ザッハークとは?ペルシャ神話の蛇王を徹底解説

神話・歴史・文化

両肩から蛇が生え、毎日人間の脳みそを食べさせていた王——。
聞いただけでゾッとしませんか?

これはペルシャ神話に登場する「ザッハーク」という暴君の話です。
1000年もの間イランを支配したとされるこの悪王は、今でもイランの人々にとって「恐怖の象徴」として語り継がれています。

この記事では、ザッハークの伝承や名前の意味、そしてなぜ現代まで語り継がれているのかをわかりやすく解説します。


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ザッハークの概要

ザッハーク(Zahhāk)は、ペルシャの大叙事詩『シャー・ナーメ(王書)』に登場する悪王です。

もともとはアラブの小国の王子でしたが、悪霊にそそのかされて父親を殺害。
その後、両肩から蛇が生えるという呪いを受け、1000年にわたってイランを暴政で支配しました。

興味深いのは、ザッハークが単なる創作キャラクターではないこと。
彼の原型は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスタ』に登場する邪悪な竜「アジ・ダハーカ」なんです。

つまり、古代から伝わる恐ろしい怪物が、後の時代に「人間の暴君」として再解釈されたわけですね。


ザッハークの姿

ザッハークといえば、なんといっても両肩から生えた2匹の黒い蛇が特徴的です。

この蛇は切り落としても、すぐにまた生えてきます。
しかも厄介なことに、毎日人間の脳みそを食べさせないと暴れ出すという設定。

『シャー・ナーメ』では基本的に人間の姿で描かれますが、彼の前身である「アジ・ダハーカ」はもっと恐ろしい姿をしていました。
三つの頭、三つの口、六つの目を持ち、体内には蛇やサソリがうごめいているとされています。


名前の意味

「ザッハーク」という名前、実はちょっと複雑な由来があります。

アジ・ダハーカの意味

もともとの名前「アジ・ダハーカ(Aži Dahāka)」は古代ペルシャ語に由来します。

  • アジ(Aži):蛇、あるいは竜を意味する言葉。サンスクリット語の「アヒ(ahi)」と同じ語源
  • ダハーカ(Dahāka):諸説あり、「刺すもの」「燃えるもの」「人間のような」などの意味が考えられている

つまり「アジ・ダハーカ」は、ざっくり言えば「蛇のような怪物」「人間じみた竜」といったニュアンスです。

ザッハークの由来

一方、「ザッハーク」という形は、アラビア語の「ダッハーク(ضحّاک)」の影響を受けています。
意外なことに、この言葉は「よく笑う人」という意味。

邪悪な暴君の名前が「笑う人」というのは、なんだか皮肉ですよね。


伝承:ザッハークの物語

悪霊との出会い

ザッハークはアラブの砂漠にある国の王子として生まれました。
父のマルダース王は善良な統治者でしたが、息子のザッハークは勇敢ではあるものの思慮が浅く、権力への欲望を抱いていました。

ある日、世の中を混乱させようとする悪霊イブリース(アーリマンとも)が、若者の姿でザッハークに近づきます。
巧みな言葉でザッハークを操り、ついには「父親を殺して王位を奪え」とそそのかしたのです。

悪霊の言うままに、ザッハークは庭園への道に落とし穴を掘りました。
何も知らない父王マルダースは穴に落ちて命を落とし、ザッハークは王となります。

肩から蛇が生える

王となったザッハークのもとに、イブリースは今度は料理人として現れます。
彼は毎日違う美味しい料理を作り、それまで人々があまり食べなかった動物の肉を王に提供しました。

すっかり気に入ったザッハークは、褒美として何でも与えると約束します。
料理人が望んだのは、たった一つ——「王の両肩に口づけをさせてほしい」。

奇妙な願いでしたが、ザッハークは許可しました。
料理人が肩に口づけした瞬間、その姿は消え……直後に、ザッハークの両肩から2匹の黒い蛇が生えてきたのです。

切っても切っても生えてくる蛇に、国中の医者が呼ばれましたが誰も治せません。
再び現れたイブリースは医者に化けて、こう助言しました。

「毎日2人の若者の脳みそを蛇に与えれば、やがて蛇は死ぬでしょう」

もちろん、これは嘘。
悪霊の本当の目的は、人間を大量に殺すことだったのです。

1000年の暴政

ザッハークはやがてイランに侵攻し、当時の王ジャムシードを打ち倒します。

ジャムシードは700年もの間イランを繁栄させた名君でしたが、晩年になって傲慢になり、民衆の支持を失っていました。
ザッハークは逃げたジャムシードを追い、ついには鋸で真っ二つにして殺害。さらにジャムシードの王女2人を自分のものにしました。

こうして始まったザッハークの治世は、1000年にも及びます。
毎日2人の若者が宮殿に連行され、脳みそを取り出されて蛇の餌にされました。

ただ、心ある2人の料理人が密かに抵抗を続けていたという話も残っています。
彼らは犠牲者のうち1人を逃がし、代わりに羊の脳を混ぜてごまかしたのだとか。
伝説によれば、こうして逃げ延びた若者たちの子孫がクルド人になったとされています。

英雄フェリドゥーンとの戦い

ある夜、ザッハークは不吉な夢を見ました。
若い英雄に牛頭の槌で打ち倒され、鎖で縛られる夢です。

恐れたザッハークは、その英雄「フェリドゥーン」を探し出すよう命令。
フェリドゥーンの父は捕らえられて処刑され、幼いフェリドゥーンに乳を与えた牝牛も殺されました。

しかしフェリドゥーン本人は母に守られ、成長して復讐を誓います。

このとき、もう一人の重要人物が登場します。
鍛冶屋のカーヴェです。彼は7人の息子を蛇の餌に奪われ、最後の1人も連行されようとしていました。

カーヴェは王宮に乗り込んで激しく抗議。
革の前掛けを槍に掲げて反乱の旗印とし、民衆を率いてフェリドゥーンのもとへ向かいます。

フェリドゥーンは牛頭の槌でザッハークを打ち倒しました。
しかしここで天使スルーシュが現れ、「まだ殺す時ではない」と告げます。
ザッハークの体内にはあらゆる悪が詰まっており、殺せば世界中に毒虫が放たれてしまうからです。

