吉里吉里は、W.Deeが開発したWindows用のスクリプトエンジンです。
TJSと呼ばれるスクリプト言語を実行する環境として、主にアドベンチャーゲームやビジュアルノベルの制作に使用されています。
1998年の開発開始以来、同人ゲームから商用作品まで幅広く採用され、日本のビジュアルノベル制作における定番ツールの一つとなりました。
吉里吉里の基本情報
吉里吉里は、スクリプトエンジン本体と、そのスクリプトエンジン上で動作するKAGシステムの組み合わせで構成されています。
開発の歴史
吉里吉里の開発は1998年に始まりました。
1999年には、JScriptベース(0.6系列)やTJS1ベース(0.7系列)で動作するバージョンが作成されました。
2000年8月から次期バージョンである吉里吉里2の開発が進められ、吉里吉里2は2010年10月26日に最終安定版がリリースされるまで継続的に更新されました。
2013年以降、開発の停滞を受けて吉里吉里2のコードがフォークされ、吉里吉里Zとして継続開発されるようになりました。
吉里吉里Z 1.0は2013年12月31日にリリースされています。
ライセンス
吉里吉里2は、GPLと独自ライセンスのどちらかを選択できるデュアルライセンス下で配布される自由ソフトウェアです。
吉里吉里Zは、W.Deeの提案により修正BSDライセンスに変更されました。
これにより、改造や再配布がより柔軟に行えるようになりました。
公式サイトの状況
吉里吉里2の旧公式サイト(kikyou.info)は2017年12月末に閉鎖されました。
この閉鎖により、配布終了と誤解されることもありましたが、実際には後継ソフトである吉里吉里Zへの移行が推奨されています。
TJS:吉里吉里のスクリプト言語
吉里吉里は、TJSと呼ばれるスクリプト言語の実行環境です。
TJSの特徴
TJSはJavaScriptやJavaに似た、オブジェクト指向のスクリプト言語です。
ECMAScript系の言語に近い文法を持ち、プログラミング経験者にとって習得しやすい設計になっています。
TJSは吉里吉里専用の言語ではなく、他のソフトウェアへの組み込みも可能です。
吉里吉里の配布パッケージには、組み込みのための簡易なドキュメントが含まれています。
KAGシステム:ゲーム制作を簡単にするフレームワーク
吉里吉里2の配布パッケージには、TJS2で実装されたKAGシステム(Kirikiri Adventure Gameシステム)が付属します。
KAGシステムの仕組み
KAGシステムは、タグベースのマークアップ形式でゲームの内容を記述できるフレームワークです。
XML に似た形式で、シナリオファイルと呼ばれるテキストファイルにタグを記述することで、ゲームを制作します。
これにより、プログラミング知識が少ない制作者でも、比較的容易にアドベンチャーゲームを作ることができます。
拡張性
吉里吉里/KAGは、プラグインによる拡張が可能です。
プラグインはバイナリ形式(.dll)またはスクリプト形式の両方で作成できるため、開発者のスキルレベルに応じた拡張が行えます。
吉里吉里が採用された作品
吉里吉里は、同人ゲームから商用作品まで、多くのビジュアルノベルやアドベンチャーゲームで使用されています。
代表的な商用作品
特に有名な作品として、TYPE-MOONの『Fate/stay night』(2004年)と『Fate/hollow ataraxia』があります。
これらの作品は吉里吉里を使用した商用ゲームとして高い知名度を持ち、吉里吉里の普及に大きく貢献しました。
初期の重要作品
吉里吉里を用いた初期作品として、横浜かまいたちファンクラブ制作の『1999 Christmas Eve』(2000年末)があります。
この作品の開発において、製作総指揮を務めたPIA少尉がW.Deeと連絡を取り合いながら開発を進めました。
当時は吉里吉里の参考資料が不足していたため、この開発過程での交流が後の吉里吉里/KAG発展の基礎となりました。
吉里吉里/KAG推進委員会と書籍出版
PIA少尉は、1999 Christmas Eveの開発後、「吉里吉里/KAG推進委員会」というサイトを立ち上げました。
このサイトは、吉里吉里ユーザーコミュニティの形成に大きく貢献しました。
2003年には、W.DeeとPIA少尉の共著『吉里吉里/KAGではじめるゲーム制作』(ISBN 978-4875934264)が出版されました。
