地下深くの洞窟から、ぺちゃぺちゃという湿った音が聞こえてきたら、どうしますか?
もしかしたらそれは、太古から地底に潜む旧支配者「ツァトゥグア」が、獲物を待ちながら舌なめずりをしている音かもしれません。
この神様、実はとんでもなく怠け者なんです。お腹が空いても動きたくないという、神様らしからぬ性格の持ち主なんですよ。
この記事では、クトゥルフ神話に登場する地底の怠惰な神「ツァトゥグア」について、その奇妙な姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

ツァトゥグア(Tsathoggua)は、クトゥルフ神話に登場する旧支配者と呼ばれる太古の神格です。
作家クラーク・アシュトン・スミスによって創造され、1931年の『サタムプラ・ゼイロスの物語』で初めて詳しく描写されました。別名として「サドグイ」「ゾタクア」などの呼び名もあるんですね。
この神様の最大の特徴は、なんといってもその極度の怠惰さです。地球が誕生してから間もない頃、土星(サイクラノーシュ)から地球にやってきて、地底の洞窟に住み着きました。現在は北米の地下世界「暗黒のンカイ」や、古代大陸ハイパーボリアの地下洞窟に潜んでいるとされています。
面白いことに、この神様は邪神の中では比較的穏やかな性格の持ち主。でも、空腹になると目についた生き物を手当たり次第に丸呑みにしてしまうという、恐ろしい一面も持っているんです。
系譜
ツァトゥグアには、詳細な家系図が設定されているんです。
ツァトゥグアの家族関係
両親
- 父:ギズグス(Ghisguth)
- 母:ズスティルゼムグニ(Zstylzhemgni)- 暗黒星ゾスから来た存在
祖父母
- 父方:サクサクルース(Cxaxukluth)- アザトースから分裂して生まれた両性具有の神
- 母方:イクナグンニスススズ(Ycnagnnisssz)- 暗黒星ゾスの存在
配偶者と子供
- 妻:シャタク(Shatak)
- 子:ズヴィルポグア(Zvilpoggua)- 海王星で生まれた
親戚関係
- 叔父:フジウルクォイグムンズハー – 土星に移住した神
- 叔父(または遠縁):クトゥルフ – 有名な邪神
この複雑な家系図は、ギリシャ神話のような神々の血縁関係を思わせますね。原初の混沌アザトースを頂点とする、宇宙規模の神々の系譜の一員として位置づけられているんです。
姿・見た目
ツァトゥグアの姿は、いろんな動物を混ぜ合わせたような、とても奇妙な外見をしています。
ツァトゥグアの身体的特徴
基本的な姿
- 巨大な腹部を持つ太ったヒキガエルのような体
- コウモリのような黒い毛皮で全身が覆われている
- ナマケモノを思わせるずんぐりとした胴体
- 半分閉じた眠たげな目
- 大きな口から突き出た長い舌
クラーク・アシュトン・スミスの描写によると、「眠たげな黒いヒキガエルの姿」をしているとのこと。でも本質的には不定形で、環境に応じて姿を変えることもできるそうです。
大きさについては諸説ありますが、クトゥルフのような超巨大な神というわけではなく、ホッキョクグマくらいのサイズだとする説もあります。とはいえ、人間からすれば十分に巨大で恐ろしい存在ですね。
特徴

ツァトゥグアには、他の神々とは一味違う独特な特徴があります。
極度の怠惰
ツァトゥグアの最も際立った特徴は、その聖なる怠惰です。
「空腹に苦しんでいる時でさえ、その場から立ち上がることはなく、じっと生贄を待ち続ける」と言われています。動くのが面倒くさいから、獲物が自分のところに来るまで待つという、究極の怠け者なんですね。
知識の授与
意外なことに、ツァトゥグアは深い知識を持っている神でもあります。
信奉者に対して:
- 魔術の知識を授ける
- 他の旧支配者に関する情報を教える
- 宇宙の秘密を明かすこともある
有名な魔道士エイボンは、ツァトゥグアから魔術の知識を授かり、その力で土星まで旅をしたという伝説があります。
丸呑みの能力
空腹になると恐ろしい一面を見せます。
- 目についた生物を手当たり次第に丸呑み
- 強靭な胃袋で獲物をすぐに溶かす
- 強酸性の液体を吐き出すこともある
眷属たち
ツァトゥグアには特別な配下がいます。
無形の落とし子(Formless Spawn)
- 黒いタールのような不定形生物
- ツァトゥグアの神殿を守護
- 侵入者を襲う恐ろしい存在
ヴーアミ族(Voormis)
- 毛むくじゃらの原始的な獣人
- ツァトゥグアを崇拝する種族
- ハイパーボリアの洞窟に住んでいた
伝承

ツァトゥグアにまつわる伝承は、恐怖と神秘に満ちています。
サタムプラ・ゼイロスの悲劇
最も有名な伝承の一つが、盗賊サタムプラ・ゼイロスの物語です。
古代都市コモリオムの廃墟にあるツァトゥグア神殿に、二人の盗賊が財宝を狙って忍び込みました。しかし、そこで彼らを待っていたのは、黒いタールのような不定形の怪物。この無形の落とし子に襲われ、盗賊の一人は命を落とし、もう一人は恐怖のあまり正気を失ってしまったという話です。
魔道士エイボンとの関係
ハイパーボリアの偉大な魔道士エイボンは、ツァトゥグアの信奉者でした。
エイボンは地下の洞窟でツァトゥグアと出会い、その知識欲と好意を示したところ、神から魔術の知識を授かりました。この知識によって、エイボンは土星への旅や、さまざまな魔術を行うことができたといいます。
ンカイの恐怖
地底世界クン=ヤンの住人たちは、かつてツァトゥグアを崇拝していました。
しかし、探検隊が暗黒のンカイでツァトゥグアの無形の落とし子に遭遇し、その恐ろしさを目の当たりにしてから、人々はツァトゥグアへの信仰を放棄。神殿をシュブ=ニグラスに捧げ直したという記録が残っています。
ヴーアミ族の興亡
太古のハイパーボリア大陸では、獣人ヴーアミ族がツァトゥグアを崇拝していました。
彼らはヴーアミタドレス山の洞窟に住み、ツァトゥグアを「ゾタクア」と呼んで信仰していました。しかし、人間がハイパーボリアに移住してくると、ヴーアミ族は地下へと追いやられ、やがて歴史の表舞台から姿を消してしまいます。
出典
ツァトゥグアが登場する主な作品をご紹介します。
クラーク・アシュトン・スミスの作品
- 『サタムプラ・ゼイロスの物語』(1931年)- 初の詳細な描写
- 『魔道士エイボン』(1932年)
- 『七つの呪い』(1934年)- ツァトゥグア本体が登場
- 『アタマウスの遺言』(1932年)
H.P.ラヴクラフトの作品
- 『闇に囁くもの』(1931年)- 名前と由来について言及
- 『墳丘の怪』(1940年)- 地底のンカイでの崇拝について
その他の作品
- リン・カーター『モーロックの巻物』(1976年)
- ロバート・M・プライス編『The Tsathoggua Cycle』(2005年)- アンソロジー集
まとめ
ツァトゥグアは、クトゥルフ神話の中でも特にユニークな存在です。
重要なポイント
- 土星から地球にやってきた旧支配者
- ヒキガエル、コウモリ、ナマケモノを混ぜたような奇怪な姿
- 極度の怠惰が最大の特徴で、空腹でも動かない
- 深い知識を持ち、信奉者に魔術を授けることもある
- 無形の落とし子やヴーアミ族などの眷属を従える
- クトゥルフ神話の中では比較的穏やかな性格の神
地底の奥深くで、今もツァトゥグアは眠たげな目を半開きにして、誰かが生贄を運んでくるのを待っているのかもしれません。もし地下から奇妙な音が聞こえてきたら、それはツァトゥグアの欠伸かもしれませんね。


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