「月にはうさぎがいて、餅をついている」
日本では当たり前のように語られるこのお話。でも実は、同じ月を見ていても、世界各国では全く違うものに見えているんです。
ある国では「カニ」、別の国では「ライオン」、さらには「本を読むおばあさん」なんて見え方も。
なぜこんなに違いが生まれるのでしょうか?
この記事では、世界各国で月の模様が何に見えるのか、その背景にある文化や伝説とともに詳しく解説していきます。
月の模様の正体とは?

まず、月の模様の正体について押さえておきましょう。
月の表面をよく見ると、白っぽい部分と黒っぽい部分があることに気づきます。
黒っぽく見える部分は「月の海」と呼ばれています。といっても、地球の海のように水があるわけではありません。約40億年前、巨大な隕石が月に衝突してできたクレーターに、地下から噴き出した玄武岩質のマグマが流れ込んで固まったものなんです。
一方、白っぽく見える部分は「高地」と呼ばれる場所で、クレーターが多く存在しています。
この明暗のコントラストが、私たちの目には様々な形に見えるというわけです。
ちなみに、月は常に同じ面を地球に向けて回っています。そのため、世界中どこで見ても同じ表面が見えているんです。
それなのに、なぜ国によって見え方が違うのでしょうか?
答えは「文化」と「想像力」にあります。
【アジア編】月の模様の見え方一覧
日本──餅をつくうさぎ
日本では、月の黒い部分が「うさぎが餅をついている姿」に見えるとされています。
うさぎの頭が左側、餅をつく臼が右側という構図です。十五夜のお月見では、この月うさぎを眺めながらお団子を食べる風習がありますよね。
日本で「餅つき」になった理由は、中秋の名月が豊穣を祝う行事であることと関係しています。たくさんのお米が収穫できたことへの感謝が、餅つきのイメージと結びついたと考えられています。
中国──不老不死の薬を作るうさぎ
中国でも月にうさぎがいると信じられていますが、日本とは少し違います。
中国の月うさぎは「玉兔(ぎょくと)」と呼ばれ、杵と臼で不老不死の薬を作っているとされているんです。
この玉兔は、月の女神「嫦娥(じょうが)」のお供として有名。嫦娥は夫から盗んだ不死の薬を飲んで月に昇ったという伝説があり、玉兔はその嫦娥のために薬を調合し続けているというわけです。
また、中国の一部地域では、うさぎではなく大きなハサミを持ったカニに見えるという説もあります。さらに古い伝承ではヒキガエルとして描かれることもあったようです。
韓国──餅をつくうさぎ
韓国も日本と同様に、月の模様はうさぎが餅をつく姿に見えるとされています。
韓国の秋夕(チュソク)という祭りでは、月を眺めながらソンピョンという餅を食べる習慣があり、月うさぎの文化が根付いているんです。
モンゴル──犬
遊牧民の国モンゴルでは、月の模様は犬に見えるとされています。
興味深いのは、この犬には「嘘をつくと吠える」という言い伝えがあること。家畜を追う生活の中で、犬は大切なパートナーだったことが、この見え方に影響しているのかもしれません。
ベトナム──木の下で休む男性
ベトナムでは、月の模様は大きな木の下で休む男性の姿に見えるとされています。
ベトナムの伝説では、チュ・クオイという男性が魔法のガジュマルの木とともに月に昇ったとされ、この物語が見え方にも影響を与えているようです。
インド──象(一部地域)
インドの一部地域では、月の模様が象に見えるという説があります。
象はインドの神話や宗教において神聖な動物として崇められており、月のクレーターや影が象の姿に重なって見えるという信仰があるんです。
【ヨーロッパ編】月の模様の見え方一覧
南ヨーロッパ(イタリア・スペインなど)──カニ
地中海沿岸の国々では、月の模様はハサミを振り上げたカニに見えるとされています。
この地域では、満月に現れる大きなカニが大潮をもたらすと考えられていました。大潮の日は魚がよく釣れることから、海と密接に暮らす人々ならではの見え方といえるでしょう。
東ヨーロッパ──女性の横顔
東ヨーロッパでは、月の模様は美しい女性の横顔に見えるとされています。
面白いのは、他の地域では黒い部分を使って形を見ることがほとんどなのに対し、東ヨーロッパでは白い部分を使って女性の輪郭を描いているという点です。
北ヨーロッパ──本を読むおばあさん
北ヨーロッパの国々では、月の模様は本を読んでいるおばあさんに見えるとされています。
寒い冬に家の中で過ごす時間が長い地域ならではの見え方かもしれませんね。
ドイツ・北欧──薪を背負う男性
