「囲碁の九段ってどれくらいすごいの?」
「有名な九段棋士には誰がいるんだろう?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
囲碁の世界で「九段」は最高位の段位。かつては天下にたった一人しか名乗れない、まさに神の領域でした。
この記事では、囲碁の九段について、その歴史から現在の昇段規定、そして歴代の名棋士から現役棋士まで幅広くご紹介します。
九段とは?囲碁における最高位の段位

囲碁のプロ棋士には初段から九段までの段位があります。
その中で九段は最高位であり、トップ棋士の証といえる称号です。
ただし、ここで面白いのが囲碁における九段の歴史的な意味合い。
江戸時代には「九段=名人」と同義であり、囲碁界の頂点に立つただ一人だけが名乗れる特別な称号でした。
つまり、当時の九段は今でいう「世界チャンピオン」のようなもの。
それだけ重みのある段位だったんですね。
現代では昇段規定が整備され、九段の棋士は100人以上存在します。
「九段の数が多すぎる」という議論もあるほどで、かつての希少性は薄れています。
とはいえ、九段への昇段は依然として狭き門であり、トップ棋士としての実力がなければ到達できません。
九段の歴史|名人と同義だった時代
江戸時代:九段=名人の時代
囲碁の段位制度は、江戸時代に本因坊道策が確立しました。
当時の段位は以下のような序列でした。
- 九段:名人(天下にただ一人)
- 八段:準名人
- 七段:上手(じょうず)
道策は自らの棋力の高さから、後世「実力十三段」と称されるほど。
それほどまでに九段という地位は、突出した実力者のみが到達できる領域だったのです。
昭和初期:九段と名人の分離
1924年に日本棋院が設立されると、大手合(昇段のための対局制度)による段位認定が始まりました。
そして本因坊秀哉名人の引退後、九段と名人の地位は正式に分離されます。
これにより、九段は「段位」として、名人は「タイトル」として別々の意味を持つようになりました。
1950年代:九段時代の幕開け
1950年、呉清源が日本棋院から九段に推挙されました。
これが戦後における九段の始まりです。
その後、藤沢朋斎も九段となり、この二人の間で優劣を決する熾烈な十番碁が繰り広げられました。
まさに「九段の称号をかけた戦い」といえるでしょう。
現在の九段昇段規定
2003年以降、日本棋院の昇段規定は大きく改定されました。
現在、九段に昇段するには以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
| 条件 | 詳細 |
|---|---|
| 三大タイトル獲得 | 棋聖・名人・本因坊のいずれか1つを獲得 |
| その他タイトル | 碁聖・十段・王座・天元のいずれかを2期以上獲得 |
| 国際棋戦優勝 | 応昌期杯、三星火災杯、LG杯、春蘭杯、百霊杯、夢百合杯、新奥杯のいずれか |
| 通算勝数 | 八段で通算600勝以上 |
2003年以前は「大手合」という制度で昇段が決まっていました。
しかし九段が大手合に参加しないなどの問題があり、現在の制度に移行しています。
また、囲碁には降段制度がないという特徴があります。
一度九段になれば、その後成績が振るわなくても段位は下がりません。
このため「高齢の棋士ほど高段になりやすい」という傾向があり、段位と実力が必ずしも一致しないケースも見られます。
伝説の九段棋士たち
囲碁の歴史を語る上で欠かせない、伝説的な九段棋士をご紹介します。
呉清源(1914-2014)|昭和の碁聖
「昭和の碁聖」と呼ばれた呉清源は、20世紀最高の棋士として名高い存在です。
中国・福建省に生まれ、14歳で来日。
1933年には木谷實とともに「新布石法」を発表し、囲碁界に革命をもたらしました。
