川から流れてきた瓜を割ったら、中から美しい赤ちゃんが出てきた――。
そんな不思議な始まりを持つ日本の昔話「瓜子姫」を知っていますか?
桃太郎が桃から生まれたように、瓜子姫は瓜から生まれた女の子です。
しかし桃太郎が鬼退治に向かう勇ましい物語なのに対して、瓜子姫の物語はかなり異なります。
地域によっては、驚くほど残酷な結末が待っているんです。
この記事では、日本全国に広く伝わる昔話「瓜子姫」について、物語のあらすじから地域ごとの違い、学術的な研究、そして文化的な背景まで詳しく解説していきます。
概要
瓜子姫は、瓜(うり)から生まれた少女を主人公とする日本の昔話です。
「瓜姫(うりひめ)」「瓜子織姫(うりこおりひめ)」「瓜姫子(うりひめこ)」など、地域によって呼び名が少し異なります。
沖縄を除く日本のほぼ全国に分布しており、民俗学者の関敬吾の分類では日本昔話話型160番、池田弘子のアールネ・トンプソン体系に基づく索引ではATU 408B型に分類されています。
池田弘子の索引では102もの異伝が記録されており、その分布の広さがうかがえます。
文献としては、近世初期に成立したとされる御伽草子絵巻『瓜姫物語』が現存する最古の記録とされています。
また、江戸時代後期の喜多村信節による百科事典的な随筆『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(1830年)にもこの物語が収録されています。
物語のあらすじ
瓜子姫の誕生
物語の始まりは、子どものいない老夫婦のもとに訪れる奇跡です。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな瓜が流れてきます。
おばあさんはそれを拾って家に持ち帰り、おじいさんと一緒に割ってみると、中からかわいらしい女の赤ちゃんが出てきました。
子どものいなかった二人は大喜びし、その子を「瓜子姫」と名づけて大切に育てます。
この「川から流れてくる果実の中から子どもが生まれる」という導入は、桃太郎の桃と同じ「異常誕生譚」と呼ばれるモチーフです。
植物から人間が誕生するという発想は、自然と人間の深いつながりを信じていた古代日本人の世界観を反映しているといえるでしょう。
美しく成長する瓜子姫
瓜子姫はすくすくと成長し、たいそう美しい娘になりました。
特に機織りの腕前が素晴らしく、歌を歌いながら機を織る姿は評判となります。
やがて、その噂を聞いた殿様(あるいは長者)が「ぜひ嫁に迎えたい」と申し出てきました。
老夫婦は喜び、嫁入りの支度を整えるため、町へ買い物に出かけることになります。
出かける前に、おじいさんとおばあさんは瓜子姫にこう言い聞かせました。
「誰が来ても絶対に戸を開けてはいけないよ」と。
天邪鬼の来訪
老夫婦が留守にしている間、瓜子姫が一人で機を織っていると、天邪鬼(あまのじゃく)がやってきます。
天邪鬼は戸口の前に立ち、「ちょっとだけ戸を開けてくれ」としつこく頼みます。
瓜子姫は断り続けますが、あまりのしつこさに根負けし、ほんの少しだけ戸を開けてしまいました。
すると天邪鬼は指を差し入れて戸をこじ開け、家の中に押し入ってきたのです。
ここから先の展開は、地域によって大きく異なります。
西日本型と東日本型:二つの結末
瓜子姫の物語には、結末が大きく異なる二つの型が存在します。
この地域差は、民俗学的にも非常に興味深い特徴として研究者の注目を集めてきました。
西日本型(ハッピーエンド)
西日本を中心に広く伝わるのが、瓜子姫が助かって幸せになる型です。
現代ではこちらが最もスタンダードとされています。
天邪鬼は瓜子姫を外へ連れ出し、柿の木に縛りつけます。
そして瓜子姫の着物を奪い、姫になりすまして家に戻り、何食わぬ顔で機を織り始めました。
老夫婦が帰ってきても、違和感を覚えつつも天邪鬼の変装を見抜けません。
翌日、嫁入りの輿(こし)に乗って殿様のもとへ向かうことになりますが、道中でカラスや小鳥が鳴いて事の真相を告げます。
正体がばれた天邪鬼は退治され、柿の木から助け出された瓜子姫は無事に殿様のもとへ嫁入りするという、めでたい結末です。
御伽草子『瓜姫物語』や『嬉遊笑覧』といった古い文献に残されている瓜子姫は、いずれもこの西日本型に該当します。
そのため、西日本型の方が口伝えとしてより古い形を保っているのではないかと考えられています。
東日本型(悲劇的な結末)
一方、東北地方や北陸地方に多く残っているのが、瓜子姫が殺されてしまう型です。
こちらの方がはるかに残酷な内容となっています。
天邪鬼は瓜子姫を騙して柿の木に登らせ、木を激しく揺すって落としたり、直接襲いかかったりして殺害します。
そして瓜子姫の顔の皮を剥いでかぶり、着物も奪って姫になりすまします。
さらに衝撃的な異伝もあります。
