夜中に高熱にうなされて、怖い夢を見たことはありませんか?
もしその夢の中に、恐ろしい顔をした大男が現れて悪い鬼を退治してくれたとしたら…それは厄払いの神様「鍾馗(しょうき)」かもしれません。
顔は怖いけれど心優しく、人々を悪霊から守ってくれる不思議な存在。中国では家の門に絵を飾り、日本では端午の節句に人形を飾る、そんな特別な神様なんです。
この記事では、鬼より強い厄払いの神「鍾馗」について、その迫力満点の姿や感動的な伝説を分かりやすくご紹介します。
鍾馗ってどんな神様なの?

鍾馗(しょうき)は、中国の民間伝承で広く信じられている厄払い・魔除けの神様です。
道教の神様として崇められ、悪霊や疫病を退治する力を持つとされています。面白いのは、もともと人間だったという点なんですね。
鍾馗の主な役割
- 悪霊退治:家に入ろうとする悪い鬼を追い払う
- 病気除け:疫病や災いから人々を守る
- 家内安全:家族を守る門神として活躍
- 福をもたらす:魔を払うだけでなく、幸運も運んでくる
中国では「駆魔大神(くまたいしん)」や「鎮宅真君(ちんたくしんくん)」という立派な称号で呼ばれています。日本でも平安時代から知られていて、今でも端午の節句に飾る五月人形の一つになっているんです。
系譜
鍾馗の出身や経歴には、いくつかの説があります。
唐の時代の進士(科挙受験者)説
最も有名なのは、唐の時代(618-907年)に実在した人物だったという説です。
- 出身地:終南山(しゅうなんざん、中国の陝西省にある山)
- 時代:唐の高祖(初代皇帝)または徳宗の時代
- 身分:科挙を受験した学者
名前の由来
実は「鍾馗」という名前自体にも、いろんな説があるんです。
- 法器説:「終葵(しゅうき)」という魔除けの道具から来た
- キノコ説:なんと元はキノコの名前だったという説も!
- 古代の部族名説:殷の時代の「終葵氏」という一族から
どの説が正しいかは分からないけれど、とにかく古くから「魔を払う」という意味と結びついていた名前なんですね。
姿・見た目

鍾馗の姿は、一度見たら忘れられないくらい強烈なんです!
鍾馗の外見的特徴
- 顔:大きな目をカッと見開き、にらみつけるような表情
- 髭:もじゃもじゃの長い黒ひげが特徴的
- 体格:大男で筋肉質、威圧感がある
- 服装:朱色の官服や黒い衣装を着ている
- 持ち物:剣を持ったり、扇子を持ったり
なぜこんな恐ろしい顔に?
伝説によると、若い頃に100匹の鬼と戦ったせいで、こんな顔になってしまったそうです。
髪の毛は100方向に引っ張られて、もう元には戻らない。片目は鬼にひっかかれて、悪霊しか見えなくなってしまった…でも、それでも勉強を続けたという、なんとも根性のある人物だったんですね。
現在よく見る鍾馗像
今では、こんな姿で描かれることが多いです。
- 赤い官服を着て、黒い帽子をかぶっている
- 足元には退治した小鬼を踏みつけている
- 周りには5匹の小鬼が従っている(五鬼搬運)
- コウモリが一緒にいる(幸福の象徴)
特徴・役割
鍾馗には、普通の神様とは違う特別な力があります。
鍾馗の主な能力
- 8万の鬼を従える:なんと8万もの鬼や悪霊を指揮できる
- 夢の中に現れる:病気の人の夢に出てきて悪霊を退治
- どこでも現れる:必要な時にどこにでも出現できる
- 鬼を見分ける力:片目で悪霊だけを見つけられる
二面性のある性格
鍾馗の性格って、実はとても人間的なんです。
優しい面
- 恩を忘れない義理堅い性格
- 弱い人々を守る正義感
- 友人を大切にする情に厚い人
激しい面
- プライドが高く、侮辱は許さない
- 怒ると恐ろしいほど激しい
- 悪に対しては容赦しない
神話・伝承

