頭にろうそくを立てられ、生きたまま燭台にされた日本人がいた――。
中国に伝わる「灯台鬼(とうだいき)」は、遣唐使として海を渡った日本の大臣が、恐ろしい姿に変えられてしまった悲劇の物語なんです。
声も出せず、ただ涙を流すことしかできない父と、それを探し当てた息子の再会は、読む者の心を打ちます。
この記事では、『平家物語』にも記された悲しい伝説「灯台鬼」について、その特徴と物語を詳しくご紹介します。
概要

灯台鬼は、中国で人間燭台に変えられてしまった日本人の悲劇的な伝説です。
遣唐使として唐(中国)へ渡った日本の大臣が、皇帝の怒りを買って頭にろうそくを立てられ、まるで灯台(燭台)のような姿に変えられてしまったという話なんです。
灯台鬼の基本情報
- 種族:変鬼(人間が変えられた鬼)
- 地域:唐(中国)
- 時代:飛鳥時代~奈良時代(592~794年)
- 危険度:★★★
- 元の身分:日本の遣唐使(大臣)
- 別名:人間燭台
この伝説は『平家物語』や『源平盛衰記』などの古典文学に記録されており、日中交流の悲劇として語り継がれています。
特徴
灯台鬼には、普通の鬼とは全く違う悲しい特徴があります。
恐ろしく悲しい姿
外見の特徴:
- 頭の上に燭台をしつらえられている
- 大きなろうそくが頭に立てられている
- 体中にびっしりと入れ墨が彫られている
- 薬で喉を潰され声が出せない
- 唐風の衣装を着ている(鳥山石燕の絵による)
元は人間という悲劇
灯台鬼の最も悲しい特徴は、元々は普通の日本人だったということです。
鬼に生まれたわけではなく:
- 遣唐使として国のために働いていた
- 誤解から皇帝の怒りを買った
- 罰として人間燭台に変えられた
- 家族と離れ離れになった
つまり、灯台鬼は恐ろしい存在というより、哀れな被害者だったんです。
意思疎通の方法
声が出せない灯台鬼は、特殊な方法で意思を伝えました。
- 涙を流すことで感情を表現
- 指を噛み切って血を出す
- その血で文字を書く
- 漢詩を書いて身の上を伝える
この痛々しい方法でしか、自分の正体を伝えることができなかったのです。
伝承

灯台鬼の物語は、父と息子の悲しい再会を描いています。
軽大臣の失踪
昔、「軽大臣(かるのおとど)」という日本の大臣が、遣唐使として中国へ渡りました。
しかし、唐の皇帝との会見で問題が起きます。
- 言葉を誤解された
- 皇帝の怒りを買ってしまった
- 罰として頭にろうそくを立てられた
- 人間燭台「灯台鬼」に変えられた
そのまま軽大臣は行方不明となってしまいました。
息子の捜索
父の消息が途絶えて長い年月が経ちました。 息子の「弼宰相(ひつのさいしょう)」は、父を探すため中国へ渡ります。
中国各地を探し回る弼宰相は、ある場所で奇怪な存在を目にしました。 それは頭にろうそくを立てた「灯台鬼」でした。
血の漢詩
灯台鬼は弼宰相の姿を見ると、ポタポタと涙を流し始めました。
声を出せない灯台鬼は、指先を歯で噛み切り、流れ出た血で次のような漢詩を書きます:
我元日本華京客(われは元は日本の都の客)
汝是一家同姓人(なんじは一家同姓の人)
為子為爺前世契(子となり父となるは前世の契り)
隔山隔海変生辛(山を隔て海を隔てて生を変じて辛し)
経年流涙蓬蒿宿(年を経て涙を流す蓬蒿の宿)
逐日馳思蘭菊親(日を逐って思いを馳す蘭菊の親)
形破他郷作灯鬼(形は他郷に破れて灯鬼と作る)
争皈旧里寄斯身(いかでか旧里に帰してこの身を寄せん)
衝撃の真実
血で書かれた詩を読んだ弼宰相は、目の前の灯台鬼が変わり果てた父の姿だと気づき、愕然としました。
父は生きていたものの、もはや人間の姿ではなく、声も出せない哀れな存在になっていたのです。
文学作品での記録
この悲劇的な物語は、様々な古典文学に記録されています。
主な文献:
- 『平家物語』(長門本、延慶本)
- 『源平盛衰記』
- 『和漢三才図会』
- 『宝物集』(平康頼)
- 『今昔百鬼拾遺』(鳥山石燕)
特に『平家物語』では、鬼界ヶ島に流された俊寛と有王の再会場面で、この灯台鬼の話が引き合いに出されています。
まとめ
灯台鬼は、遣唐使の悲劇を伝える哀しい伝説です。
灯台鬼伝説の重要ポイント
- 遣唐使として中国に渡った軽大臣が主人公
- 皇帝の怒りで人間燭台に変えられた
- 頭にろうそくを立てられた姿
- 声が出せないため血で漢詩を書いた
- 息子の弼宰相との悲しい再会
- 『平家物語』などの古典文学に記録
- 鬼というより悲劇の被害者
この物語は、単なる怪談ではありません。 遣唐使として国のために働いた人物が、異国の地で恐ろしい姿に変えられ、家族と再会しても元に戻れないという深い悲しみを描いています。
灯台鬼の伝説は、国際交流の難しさや、異文化での誤解がもたらす悲劇を今に伝える貴重な物語なのかもしれません。 血で書かれた漢詩に込められた父の思いは、時代を超えて私たちの心を打つのです。
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