ギリシャ神話の最高神ゼウスが、実はギリシャ神話界きっての浮気者だったことをご存知でしょうか?
正妻ヘラがいるにもかかわらず、女神、ニンフ、人間の女性、さらには美少年まで——ゼウスの恋愛遍歴は数え切れないほど。
しかも、近づくときは白鳥やら雄牛やら黄金の雨やらに変身するという、なかなかぶっ飛んだ方法を使っていました。
この記事では、ゼウスの愛人たちを一覧でまとめ、特に印象的なエピソードをご紹介します。
ゼウスはなぜこんなに浮気をしたのか?

最初に押さえておきたいのが、「なぜゼウスはこんなに浮気者として描かれているのか」という点です。
実はこれ、原因と結果が逆なんですね。
古代ギリシャは小さな都市国家(ポリス)の集まりでした。
それぞれの都市が「うちの創始者はゼウスの血を引いている」と主張したかったため、結果として「ゼウスがあちこちで子供を作った」という神話が量産されたわけです。
つまり、ゼウスが好きこのんで浮気したというより、人間側が「うちの先祖もゼウスの子孫にしてくれ!」と後から神話を作ったという側面が強いんですね。
ゼウスからしたら「知らないうちに浮気者にされてる!」と怒りたくなる話かもしれません。
ゼウスの愛人の分類
ゼウスの愛人は、大きく4つに分けられます。
女神・ティターン女神——正妻ヘラを含む神々の世界の相手。ヘラの前にも2人の妻がいました。
ニンフ(精霊)——山や川、泉に住む女性の精霊たち。イーオーやアイギーナなどが有名です。
人間の女性——王女や貴族の娘が中心。ダナエ、エウロペ、セメレなど、後に有名な英雄を産む女性が多いのが特徴です。
男性——ガニュメデスというトロイアの王子。古代ギリシャでは同性愛も普通に語られていました。
ゼウスの「変身コレクション」が面白すぎる
ゼウスの浮気エピソードで一番インパクトがあるのは、変身パターンの豊富さでしょう。
なぜ変身するかというと、正妻ヘラの目を盗むため、あるいは相手を油断させるため。
神の力を完全に間違った方向に使っているとしか言いようがありません。
特に有名な変身パターンをいくつか見てみましょう。
白鳥に変身(レダの場合)
スパルタの王妃レダに近づくため、ゼウスは白鳥に変身しました。
鷲に追われて逃げてきたふりをして、レダの腕の中に飛び込んだんです。
この結果、レダは卵を産み、そこから生まれたのがトロイア戦争の原因となった絶世の美女ヘレネー。
ゼウスはヘレネーの誕生を記念して、夜空に白鳥座を創ったとも言われています。
雄牛に変身(エウロペの場合)
フェニキアの王女エウロペを誘拐するため、ゼウスは美しい白い雄牛に化けました。
花の香りを漂わせる穏やかな牛を見て、エウロペが背中にまたがると、雄牛はそのまま海へ突進。
クレタ島まで泳いでいって、そこでゼウスは正体を明かしました。
ちなみに、エウロペが駆け抜けた地域が後に「ヨーロッパ」と呼ばれるようになったという説があります。
大陸の名前の由来が浮気エピソードとは、なかなかの話ですね。
黄金の雨に変身(ダナエの場合)
アルゴスの王女ダナエは、「娘の子に殺される」という神託を恐れた父によって、青銅の塔に閉じ込められていました。
しかしゼウスは黄金の雨となって天井から降り注ぎ、ダナエのもとへ。
こうして生まれたのが、メドゥーサを倒した英雄ペルセウスです。
サテュロス(半人半獣の精霊)に変身(アンティオペの場合)
テーバイの女性アンティオペには、サテュロス(半人半獣の森の精霊)に化けて近づきました。
彼女は双子の息子アムピオンとゼトスを産み、後にテーバイの城壁を築いた英雄となります。
アルテミス(処女神)に変身(カリストの場合)
これは特にひどいパターンです。
狩りの女神アルテミスに仕える乙女カリストに近づくため、ゼウスはアルテミス本人の姿に化けました。
処女を守る誓いを立てていたカリストは、まさか女神が男神だとは思わず……。
妊娠が発覚してアルテミスに追放され、さらにヘラの怒りで熊に変えられてしまいました。
後にゼウスは彼女を夜空に上げ、おおぐま座としました。
ヘラの復讐がえげつない

ゼウスの浮気で一番被害を受けるのは、実は浮気相手の女性たちです。
正妻ヘラの嫉妬は神話界でも有名で、ゼウス本人ではなく愛人たちに容赦ない制裁を加えました。
イーオーの場合
ヘラに浮気がバレそうになったゼウスは、愛人イーオーを美しい白い牝牛に変身させて誤魔化そうとしました。
しかしヘラは見破り、百の目を持つ巨人アルゴスに牛を監視させます。
ゼウスがヘルメスを送ってアルゴスを殺した後も、ヘラは虻(アブ)を送り込んでイーオーを延々と追い回しました。
イーオーはエジプトまで逃げてようやく元の姿に戻れたそうです。
セメレの場合
テーバイの王女セメレがゼウスの子を身ごもっていることを知ったヘラは、老婆に化けて近づきました。
「本当に神様なの?本当の姿を見せてもらったら?」とセメレを唆し、ゼウスに本来の姿を見せるよう頼ませます。
ゼウスは止めましたが、「何でも願いを叶える」と約束してしまっていたため、やむなく神の姿を見せました。
結果、人間であるセメレは神の威光に耐えられず、雷に焼かれて死んでしまいます。
ゼウスはお腹の赤ん坊だけを救い出し、自分の太ももに縫い付けて育てました。
こうして生まれたのが、酒の神ディオニュソスです。
唯一の男性の愛人ガニュメデス
ゼウスの愛人の中で唯一の男性が、トロイアの王子ガニュメデスです。
古代ギリシャでは、女性との愛は肉体的なもの、男性同士の愛は精神的なものとされていました。
その美貌に惚れ込んだゼウスは、鷲に変身してガニュメデスをさらい、オリュンポス山へ連れ去りました。
ヘラは「女だけじゃなく男もかい!」と怒りましたが、ゼウスは無視。
ガニュメデスは不老不死となり、神々の宴で酒を注ぐ係に任命されました。
彼は後にみずがめ座の由来となっています。
現代に残るゼウスの愛人たち
ゼウスの愛人や子供たちは、現代でも様々な形で名前が残っています。
星座——おおぐま座(カリスト)、みずがめ座(ガニュメデス)、おうし座(エウロペを誘拐した雄牛)、わし座(ガニュメデスをさらった鷲)、白鳥座(レダを誘惑した白鳥)など。
地名——ヨーロッパ大陸(エウロペ)、エーゲ海のアイギーナ島(ニンフのアイギーナ)など。
衛星——木星(ゼウスのローマ名ユピテル)の衛星イオ、エウロパ、カリスト、ガニメデは、すべてゼウスの愛人から名付けられています。
ゼウスの愛人一覧表
女神・ティターン女神
| 名前 | 読み方 | 関係 | 生まれた子供 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| メティス | Metis | 最初の妻 | アテナ | 「息子に王座を奪われる」という予言を恐れ、ゼウスに飲み込まれた |
| テミス | Themis | 2番目の妻 | ホーライ(時の女神)、モイライ(運命の三女神) | 掟と正義の女神 |
| エウリュノメ | Eurynome | 愛人 | カリテス(美と優雅の三女神) | オケアノスの娘 |
| デメテル | Demeter | 愛人(姉) | ペルセポネ | 蛇の姿で交わったとされる |
| ムネモシュネ | Mnemosyne | 愛人 | ムーサイ(9人の芸術の女神) | 羊飼いの姿で近づき、9夜連続で交わった |
| レト | Leto | 愛人 | アポロン、アルテミス | ヘラの迫害で出産場所を見つけられず苦労した |
| ヘラ | Hera | 正妻(3番目の妻) | アレス、ヘベ、エイレイテュイア | 傷ついた小鳥(カッコウ)に化けて近づいた |
| ペルセポネ | Persephone | 愛人(娘) | ザグレウス | 蛇の姿で誘惑。オルフェウス教の伝承 |
| アステリア | Asteria | 逃げられた | なし | 鷲に追われ、ウズラに変身して海に飛び込み、デロス島になった |
| アフロディテ | Aphrodite | 愛人 | プリアポス(一説) | ヘラの呪いで醜い姿の神が生まれたとされる |
| ディオネ | Dione | 愛人(一説) | アフロディテ(一説) | ドドナ神殿での伝承 |
| セレネ | Selene | 愛人 | パンディア、エルサ | 月の女神 |
ニンフ(精霊)