ダマーヴァンド山への封印

ザッハークは獅子の皮の紐で縛り上げられ、ダマーヴァンド山の洞窟に連れて行かれました。
両腕を岩に釘で打ち付けられ、血を流し続けながら永遠に囚われることになったのです。

興味深いことに、伝説ではザッハークはまだ生きているとされています。
山の麓から流れる温泉は、彼の体液だという言い伝えもあるほどです。


アジ・ダハーカとの関係

ザッハークの原型となった「アジ・ダハーカ」は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスタ』に登場する邪悪な竜です。

アヴェスタでの姿

アヴェスタでは、アジ・ダハーカはこう描写されています。

  • 三つの頭、三つの口、六つの目を持つ竜のような怪物
  • 1000の魔術を操る狡猾で強力な存在
  • 体内には蛇、サソリ、蛙などの毒虫がうごめいている
  • 嵐や疫病をもたらす力を持つ

悪神アーリマン(アンラ・マンユ)によって創られ、善神アフラ・マズダに対抗する存在でした。
バビロンの要塞に住み、世界を滅ぼす力を求めていたとも伝えられています。

人間化の過程

11世紀に詩人フェルドウスィーが『シャー・ナーメ』を編纂した際、この恐ろしい竜は「人間の暴君」として再解釈されました。

三つの頭は両肩の蛇2匹に、1000の魔術は1000年の治世に置き換えられています。
怪物から人間への変化は、神話がより現実的な「歴史物語」へと変わっていく過程を示しているのかもしれません。

終末の予言

ゾロアスター教の終末論では、アジ・ダハーカは世界の終わりに封印から解き放たれるとされています。

解放された暗黒竜は人間と動物の3分の1を貪り食らいますが、最終的には古代の英雄ガルシャースプ(またはキルサースプ)によって倒される運命にあるとか。


カーヴェの革命とノウルーズ

ザッハークの物語は、イランの新年祭「ノウルーズ」と深く結びついています。

鍛冶屋カーヴェの蜂起

息子たちを次々と奪われた鍛冶屋カーヴェは、王宮でザッハークに公然と抗議しました。
王が署名を求めた忠誠の文書を破り捨て、革の前掛けを旗に掲げて反乱を呼びかけます。

この旗は「デラフシュ・カーヴィヤーニー(カーヴェの旗)」と呼ばれ、後のペルシャ王朝の象徴となりました。
フェリドゥーンは宝石や絹で飾り立て、王権の象徴として掲げたと伝えられています。

ノウルーズの起源

クルド人の伝承では、カーヴェ(クルド語ではカワ)がザッハークを倒した日が「ノウルーズ」の起源とされています。

勝利を知らせるために山の上で火を焚いたことから、今でもノウルーズでは丘の上で篝火を焚く習慣があります。
3月21日(春分)前後に行われるこの祭りは、暗闘を打ち破って春が訪れることを祝う日。
ザッハークの暴政によって春が来なくなったという伝説と結びついているわけです。

現在も3億人以上がノウルーズを祝っており、イラン、クルド地域、中央アジアなどで盛大に行われています。


現代文化への影響

ザッハークは古代の伝説でありながら、現代でもさまざまな場面で登場しています。

政治的シンボル

1979年のイラン革命では、パフラヴィー国王を批判するポスターに「両肩から蛇を生やしたザッハーク」の姿が使われました。
独裁者を古代の暴君になぞらえることで、民衆の怒りを表現したのです。

2019〜2022年のイラン抗議運動でも、最高指導者ハーメネイーを「ハーメネイー・ザッハーク」と呼ぶスローガンが叫ばれました。

ゲーム・アニメ・小説

現代のフィクションでも、ザッハーク(アジ・ダハーカ)は人気のモチーフです。

  • 『Fate/Grand Order』:ランサークラスのサーヴァントとして登場。両肩の蛇は「捕食竜」として設定されている
  • 『アルスラーン戦記』:蛇王ザッハークがパルス国の伝説として登場し、物語の重要な背景となっている
  • 『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』:三つ頭の白い竜「アジ・ダハーカ」が主要な敵役として登場
  • 『原神』:ボス「若陀龍王(アズダハ)」の名前とデザインはアジ・ダハーカがモチーフ
  • 『プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂』シリーズ:「ダハカ」という影の怪物が登場

ゴジラシリーズの「キングギドラ」も、三つ頭の竜というデザインからアジ・ダハーカの影響を指摘する声があります。


まとめ

  • ザッハークはペルシャ神話に登場する暴君で、両肩から生えた蛇に人間の脳を食べさせていた
  • 原型はゾロアスター教の三つ頭の邪竜「アジ・ダハーカ」
  • 悪霊にそそのかされて父を殺し、1000年間イランを暴政で支配した
  • 鍛冶屋カーヴェと英雄フェリドゥーンによって倒され、ダマーヴァンド山に封印された
  • この伝説はイランの新年祭「ノウルーズ」の起源とされている
  • 現代でもゲームやアニメで人気のキャラクターとして登場し続けている

両肩から蛇が生えるという強烈なビジュアルと、圧政に立ち向かう民衆の物語。
3000年以上前から語り継がれてきたザッハークの伝説が、今なお人々の心を捉え続けているのも納得できますね。

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