ドイツや北欧の一部では、月の模様は薪を背負った男性の姿に見えるとされています。
中世ヨーロッパには「月に追放された男」という伝説があり、安息日に薪を拾った罰として月に送られたという物語が語り継がれていました。
バイキング(北欧古来)──水を担ぐ男女
バイキングの文化では、月の模様は水を担いでいる男女の姿に見えるとされていました。
北欧神話では、二人の子どもが泉から水を汲んでいるところを月神に連れ去られたという物語があり、この伝説が見え方に影響を与えています。
【南北アメリカ編】月の模様の見え方一覧
カナダ先住民──バケツを運ぶ少女
カナダのインディアン(先住民族)の間では、月の模様はバケツを運ぶ少女の姿に見えるとされています。
少女の頭には、カナダ先住民の文化を象徴する羽飾りがついているようにも見えるそうです。豊かな水源を持つカナダならではの見え方といえるでしょう。
北米先住民(クリー族)──うさぎと鶴
クリー族には、月に行きたがったうさぎを鶴が運んだという伝説があります。
長い旅の途中、うさぎは鶴の足にしがみついたため、鶴の足が今のように長くなったとか。月に着いたうさぎは、感謝のしるしとして血のついた前足で鶴の頭を撫でたので、鶴の頭に赤い印がついたという物語です。
南アメリカ(ブラジルなど)──ワニ
アマゾン川が流れる南アメリカでは、月の模様はワニに見えるとされています。
アマゾン川にはワニが多く生息しており、力強さや恐ろしさの象徴として人々の生活に密着していたことが、この見え方に影響しているのでしょう。
中南米──ロバ
中南米の一部地域では、月の模様は長い耳を立てたロバに見えるとされています。
ロバは農作業や移動に欠かせない存在だったため、身近な動物として親しまれていたことが背景にあります。
メソアメリカ(アステカ・マヤ文明)──うさぎ
興味深いことに、古代アステカやマヤ文明でも、アジアと同じく月の模様はうさぎに見えるとされていました。
アステカの伝説によると、神々が太陽と月を作るとき、臆病な神テクシステカトルの顔にうさぎを投げつけて光を弱めたことで、月にうさぎの影ができたとされています。
また、マヤの月の女神イシュチェルは、膝の上にうさぎを抱えた姿で描かれることが多いんです。
【中東・アフリカ編】月の模様の見え方一覧
アラビア諸国──ライオン
アラビアでは、月の模様は吠えているライオンに見えるとされています。
砂漠の王者として恐れられ、同時に力と威厳の象徴でもあるライオン。アラビアの詩には、月の美しさと神秘性を称えるものが多く残されています。
アフリカ──様々な動物
アフリカ大陸では、部族や地域によって月の模様の見え方が異なります。
ライオンのしっぽに見えるという地域もあれば、トカゲやワニに見えるという地域も。農業のタイミングや季節の指標として月を重要視する文化が多く、それぞれの生活環境に根ざした見え方が生まれています。
【オセアニア編】月の模様の見え方一覧
ニュージーランド(マオリ族)──ロナという女性
ニュージーランドのマオリ族の間では、月の模様はロナという女性の姿に見えるとされています。
伝説によると、ロナは月の神を怒らせてしまい、月に連れ去られたのだとか。今でも月に住んでいると信じられています。
ポリネシア・メラネシア──火で料理する人
ポリネシアやメラネシアの多くの文化では、月の模様は三つの石の上で火を使って料理をしている人の姿に見えるとされています。
太平洋の島々で暮らす人々の日常が、月の見え方にも反映されているんですね。
月うさぎ伝説の由来──仏教説話「ジャータカ」
日本やアジアで広く信じられている「月にうさぎがいる」という伝説。その由来は、古代インドの仏教説話「ジャータカ」にあります。
ジャータカに伝わる月うさぎの物語
昔、ある森にうさぎ、サル、キツネの3匹が仲良く暮らしていました。
ある日、疲れ果てた老人が食べ物を求めてやってきます。サルは木の実を、キツネは魚を持ってきましたが、うさぎは何も見つけることができませんでした。
そこでうさぎは、「私を食べてください」と言って、自ら火の中に飛び込んだのです。
実は、この老人の正体は帝釈天(たいしゃくてん)という神様でした。うさぎの自己犠牲の精神に深く感動した帝釈天は、その姿を月に映して、すべての生き物の手本としたのです。
この物語は、日本の「今昔物語集」にも「三獣行菩薩道兎焼身語」として収録され、広く語り継がれてきました。
餅つきの由来
では、なぜ日本では「餅をついている」姿になったのでしょうか?
