「馬鹿」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
普段何気なく使っている「馬鹿」という言葉ですが、実は江戸時代の妖怪絵巻には、この言葉をそのまま形にしたような不思議な妖怪が描かれているんです。
馬の顔に鹿の足、そして飛び出した一つ目…まさに「馬」と「鹿」を組み合わせた、ユーモラスな姿の妖怪なんですね。
この記事では、言葉遊びから生まれた珍しい妖怪「馬鹿(うましか)」について、その姿や特徴を詳しくご紹介します。
馬鹿ってどんな妖怪なの?

馬鹿(うましか)は、江戸時代に描かれた妖怪絵巻に登場する妖怪です。
「馬鹿」という言葉の漢字表記から連想して描かれたものと考えられています。
描かれている絵巻
馬鹿が描かれている主な絵巻は以下の通りです。
- 『百物語化絵絵巻』(1780年)
- 尾田郷澄『百鬼夜行絵巻』(天保4年・1833年制作)
- 『化物尽絵巻』(国際日本文化研究センター所蔵)
- 熊本県八代市の松井家に伝わる『百鬼夜行絵巻』
興味深いのは、1990年代までは尾田郷澄版にだけ描かれた独自の妖怪だと思われていたこと。
でも、その後の研究で他の絵巻にも同じ姿で描かれていることが分かったんです。
「馬鹿」という言葉の由来
ちなみに、「馬鹿」という言葉自体は、中国の秦の時代の有名な故事「鹿をさして馬となす」が起源だとされています。
権力者にへつらって、鹿のことを馬だと言われても本当のことを言えない愚か者を指す言葉として、南北朝時代から日本でも使われていたそうです。
姿・見た目
馬鹿の姿は、本当にユニークで滑稽なんです。
外見的特徴
馬鹿の主な特徴はこちらです。
- 顔:馬のように長い顔をしている
- 角:頭に一本の角が生えている
- 目:一つだけの目が眼窩(がんか)から上に向かって飛び出している
- 体:衣服を着ている
- 足:鹿のように二つに割れた蹄(ひづめ)を持つ
- 姿勢:前足を左右に広げた独特のポーズで描かれている
馬の顔と鹿の足を組み合わせた姿は、まさに「馬」と「鹿」という漢字を視覚化したものなんですね。
絵巻での描かれ方
面白いことに、複数の絵巻に描かれている馬鹿は、どれも全く同じ姿勢で描かれています。
これは、元になった絵があって、それを写したり参考にしたりしながら描き継がれていったのかもしれません。
飛び出した目玉や、左右に広げた前足のポーズは、見る人にとって印象的で忘れられない姿だったのでしょう。
伝承

ここで重要なポイントがあります。
実は、馬鹿について「どんなことをする妖怪なのか」という説明は、絵巻には一切書かれていないんです。
記録に残っていること
- 江戸時代の複数の妖怪絵巻に描かれている
- 「馬鹿」という名前がついている
- 独特の姿で描かれている
これだけなんですね。つまり、この妖怪がどんな悪さをするのか、人間にどう関わるのかは、当時の資料からは分からないんです。
現代の解釈について
現代の妖怪図鑑などでは「人間に取り憑いて馬鹿者にしてしまう妖怪」と説明されることもあります。
でも、これは平成以降に作られた解釈で、江戸時代の古い資料にはそのような説明は残っていません。
あくまでも、「馬鹿」という言葉から連想して、後の人たちが想像で付け加えた性質なんですね。
言葉遊びから生まれた妖怪
馬鹿は、言葉の漢字表記をそのまま絵にしたという、とても珍しいタイプの妖怪です。
他にも江戸時代の妖怪絵巻には、言葉遊びや駄洒落から生まれたユーモラスな妖怪がたくさん描かれています。
当時の絵師たちの遊び心や、庶民の笑いのセンスが感じられて面白いですね。
まとめ
馬鹿は、江戸時代の絵師たちの言葉遊びから生まれた、ユニークな妖怪です。
重要なポイント
- 江戸時代の妖怪絵巻に描かれた珍しい妖怪
- 「馬鹿」という言葉の漢字表記から連想されて描かれた
- 馬の顔と鹿の蹄を持ち、一つ目で角がある滑稽な姿
- 衣服を着て前足を広げた独特のポーズで描かれている
- 複数の絵巻に同じ姿で登場している
- 具体的な能力や性質は古い資料には記録されていない
恐ろしい妖怪ばかりではなく、こうしたユーモラスで不思議な妖怪も描かれていたところに、江戸時代の人々の豊かな想像力と遊び心が感じられますね。
もしかしたら、当時の人々は妖怪絵巻を見ながら、「これは『馬鹿』という言葉を絵にしたんだな」とクスリと笑っていたのかもしれません。


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