【生と死の境界】黄泉平坂とは?イザナギとイザナミの別れの場所を徹底解説!

神話・歴史・伝承

もし、あなたが大切な人を失ったら、どこまでも追いかけていきますか?

日本神話には、愛する妻を追って死者の国まで行った神様の物語があります。そして、現世と死者の世界の境目には、二度と越えられない「坂」が存在したのです。

この記事では、日本神話における生と死の境界「黄泉平坂」について、その物語や場所、意味を分かりやすくご紹介します。

スポンサーリンク

概要

黄泉平坂(よもつひらさか)は、日本神話に登場する現世と黄泉の国(死者の世界)の境目にある坂のことです。

『古事記』では「黄泉比良坂」、『日本書紀』では「泉津平坂」または「泉平坂」と表記されています。

日本を作った神様イザナギとイザナミが永遠の別れを告げた場所として、日本神話の中でも特に印象的なシーンに登場します。「黄泉」とは死者の世界を意味し、「平坂」は境界を示す坂を指すんですね。

黄泉平坂の物語

黄泉平坂が登場する最も有名な物語は、イザナギとイザナミの悲しい別れの場面です。

物語の始まり

イザナギとイザナミは夫婦の神様で、日本列島をはじめ、たくさんの神々を生み出しました。

しかし、火の神カグツチを生んだとき、イザナミは火傷を負って亡くなってしまいます。比婆山に葬られたイザナミを忘れられないイザナギは、妻に会いたい一心で黄泉の国へと向かいました。

約束を破った夫

黄泉の国の入り口で、イザナミはイザナギにこう告げます。

「私はもう黄泉の食べ物を食べてしまったので戻れません。黄泉の神と相談してみますから、それまで決して私を見ないでください

しかし、待ちきれなくなったイザナギは、火を灯して中を覗いてしまったのです。

そこには、全身にウジ虫がたかり、体中から雷神が生まれた、変わり果てたイザナミの姿がありました。

追跡と逃走

恐怖で逃げ出したイザナギを、「恥をかかせた」と怒ったイザナミが追いかけます。

イザナギを追ったのは:

  • 予母都志許売(ヨモツシコメ):黄泉の国の怪物
  • 黄泉軍:1,500人の兵士
  • イザナミ自身:最後は自ら追跡

逃げるイザナギは、次々と物を投げて追手を遅らせました。

  • 黒御縵(髪飾り)を投げると山葡萄が生え、追手がそれを食べている間に逃げた
  • 湯津津間櫛(櫛)を投げると筍が生え、追手がそれを食べている間に逃げた
  • 桃の実を投げつけて追手を退けた

永遠の別れ

ついに黄泉平坂までたどり着いたイザナギは、千引の岩(千人がかりで引くほどの巨大な岩)で坂を塞ぎました。

岩の向こうからイザナミは叫びます。

「愛しい人よ、こんなひどいことをするなら、私は1日に1,000人の人間を殺すでしょう」

イザナギは答えました。

「愛しい人よ、それなら私は1日に1,500の産屋を建てて、新しい命を生ませよう」

こうして二人は離縁し、イザナミは黄泉津大神(黄泉の国の主宰神)となったのです。

黄泉平坂はどこにあるの?

『古事記』には「出雲国の伊賦夜坂」だと記されています。

現在の比定地

現在、黄泉平坂の伝承地とされているのは島根県松江市東出雲町揖屋にある場所です。

この場所の特徴:

  • 1940年(昭和15年)に石碑が建立された
  • 千引きの磐座」と呼ばれる大きな岩がある
  • 近くにイザナミを祀る揖夜神社がある

ただし、実際には神話上の場所なので、ここが本当に黄泉平坂だったかは分かりません。でも、出雲地方には黄泉の国に関する伝承が多く残っているんですね。

その他の伝承地

  • 松江市岩坂の小麻加恵利坂:イザナギが桃の実を投げた伝説がある
  • 出雲市猪目町の猪目洞窟:『出雲国風土記』に記される「黄泉の穴」

『出雲国風土記』には「夢にこの洞窟のあたりに至る者は必ず死ぬ」と記されており、古代から死の世界と結びつけられていました。

黄泉平坂の意味

黄泉平坂は単なる場所ではなく、深い意味を持つ境界なんです。

生と死の境界

千引の岩で塞がれた黄泉平坂は、生者の世界と死者の世界を完全に分ける境界を象徴しています。

一度死んでしまった者は、どんなに愛する人であっても、二度と現世に戻ることはできない。これは、死の不可逆性を示しているんですね。

「坂」の意味

研究者の間では、「坂」の解釈についていくつかの説があります:

  • 傾斜地としての坂という説
  • 境界そのものを意味するという説
  • 断崖絶壁のような崖を意味するという説

いずれにしても、簡単には越えられない場所だったことが分かります。

桃の力

イザナギが追手を退けるのに使った桃の実には、特別な意味があります。

中国の道教では、桃は魔除けや不老不死の効能がある神聖な果物とされていました。8世紀初頭に日本に桃がもたらされた際、この思想も一緒に取り入れられたと考えられています。

イザナギは桃に「意富加牟豆美命(オオカムツミ)」という名を与え、人々が苦しむときは助けるよう命じました。

もう一つの黄泉平坂

実は、黄泉平坂は『古事記』の中で2回登場するんです。

オオクニヌシの脱出劇

2回目は、オオクニヌシ(大国主)が根の国から脱出する場面です。

オオクニヌシは義父のスサノオから様々な試練を与えられますが、妻のスセリビメの助けを借りてそれらを乗り越え、根の国から逃げ出します。

このとき、オオクニヌシとスセリビメは黄泉平坂を通って現世へと戻っていくのです。

この話では、黄泉平坂は根の国と現世の境界として描かれています。

まとめ

黄泉平坂は、日本神話における生と死の境界を象徴する重要な場所です。

重要なポイント

  • 現世と黄泉の国(死者の世界)の境目にある坂
  • イザナギとイザナミが永遠の別れを告げた場所
  • 千引の岩で塞がれ、生者と死者の世界を完全に分けた
  • 出雲国(現在の島根県)に伝承地がある
  • 死の不可逆性と生命の尊さを教える物語
  • 桃の実には魔除けの力があるとされた

現在も島根県には黄泉平坂の伝承地が残り、多くの人が訪れています。古代から続く生と死の物語は、今も私たちに大切なメッセージを伝え続けているのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました