズは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズに継続的に登場しています。
プレイアブルキャラクター:
- ネス: 初代『大乱闘スマッシュブラザーズ』(1999年)から全作品に参戦
- リュカ: 『大乱闘スマッシュブラザーズX』(2008年)から参戦(『for 3DS/Wii U』ではDLCとして復活、『SPECIAL』では最初から参戦)
ステージ:
- オネット(MOTHER2の最初の町): 『DX』以降の据え置き機版に登場
- フォーサイド(MOTHER2の都市): 『DX』に登場
- ニューポークシティ(MOTHER3の都市): 『X』に登場
- マジカント: 『for 3DS』に登場
アイテム:
- どせいさん
- フランクリンバッジ
アシストフィギュア:
- ジェフ
- スターマン
ネスとリュカのamiiboも発売されており、『スーパーマリオメーカー』や『ヨッシー ウールワールド』で特別なコンテンツをアンロックできます。
参考情報
この記事で参照した情報源
公式サイト・任天堂公式:
- 任天堂公式 – MOTHER(ファミリーコンピュータ)
- ほぼ日『MOTHER』プロジェクト – MOTHERというゲームについて
- いま『MOTHER』シリーズをプレイするためには? – ほぼ日刊イトイ新聞
百科事典・データベース:
- Wikipedia「MOTHERシリーズ」
- Wikipedia「MOTHER (ゲーム)」
- Wikipedia “Mother (video game series)”(英語版)
- Wikipedia “EarthBound”(英語版)
- Wikipedia “EarthBound Beginnings”(英語版)
ゲームメディア:

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