海辺の町で、毎年決まった日だけ軒先に籠や箒がぶら下げられる——そんな奇妙な光景を目にしたことはありませんか?
実はこれ、海から這い上がってくる恐ろしい怪異から身を守るための魔除けなんです。
2000年代にインターネット上で語られるようになったこの怪談は、見た者を高熱や錯乱に陥らせる恐怖の存在として知られています。
この記事では、ネット怪談「海からやってくるモノ」の姿や特徴、そして関連する伝承について詳しくご紹介します。
概要

海からやってくるモノは、2005年12月に旧2ちゃんねるのオカルト板に投稿された現代の怪談です。
「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」というスレッドに書き込まれたもので、「海を見てはいけない」「海を見ることを忌む日」など、さまざまなタイトルで知られるようになりました。
ある海辺の町で、特定の日のみ現れるとされる正体不明の怪異で、地域に実在する「海を見てはいけない日」という忌み日の風習をモチーフにしているとされています。
この怪談は伊豆七島に伝わる妖怪「海難法師(かいなんぼうし)」との関連が指摘されることも多く、古い伝承と現代の創作が融合した興味深い事例なんですね。
姿・見た目
海からやってくるモノの姿は、一言でいえば「黒い煙の塊」のような異形なんです。
外見的特徴
- 本体:黒煙のような黒い煙の塊
- 先端:顔のようなものがついている
- 体型:非常に長い体躯で、蛇のようにのたうちながら移動する
- 大きさ:民家の二階の窓を覗き込めるほど高く伸びる
投稿された怪談によれば、この怪異は海から這い出てくるように現れ、長い体を伸ばして民家の軒先を一軒一軒覗き込んで回るそうです。
その動きは静かで、音を立てることはありません。しかし、近づくと強烈な生臭い臭気が漂い、周囲の空気が一変するといいます。
先端にある「顔」の詳細については明確に語られていませんが、これを直視した者は激しく錯乱してしまうため、邪眼のような危険な力を持っていると考えられています。
特徴
海からやってくるモノには、いくつかの恐ろしい特性があります。
主な特徴と被害
出現の特徴
- 毎年決まった日に現れる(日付は地域によって異なるとされる)
- 冬の夜に海から這い上がってくる
- 音は一切出さない
人や動物への影響
- その姿を見た人間:原因不明の高熱に見舞われる
- その姿を見た動物:錯乱状態に陥る
- 顔を直視した者:激しく錯乱し、取り返しのつかない状態になる
感覚への影響
- 強烈な生臭い臭気を撒き散らす
- 吐き気を催すほどの悪臭
- 音は出さないのに、形容しがたい耳鳴りを引き起こす
この怪異の最も特徴的な点は、邪眼のような性質を持っていることでしょう。見ること、特に顔を直視することで被害を受けるため、目を使った魔術的な攻撃をしてくる存在だと考えられているんです。
地域に残る対策
海からやってくるモノが現れる地域では、古くから伝わる魔除けの風習があります。
魔除けの方法
- 軒先に籠(かご)や笊(ざる)をぶら下げる
- 箒(ほうき)を吊るす
- 家から一切出ない
- 戸を固く閉ざして外を見ない
籠や笊といった「たくさんの目(網目)を持つ道具」を吊るすのは、邪眼に対抗するための呪術的な意味があると考えられています。無数の穴が怪異の視線を分散させ、その力を弱めるという発想なんですね。
この風習を守らずに外に出たり、窓から外を覗いたりすると、怪異に遭遇して災いに見舞われてしまうと言われています。
伝承

海からやってくるモノは現代の創作怪談ですが、その背景には古くから伝わる伝承や風習が存在します。
海難法師との関連
伊豆七島に伝わる妖怪「海難法師」は、海からやってくるモノと多くの共通点を持っています。
海難法師の由来
江戸時代、伊豆七島には悪代官・豊島松之丞(としままつのじょう)という人物がいました。彼は島民たちを苦しめる圧政を敷いていたため、島民たちは彼を亡き者にしようと計画を立てたんです。
島民たちは「海が荒れる日に島巡りをするのが良い」と嘘の情報を流しました。それを信じた代官が荒天の日に船を出したところ、激しい波に呑まれて死亡してしまいます。
しかし、それで終わりではありませんでした。無念の死を遂げた代官の怨霊が海難法師という妖怪となり、毎年決まった日に海から現れて災いをもたらすようになったというんです。
海難法師の風習
民俗学者・桜井徳太郎の『民間信仰辞典』によれば、伊豆七島では次のような風習が伝えられています。
海難法師対策の伝統
- 一月十四日に海難法師が現れる
- 魔除けとして香を焚く
- わらじやヘチマなど匂いの強いものをぶら下げる
- 魔除けなしでは雨に濡れると幻に襲われる
- 頭にトラの葉を刺す
- 袋を被って海辺に立つと災いが降りかかる
興味深いのは、海難法師の対策が「匂いの強いもの」を使うのに対し、海からやってくるモノの対策は「目の多いもの(籠や笊)」を使うという違いです。
これは、海難法師が「悪臭」を特徴とするのに対し、海からやってくるモノは「邪眼」を特徴とするという性質の違いを反映しているのかもしれません。
実在する「海を見てはいけない日」
日本各地の海岸沿いの地域には、実際に「海を見てはいけない日」という忌み日の風習が残っているところがあります。
これらの風習は、海難事故や津波といった実際の災害の記憶が、時代を経て妖怪や怪異の伝承へと変化していったものだと考えられています。
「海を見てはいけない」怪談のあらすじ
別の投稿では、次のような体験が語られています。
冬のある日、旅行中の若者たちが海岸沿いの奇妙な村に迷い込みます。その村では、なぜか軒先に籠や笊が吊り下げられていました。
ガソリンを入れようとガソリンスタンドに寄っても、住民たちは邪険に追い返すばかり。仕方なく駐車場で一晩明かすことにした彼らは、深夜、飼い犬の唸り声で目を覚まします。
そこで見たものは——海から体を伸ばし、民家を覗き込む得体の知れない「何か」でした。
慌てて車を発進させようとした彼らでしたが、エンジン音がその怪異の注意を引いてしまい……。
類似する妖怪たち
海からやってくるモノに似た特徴を持つ妖怪は、他にも存在します。
- 濡れ女(ぬれおんな):海から現れる長い髪の女性の妖怪。外見は異なるが、海から這い上がる点が共通
- 邪眼を持つ存在:見ることで災いをもたらす性質は、世界中の伝承に見られる
まとめ
海からやってくるモノは、現代のネット怪談と古い伝承が融合した興味深い存在です。
重要なポイント
- 2005年に2ちゃんねるオカルト板に投稿された現代の怪談
- 黒い煙の塊のような姿で、先端に顔がある
- 特定の日に海から這い上がり、民家を覗いて回る
- 姿を見ると高熱や錯乱といった被害を受ける
- 生臭い臭気と耳鳴りを引き起こす
- 籠や笊といった「目の多い道具」を魔除けとする
- 伊豆七島の海難法師伝承と関連が深い
- 日本各地に実在する「海を見てはいけない日」の風習がモチーフ
この怪談が人々を惹きつけるのは、単なる創作ではなく、実際に各地に残る風習や伝承を背景に持っているからかもしれません。
もしあなたが海辺の町を訪れて、冬のある日、軒先に籠がたくさん吊るされているのを見かけたら——その夜は決して外を覗いてはいけませんよ。


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