鍾馗の伝説で最も有名なのが、唐の玄宗皇帝の夢の話です。
玄宗皇帝の不思議な夢
病に倒れた皇帝
唐の6代皇帝・玄宗(685-762年)が、ある時ひどい熱病にかかってしまいました。マラリアのような病気で、なかなか治らない。そんな時、不思議な夢を見たんです。
夢の中の出来事
夢の中で、小さな赤い鬼が現れました。この鬼は「虚耗(きょこう)」と名乗り、楊貴妃の香り袋と皇帝の笛を盗んで逃げ回っていたんです。
すると突然、恐ろしい顔をした大男が現れて、その小鬼をつかまえ、なんと目玉をくり抜いて食べてしまった!
驚いた皇帝が「お前は誰だ?」と尋ねると…
鍾馗の自己紹介
「私は終南山の鍾馗と申します。科挙(国家公務員試験)を受けましたが、醜い顔のせいで不合格にされました。恥ずかしさと怒りで宮殿の階段に頭をぶつけて死んでしまいましたが、高祖皇帝が手厚く葬ってくださった。その恩に報いるため、悪霊退治をしているのです」
奇跡の回復
目が覚めた玄宗は、なんと病気が治っていることに気づきました!感激した皇帝は、有名な画家の呉道玄(ごどうげん)に命じて、夢で見た鍾馗の姿を描かせたんです。
鍾馗が生前に受けた仕打ち
実は鍾馗、とても優秀な学者だったんです。でも…
- 試験の成績はトップクラスだった
- でも皇帝に「こんな鬼みたいな顔の者に名誉は与えられない」と言われた
- プライドを傷つけられ、石段に頭をぶつけて自殺してしまった
- でも、その後皇帝が丁重に葬ってくれた恩を忘れなかった
妹を嫁がせる話
鍾馗には美しい妹がいました。死後、神となった鍾馗は、悪い男が妹を無理やり嫁にしようとしているのを感知。鬼たちを引き連れて現世に現れ、悪人を追い払い、妹を親友の杜平(とへい)に嫁がせたという心温まる話もあります。
出典・起源

鍾馗の記録は、意外と古くからあるんです。
最古の記録
- 北宋時代(960-1127年)の『夢渓筆談』に最初の詳しい記載
- 唐時代(618-907年)にはすでに鍾馗の絵を飾る習慣があった
日本への伝来
- 平安時代末期:最古の鍾馗図が確認される(辟邪絵の一つ)
- 室町時代:水墨画の題材として人気に
- 江戸時代末期:五月人形として定着
京都の鍾馗信仰
京都の町家の屋根には、今でも瓦製の鍾馗像が置かれています。これには面白い由来があるんです。
昔、三条の薬屋が立派な鬼瓦を屋根に載せたところ、向かいの家の人が急に病気になってしまった。「鬼瓦に跳ね返された悪いものが、うちに来たんだ!」と考えた向かいの家の人は、鬼より強い鍾馗の像を屋根に載せたところ、病気が治ったというんです。
各国での鍾馗
- 中国:家の門や壁に絵を貼る、端午の節句に飾る
- 日本:五月人形、屋根の魔除け、掛け軸
- 台湾:「跳鍾馗」という厄払いの儀式
- 韓国:巫俗に取り入れられている
まとめ
鍾馗は、恐ろしい顔をしているけれど、実はとても人間味あふれる神様です。
鍾馗の重要ポイント
- もとは優秀な学者だったが、容姿で差別され自殺
- 恩を忘れない義理堅い性格で、死後も人々を守る
- 8万の鬼を従える強大な力を持つ厄払いの神
- 日中両国で愛される魔除けの守護神
- 端午の節句に欠かせない存在
顔は怖くても、心は優しい。そんな鍾馗の姿は、「見た目で判断してはいけない」という大切な教訓も教えてくれているのかもしれませんね。
今度、端午の節句で鍾馗の人形を見かけたら、その裏にある切ない物語と、人々を守り続ける優しい心を思い出してみてください。きっと、違った見方ができるはずです。


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