JAXAの研究によると、日本で「月うさぎが餅をついている」と考えられるようになったのは、江戸時代中期(1700年代前半)頃からではないかと推測されています。
中国から伝わった絵画では、うさぎは杵と臼で薬を作っていました。それが日本に入ってきたとき、薬作りよりも餅つきのほうがなじみ深かったため、自然と「餅つき」に変化していったようです。
なぜ国によって見え方が違うの?
同じ月を見ているのに、なぜこれほど見え方が違うのでしょうか?
1. 身近な動物や文化の影響
それぞれの地域で身近な動物や、生活に密着したものが月の模様に重ねられています。
- 海沿いの国 → カニ、ワニなど水辺の生き物
- 遊牧民族 → 犬など家畜に関連した動物
- 農耕文化 → 餅つきなど食に関連したイメージ
2. 緯度による見え方の違い
AIを使った研究では、興味深い結果が出ています。
低緯度地域(アジアなど)から月を見ると、模様が「うさぎ」に見えやすく、高緯度地域(ヨーロッパなど)から見ると「人の顔」に見えやすいということがわかったのです。
これは、月を見上げる角度の違いが影響していると考えられています。
3. 「パレイドリア」という心理現象
人間の脳は、曖昧な模様の中から馴染みのある形を見つけ出そうとする性質を持っています。これを「パレイドリア」と呼びます。
雲の形が動物に見えたり、壁のシミが顔に見えたりするのと同じ現象です。月の模様も、この心理現象によって様々な形に解釈されているんですね。
世界の月の模様の見え方【一覧表】
| 地域・国 | 見え方 | 補足 |
|---|---|---|
| 日本 | 餅をつくうさぎ | 十五夜の文化と結びつく |
| 中国 | 薬を作るうさぎ(玉兔) | 嫦娥伝説と関連 |
| 韓国 | 餅をつくうさぎ | 秋夕の風習 |
| モンゴル | 犬 | 嘘をつくと吠える |
| ベトナム | 木の下で休む男性 | チュ・クオイ伝説 |
| インド(一部) | 象 | 神聖な動物 |
| 南ヨーロッパ | カニ | 大潮との関連 |
| 東ヨーロッパ | 女性の横顔 | 白い部分を使う |
| 北ヨーロッパ | 本を読むおばあさん | 冬の室内文化 |
| ドイツ | 薪を背負う男性 | 罰せられた男伝説 |
| カナダ先住民 | バケツを運ぶ少女 | 羽飾りつき |
| 南アメリカ | ワニ | アマゾン川の影響 |
| 中南米 | ロバ | 農耕文化 |
| アステカ・マヤ | うさぎ | 神話に登場 |
| アラビア | 吠えるライオン | 力の象徴 |
| ニュージーランド | ロナ(女性) | マオリ族の伝説 |
まとめ
月の模様は、世界中で様々なものに見立てられています。
- アジア:主にうさぎ(ただし行動は国によって異なる)
- ヨーロッパ:カニ、女性、おばあさん、男性など多様
- アメリカ大陸:うさぎ、ワニ、ロバ、少女など
- 中東・アフリカ:ライオンなど力強い動物
同じ月を見ているのに、これだけ見え方が違うというのは本当に不思議ですよね。
それぞれの見え方には、その土地の文化や生活、信仰が深く反映されています。月の模様を通して、世界各国の人々の暮らしや考え方を垣間見ることができるのかもしれません。
今夜、月を見上げる機会があったら、うさぎ以外の形を探してみてはいかがでしょうか。カニやライオン、女性の横顔など、新しい発見があるかもしれませんよ。


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