| 名前 | 読み方 | 変身した姿 | 生まれた子供 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| イーオー | Io | 雲に隠れた | エパポス | ヘラに牝牛に変えられ、虻に追われた。ガリレオ衛星の由来 |
| アイギーナ | Aegina | 鷲 | アイアコス | アイギーナ島の由来 |
| カリスト | Callisto | アルテミスの姿 | アルカス | 熊に変えられ、おおぐま座になった。ガリレオ衛星の由来 |
| マイア | Maia | — | ヘルメス | プレイアデス7姉妹の長女 |
| エレクトラ | Electra | — | ダルダノス、イアシオン | サモトラケ島のニンフ |
| タユゲテ | Taygete | — | ラケダイモン | プレイアデスの一人 |
| プルート | Pluto | — | タンタロス | 富の女神 |
| カルメ | Carme | — | ブリトマルティス | クレタ島の農業のニンフ |
人間の女性
| 名前 | 読み方 | 変身した姿 | 生まれた子供 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| エウロペ | Europa | 白い雄牛 | ミノス、サルペドン、ラダマンテュス | ヨーロッパの語源。ガリレオ衛星の由来 |
| セメレ | Semele | — | ディオニュソス | ゼウスの本当の姿を見て焼け死んだ |
| ダナエ | Danae | 黄金の雨 | ペルセウス | 青銅の塔に閉じ込められていた |
| レダ | Leda | 白鳥 | ヘレネー、ポリュデウケス | 卵から子供が生まれた |
| アルクメネ | Alcmene | 夫の姿 | ヘラクレス | ゼウスは彼女の夫アムピトリュオンに化けた |
| アンティオペ | Antiope | サテュロス | アムピオン、ゼトス | テーバイの城壁を築いた双子の母 |
| ラミア | Lamia | — | ヘロピレ、アキレウス | ヘラに子供を奪われ、狂気に陥った |
| ニオベ | Niobe | — | アルゴス、ペラスゴス | 最初にゼウスと交わった人間の女性 |
| エラレー | Elara | — | 巨人ティテュオス | ヘラの怒りを避けるため地下に隠された |
| エウリュメドゥサ | Eurymedusa | 蟻 | ミュルミドン(蟻人間) | 「蟻人間」族の始祖を産んだ |
| カリュケ | Calyce | — | エンデュミオン | エリスの女王 |
| ラオダメイア | Laodameia | — | サルペドン | リュキアの王女 |
| ディア | Dia | — | ペイリトオス(一説) | ラピテス族の女王 |
| テュイア | Thyia | — | マグネス、マケドン | デウカリオンの娘 |
| パンドラ | Pandora | — | グライコス、ラティノス | デウカリオンの娘(箱のパンドラとは別人) |
男性
| 名前 | 読み方 | 変身した姿 | 役割 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ガニュメデス | Ganymede | 鷲 | 神々の酒を注ぐ係 | みずがめ座の由来。ガリレオ衛星の由来 |
まとめ
ゼウスの愛人について、主なポイントをおさらいしましょう。
- ゼウスは女神、ニンフ、人間、男性と、あらゆる存在と関係を持った
- 変身のバリエーションが豊富(白鳥、雄牛、黄金の雨、蟻など)
- 浮気相手はヘラの嫉妬で悲惨な目に遭うことが多い
- 「浮気者」になった背景には、各都市が「ゼウスの子孫」を主張したかった事情がある
- 愛人や子供の名前は、星座・地名・木星の衛星として現代に残っている
ゼウスの恋愛遍歴は、単なるスキャンダラスな神話ではなく、古代ギリシャの都市国家の権威争いや、ギリシャ人の世界観が反映された奥深い物語群なんですね。


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