ゲームの賞といえば、その年最も優れた作品を選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」を思い浮かべる人が多いでしょう。でも、その真逆の賞があることをご存知ですか?
映画界には最低映画を選ぶ「ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」がありますよね。実はゲーム界にも、その年最も「クソ」だったゲームを選ぶ祭典が存在していたんです。
それが「クソゲーオブザイヤー」、通称KOTY(コティ)。2004年から約20年にわたって続いてきた、ゲームファンの間で知られる”裏の祭典”です。
この記事では、クソゲーオブザイヤーとは何か、その歴史や選考方法、伝説となった作品たち、そして終焉の理由まで詳しく解説していきます。
クソゲーオブザイヤーの概要

どんな企画なの?
クソゲーオブザイヤー(Kuso-game Of The Year)は、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッドで行われていた企画です。
その年に発売されたゲームの中から、最も「クソゲー」と呼ぶにふさわしい作品を選び出すというもの。
ゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)をもじって名付けられました。
重要なのは、これはあくまで「ネタスレ」であるということ。
KOTYの住人たちも繰り返し強調していますが、権威ある賞ではなく、クソゲーをネタにして楽しむための場所だったんです。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | クソゲーオブザイヤー |
| 略称 | KOTY(コティ) |
| 発祥 | 2ちゃんねる(現5ちゃんねる)ゲーム板 |
| 開始年 | 2004年(パイロット版は2003年末) |
| 活動休止 | 2023年 |
| 最盛期 | 2008年〜2011年頃 |
KOTYの理念
KOTYには明確な理念がありました。
それは「買ったゲームがクソゲーだった悲しみをネタに昇華する」というもの。
嫌いなゲームを叩くための場所ではなく、どうしても語りたい、共に笑いたいという奇妙な愛情を持って「愛されるクソゲー」を見つけ出す場所だったんですね。
一人でプレイすれば絶望的につまらないゲームでも、みんなと語り合えば笑い話に昇華できる。
そんな発想から生まれた文化だったのです。
選考の仕組み
投票ではなく「選評」と「総評」で決まる
KOTYの特徴的なのは、単純な投票制ではないということ。
大賞を決めるためには、以下のような流れが必要でした。
1. 選評の作成
そのゲームがなぜクソゲーなのかを客観的に記述した文書「選評」を作成し、スレッドに投稿します。
選評には以下の要素が求められました:
- 実際にプレイした上での具体的な問題点
- 主観ではなく客観的な視点
- 他のプレイヤーが検証可能な内容
- スレ住人の質疑応答に耐えられる説得力
2. 審議
投稿された選評について、スレ住人たちが議論します。
ここで「本当にクソゲーなのか」「他の候補と比べてどうか」といった点が検証されました。
3. 総評の作成
年末になると、その年の候補作を比較検討し、大賞を選出するための「総評」が作成されます。総評は複数案が投稿され、住人の議論を経て最終的に採用される総評が決定しました。
なぜこんなに厳格なの?
初期のKOTYは比較的緩い雰囲気でしたが、2007年の「四八ショック」を境に選考基準が大幅に厳格化されました。
理由は明確です。「気に入らないゲームを叩くための道具にされてはいけない」から。
選評を書かずに「このゲームはクソゲーだ!」と主張するだけの人は「お客様」と呼ばれ、スレから排除されました。KOTYは単なるアンチスレではなく、しっかりとした検証文化を持ったコミュニティだったんです。
部門と歴史
複数の部門が存在した
KOTYは据置機だけでなく、複数の部門に分かれていました。
| 部門 | 活動期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 据置機部門 | 2004年〜2022年 | メインの部門 |
| 携帯機部門 | 2007年〜2017年 | 2017年に該当作品なしで実質終了 |
| エロゲー部門 | 2008年〜 | エロゲネタ&業界板で運営 |
| 乙女ゲー部門 | 2007年〜2015年 | 女向けゲー一般板で運営 |
それぞれの部門が独立したスレッドで運営され、独自の文化を形成していました。
4つの時代に分けられる歴史
KOTYの歴史は、大きく4つの時代に分けることができます。
第1期:大作ガッカリゲー時代(2004年〜2006年)
初期のKOTYでは、期待を裏切った大作ゲームが大賞に選ばれる傾向がありました。投票に近い形式で、プレイヤーの母数が多いゲームが選ばれやすかったんです。