その真骨頂は「打込み十番碁」。
当時のトップ棋士たちを次々と打ち込み(ハンデ差をつけられるほど負かすこと)、文字通り無敵の存在でした。
100歳で亡くなるまで囲碁を愛し続け、2015年に囲碁殿堂入りを果たしています。
木谷實(1909-1975)|木谷道場の創設者
呉清源と並ぶ昭和の巨星が木谷實です。
新布石を呉清源とともに創案しただけでなく、自宅を「木谷道場」として開放し、数多くの名棋士を育成しました。
木谷門下からは、大竹英雄、加藤正夫、武宮正樹、小林光一、趙治勲など、タイトル戦線を席巻する棋士が続々と誕生。
弟子と孫弟子を合わせた一門のプロ棋士は50人以上、段位の合計は500段を超えています。
タイトルには恵まれず「悲劇の棋士」とも呼ばれましたが、その功績は計り知れません。
坂田栄男(1920-2010)|史上最高勝率の男
「カミソリ坂田」の異名を持つ坂田栄男は、攻めの鋭さで知られた棋士です。
1964年には年間勝率.9375(30勝2敗)という驚異的な記録を達成。
この記録は現在も破られていません。
名人・本因坊を同時に保持し、1964年には7タイトルを制覇するなど、まさに一時代を築きました。
藤沢秀行(1925-2009)|破天荒な天才
「異常感覚」と呼ばれた独特の棋風で知られる藤沢秀行。
棋聖戦6連覇という偉業を達成した一方で、私生活は破天荒そのものでした。
競輪で億単位の借金を作り、アルコール依存症に苦しみながらも、67歳で王座を獲得(最年長七大タイトル獲得記録)。
若手の育成にも熱心で、「秀行塾」には依田紀基、結城聡、高尾紳路など多くの棋士が門を叩きました。
中国・韓国の棋士からも師と仰がれる、国際的な影響力を持った棋士です。
現代を代表する九段棋士

現役で活躍する九段棋士の中から、特に注目すべき棋士をご紹介します。
井山裕太九段|令和の絶対王者
井山裕太は、日本囲碁界の歴代最強棋士と呼ぶ声も高い存在です。
2016年には史上初の七冠同時制覇を達成。
棋聖9連覇、本因坊11連覇など、数々の記録を打ち立てています。
名誉称号の資格を複数保持しており、「井山一強時代」を築きました。
趙治勲九段|タイトル獲得数日本一
韓国出身の趙治勲は、11歳でプロ入りという最年少記録(当時)を持つ天才棋士。
タイトル獲得数76期は日本記録であり、通算勝数1600勝も歴代最多です。
本因坊を10連覇し、「二十五世本因坊治勲」の称号を持っています。
芝野虎丸九段|最年少名人
2019年に史上最年少で名人位を獲得した芝野虎丸。
AIを活用した研究で急成長し、若手のトップランナーとして活躍しています。
弟の芝野龍之介もプロ棋士であり、兄弟での活躍が注目されています。
一力遼九段|二刀流の天才
棋士でありながら河北新報社の社長を務める「二刀流」として話題の一力遼。
棋聖・本因坊などのタイトルを獲得し、日本棋界のトップを走っています。
囲碁九段棋士一覧表
故人から現役まで、主な九段棋士を一覧でご紹介します。
物故棋士(故人)
| 名前 | 読み方 | 生没年 | 主な実績 |
|---|---|---|---|
| 呉清源 | ごせいげん | 1914-2014 | 昭和の碁聖、新布石創案、十番碁無敗 |
| 木谷實 | きたにみのる | 1909-1975 | 新布石創案、木谷道場主宰 |
| 坂田栄男 | さかたえいお | 1920-2010 | 名人本因坊、タイトル64期、名誉本因坊 |
| 藤沢秀行 | ふじさわひでゆき | 1925-2009 | 棋聖6連覇、名誉棋聖 |
| 高川格 | たかがわかく | 1915-1986 | 本因坊9連覇、名誉本因坊 |
| 橋本宇太郎 | はしもとうたろう | 1907-1994 | 本因坊、関西棋院創設 |