この書籍には、吉里吉里2に移行し機能追加された1999 Christmas Eveの非公開版が掲載されており、W.Deeはこれらの交流がKAGの基礎固めに大きく関わったと語っています。
吉里吉里2から吉里吉里Zへ
吉里吉里2は2010年10月以降、大規模な更新が行われない状態が続きました。
この状況を受けて、2013年以降、吉里吉里2のコードをフォークして吉里吉里Zとして継続開発が行われるようになりました。
吉里吉里Zの開発背景
吉里吉里2の開発が停滞した理由の一つに、開発環境の問題がありました。
吉里吉里2はC++ Builder 5でコンパイルされており、このコンパイラの入手性や保守性が課題となっていました。
T.Imotoらの開発者が、Visual C++でもコンパイルできるように移植作業を進め、これが吉里吉里Zへと発展しました。
W.Deeの提案により、修正BSDライセンスへの変更とGitHubへの移行が行われ、2013年12月31日に吉里吉里Z 1.0がリリースされました。
吉里吉里Zの特徴
吉里吉里Zは吉里吉里2の後継バージョンとして、以下の特徴を持ちます。
- 2Dゲームやアプリケーションの制作に対応
- 多くの商用ADV/ノベルゲームで使用
- e-mote/えもふりなどのアプリケーションでも使用
- マルチプラットフォーム対応を目指した設計(Windows、Android対応)
KAG3は、吉里吉里Zを用いてADV/ノベルゲームを開発するためのシステムとして提供されています。
吉里吉里の技術的特徴
対応プラットフォーム
吉里吉里2は基本的にWindows専用です。
吉里吉里Zは、WindowsとAndroidに対応していますが、旧バージョンとの互換性は完全ではありません。
ファイル形式
吉里吉里を使用したゲームでは、すべてのデータファイル(画像、音声、スクリプトなど)が.xp3形式のアーカイブファイルとしてまとめられることが一般的です。
また、実行ファイルのプロパティを確認することで、吉里吉里が使用されているかどうかを判別できます。
著作権欄には「(KIRIKIRI core) (C) W.Dee…」という表記があり、ファイルの説明欄にはエンジンのバージョンが記載されていることがあります。
TVPという別名
吉里吉里は「TVP」(T Visual Presenterの略)という名称で表記されることもあります。
実行ファイルの内部名やプロパティに「TVP(KIRIKIRI)」と記されているケースがあります。
他のノベルゲームエンジンとの比較
日本のノベルゲーム制作では、吉里吉里以外にもいくつかの主要なエンジンが使用されています。
NScripter
高橋直樹氏が開発したフリーエンジン(商業利用は有償)です。
吉里吉里とともに人気を二分するエンジンとして、長年使用されてきました。
吉里吉里と比較すると、シンプルで習得しやすい反面、拡張性ではやや劣ります。
ティラノスクリプト
シケモクMK氏が開発したフリーエンジンです。
HTML5を使用しており、吉里吉里のKAGシステムとの親和性が高い設計になっています。
Windows、Mac、iOS、Android、ブラウザなど、マルチプラットフォームに対応している点が特徴です。
Ren’Py
PyTom氏が開発した海外製のフリーエンジンです。
主に英語圏で利用されており、Python言語をベースにしています。
マルチプラットフォーム対応が優れていますが、日本では吉里吉里ほど普及していません。
吉里吉里の現状
吉里吉里2の公式サイトは閉鎖されましたが、吉里吉里Zのプロジェクトサイト(krkrz.github.io)で開発が継続されています。
吉里吉里Zは、吉里吉里2の保守と改善を目的として開発が進められており、タブレットなどの新しいデバイスへの対応も進められています。
同人ゲームを中心に、現在でも新作ゲームの開発に使用されており、日本のビジュアルノベル制作における重要なツールの一つとして位置づけられています。
まとめ
吉里吉里は、1998年の開発開始から25年以上にわたって、日本のビジュアルノベル制作を支えてきたスクリプトエンジンです。
TJSという柔軟なスクリプト言語と、KAGシステムによる簡便な記述方法の組み合わせにより、プログラミング初心者から上級者まで幅広い制作者に支持されてきました。
吉里吉里2の開発は停滞しましたが、吉里吉里Zとしてコミュニティ主導で継続開発が行われており、『Fate/stay night』をはじめとする多くの名作を生み出してきた技術的遺産は、今後も受け継がれていくでしょう。


コメント