この時代の大賞作品:
- 2004年:『ゼノサーガ エピソードII 善悪の彼岸』
- 2005年:『ローグギャラクシー』
- 2006年:『ファンタシースターユニバース』
第2期:中小・面白バグ時代(2007年〜2009年)
2007年の「四八ショック」を境に、選考基準が激変しました。
大手メーカーの期待外れ作品だけでなく、中小メーカーの「真のクソゲー」も評価対象に。
選評制度が確立され、客観的な評価が重視されるようになりました。
第3期:ストロングスタイル時代(2010年〜2012年)
バグが目立たなくても「とにかく度を越してつまらない」作品が評価されるようになった時代
。「ストロングスタイル」という用語が生まれ、純粋なつまらなさで勝負する作品も候補に挙がるようになりました。
第4期:虚無時代(2013年〜)
業界環境の変化により、弄りがいのあるクソゲーが減少。
候補作を探すこと自体が困難になり、スレッドの勢いも徐々に衰えていきました。
伝説の大賞作品たち

『四八(仮)』——KOTYを変えた伝説のクソゲー
2007年の大賞作品『四八(仮)』は、KOTYの歴史を語る上で絶対に外せない存在です。
このゲームの登場は「四八ショック」または「ヨンパチショック」と呼ばれ、KOTYの運営方針そのものを変えてしまいました。
『四八(仮)』の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売日 | 2007年11月22日 |
| メーカー | バンプレスト |
| ジャンル | ホラーアドベンチャー |
| 対応機種 | PlayStation 2 |
47都道府県の怪談を読み解いていくサウンドノベルとして期待されていましたが、蓋を開けてみると…
問題点の数々:
- 進行不能になる致命的なバグが多数
- 一部シナリオの内容が極端に薄い(有名な「ヒバゴン」など)
- ルー大柴のような口調のキャラクターなど、ホラーとは思えない演出
- セーブ中にフリーズするバグ
- 公式サポートが「仕様です」と回答
- クレーム対応としてハンカチを送付するメーカー対応
「十年に一本のクソゲー」「伝説のクソゲー」と呼ばれ、以後のKOTYでは「四八と戦えるか?」が候補作の基準となりました。
2008年「七英雄」の年
四八ショック直後の2008年は、「まさか四八を超えるクソゲーは出ないだろう」と思われていました。
ところが蓋を開けてみると…なんと7本もの強烈なクソゲーが登場したんです。
この7本は『ロマンシング サ・ガ2』に登場する「七英雄」になぞらえて「クソゲー七英雄」と呼ばれるようになりました。
2008年の七英雄:
- 『メジャーWii パーフェクトクローザー』(大賞)——180度首が曲がった野球選手の画像が有名
- 『メジャーWii 投げろ!ジャイロボール!!』——同シリーズの別作品もノミネート
- 『大奥記』——「大江戸リックドム」と呼ばれた怪作
- 『プロゴルファー猿』——ファミ通でオール3点を記録
- 『ジャンライン』——麻雀ゲームなのに麻雀ができない
- 『奈落の城 一柳和、2度目の受難』
- 『神代學園幻光録 クル・ヌ・ギ・ア』——通称「ヌギャー」
大賞の『メジャーWii パーフェクトクローザー』は、パッケージ画像で首が180度曲がった野球選手のインパクトが凄まじく、これだけで「クソゲー」を説明できるほどの説得力がありました。
その他の主要大賞作品
| 年 | 大賞作品 | 特徴 |
|---|---|---|
| 2009年 | 戦極姫〜戦乱に舞う乙女達〜 | 据置・携帯の2部門制覇 |
| 2014年 | 仮面ライダー サモンライド! | キッズ向けフィギュア連動ゲーム |
| 2015年 | アジト×タツノコレジェンズ | |
| 2020年 | ファイナルソード | 「温かみのあるクソゲー」として話題に |
| 2021年 | バランワンダーワールド | スクウェア・エニックス発売の大作 |
KOTYの用語集
KOTYには独自の用語文化がありました。主要なものを紹介します。
四八ショック(ヨンパチショック)
2007年の『四八(仮)』によって、KOTYの選考基準が大幅に厳格化された現象。
これ以前と以後では、候補作の傾向が大きく異なります。
選評
そのゲームがなぜクソゲーなのかを客観的に記述した文書。これがなければ候補作として認められませんでした。
総評
年末に作成される、その年の候補作を比較検討して大賞を決定するための文書。総評の文章は非常に練られており、読み物としても楽しめるクオリティでした。
お客様
選評も書かずに「このゲームをKOTYにしろ!」と主張するだけの人。スレ住人から忌み嫌われる存在でした。
ストロングスタイル
バグは目立たないが、純粋につまらなさで勝負するタイプのクソゲー。プロレス用語から転用されました。
七英雄
2008年にノミネートされた7本のクソゲー群。『ロマンシング サ・ガ2』の七英雄になぞらえた呼び名です。
サルーイン
『四八(仮)』の別称。七英雄の前作『ロマンシング サ・ガ』のラスボスから。
KOTYの文化的影響

ニコニコ動画での人気
KOTYが広く知られるようになったきっかけの一つが、ニコニコ動画に投稿された「KOTY動画」でした。
総評を動画形式で紹介するこれらのコンテンツは、最も人気のあるものは430万再生を超えるほどの人気を博しました。Wikiの総閲覧者数も約500万に達したと言われています。
業界への影響
意外なことに、ゲーム業界関係者もKOTYを注目していました。
大手家電量販店がKOTYをネタにしたセールを行ったり、制作関係者が謝罪文を出したりするケースも。
『メジャーWii パーフェクトクローザー』は大賞受賞後にプレミア価格がつき、4年経っても定価近い中古価格で取引されていました。
なぜKOTYは終わったのか
2022年:大賞なし、2023年:活動休止
2022年、ついに据置機部門で大賞が選出されませんでした。そして2023年は「活動休止」が宣言されます。
約20年続いたKOTYに、いったい何が起きたのでしょうか。
終焉の理由
1. ダウンロード専用ソフトの増加
数百円で購入できる安価なダウンロード専用ソフトが据置機でも販売されるようになりました。
作り込みが甘くて当然な安価なゲームが増えたことで、「大手企業がフルプライスで販売したパッケージゲームの失敗をネタにする」というKOTY本来の存在意義が揺らぎ始めました。
2. アップデートによる改善
発売時にひどい出来だったゲームも、後にアップデートで改善される事例が増えました。
「いつの時点のゲームを評価すべきか」という問題が生じたんです。
3. アセットフリップの氾濫
著作権フリーの素材やテンプレートを流用した粗製乱造ゲーム「アセットフリップ」が大量に登場。
KOTYは日本のCEROレーティングを通したゲームのみを扱う方針に転換せざるを得なくなりました。
4. 5ちゃんねる自体の過疎化
インターネット環境の変化により、5ちゃんねる自体の利用者が減少しました。選評を書ける住人、議論に参加する住人が減っていったのです。
5. 参加ハードルの高騰
悪用を防ぐためにルールが厳格化された結果、参加するハードルが高くなりすぎました。
クソゲーを買い、プレイし、選評を書き、質疑応答に対応する…この負担は年々大きくなっていったんです。
最後の総評より
2022年の総評は、非常に物悲しい言葉で締めくくられています。
「『クソゲーが出ないことは良いことです』この言葉では、もう締められそうにもない」
クソゲーが出ないことは本来喜ばしいこと。
しかし、それを言えないほど環境が変わってしまった——そんな寂しさが滲む言葉でした。
KOTYが残したもの
ゲーム批評文化への貢献
KOTYは単なる「クソゲー叩き」ではありませんでした。
選評や総評という形式は、ゲームを客観的に分析し、その問題点を論理的に説明するという批評文化を育てました。
感情的な批判ではなく、検証可能な事実に基づいた評価を重視する姿勢は、現代のゲームレビュー文化にも通じるものがあります。
コミュニティ運営のモデル
匿名掲示板という無秩序になりがちな場所で、約20年もの間コミュニティを維持できたのは驚くべきことです。
「お客様」を排除し、参加者に責任ある発言を求める文化は、ネットコミュニティ運営の一つのモデルケースといえるでしょう。
エンターテイメントとしての価値
総評は単なる批評文ではなく、読み物としても楽しめる「名文」が多く生まれました。
クソゲーという悲しい体験を、ユーモアと皮肉を交えて昇華する文章力。それはKOTYが残した文化遺産の一つです。
まとめ
クソゲーオブザイヤーは、ゲーム界の”裏の祭典”として約20年の歴史を刻みました。
押さえておきたいポイント:
- 2ちゃんねる発祥の企画で、その年最もクソだったゲームを選ぶ祭典
- 投票ではなく「選評」「総評」という独自の選考システム
- 2007年の「四八ショック」で選考基準が大幅に厳格化
- 2008年の「七英雄」は伝説として語り継がれている
- クソゲーを叩く場所ではなく、ネタとして楽しむ文化
- ゲーム環境の変化や5ch過疎化により2023年に活動休止
KOTYは権威ある賞ではありませんでしたが、ゲームを愛する人々が集まり、クソゲーという悲しい体験すらも笑いに変えてしまう——そんな独特の文化を築き上げました。
その精神は、「クソゲーが出ないことは良いこと」という言葉に集約されています。
本当に良いゲームだけが世に出るのなら、KOTYは必要ないのです。
20年にわたる歴史に幕を下ろしたKOTY。
しかし、その総評アーカイブは今もWikiに残されています。
興味のある方は、ぜひ過去の名文・迷文を読んでみてください。
クソゲーを通して、ゲーム文化の奥深さを感じられるはずです。


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