天邪鬼が瓜子姫を「瓜姫汁」にして料理し、何も知らないおじいさんとおばあさんに食べさせるという話も伝わっているのです。
しかし、殺された瓜子姫の魂が一羽の小鳥となって現れ、嫁入りの道中で天邪鬼の正体を暴露します。
天邪鬼は捕らえられて殺され、その血が蕎麦(そば)の畑や粟(あわ)の畑に流れたことで、それらの植物の茎や根が赤く染まった――という由来譚で物語は締めくくられます。
正体暴露の方法にも地域差がある
天邪鬼の正体がばれる場面にも、面白い地域差が見られます。
東日本では、鳥の声によって正体が暴かれるパターンが主流です。
カラスや小鳥、あるいは殺された瓜子姫が変化した鳥が真相を告げるのです。
対して西日本では、瓜子姫自身が木の上から泣いて知らせるパターンが多くなっています。
輿が柿の木の下を通りかかった際、上から瓜子姫の涙が落ちてきてばれるという美しい場面もあります。
天邪鬼以外の敵役
瓜子姫の物語で最も有名な敵役は天邪鬼ですが、地域によっては別の存在が登場することもあります。
山姥(やまうば)が天邪鬼の代わりに現れるパターンがあり、特に興味深いのは、山姥の場合は正体がばれた後に老夫婦に叱責されて改心するという展開もある点です。
天邪鬼が殺される結末とは対照的ですね。
そのほか、鬼婆、狐、狸、猿、さらには狼が敵役となる異伝も確認されています。
狼が登場するバージョンでは、瓜子姫が狼に食べられてしまうという展開になり、グリム童話の「赤ずきん」との構造的な類似が指摘されています。
学術的な考察
柳田國男の解釈:古代信仰との結びつき
日本民俗学の創始者・柳田國男は、瓜子姫の物語を古代信仰と結びつけて考察しました。
柳田は瓜子姫を「神に仕える織姫」と捉え、機織りという行為が単なる日常労働ではなく、神聖な営みであったと指摘しています。
古代日本において、機織りは神に捧げる布を作る神聖な仕事であり、それを行う女性もまた神聖な存在とされていたのです。
また、瓜子姫の別名として「瓜子織姫」「瓜姫御寮(うりひめごりょう)」などがあることも、姫と機織りの深い結びつきを示しています。
柳田は瓜子姫を「珍子(ちさご)」、つまり異常な方法で誕生した特別な子として分析しました。
関敬吾の解釈:ATU 408型「三つのオレンジ」との関連
一方、民俗学者の関敬吾は、瓜子姫の物語をATU 408型「三つのオレンジ(三つのシトロン)」の類話として捉えました。
これはヨーロッパをはじめ、トルコ、インド、ミャンマー、チベットなど広い地域に分布する昔話の話型です。
「三つのオレンジ」の基本的な構成は以下のようなものです。
果実から美しい娘が生まれ、やがて結婚が決まるが、偽者(にせもの)の花嫁がすり替わる。
しかし最終的に正体が暴かれ、本物の花嫁が救われる――という筋書きで、瓜子姫の物語と確かに共通点が多くあります。
民俗学者のクリスティーン・ゴールドバーグは、天邪鬼が殺した瓜子姫の皮をかぶって変装するという要素が、トンプソンのモチーフ索引における「偽装する皮剥ぎ者」(モチーフK1941)に該当すると指摘しています。
東日本型と西日本型の違いについても、「三つのオレンジ」との比較からこんな推測がなされています。
本来の形では瓜子姫は殺されて小鳥の姿に変わり、天邪鬼が退治された後によみがえって元の姿に戻った――というのが原形だったのかもしれない、と日本大百科全書の解説は述べています。
小松和彦の視点:瓜の霊的意味
民俗学者・小松和彦は、『世界大百科事典』の「瓜子姫」の項で重要な指摘を行っています。
瓜子姫の物語を考える際、瓜が古くから「霊の依代(よりしろ)」とされていた点は見逃せないと小松は述べています。
依代とは、神霊が宿る物のことです。
お盆に瓜や茄子で精霊馬(しょうりょううま)を作る風習が示すように、瓜は日本の民間信仰において特別な意味を持つ植物でした。
また小松は、瓜と機織りという組み合わせに着目し、焼畑地域で伝承されていたとみられる七夕起源譚を伴う「天人女房」の話との関連も示唆しています。
蕎麦・粟・黍(きび)・萱(かや)といった畑作物の茎が赤い理由を天邪鬼の血で説明する由来譚がしばしば付随することから、この物語がもともと畑作(焼畑)地域で主に語られていた可能性があるとも指摘されています。
ハイヌウェレ型神話との関連
物語の結末で、退治された天邪鬼の死体が畑に撒かれ、その血が植物を赤く染めたという由来譚は、「ハイヌウェレ型神話」の名残を留めているとも指摘されています。
ハイヌウェレ型とは、殺された存在の体から食物が生まれるという神話の一類型です。
インドネシアのセラム島に伝わるハイヌウェレの神話がその代表例で、殺されたハイヌウェレの体が切り刻まれて大地に埋められ、そこからさまざまな食用植物が生まれたと伝えられています。
瓜子姫の物語でも、天邪鬼(あるいは殺された姫)の血が蕎麦や粟の茎を赤くしたという由来譚が語られます。