| 岩本薫 | いわもとかおる | 1902-1999 | 本因坊、原爆対局で知られる |
| 藤沢朋斎 | ふじさわほうさい | 1919-1992 | 九段、呉清源のライバル |
| 林海峰 | りんかいほう | 1942-2023 | 名人本因坊、名誉天元 |
| 加藤正夫 | かとうまさお | 1947-2004 | 名人本因坊棋聖、名誉王座 |
| 大竹英雄 | おおたけひでお | 1942- | 名人本因坊、名誉碁聖 |
| 瀬越憲作 | せごえけんさく | 1889-1972 | 名誉九段、呉清源の師匠 |
| 本因坊秀哉 | ほんいんぼうしゅうさい | 1874-1940 | 最後の世襲本因坊名人 |
現役棋士(一部)
| 名前 | 読み方 | 生年 | 主な実績 |
|---|---|---|---|
| 趙治勲 | ちょうちくん | 1956年 | タイトル76期、通算1600勝、二十五世本因坊 |
| 井山裕太 | いやまゆうた | 1989年 | 七冠同時制覇、棋聖9連覇、本因坊11連覇 |
| 一力遼 | いちりきりょう | 1997年 | 棋聖、本因坊、河北新報社社長 |
| 芝野虎丸 | しばのとらまる | 2000年 | 史上最年少名人 |
| 許家元 | きょかげん | 1997年 | 碁聖、天元 |
| 小林覚 | こばやしさとる | 1959年 | 棋聖、碁聖 |
| 山下敬吾 | やましたけいご | 1978年 | 棋聖、名人、本因坊 |
| 羽根直樹 | はねなおき | 1976年 | 棋聖、本因坊、天元 |
| 張栩 | ちょうう | 1980年 | 五冠王、名人本因坊 |
| 高尾紳路 | たかおしんじ | 1976年 | 名人本因坊 |
| 結城聡 | ゆうきさとし | 1972年 | NHK杯優勝、関西棋院 |
| 村川大介 | むらかわだいすけ | 1990年 | 十段、関西棋院 |
| 依田紀基 | よだのりもと | 1966年 | 名人碁聖 |
| 武宮正樹 | たけみやまさき | 1951年 | 本因坊6期、名誉本因坊 |
| 小林光一 | こばやしこういち | 1952年 | 棋聖8連覇、名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖 |
| 王立誠 | おうりっせい | 1958年 | 棋聖、十段 |
| 柳時熏 | りゅうしくん | 1967年 | 天元3期 |
| マイケル・レドモンド | まいけるれどもんど | 1963年 | 非アジア人初の九段 |
| 余正麒 | よせいき | 1995年 | 関西棋院、十段 |
※上記は一部であり、日本棋院・関西棋院を合わせると九段棋士は100人以上存在します。
豆知識:十段は段位じゃない?
囲碁を知らない方がよく勘違いするのが「十段」の存在です。
実は十段という段位は存在しません。
「十段」は棋聖や名人と同じく「タイトル名」であり、段位としては九段が最高位です。
十段のタイトルを持っていても、国際戦などでは「○○九段」と呼ばれます。
ちょっとややこしいですが、覚えておくと囲碁通になれますよ。
まとめ
この記事では、囲碁の九段について詳しくご紹介しました。
ポイントをおさらい
- 九段は囲碁における最高位の段位
- 江戸時代は九段=名人であり、天下にただ一人の称号だった
- 現代では三大タイトル獲得や通算勝数などで昇段可能
- 呉清源、木谷實、坂田栄男など伝説的な九段棋士が多数存在
- 現役では井山裕太、趙治勲、芝野虎丸などが活躍中
囲碁の九段は、単なる段位を超えた歴史と重みを持っています。
この記事をきっかけに、囲碁の世界に興味を持っていただけたら嬉しいです。


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