これは死と再生、犠牲と豊穣という古い神話的なテーマが、昔話の中にひっそりと残されている証拠といえるかもしれません。
「赤ずきん」との構造的類似
ドイツの民俗学者・小澤俊夫は、瓜子姫の物語がグリム童話の「赤ずきん」や「狼と七匹の子山羊」と同じ構造を持つことを指摘しています。
「親の留守中に子どもが悪者に騙されて危機に陥り、最終的に親(あるいは救援者)によって救出される」という骨組みは、洋の東西を問わず共通する物語のパターンなのです。
そしてこの構造の背後には、シャーマニズムの通過儀礼に見られる「死と再生」のモチーフが潜んでいるとも考えられています。
瓜子姫の物語が伝えるもの
「留守番」の教訓
最も表面的なレベルでは、「知らない人に戸を開けてはいけない」という子どもへの教訓が込められています。
これは世界中の昔話に共通するテーマであり、子どもたちに危険を避ける知恵を伝える役割を果たしてきました。
機織りと女性の社会的役割
瓜子姫が機織り上手として描かれる点は、古代日本における女性の理想像を反映しています。
機織りは実用的な技術であると同時に、神に捧げる布を織るという神聖な行為でもありました。
瓜子姫の物語は、機織りの腕前が婚姻の条件となるほど重要視されていた時代の価値観を映し出しているのです。
植物の由来を説明する物語
東日本型に見られる「蕎麦の茎が赤いのは天邪鬼の血のせい」という由来譚は、自然の不思議を物語で説明しようとする人間の営みを示しています。
他にも粟、黍、萱、すすきなど、さまざまな植物の茎や根の赤さが天邪鬼の血で説明されており、地域ごとにどの植物が登場するかが異なっています。
近現代における瓜子姫
木下順二による民話劇
劇作家・木下順二は、瓜子姫の昔話を「瓜子姫とあまんじゃく」として民話劇に作り上げました。
『夕鶴(ゆうづる)』でも知られる木下が手がけたこの作品は、口語体で語られる親しみやすい劇作品となっています。
2018年には国立文楽劇場の文楽公演でも上演されました。
現代の都市伝説
現代では、瓜子姫にまつわる都市伝説も生まれています。
「夜中の12時に鏡の前で『うりこひめ』と唱えると、天邪鬼がやってきて悪さをする」というものです。
古い昔話が現代の怪談として形を変えて語り継がれている点は、この物語の根強い生命力を感じさせます。
漫画・アニメでの描写
江口夏実の漫画『鬼灯の冷徹』では、殺されてしまう結末の瓜子姫が登場し、死後は焦熱地獄で獄卒として働いているという設定で描かれています。
天邪鬼もまた同じ地獄で罪滅ぼしのために働いており、二人の関係がユーモラスに描かれています。
まとめ
瓜子姫は、一見すると素朴な昔話に見えますが、その奥には日本の民俗文化を読み解く多くの手がかりが詰まっています。
- 瓜から生まれた異常誕生譚であり、桃太郎と対をなす物語として知られる
- 西日本型(姫が助かるハッピーエンド)と東日本型(姫が殺される悲劇)の二つの大きな型がある
- 御伽草子『瓜姫物語』が文献上の最古の記録とされる
- 天邪鬼のほか、山姥や狼などが敵役となる異伝も存在する
- ATU 408型「三つのオレンジ」の日本的変化として世界の昔話と結びつく
- 植物の由来を説明するハイヌウェレ型神話の要素を含む
- 「赤ずきん」と同じ「死と再生」の物語構造を持つ
- 現代でも文楽公演や漫画作品で親しまれている
瓜子姫の物語は、単なる「怖い話」ではありません。
古代の信仰、農耕文化、女性の社会的役割、そして世界に共通する物語のパターンまでもが凝縮された、日本民俗学の宝庫ともいえる昔話なのです。
参考情報
関連記事
この記事で参照した情報源
百科事典・辞典
- コトバンク「瓜子姫」 – 小松和彦(世界大百科事典)、日本大百科全書、百科事典マイペディア、精選版日本国語大辞典の各解説を参照
- Wikipedia「うりこひめとあまのじゃく」(日本語版)
- Wikipedia “Uriko-hime”(英語版) – 池田弘子の索引、関敬吾の分類、ファニー・ヘイギン・メイヤーの注記などを参照
学術的参考文献(書籍)
- 藤井倫明『瓜子姫の死と生 原初から現代まで』三弥井書店、2018年
- 関敬吾『日本昔話集成』角川書店 – 話型160番として分類
- 池田弘子『A Type and Motif Index of Japanese Folk-Literature』- ATU 408B型として分類
- 柳田國男による瓜子姫と古代信仰の考察
公演記録
- 国立文楽劇場「瓜子姫とあまんじゃく」 – 木下順二作、2018年公演
参考になる外部サイト
- 国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース – 各地の瓜子姫の伝承事例を検索可能

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